一週間と少し2
「そうして、他人の役に立つことに誇りを覚えたワシは、両親の後を継いで薬草屋になったと。つまらん話を長々として、済まんの?」
「いえ。とても良い話でした。ありがとうございます」
スズシロは本心から頭を下げた。
スズシロは、老人の長話が好きなタイプだ。自慢話のようで、ただの思い出話のようで、その人の人生経験と人柄の出る長話が、大好きだ。
だからオババの話を楽しんで聞いていたし、それを感じたオババも気持ち良く話をした。
「それで、何でシルバからカッパーへの両替が止まると、魔力屋が魔力の買い取りを止めることに繋がるんですか?」
スズシロは余韻に浸りつつ、話を元に戻した。
「ん? ああ、それはのう、シルバは魔力に変換出来るからだのう」
言われたことの理解は出来たが、それと魔力屋の件がスズシロの中で繋がらなかった。
「えーっと、つまりどういうことですか??」
「つまりじゃな、魔力を人々から買い取らんでも、魔法石をシルバで売り、それで得たシルバを使って魔法石を作っても利益が出るほど、シルバの価値が下がったということだ」
スズシロが尋ねたかったこととは少しズレていたが、オババの答えで理解は出来た。
(魔法石の原料となる魔力としてシルバを用いれるようになったから、魔力屋が魔力の買い取りという『コストのかかること』を止めた、ってことかな?)
これは『シルバインフレ対策』のひとつかな、とスズシロは考える。
「凄いシルバの価値落ちたんですね」
「流石に落ち過ぎているのう。お陰で冒険者ギルドも困っておる。スズシロから何かこう、異邦人に注意出来んか? あれは見ておられん」
「そう言われても……」
スズシロ自身で出来そうなことは思い浮かばないので、困る。
「異邦人って、ダンジョンに潜りに来ている面々が多いみたいなんですよ。それを止めさせるのはちょっと厳しいかなー、って」
掲示板や街行く異邦人から漏れてくる話し声から、スズシロはそんな印象を受けていた。
「何だその戦闘民族は……」
オババは呆れる。
世界人(NPC)にとって、ダンジョンは『旨味もあるが危険な鉱山』だ。その『危険』の比率が高いため、ダンジョンに潜る世界人は『命知らず』か『猛者』のどちらかだ。
だが、異邦人は違う。
「ほら、私達『異邦人』ってこの世界なら『死に戻り』出来るので、死の価値が安いんですよ」
スズシロの言う通り、異邦人はこのゲームの世界で死んでも甦ることが出来る上に、痛覚設定を下げれば痛みもなくなる。
とある攻略クランのリーダーは『プレイヤーは死んでナンボだ』と言い、それが肯定される程度には、プレイヤーの『死』の価値は低かった。
「なるほどのう。死に慣れとるのか」
「みたいですね。私は分かりたくもありませんけど」
「だのう。死ぬことに慣れるなぞ、恐ろしいのう」
「ですねえ」
オババは世界人としては当たり前の感覚で、スズシロはリアルからの感覚で話す。理由は異なっていても、二人の出した結論は同じだった。
「話を戻すが。異邦人にダンジョン探索を止めさせることは出来んのか」
「無理でしょうね」
「ううむ……」
オババは唸って考え込む。
「何かシルバを減らせるようなことがあったら良いんですけどねえ……」
スズシロも考えたり図書館で読んだ本を思い返したりするも、思い当たるものは、南方諸島にあるらしい『ガシーノ島』のダンジョンのギミックにシルバを大量に使うものがある、程度だった。
「シルバが魔力になるなら、魔道具の魔力をシルバで代用出来たら良いんでしょうけれど……」
「それだ」
スズシロの言葉に、オババが反応する。
「へ?」
「シルバを魔力に変換して魔法石の原料になるならば、魔道具の魔力にもなろう。ラントフヒルより北にある、ラントフモーントの街は、年中魔力不足で困っておる。
ラントフモーントまで、ファステスやセグンドに溢れかえっておるシルバを運ぶことが出来れば、シルバの価値も持ち直すだろう」
「なるほど」
ただ、スズシロは思う。
「でも、そんなこと、って、冒険者ギルドとか代官様とかも思い付くと思うのですが」
自分達でも思い付けたなら、他人も思い付けるだろう。スズシロはそう思うのだ。
「それはその通りだのう」
オババはスズシロの疑問を肯定する。
「だが、『思い付く』ことと『実行する』ことは別問題。そうだろう?」
「確かに」
スズシロは頷く。
「ということは、冒険者ギルドや代官様はこの案を『思い付いてはいるけれど実行出来ない』訳かなあ?」
「おそらく、のう」
オババは頷く。
「今週末の商店街の定期会議で、この案を上げてみるわい。上手くやって代官様の元まで届けば、実行されるだろう」
「私も、何かシルバ消費出来ないか調べます」
「頼むぞ。冒険者ギルドが機能不全を起こせば、街が困ったことになる。それは避けたいからの」
「ですね。私も美味しい果物とか、ハーブティーとか飲めなくなるの嫌ですし」
「それはその通り。危機になれば嗜好品から減っていくからのう」
「みたいですねえ。ちょっと図書館は厳しいので、冒険者ギルド書庫の方行ってみます」
「確か異邦人が図書館に集まっとるんだったか? まあ、気をつけての」
「はい。ではまた」
スズシロは何かを忘れているような引っ掛かりを感じつつ、オババの薬草屋を後にした。
書き貯めないなった(´・ω・`)
続きは、書いて見直してから投稿していきます。




