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1-6(J-1)勘弁してほしい

別視点その②

幼い頃から違和感がある事は解っていた。

だって、髪の毛の色が皆カラフルだから。

お父さんの髪の毛は自分と同じこげ茶だけど、お母さんの色は着色料で色付けしたタクアンのような黄色である。

髪の色って黒が基本という認識なのに。


はっきりと自分の知っている世界との違いを理解したのは小学二年生の時だった。

担任の先生が、余興として魔法を見せてくれたのだ。何も無い空間から、空のコップに水を注いでくれたのだ。


しかしそれを見た時の僕の最初の感想は「高度な手品だな」だった。

布や新聞紙でコップを隠したりせずに、先生のかざした手からコップに透明な水で満たされていく様子に純粋に手品として驚いた。

だが、驚愕している僕以外の生徒は、僕と違って先生の行為に感心していた。

そして決定的に僕と感情が違うと痛烈に感じたのは、隣の席のミキオ君が興奮して放った言葉だった。


「先生!ボクも先生みたいに魔法が使えるようになる?」

ナンダッテーーーー??!!


魔法?魔法ってなんだ?僕の知ってる世界に魔法なんて無い。魔法は本や映画の中だけに存在するファンタジーの代表みたいなものだ。

決して、教壇に立つ若き女教師がホームルーム中に気軽に見せるようなシロモノではない。


と、頭の中で警告音が鳴っている中で気づいたのだ。

僕の知っている世界とは何だ・・・と。

そこで唐突に様々な記憶が呼び起され、そして理解した。


幼い時から感じていた違和感の正体と、自分の置かれている状況に。

理解したと言っても明確に何かしらの提示が出来るような事ではない。

兎に角、僕はココではないがココの世界とよく似た違う世界の記憶がある。前世なのか輪廻転生なのか解らないが、僕はココではイレギュラーな存在だと思った。


少なくとも、僕は堀田ほった 純一じゅんいちという名前ではなかったし、商社で働く成人男性28歳のサラリーマンで、愛する妻がいたのだ。

来週のプレゼン用の資料を作成していたはずだ

ん?来週?

うん?ちょっと待て。


僕の勤めていた会社は何処だった?妻がいた事は覚えているのに顔に霞がかかっている。それよりも、僕の本当の名前が全く思い出せない。

本当の名前?


今、ここにいるのは堀田 純一である僕だ。前世も僕だけど、ココではない何処かなのだ。

小学二年生の体の中に28歳サラリーマンの意識が同居しているこの環境。まさに体は子供で頭脳が大人のどこかの探偵さんのようだ。


残念ながら僕は探偵さんほどの知識はないが、この教室の中で自分自身におこった理不尽な状況に大声をだして取り乱すなんて事はしない程度の理性は残っていた。

ただ、その日からお父さんやお母さんやお姉ちゃんといった周りの人に自分にこの世界とは違う記憶があるなんて、バレないようにしながら今いる世界について調べていったのだ。


高校受験までに解ったことは、僕の記憶の中にある世界とこの世界では文化的に大きな違いが無い事だった。

街はビルが立ち並び、大都会で車が渋滞しており、東京都内は人であふれている。

大きく違うのは、この国の名前は日本でなく「東亜国」といい、魔法という摩訶不思議な力を使える人が存在し、この国を統治しているのが四大貴族といわれる一部特権階級であるという事だった。


なんだこれ。


隣に中国という歴史ある国があり、アメリカという表向き友好な大国があるのに、この国だけが日本ではなく東亜国であるという理不尽な状況。

文化レベルも電気というエネルギーも使っているのに、違和感なく存在する魔法。

そして、一部の大貴族が経済や政治を回しているというご都合主義。

不快とまでは言わないが、何か喉に詰まったようなこの状況を説明できる唯一の事を僕は思い出していた。


「この世界って、あの小説の舞台とすごく似ている気がするというか、そのまんま?」


あの小説とは、僕の記憶の中にある小説で、ここではない世界・・・もう前世と認めようか。その前世で通勤途中に気晴らしに読んでいたライトノベルの事である。

たしか題名は「貴族学園で成り上がり~無属性が一番強いって俺だけが知っている」だったかな。

題名を見ただけで内容がわかりそうな感じだけど、さらっと読めた小説だ。


詳しい内容は別として、世界観が全く一緒なのだ。

僕はこの小説の中に転生したのだろうか。そんな事ってあるのか?

あるんだろうな、実際にこの僕がここに存在しているから。


その後、この世界が小説と同じだと確信したのは、僕が高校受験をするにあたり魔法の特性があったので麒麟学園を選んだ時である。

小説の中の主人公が通う学校こそ、僕が受験する麒麟学園だったからだ。

さて、ここで小説の冒頭というか物語の始まりについて、かいつまんで説明しよう。


主人公は大貴族の息子で、魔法の適性はあるが魔法が使えない。(魔法属性がない)

彼の家では魔法能力至高主義の家なので魔法が使えない彼は家族の中では落ちこぼれのレッテルを張られていて、家庭内で彼の居場所はなかった。

中学までは普通の学校に通っていたが、高校からは魔法適正があるという事と大貴族の家柄であるという理由で麒麟学園に進学させられる。

しかし学園内では、大貴族なのに魔法が使えないと貴族仲間からはさげすまれ、大貴族ゆえにクラスメートからは敬遠される。

彼の近くには幼い頃から従事している幼馴染の女の子だけ。

ところがある時、他のクラスの男子生徒から、主人公は魔法が使えないのではなく、彼固有の魔法が使える事を知らされる。

その固有の魔法が覚醒した時、貴族が通う学園内で底辺扱いされていた主人公の無双が始まるのだった。


といった感じだっただろうか。

その後のストーリーは学園内のバトル、モンスターとの死闘、ヒロインとのラブコメからのハーレムといった、今更でお腹がいっぱいな感がぬぐえない展開だが、読みやすく軽快な文体だったので僕は好んで読んでいた。


ちなみに、小説内で堀田純一なる者は登場しない。

少なくとも僕が読み進めている所までは居なかった。


だから、僕は油断していた。僕自身は小説の中に転生したのかもしれないが、物語とは無縁であると思っていたのだ。

実際モブであろうし。

小説の中の登場人物とは生きている時間軸が違うのだろうと思っていた。

だが、実際に麒麟学園に入学し教室内で白い制服を来た大貴族の自己紹介を聞いた時に僕の頭は真っ白になった。


「はじめまして、上江戸じょうえど あらたです。魔法は・・・魔法は使えません・・・」


そこには、悔しさと恥ずかしさを合わせたような顔をしたライトノベルの主人公と同じ名前の男子生徒がいたのだ。

小説「貴族学園で成り上がり~無属性が一番強いって俺だけが知っている」の主人公である、上江戸 新がそこにいたのだ。


「マジか、小説と同じ時間軸にいたのかよ」


隣の女生徒が変な顔をしているが、そうつぶやかずには居られない僕の気持ちも誰かに解って欲しいと思った。


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