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1‐1 登校風景

ゆっくり書きます。気長にお付き合いください。

誤字脱字はご愛敬。

その建物は広大な敷地の中にひときわ目立つ立派な門のさらに奥に聳え立つ宮殿のような造りである。

中心の大きな建物の周りには生活臭を感じさせる集合住宅のような建物や、コンサートホールのような近代的な建物、重そうな瓦屋根のお寺のような建物、オフィスビルのような建物がある。

そしてさらに外周は森を思わせる緑がぐるりと覆っており、ここが都会の真ん中に存在するとは中に踏み込むと信じられないと思われるが事実である。


そう、ここは国中の貴族の子息子女があつまる学校、その名も麒麟学園。


小等部から高等部を有し、この東亜国の首都である東京に存在する私有地としては一番の大きさ誇る上、麒麟の森といわれる場所はあまり手を加えられていない為に貴重な動植物の保護にも役立っている。

そして、この学園に入学するためには大きく分けて以下の二つの規定のどちらかに該当しなければならない。


1つ、東亜国の国籍をもち貴族家に籍をもつ者

1つ、魔法属性をもつ者


入学するためには当然試験があるが、試験を受けるための最低条件がこの二つの内のどちらかの条件を満たしていなければならない。


とはいっても、特権階級の貴族様が通う学園なので色々と抜け道があるようだ。

かくゆうこの俺、桜井さくらい 駿しゅんも抜け道というものを使ってこれから、この麒麟学園にて学園生活を謳歌する予定なのだ!


「何をぶつぶつ言ってますの?桜井」


高級車の後ろのふかふかのシートで脳内アナウンスをしている所で、隣に座る綺麗な銀髪を肩でそろえた前髪パッツン娘がジト目で話しかけてきた。


「いやいや、お嬢。これから俺たちが通う学校について考えていたのよ」


「そのお嬢っていうのはいいかげんやめませんか?私にはしおりという名前があるのですから」


「えーーー?しおりおじょうーさま・・・なんて言うの?」


「ーーー・・・んーっっ。ブルブル・・・そ、それも良いかも・・・シレマセン・・・」

お嬢がちょっと頬を染めてブツブツ言いながら肩を震わせている。まぁいいか。


「面倒だからいいよ。お嬢で解るでしょ」


「はぁ、これでも西の筆頭、みやこ家直系の奈良なら家の娘なんですが・・・」


「お嬢、そんなの今更でしょう?とにかく、今の俺はキミの従者ってことだしね。実際、お嬢様なんだから間違い無いでしょ」


「奈良の家は極道ではないのですけどね」

お嬢は、はぁとため息をついて窓の外を眺め始めた。見える景色はすでに都会のソレではなく、俺達を乗せた高級車の車道の両サイドは樹木でいっぱいである。いつのまにか学園の敷地内に入っていたようだ。


本当に広い所だよ。ふつうの坊ちゃん、嬢ちゃんが不用意に森に入ったら迷子になっちまうな。探しに行く仕事が俺の専任になるなんて事はないよね。やだよ俺は。

今の俺はこれから始まる高校生活の中で、上級貴族であるお嬢を守るっていう、内容はともかく立派なお仕事があるっての。


「桜井」

お嬢が顔を窓に向けたままポツリと漏らした。


「なんだい?お嬢」


「私の従者になるの事は不本意ですか?」

顔は向こうを向いてるけど、寂しそうな顔がガラスに写ってるよ。言わないけどね。

俺はクスっと笑いながら、お嬢の頭にぽんと手を置いて言った。


「そんなことはないよ。こういう機会を与えてくれた栞には感謝してるよ。せっかくだから楽しもうぜ」

くるりとこちらを向いたお嬢はちょっと赤ら顔になっていた。


「駿様・・・」


「こらこら、だめだって。設定を忘れるなよ?俺は奈良家の栞お嬢様に使える従者だぜ。駿様は無しだ。バレたら面倒くさい」


「そ、そうですね。すみません。ではなく、無礼ですよ?その手をどけてくださる」


「おっと失礼いたしました」

俺はそっとお嬢に当てた手をどけた。


「ムー。ホントウハ モット ヤッテホシイノニ・・・」


「だーめーだ」

二人で顔を見合わせてくすくすと笑いあった。そのうち俺たちを乗せた高級車は静かに正門までたどり着いた。

従者である俺が先に車から出て、お嬢をエスコートする。黒の学ランに対して、見ただけで高級生地だとわかる白い制服のお嬢が車からゆっくりと降りた。


歩いて登校している生徒が一斉にこちらに目を向ける。


白い制服に銀髪で金にちかい黄色の瞳。俺のような半端ものじゃなく、本物の貴族の子女は車から降りただけで絵になるってもんだ。

まぁお嬢は可愛いからな。傍に控える俺もちょっと優越感だぜ。


「では桜井、行きますよ」


「へい!お嬢」

俺は自分とお嬢の二人分の鞄をもって後に続いた。でも、お嬢はこちらに顔を向けてちょっと眉間に皺を寄せている。


「ん?どったの?」


「へい!ってもうちょっと言い方無かったんですの?」


あらら、ちょっとお気に召さなかったみたい。以後気を付けよう。

とりあえず講堂に向かいましょ。今日は高校の入学式だからな。


俺達を好奇な目で見た学生の多くは、すぐさま目線を戻し歩き出した。

特権階級の白い制服は少ないとはいえ、彼らからしたら見慣れた光景の一つだからな。内部生が多いこの学園で、二種類の学生服がある事に驚くのは高校から入試で入った学生だ。

まぁ俺も高校からの外部生だが、とある事情でこの学園については良くご存じって訳。


解りやすく説明するには、この国である東亜国の現在の成り立ちから言っていこう。

つまり、この国を統治する四大貴族の事だな。え?そんなことは小学生でも知ってるって?まぁ、俺の事にも関係するから聞きなって。


釈迦に説法かも知れないが四大貴族は我が東亜とうあ国内の政治、経済、文化、教育、産業とあらゆる方面で牛耳っている4つの家の事だ。

東の大江戸おおえど、北の北海ほっかい、西のみやこ、南の阿麻弥あまやってヤツだな。


それぞれの家が複雑に入り組んでこの国を纏めているので、俺達の今の生活も何かしら、この4つの貴族家からの恩恵を受けている。まぁ、この国のトップって訳だ。もうね、雲の上って人達だよね。

そして、この4つの貴族にはそれぞれ大小さまざまな家臣の家が従事している。直系家臣と言われる大貴族で、どの四大貴族家も4から5ほどの直系家臣がある。もちろんそのまた下に控える家があるという仕組み。そしてさらに下に平民、つまり一般家庭があるけどそこまで行くと忠誠も何も無いのも…まぁわかるよな。


話を戻すと、この直系家臣と言われる貴族までが特権階級であり上級国民の方々だ。お嬢の名前は奈良なら しおり。都家の直系家臣の一つである奈良家の次女なので特権階級である白い制服を着用しているのだ。解ったかな。


ちなみに我が桜井家も都家に属する家なんだけど、だいぶ下っ端だ。貴族の目録に名前はあるけが扱いは一般家庭のそれと変わらないという扱いである。父さんは蜘蛛の糸のようなコネを使って現在の職を勝ち取ったと自慢していた。

誇り高き父である。でも俺の両親については、今はどうでもいいな。


そんなわけで俺達が通う麒麟学園は我が国の中枢を今後担うであろう白い制服の学生と、その他大勢である黒い制服の学生が混在した、あからさまに血筋による上下関係がある学生生活が出来る場所なのである。

一部の生徒に大きな顔をされて虐げられた生活なんて嫌だなんて思う輩もいるだろうが、この学園を卒業したというだけで今後の人生に大きな利益になるし、貴族様との顔つなぎもできるとあって、魔法属性のある子どもは結構な確率で受験してくるらしい。


学園も高等部からの間口も広げ、生徒数も増加するし、希望があれば敷地内に寮も完備しているため遠方の学生も通うことができる仕組みだ。実は俺も寮生の一人である。今日は入学式という事で、お嬢と一緒に車で学校に乗り付けたのだ。


「改めて見渡すと、高校の校舎は大きいですね」

お嬢が少し目を細めながら正面の校舎を見上げる。


「やっぱり、中等部までとは違うって感じ?」


「中等部と比べると高等部では生徒数が増加して、クラス数も2クラスから3クラスに増えますからね。当然校舎の造りも違います」


「中坊の時って、こっちに来ないの?」


「生徒会の役員や運動部は交流があるようですが、ご存じの通り私は生徒会や部活に入っていませんから」


「そっかー。んじゃお嬢、高校から何かの部活に入ったら?」


「駿さ・・・ゴボン、桜井が入るのならご一緒しますよ」


「いやいやいや。俺がそういうのに入れないのは、お嬢は解ってるよね?」


「ですから、私もそういうのに入りません。いえ入れません」


「いやいやいや。入って良いとボクは思うんですが・・・」


「入れません」


全く聞く耳もってないようだ。折角の高校生活なんだからお嬢は楽しめばいいのにねえ。俺に付き合う事ないのになあ。


なにはともあれ、今日から晴れて花の高校一年生だ。女子高生のお付きという一風かわった学生ライフだけど、きばって行こうじゃないか。

俺とお嬢は意気揚々と入学式典のある講堂の入り口へ歩みを進めたのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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