Teller of Terror
『おかけになった電話番号は現在使われて──』
『おい、しょーもないギャグやめろ楓』
『……初手から塩対応は酷くない⁉︎ せめて何かしら返してよ、ノリ悪いよ渚?』
『やかましいわ。そもそも間違い電話する事あんのかよ。LI○EとかDisc○rdが普及しているこの時代に』
『電話番号を打ち込む事がなくなった今だからこそのギャグだよ。察してよ』
『お前ギャグセンス無いって言われない?』
『辛辣! 全く、カリカリしすぎだよ渚は。男の子の日なの?』
『ア゛?』
『いえ、なんでも無いです』
『……ハァ、さっき突然俺の部屋のエアコンぶっ壊れてさ』
『まじか。今日暑いのに』
『取り敢えず窓は開けたから、涼しくなるまで気を紛らわせようとしたんだよ。どうせお前暇人だし』
『うん……ん? 暇人?』
『そしたら妙に長い事待たされるわ、準備のわりに超しょーもないギャグをかまされるわで余計暑くなったわ』
『あはは、ドンマイ』
『……お前今絶対いい笑顔してんだろ。あークソ……冷房の効いた部屋が恋しいわ。お前の家今から押しかけてえ』
『泊めてあげてもいいけど、終電過ぎてない? チャリで僕の家までは流石に無理だろうし』
『うわ、ホントじゃねえか……』
『声だけでここまで絶望してるのが分かるって面白いね。ん~じゃあさ』
『ん?』
『一つ涼しくなる話でもしようか?』
『あーはいはい。怖い話ね』
『そうそう、聞きたい?』
『頼むわ、1ミリも期待してないけど。なんでもいいから涼しくなりてえ、クソ程も期待してないけど』
『ふぅん、じゃあ丁度いい話題だしとっておきのを一つ。怖くて眠れなくなっても知らないからね?』
『へいへい、じゃあお願いします楓君』
『──今から話すのは、電話にまつわる摩訶不思議な体験談だ。
ある所に、最近電話の使い方を覚えた小学校低学年の男の子がいました。
その子は父親に電話をかけて、帰宅する時間を母親に伝えるのが日課になっていました。
ある日。その少年はいつものように慣れた手つきで父親の電話番号を打ち込み、電話をかけました。
しかしその日は珍しく、すぐには電話が繋がりませんでした。
長く鳴り響くコール音を聴きながら待っていると、10コール目でやっと父親が電話に出ました。
その後はいつも通り、家族らしい取り留めのない日常会話をしました。
……ただ一つだけ、おかしな点を除いて。
些細な違和感。普段と僅かに、父親の声の調子が違う気がしたのです。
けれどその時は。電話越しだからそう感じただけ、きっと気のせいだろうと。
その場で父親に聞くことなく、通話を終えました。
それから約10分後。
1つだけお父さんに聞かなければいけない事があった。だから電話をかけ直して欲しいと、母親にお願いされました。
二つ返事で、すぐに電話を取る少年。履歴から先程かけた父親の電話番号を呼び出し、繋がるのを待ちました。
しかし、最初に聞こえてきたのは父親の声ではありませんでした。
代わりに流れてきたのは、無機質な機械音声。
少年は、確かに。はっきりと、耳にしたのでした。
──おかけになった電話番号は、現在使われておりません、と。
父親の帰宅後。
彼は恐る恐る、今日電話を受け取ったか聞いてみました。
けれどかえってきた答えは、NOでした。
じゃああの時、電話をかけた相手は誰だったのでしょう?
もしかしたら少年は……存在しないはずの"誰かさん"に、2度も間違い電話をかけてしまったのかもしれません。
けれど真相は未だに闇のままです。何故なら……
少年は、その日を機に忽然と姿を消したから』
『…………』
『どうかな、渚? 少しは暑さも紛れたかな?』
『まあ、思ったより面白かったな。だいぶベタではあるけど。これ楓のオリジナルか?』
『いや、違うよ。渚は"誰かさん"の噂は聞いたことあるかな?』
『聞いたことないな』
『一時期、都市伝説とか怖い噂の類の番組が沢山放送されてた時期があったでしょ?』
『見てた見てた、懐かしいな』
『ね~それで当時、僕たちの学校で都市伝説がブームだったんだ』
『あー俺らの小学校でもあったわ。メリーさんとかこっくりさんとか』
『渚の所もなんだ。んで、話を戻すんだけど、ある時どこからか"誰かさん"の噂が広まったんだ』
『……あーそういう事か。"誰かさん"って固有名詞か』
『そうそう。それで都市伝説の内容なんだけど、さっき話した通りだね』
『変な電話番号にかけると"誰かさん"と繋がって、最終的にかけた人が消えちまうと』
『厳密に言うと、変な番号じゃなくて間違った番号のまま電話すると繋がるらしいね』
『ほうほう?』
『電話番号を打ち間違えると、たまに存在しない電話番号にかかる事があるでしょ?』
『ああ、おかけになった電話番号は〜ってなるよな』
『そうだね。でもごく稀に、人ならざる者と繋がる事があるんだって。それでそいつの声を聞くと、存在を消されるって噂』
『その人が"誰かさん"か。でも実際に繋がるなら、ただの間違い電話じゃないのか?』
『……それが違うんだよ。1回目は繋がるんだけど、2回目以降はかけ直しても繋がらないんだってさ』
『なるほど……ね。だからさっきの男の子も2回目は繋がらなかったと』
『そう言う事。やばいよね〜その話を聞いた当時、間違い電話怖くなったもん』
『お前がビビってる姿想像出来るわ。てか、都市伝説でよくある対処法はないのか? メリーさんからの電話を取らないみたいな』
『ないね。強いて言うなら番号を間違えないぐらい』
『…………なあ、その話聞いて1つ思った事言っていいか?』
『どうぞ?』
『それって間違い電話をしないようにする警告的な意味で、誰かが意図的に流行らせた都市伝説じゃないのか……?』
『……急に怖く無くなる事言わないで? 当時純粋にビビり散らかしてた僕がアホらしくなるから。いや、ホントに』
『というかそもそもだ。都市伝説系ってよく体験談として伝わってくるだろ? いつも思うんだけど、何で死んだはずの人が誰かに伝えられるんだよ』
『……それを言ったらお終いだよ、渚。それ禁句だよ禁句』
『しかも悲しい事に、このご時世だと間違い電話なんてほぼないしな。電話番号を打つ機会が無いし』
『だよね。でも実在したら、案外"誰かさん"も現代技術に適応してそう。ほら、貞子だって呪いのビデオから呪いの動画に進化したし』
『ビデオデッキなんて今時使ってる奴居ないもんなぁ……幽霊側も大変だな』
『苦労を想像するとちょっと同情しちゃうよね。"誰かさん"もDisc○rdのアカウント持ってたりして』
『取り敢えず声を聞かせればいい的な? シュールすぎるだろ、流石に』
『キャッチコピーはSNSに適応した幽霊!』
『……ダメだ、怖さよりも面白さが勝るわ。さっきまでの雰囲気返せ』
『いや~ある意味オチ付いたね。どうかな、暇つぶしになったかね渚君?』
『そうだな。ありがと、お前が暇人で。お陰でちゃんと寝れそうだ』
『なんかお礼とセットでディスられた気がするけど、どういたしまして?』
『じゃ、わり。通話切るぞー』
『はいはい、おやすみ渚』
『あぁ、そうだ楓』
『うん?』
『エアコン付けっぱなしにしててもいいけど、ちゃんと水分補給しろよ? 声若干変だぞ』
『あー…………うん、この後麦茶飲む』
『そか。んじゃ今度こそおやすみ』
『おやすみ〜』
『…………』
『……………………』
『………………………………』
『わり、まだ通話切ってなくて助かった。お前に課題の事で聞きたいことが──』
『おかけになった電話番号は現在使われておりません』
『あれ? キミ、まだ通話切ってなかったんだ』
『グループ通話中、ずっとマイクミュートだったから心配してたよ』
『いや〜渚もバカだよね。僕の正体に気付かないなんてさ。名前で分かるでしょ』
『おっと、渚のいない所で悪口は良くないか。この事は僕達だけの秘密だよ? アイツにバレたら何て言われるか分からないし』
『……もっとも、伝える術はもう無いんだけど、さ』
『ん? 僕が何者かって?』
『……まだ分からないんだ。はぁ、しょうがないな』
『じゃあ、改めてご挨拶だ』
『僕は楓。僕こそが"誰かさん"さ』
ここまで読んで頂きありがとうございました。
『Teller of Terror (恐怖の語り部)』は如何だったでしょうか? 今作は趣向を凝らし、我々読者を登場人物の1人として巻き込んでみました。
タイトルにもある通り、恐怖(Terror)の存在である"誰かさん"こと楓が語り部(Teller)として登場していて、彼が読者を殺すエンドの作品となっています。
・ふう→whoという名前
・小説である事を活かして「かえで」とミスリード
・読者も通話に参加しているため、作中で地の文0
・本来会話は「 」である所を、全て『 』で音声通話である事を示唆
・普通の作品ではない次元の壁を破る演出(作中の登場キャラである楓が読者に語りかける)
上記のように、小説ならではor小説でも珍しい演出を取り入れてみました。最後のシーンで、驚いて頂ければ作者冥利に尽きます。