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第二話 占いに行こう!


「ヤンデレって……何か変な奴に付きまとわれたのかい?」

「占いで、囲われるって……っ!ヤバい男がいるって……ぅ、うぁあぁあん!!」

「あああ、ど、どうしよう。それだけじゃ全然分からないよココ……」


 泣きじゃくる彼女の言葉は途切れ途切れで、何とも要領を得ない。ユリアスと呼ばれた男は、オロオロしつつ……手近にあったタオルをそっと手渡した。まず、落ち着かせるのが先決だろう。

 そして、震える小さな背中を擦りながら彼女の顔を覗き込み、優しく語りかける。


「ココ、とにかく落ち着いて。まずはローブをかけてから、手を洗っておいで」

「……う、うん」


 タオルに顔を押し付け大容量の涙を拭き取りながら、少女はトボトボと洗面所のある方へ向かった。

 不安げに彼女を見送った後、ユリアスはひとまず料理の仕上げに取り掛かる。洗って水気を拭き取った葉物野菜の上に、揚げたてのおかずを並べてゆく。油から揚げたばかりの鶏皮はジュクジュクと音をたて、湯気と共に食欲をそそる匂いが立ち昇った。

 最後に塩パンが幾つも入った籠を食卓に乗せた所で、手を洗ってローブを脱いだ少女が洗面所から帰ってくる。

 ユリアスが席について手招きすれば、彼女も向かいの椅子に腰を下ろした。ココルが泣いていることを除けば、これが彼らのいつも通り。休日前のご飯風景である。


「……それで、一体全体何で突然ヤンデレが出てきたの?」

「……」


 湯気の向こうで、眉の間に皺を寄せた同居人が心配そうに彼女を見ている。地元で『甘い』と評判だった端正な顔立ちは、そんな顔をしても綺麗だ。

 しかしながら、昔からお世話になっている幼馴染に心配をかけてしまった事は本当に申し訳ない。

 意を決したように、少女……ココルは、フォークを握りしめながら、今日あった出来事を話し始めた。



「占い師に言われたの。『このままだと、ヤンデレに捕まってしまう』って」



◆◇◆


 あれは、今日の仕事終わりのこと。

 帰り支度をしていたココルに、同僚が話しかけてきたのが始まりだった。


「ねぇ、ココル。当然あんたも行くでしょ!」

「へ?どこに?」

「どこって……聞いてないの?『霧影の夢』がこの街に来てるって話」


 話の要点が分からずココルが首を傾げていると、見かねた同僚達が口々に説明してくれる。

 『霧影の夢』とは、占い師の名前なのだそうだ。街から街へ旅をしていて、年に一度この街にもテントを立てるらしい。よく当たると評判で、料金をぼったくったり変な壺を売りつけたりもしない。安心安全、良心的とあって、その筋ではかなり有名なんだとか。


「ココルは捜索魔術が得意じゃない?仕事終わりから探せば、割と早めの順番で占って貰えるだろうし……ね!ココルも行きましょっ」

「ええ、でもあたし、買い物が……」

「急ぎじゃないなら、折角だし行きましょうよ。それに、この占い師……」


 口紅を塗った唇が、そっとココルの耳に寄せられる。怪訝そうな顔で耳を澄ませると、同僚はヒソヒソ声でこんな事を囁いてきた。


「恋占いが、特に当たるらしいのよ」

「こ、恋占い……?」

「ココル積年の悩みの、解決の糸口になるんじゃない?」


 それは何とも甘い、甘い囁きだった。そんなに評判の占い師なら、ココルの……約十年積りに積り凝り固まってどうしようもない恋の悩みを、どうにかしてくれるかもしれない。

 グラグラ揺れる彼女の理性に、同僚はさらなる追い打ちをかけた。


「因みに、初回の占い料は半額なんだって」

「――――行く!!」


 結局この囁きが決定打となり、ココルも同僚達と一緒に件の『霧影の夢』へ赴くこととなったのである。

 後に、同僚の甘言に乗ったりしなければ……と、本気で後悔することになるのだが、この時のココルはまだ知らない。


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