Rise of 1 生きるに値しない命
―ああ、またか……―
僕は薄れていく意識の中で強烈な既視感を覚える。
「死ねッ!死ねッ!この《悪魔の子》めッ!」
50代に差し掛かろうというスーツ姿の男性が僕の首を絞めている。
悲痛に歪んだ男性の顔は涙と鼻水に塗れていた。
―どうして、いつもこうなるのかな……―
僕は今、実の親に殺されようとしていた。
でも特に驚きもしなければ、悲しみもしない。
慣れっこ、というと可笑しいかもしれないけど僕が親に殺されるのはこれが
初めてじゃなかった。
覚えているだけでも10回は超えている。
僕にはなぜか産まれた前世の記憶があった。
それも沢山の前世の記憶だ。
時代も人種も様々であり、そこに統一性は無い。
でも、死に方は笑ってしまうほど同じだった。
実の親に殺される。
それが僕の、覚えている限り全ての前世での死因だ。
最初にどれだけ僕のことを可愛がっていても、遅かれ早かれ、僕のことを《悪魔の子》
と呼び、忌み嫌った。
そして最後には、今みたいに僕を殺す。
でも、理由が分からない。
僕には前世の記憶があるのだから、死の運命を回避するため当然の如く、努力する。
事実、僕は最初の方の前世を除いて、親に殺されないよう立ち振る舞った。
僕は殺すのが惜しいと思えるような、出来が良くて、優秀で、親思いのいい子でいた。
天才、というわけではなかったが、今、僕を殺そうとしている目の前の男も、ほんの
1年前までは自慢の息子だと言って笑っていた。
なのに、ある時から突然、僕のことを恐れ始めた。
まるで怪物を見るかのように。
だが、僕が覚えている範囲では、どの前世でも何か身体的な特徴があったわけではない。
特筆すべき性格的、精神的な欠陥があったわけでもない。
どの人生においても、記憶にある限り、僕は至って普通で真面な人間だった。
少なくとも、《人の目で認識できる範囲》では。
―クスクス―
不意に子供が笑うような声が聞こえてきた。
酸欠で視界が覚束ない。
でも、僕の眼は死ぬ間際に最後の力を振り絞り、《それ》を見た。
真っ黒い影と、赤い一つ目。そしてにんまりと笑う白い歯。
僕を絞殺しようとしている父の背後から、僕の顔を覗き込んでいる。
死に瀕している僕の顔をまじまじと観察し、楽しんでいるかのように。
もし、僕と他人との相違点を上げるなら3つだけだろう。
1つ目は前世の記憶を持っていること。
2つ目は人の悪意を感じ取れること。
そして3つ目は《こいつら》の類を見られること。
でも、それ以外は何の変哲もない、ただの子供でしかない。