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ホープフルセイビアー  作者: 朝田ひなた
1章
3/5

一話(二)

 その後、エノリアに玄関で待つようにと聞かせ、その間に少年は自室に戻って支度を再開する。彼女が来る前までに、およそ八割程度済ませていたので、五分もかからずに彼は再び玄関に戻ることができた。

 下駄箱付近の掲示物を一人眺めていた少女に「お待たせ」と声をかけ、彼ら二人は三〇五号室を後にした。

 エレベーターを使って一階へ下り、そのまま正面玄関へ向かって歩み寄る。途中、すれ違った旅行帰りの骸骨(スケルトン)ご夫妻に軽く会釈をし、そのまま建物の外へ出た。


 少年たちの通う学校は〈衣ヶ浦高等学校〉という、少年の家からバスや電車を使って一時間の所にある私立の高校である。

 十九年前に開校したばかりの、まだ真新しいこの高校。施設や備品らはもちろん全て新品で、なおかつ最新鋭のものばかり揃えられている。都心部から離れた郊外の農業地帯にあるので、郊外型の大学キャンパス並みに学校全体の敷地は広く、おまけに付近一帯は綺麗な木々の緑色に包まれていた。

 とはいえ、これらの情報を一聞する限り、どこか特別に珍しい箇所のないごく普通の私立学校のように聞こえる。だが、この学校には開校当時から導入している、全世界でも数千校しか取り入れていない()()()()で今、多くのマスメディアから注目を集めていた。

 その()()()()とは〈内外者共学制〉——同一学年、同一学級で人間と訪問者が同等の教育を受けることができる制度、というものである。

 二十年前の〈多国家共同協力条約〉を機に、探求や避難などの目的で多くの訪問者が人間世界へ渡り入ってきていた。もちろん、やってきた人々は大人だけではなく、成人以下——種族ごとに寿命が異なるので、各種族の基準に基づく——の、まだ教育を必要とする子供達も少なからずいるのだ。そんな彼らに学び場を与えよう、というのがこの制度設置の理由だ。

 当たり前のことだが、異世界にも学問というものはある。しかし、それらは基本的には体育系や魔法系といった身体的分野に特化しているものが多く、人間の感覚でみればそれは教育というよりも訓練と表したほうが近かった。

 もちろん、思考力や判断力を養う文化的分野も並行して学んではいる。だが、それはあくまでもおまけの科目でしかなく、()()()()()()()()という感覚でしか彼らは学んでいなかった。

 その結果、言語や生きるために必要な術以外の応用的知識——高度な数学や思考力など——が人間に比べて大きく劣ってしまっている。そんな彼らにも分かるように、この学校では授業のカリキュラムは基本的にほとんど全てが訪問者目線に合わせてできていた。

 だからといって、学校の偏差値や教育の質が同じく低くなっているかというと、全くそうではない。むしろ、高すぎだろ!と嘆いてしまいたい程に、高水準なものであった。

『素早く、適切に、分かりやすく』を教育理念に掲げるこの学校はその文字通り、すべての授業は基本的にペースが速く、無駄のない方法で適切に、訪問者達にも理解できるように分かりやすく教えている。そのおかげで、人間や訪問者を問わず多くの学生の学力は伸びに伸び続けており、難関大学への進学率も七年間ほど前からトップに君臨し始めるなど、十九年という短期間のなかでかつてない飛躍的な急成長を見せてくれていた。

 しかし、これらのことは誰にでもできるというわけではない。

 学校側が分かりやすく教えてくれているとは言っても、あくまで今まで培ってきた知識が()()()()に身についていることを前提としている。また、ハイスピードで回る授業で、学んだことを瞬時に理解する理解力や知識を整理する力も求められるのだ。

 要するに、この高校の画期的な方針についていくためには、そこそこの才人でばければ不可能だった。

 その才人としての気質があるのかを見極める場として入学試験があり、毎年多くの生徒が己の武器(知識)を持って臨んでいる。しかし、ここを突破できるのはほんの一握りの人のみ、それ以外のほとんどは無惨にも砕け散っていってしまうのだった。

 そんな、『超』の付くくらいの難関校に最低ラインギリギリにでも合格できたことを、奇跡と少年は思っている。だが、そんな自分より、五教科ほぼ全てで満点を取り、堂々と首席で入学できたエノリアのことを、彼は今でも心から尊敬していた。


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