イケメン王子
ジャックさんの案内で廊下を歩く。
一緒にいるのはマリアとラティナさん。そして見知らぬ茶髪のイケメンだ。
「えーっと、どなた様でしょうか?」
「ああ、私はフリーシア王国第一王子、アイザック・ジョセフ・フリーシアだ。君と同じ歳だ、よろしく。私に対して敬称や敬語は不要だ」
爽やかなスマイルと共に自己紹介をし、挙げ句敬称と敬語は不要だとのたまう茶髪で碧眼の王子。この国の王族軽いな...大丈夫か?不敬罪で俺処刑されたりしないだろうな?
「よろしくお願いします。アイザック王子」
「......」
「...よろしく、アイザック」
「ああ!」
「ところでどうして、俺と一緒に?」
「私は暇なんだ」
「...次の国のトップになるような立場の人間がか?」
「ああ。次期国王になる為に必要なことは随分昔に全て終わらせてしまってな...」
「それでも、やらなきゃならない執務仕事があるんじゃないのか?」
「勿論ある。しかし、部下が仕事人間でな、私の仕事を奪っていくんだ。勿論、最終的な確認は私がやるんだが、私が承認しかすることがないほど完璧に仕事をこなしてな...」
「なんだその悩み...」
「しかも妻は実家に帰っているし...寂しい...」
「実家って、なんかあったのか?」
「ああ。初孫が嬉しいのか、まだ産まれていないのに父が妻に構ってばかりいて政務に滞りが出てな」
「子供かあ、おめでとう。まあ仕事疎かにするのは良くないな」
「ありがとう、そうなんだ。そして見兼ねた母が妻を妻の実家に帰したんだ、自分も一緒についていってな。ただでさえ世継ぎというプレッシャーもあるのに、父のプレッシャーまであっては彼女が可哀想だし、元聖女の自分もいれば安心出来るだろうといった理由でな」
「王妃様が傍にいるのもそれはそれでプレッシャーな気がしないでもないが...」
「それは大丈夫だ。昔から母は妻を実の娘のように可愛がっていたし、妻も母を実の母のように慕っていたからな」
異世界の王家では嫁姑問題はではなく嫁舅問題が起きていたらしい。問題とは言っても孫が楽しみなおじいちゃんが息子の嫁を構い過ぎるというものだが。
「そんなわけで暇なんだ。私が妻に会いに行っても直ぐに帰されてしまうしな...」
「そうか...まあ、話し相手くらいにはなるよ」
「ありがとう」
こんな俺でも、話し相手くらいにはなるだろう。
「この部屋になります」
「ここまでありがとうございます、ジャックさん」
「早速入ってみましょう!」
「私も楽しみだ」
「マリアの部屋とそう変わらない気がするけどな。アイザックは知ってるだろ?」
「他人の部屋だからこそわくわくするんですよ?」
「そういうことだ」
この親戚同士の二人、なんか企んでやがるな?
ドアを開け、中に入る。
「おお〜、広いな」
「今だマリア!」
「はい!アイザック兄様!」
俺が部屋に感動していると、猛スピードで二人がベッドにダイブした。
「ちっさい子かよ...聖女ともうすぐ父親になる王子が何やってんだよ...」
「偶にはこういうことがしたくなるんです!」
「そういうことだ!はははははっ!」
「良いんですかジャックさん?」
「一緒に参加してはいかがですかな?」
「いや止めましょうよ...」
ただ、はしゃいでいる二人を見ると、まだ俺の中で燻っていたここに来た理由についての悩みとかが消えていった。
俺を元気づける為にやってくれてるのかもな...。
「二人共、ありがとう」
「突然どうしたんですか?」
「ああ、大丈夫か?」
あっ、違うっぽい。無茶苦茶恥ずかしい。
アイザックの少し早いが昼食にしようという声のもと、ぞろぞろと食堂へと向かう。
「マリア。今更だけど、さっきは神託を授けた女神様が悪いと言って済まなかった」
「ふふっ、気にしないで下さい。陛下も少し仰ってましたが、女神様の神託に関してはこうしろとだけ伝えられるだけで、理由については全く伝えて貰えないですから。私達教会内の間でも不満が多いんです」
「そうなのか...」
「今までの神託の中では理由がわからずに次の神託を受けたことが沢山あるんです。教会内では神託の理由を解明する為だけの人達もいるんですよ?」
「大変なんだな...。そういや、マリアがこの国にいたのは神託が理由なのか?」
「はい。フリーシア王国に滞在しろ、という神託を。聖女に対しての神託は珍しいですね」
「へえ、期間はやっぱり指定されてなかったのか?」
「はい。ただこの神託は恐らく貴方と直ぐ顔を合わせられるようにすることが理由だと思います」
「マリアと顔を合わせることが理由、か...そうなると俺が怪我したことにも一応理由があったのか?」
「まあ、今悩んでも仕方ないだろう。もしかしたら見当違いな理由かもしれないからな」
「確かに」
昼食はコース料理だった。マナーに関してはアイザックとマリアが教えてくれた。異世界の料理は俺の口にも合った。ジャックさんとラティナさんは俺達が食事をしている間、別室で交代に昼食をとっていたらしい。
昼食を終えた後は城下に出て、王都の案内と俺の服を買うことになった。
始めに上流階級御用達の店に連れられ、マリアと店主の漢女(昔は海千山千の冒険者だったらしい)による俺のコーディネート大会が開かれた。
因みに冒険者とは冒険者協会から発行されたライセンスを持つ者達のことで、国や商会、はては個人から受けた依頼を元に仕事を行うらしい。魔物の討伐などが主な依頼として多いようだが、それについて国を護る騎士と仕事が被るのではと思ったが、すべての魔物問題に騎士団が関わると人手不足になるため、騎士団が関わるかは一定の基準を設けられていると着せ替え大会に巻き込まれたアイザックが教えてくれた。
服の支払いはアイザックがしてくれた。いつかお金は返すと言えば気持ちだけ受け取っておくと言われた。
店を出れば既に夕暮れだった。夕食はアイザック行きつけの料理店で食事をするらしい。とても美味しい料理が出る店だとマリアが教えてくれた。
店では個室に通された。俺達の他にジャックさんとラティナさんも一緒に食事をするらしい。王城や貴族の屋敷ならば交代で食事をするが、こういった外食の場合は主の傍を離れない為にも同じテーブルを囲むらしい。席はなぜか俺が女性陣の間に挟まれる形になった。ちょっとした意趣返しのつもりで二人の食事をじっくり見ていたら怒られた。多少女性の食事を見るのは良いが、あまりじっくりと見ることはマナーに反するということらしい。料理は何処か日本を感じさせる料理ばかりだった。
食事を終えて王城に向かうまでの間、今更ながらに言葉が通じることについて訊いた。
「過去に来られた方々も意思疎通や文字を読むことは出来たそうなんです。恐らくですが、これはこの世界で言語が統一された為に一部の人を除いてもう現在では使われていない言霊系魔術を無意識化で常に発動しているんだと思います」
「言語を統一した?言霊系魔術?」
「女神様の神託を魔術を介して受け取るのは不敬だろうということで、アルティナ様が神託される際に使う言語に統一されたんです。そして、言霊系魔術は言語が違っても会話や文章から意思を読み取ったり、伝えたりすることが出来る魔術ですね。この魔術は消費魔力がとても少なく済むため様々な人が覚えることが出来るんです」
「いくら女神様の為とはいえ、それはどうなんだ...?」
「過去には聖女以外にも多くの人物に神託を授けていた時期があったらしいぞ?」
「あー。自分が神託を受けるかもしれないからってことで統一が進んだ感じか...」
「そういった理由だろうな」
因みに今でも言霊系魔術を使うのは歴史家や学者に多いらしい。なんでも統一される前の言語から文字を読み解くのに必要だからとか。
王城に着き、アイザック達と別れ、ラティナさんと共に俺の部屋へと向かう。既にラティナさんの荷物は俺達がいない間に俺の部屋内にある使用人用の部屋に運ばれているらしい。
「アイザックとの事とかがあって訊くのを忘れてましたけど、ラティナさんはどうして俺の専属になってくれたんですか?」
まだちゃんと部屋の場所を把握出来ていない俺の為に一歩前を歩いて案内してくれていた彼女の隣に行き、問うた。
「宜しければラナとお呼びください、それに私に対してそういった口調は不要です。それで、どうして、ですか...そうですね、生き別れた弟に似ていたから、でしょうか?」
「生き別れた弟...」
「はい。だからとは言ってはなんですが、私のことは二人きりの時にはお姉ちゃんと呼んで頂けると嬉しいです」
微笑みながら言われ固まった。お姉ちゃんと呼ぶ?隣の美女エルフを?え?そういうプレイ?周りを見れば誰もいない。言うか?言ったほうが良いのか?
「ふふふ、まあ嘘なんですけどね?」
「......」
「そんな風に見つめられると照れてしまいますね」
「敬語で話しますね。ラティナさん」
「......」
「......」
「今のは無かったことに致しませんか?」
「ラティナさんが俺に対して従者としてじゃなく接してくれるなら良いですよ?」
「従者としてではない接し方、それはつまり――――」
「怒りますよ?」
「冗談です。わかりました。但し口調は元々こんな感じですから、二人きりの時に呼び方が変わるくらいですよ?」
「ああ。それでも良いよ。それで、なんで俺の専属に?」
「それは、なんとなく、ですね。そうなんとなく、傍にいなければならない。そんな気がしたんです」
「なんとなく、か。まあわかった。けど、給料とか出せないけど良いのか?」
「それは大丈夫です。陛下は忘れていましたけど、過去の出来事から、異界から来た人物には必ず専属で必ず誰か人をつけなければならないんです。放っておくと色々なことをしますし、危害を加えようとするものから守らないといけませんから。そして専属になった者達の給料ですけど、教会から出されるので問題はありません。専属の者に給料を払える資金を持った場合には払わなければならないですけどね」
「そうなのか。なるべく早くラナに自分の資金で給料を払えるようにするよ」
「はい、期待してますね」
ただ気のせいだろうか、今日起きたことや過去にこの世界で起きた出来事が全て、ちゃんとして来なかった俺をどうにかさせる為に仕組まれたものではないかと。まあ自意識過剰も甚だしいことだが。
部屋に戻れば、王子と王女コンビがぐちゃぐちゃにしたベットは綺麗になっていた。王城にいない間に誰かがやってくれたんだろう。俺は関与してないが一応、仕事を増やして申し訳ないと心の中で謝った。
ラナに淹れて貰ったハーブティーを飲みながら、眠るまでの間ラナと話した。
「そういえばラナ、サティナさんなんだけど」
「サティナ様ですか?」
「なんで俺を家で暮らすように言ってくれたんだ?」
「それはですね。サティナ様は数百年前に来られた異界の方が国の危機を救うお話がとても好きなんです。それはもう、侯爵家の長女にも関わらず、異界の方以外とは結婚しないと今の歳になっても言ってしまうぐらいには」
「はい?」
「どうにか上手く隠していましたが、それでもサティナ様の心の中は最高潮です。なにせ憧れの異界の方に会えたわけですから。先に陛下の元へ行っている時なんて、助ける為とはいえ抱きしめてしまったなんて顔を赤らめながら言っていましたし、ユリナに対しては私が後ろに乗せたかったと恨みごとを言ってました...。まあ私も馬車の中で近づき過ぎだと怒られましたけど...。しかもあのお嬢様、始めは私が専属になるなんて言っていたんです!どうにか言いくるめて私がなりましたが、好きなのはわかりますが立場をわかってもらいたいです」
「その異界人に比べれば俺は対したことないと思うけどな」
「サティナ様の乙女フィルターの前ではそんなこと関係ありません。気をつけてくださいね?恐らくサティナ様のお父様であるジラード様がなんとしてでも結婚させようとしてくると思いますので...」
「ラナ、未婚の貴族の女性と馬車に乗ることは客観的に大丈夫なのか?」
「......」
「そうなるとマリアもか?」
「......」
「もしかして嵌められた?まさかラナが今一緒にいることも手のひらの上?」
「...マリア様は恐らく、多分、きっと大丈夫、だと思います。あと私もまあ大丈夫だと思いたいです。サティナ様に関しては基本男嫌いで有名ですから...」
「......」
既にしてやられていたらしい。
ただ言えるのは、まだこの世界に来たばかりでまだ何もしていない俺に対してすることじゃないことだろう。
「もう寝よっか」
「そうですね、そうしましょう」
考えるのをやめることにした。流れに身を任せるしかないだろう。
ラナは明かりを持って出口近くの使用人用の部屋へと向かっていく。
「おやすみ、ラナ」
「はい。ふふふ、私の方が一つ上ですから...おやすみなさい、ユウジくん」
そう言って彼女は扉を閉めた。
俺は布団を被って眠ろうとするが、ラナが俺の名前を呼んだ時の笑みが頭から離れない。
「年上か...」
エルフだけど、近所の優しい幼馴染のお姉さんってあんな感じなんだろうかと色々と考えている間に、俺は意識を睡魔に持っていかれた。
翌朝、アイザックに約500人ほどの騎士と冒険者がオークの討伐に向かったと聞かされた。
そして昼頃、彼らが敗走したと聞かされた。




