王城でお願いします
「おお!見た感じ大丈夫そうだな!良かった良かった!」
ガタイの良いおっさんは笑いながら、バシバシと俺の肩を叩いてきた。
「叔父様、治療したとはいえ、彼は病み上がりです」
「あーすまんすまん」
マリアに指摘されておっさんは叩くのを止めた。どうやらおっさんはマリアのおじらしい。
「おじ?」
「はい、父の妹の夫に当たる方です。因みに、さっき廊下で話した先代の聖女というのは私の叔母のことです」
「てことは、国王陛下?ですか?」
「ああそうだ。俺がフリーシア王国国王、ジョセフ・アレクサンドル・フリーシアだ」
目の前のおっさんは国王陛下だったらしい。厳粛な感じの人物だと思っていたが、かなり軽い。なんとなく近所のおじさんを思い出した。
そして国王は突如頭を下げて言った。
「怪我のことだが、この国の者が済まなかった。もっと鍛えさせ、上手く立ち回ることが出来ていれば、君が怪我をせずに済んでいたはずだ。この国の長として謝罪させて頂きたい」
「いや、ちょっ!頭を上げてください!俺の自業自得みたいなものですから気にしないで下さい!皆さんは悪く無いですから!」
さっくりとした挨拶から突然真面目な感じで謝られたから戸惑った。まさか同じ日に3回も謝罪を受けるとは思わなかった。
俺が謝罪を受け入れて、国王陛下は頭を上げてくれた。
「ことのあらましはサティナの嬢ちゃんから聞いてる。お前さんが怪我した経緯とかな。オーク共は明日に人員を派遣して討伐する予定だ。万全を期すために人員多めでな」
口調に関してはこんな感じなので許して欲しいとマリアに耳打ちされた。下手に堅苦しい言葉で話されるよりは良いのでこの方が楽だった。
「オークに関してはこんな感じで話が決まってな。次にお前さんの処遇に着いてだが、神託では行く人物と数を指定されて保護しろ、とだけしかマリアは啓示を受けてねえらしい」
「保護しろ、ですか...」
「ああ。ただ、神託には必ず意味があってな。お前さんをサティナの嬢ちゃん達で保護した理由やお前さんが来た理由が必ずな。過去にも同じように異界から来た人物達に対して保護するようにっつう神託があってな。その時もお前さんのような人数を制限しての保護をするっつう神託こそ無かったが、どういった理由を持って此処に来たかについては同じように神託で伝えられていなくてな。だが、後々彼らは様々なことで俺達の世界に良い影響を与えた」
「昔にも俺のような人がいて、世界に影響を与えた...」
「ああ。ある人物は食に関することで、またある人物は農業に関することで、そしてまたある人物はとある戦いでって感じでな。まあだが彼らは色々と好き勝手していたらしくてな、良い影響を与えたっつても結果的にそうなったってことばかりだ」
「それでも、すごいですね」
何か理由があってここに来た?
大して勉強もしてこなかった俺が?
大して何もして来なかった俺が?
ただの無職の俺が?
好き勝手にしていたとしても、結果的にこの世界を良くした彼らと比べて、こんな俺にそんなことが出来るのだろうか?
もっと相応しい人がいた筈だ。70億人以上いる中で俺である必要なんてなかった筈だ。
どうして俺なんだ?
こんな俺がどうして来たんだ?
「そんな思い詰めた顔すんな。何か理由があってお前さんが来たのは確かだろう。だが、思い詰めず好きにしたら良い。この世界を知って、この世界を見て、感じたこと、思ったことを元に行動に移してくれれば良い。それが結果的にこの世界の為になる」
「そんな、俺が出来るかわからない確証の無いことを、どうしてですか?」
「どうして、か...。神託で保護するように啓示を受けたのもまあ理由の一つだが、まあ一番は勘だな!」
「勘って...」
「ああ。ただの勘だ。まあ、元々お前さんがいた世界じゃないからな、嫌なら別に何もせずに過ごしてくれたって構わない。俺の私財でお前さん一人くらい養うなんてわけないからな。もうこの話は終わりだ。あとどうするかは悩んで悩んで悩め、若者よ」
「...はい」
俺は、自分の行動で世界に影響を与えるかもしれないという重圧が怖かった。
正解のわからない中で行動することが怖かった。
不安や期待による重圧、色々な感情で頭が一杯になるなか、陛下の言葉で意識を戻された。
「ところで、話は変わってこれからお前さんが過ごす場所なんだが、どうする?此処で暮らすか?」
「それとも私の侯爵邸で暮らしますか!?」
「あー、まあどっちでも構わないんだが、ちょっと耳かせ」
そう言われて陛下の近くに行った。やたらいい匂いがした。
「嬢ちゃんの家なんだがな?」
「はい」
「女ばっかなんだよ」
「え?」
「侯爵とその右腕の執事以外全員女なんだ。家族はまあわかるだろ?けどな、あそこは使用人も屋敷を守る私兵の騎士たちも厨房もみーんな女なんだ」
「は?」
「想像つくだろ?女ばっかのところに男一人。しかも侯爵と執事は殆どいないし、いても執務室にほぼ籠もりっきりだ。俺の言いたいことはわかるな?」
「いるだけで疲れそうですね...」
「ああ、だからこそ侯爵もあまり家にいないんだがな...」
「お二人共何を話してらっしゃるのですか?」
「いやいや、何でもないぞ?な?」
「はい、なんでもないです」
近くにいるマリアから何やら視線を感じるのは気のせいだろう。
「そうですか。では改めて、どちらにしますか?家ですか?それとも此処ですか?」
何故サティナさんはそんなに会って間もない俺に一緒に暮らして欲しいのだろうか?理由が全く思い当たらない。下僕が欲しい、とか?いやそれはないか。そもそも未婚の貴族の女性のいるところで婚約者でもない男がいるのは大丈夫なのか?
「さあ!どちらにしますか!?」
期待に背くのは心が退けるが、王城で暮らそう。若干道に迷いそうなのが不安だが、大丈夫だろう。
「王城でお願いします」
「なっ!」
「よし。部屋は...マリア、ジャック借りるぞ?」
「はい、私も着いて行くので大丈夫です叔父様」
「陛下、あの部屋でよろしいですか?」
「ああ、早速案内してやってくれ」
「畏まりました」
「あっ、そういや専属で誰か傍にいた方が良いか」
「陛下、その役目私に勤めさせて頂きたく存じます。既に主から許可は得ております」
「おっ、そうか。ラティナなら王城内もわかるな、頼んだぞ?」
「はい。ありがとうございます」
どうやらラティナさんが俺の専属として傍にいてくれるらしい。
陛下に挨拶を済ませ、ジャックさんの案内で俺の部屋へと向かった。俺、マリア、ラティナさん、イケメンと共に。因みに部屋を出るまでサティナさんは固まっていた。
「いつまで固まってるつもりだ?」
「はっ!あれ、みんなは!?」
「あいつらはジャックの案内で部屋に向かってるよ」
「そうですか...いつの間に...」
「固まってる間にだよ」
「...コホン。ところで陛下、どうして彼にあのように仰ったんですか?」
「話そらしたな。なんとなく言わなきゃいけねえ気がしたんだ。どうやったって必ず、あいつは大きな事に関わる事になる気がしてな」
「それでも...」
「嬢ちゃんはおかしいとは思わなかったのか?本人も気づいてなかったがオークに吹っ飛ばされたんだろ?あいつは。それにしては怪我が軽すぎるとは思わねえか?」
「確かに不思議に思っていましたが、偶々では?」
「いや、それは無い。不意をつかれる形でやられたんだろ?」
「はい、私にはそう見えましたが...」
「ただの一般人がオークに吹っ飛ばされたんだぞ?しかも通常よりも一回りでけえ個体だ。普通は生きてたとしてもポーション一個で直ぐに動けるようになんてなりはしねえ。それでもあいつは飲めば直ぐに動けるようになったんだろ?おかしいとは思わねえか?」
「そうなんですか...?」
「嬢ちゃんは普通じゃねえから気づかねえのも無理無いか...まあとにかくあいつには何かある。恐らくその何かがここに来た理由の一端だろう。望むと望まざる関係無く、あいつを巻き込むような何かがな」
「私が普通かどうかはまあいいですが、何かが、ですか」
そう言ってサティナはおとがいに手を当て考え始める。
(彼に何かが、ですか...何処で彼が暮らすことになろうとも、ラティナが彼の侍女として志願するつもりだと言っていたのもなにか関係があるのでしょうか...?特に理由を訊きませんでしたが...ん?エルフの彼女が自分から...?まさか―――――)
「おーい、戻ってこーい」
「はっ!」
「戻ってきた戻ってきた」
「ああ、もう少しで何かが...」
「それは済まなかったな」
「もう。そういえば、ところで陛下?」
「ん?」
「彼に何を仰ってたのですか?」
「さっき聞いてただろ?忘れたのか?」
「そのことではなく、彼と二人でコソコソ話していたことです!」
「ああ。それは言えねえな」
「どうしてです?」
「それは言えない。知りたかったら父親に訊いてみるんだな」
「わかりました。父に訊いてみます」
(済まん。ジラード。不甲斐ない俺を許してくれ)




