ガタイの良いおっさん
数十分ほどで森を抜け、開けた場所に出た。広い草地と離れたところに壁が見えた。
「あれは?」
「あれは私達の国、フリーシア王国。その王都リーファを囲う城壁です」
目の前の女性が答えてくれた。
教えてくれた礼を言いつつ、彼女の肩越しからその城壁をよく見る。離れていてその高さは正確にはわからないが、大体10メートルくらいだろうか。ちらほらと城壁の上に人がいるのが見えた。
「あそこへ向かいます」
彼女の指差した方へと目を向ければ門が見えた。馬車や人が出入りしていた。
門をくぐり、城壁の中へと入る。中では一人の老紳士が馬車の前で待っていた。
「お待ちしておりました」
そう言って、老紳士は身なりの良い金髪の女性と話し始めた。
数分ほどで話は終わり、俺は馬車の中へ入るように言われた。どうやらこの国の国王に会うため王城に行かなくてはならないらしい。俺のちゃんとした治療もそこで行ってくれるらしい。
馬車へは俺と身なりの良い金髪の女性、そして亜麻色の髪の女性とくすくすと笑われた尖った耳の女性と獣の耳を持つ女性の5人が乗るようだ。数が多いんじゃないかとも思ったが、少しでも顔見知りがいた方が少しは安心出来るだろうという俺への配慮らしい。ただ一人、密室での男一女四という状況での俺の反応が楽しみだという表情の女性がいたのがかなり気になったが。
残りの女性達は馬を戻しに帰るらしい。俺は彼女達に改めてお礼を言って馬車の中へと入った。
馬車の中では入口から一番奥の席に座った。目の前には身なりの良い女性が座り、彼女の隣を亜麻色の髪の女性が座った。俺の隣は尖った耳の女性が座った。少し距離が近い。そしてその隣に獣の耳の女性が座った。
馬車が動き出すと、彼女達は俺に怪我を負わせる事態になったことを改めて謝ってきた。俺が怪我を負ったのは自業自得みたいなものだったし、命の危機を助けてもらった身でそんなことは気にしていないと言ってようやく頭を上げてもらった。
謝罪の後、俺たちはようやく自己紹介をした。身なりの良い金髪碧眼の女性、もといサティナ・フォルティナ様は20歳で侯爵家のお嬢様らしい。彼女の隣の亜麻色の髪で茶の瞳の女性はユリナ・カラーナさん、24歳。彼女はサティナ様の護衛らしい。そしてあとの二人は金髪で翡翠の瞳を持ち、尖った耳の女性がラティナさんで黒髪に金の眼で獣の耳を持つ女性がミオンさんらしい。それぞれ23歳と22歳で、ラティナさんがエルフ、ミオンさんが獣人という種族だと教えてくれた。エルフと獣人という言葉を聞いて少しテンションが上がったが顔には出ていないと思う。隣からやけに視線を感じたが。
自己紹介の後、この国の王に会うのに対して必要なことは無いかと問えば、特に無いという。特に無いということで不安になったが、会えばわかると言われ、納得するしか無かった。
そして王城に着くまでの間、俺はどうして理由があったとはいえあの場所(ユーフォレナ森林と言うらしい)にいたのか、あのオークは何なのかを訊いた。
「ユーフォレナでも言いましたが、私達がいたのは偶然ではありません。神託を受けた聖女マリア様から命を受けたからです。ユーフォレナ森林で異界から来た一人の青年を保護するように、と。そしてアマノ・ユウジ様を探し出し、助けました。まさかオークに追われ、会えば早々に私達を巻き込まないために逃げるとは思っていませんでしたが...」
「...」
「保護対象に逃げれられ、追いかければアマノ様はオークに吹き飛ばされ、見た時は本当に肝が冷えました。本当に、本当に命に別状が無くて良かったです。改めて、助けが遅くなってすみませんでした」
「いえいえ、怪我したのは俺のせいなので気にしないでください。ご心配をおかけしました」
「しかも貴方を襲ったあのオークは―――――――」
それから王城に着くまでの間、俺を怪我させたオークについてや神託の内容についての説明、そして説教を受けた。俺が逃げたことがどれだけ危険だったかについての説教だった。
他の三人は誰も助けてくれはしなかった。ユリナさんとミオンさんは窓の外をひたすら見続け、ラティナさんは何が面白いのか俺が説教を受けるのを見続けていた。
王城に着き、四人と別れ、俺は国王に会う前に老紳士案内のもと治療を受ける場所へと向かった。普段なら常駐する治癒魔術師(この世界では傷を癒やす魔術があるらしい)に診て貰うそうだが、今日は治療に関しては打ってつけの人がいるためそこに向かうらしい。
「此方です」
そう言ってある部屋で彼は止まり、ドアをノックした。
「マリア様。ジャックです。彼をお連れしました」
中から入るように言われた後、ドアが空いた。中にいた侍女さんが開けてくれたらしい。
ジャックさんに先に入るよう促され、中に入る。
中では一人の少女が俺を見ていた。銀の髪を持つ意思の強そうな翡翠の瞳を持つ少女だった。
立ち上がり、開口一番に彼女は
「この度は異界の方を怪我させる事態になってしまい申し訳ありませんでした」
「えっ」
「神託の指示に従ったとはいえ、このような事態になったのは私の責任です。どうか罰は全て私が―――――――」
「ストップ!ストーーーーーーップ!」
謝罪の挨拶だった。
「落ち着きました?」
「はい、大丈夫です」
「神託のこととかはサティナさんから聞いています。神託の指示通りの人を集めて俺を保護するようにと伝書を出したと。それに、俺が怪我したのは自業自得みたいなものだから気にしないでください」
そう、全ては神託の指示通りだった。ユーフォレナ森林で俺を保護する。しかし、軍を上げての捜索をせず、サティナさん達八人だけで事に当たるという神託。人を探し、保護するのならば数が多いに越したことはない筈なのに、だ。
「だから気にしないでください。もし謝らなければならないとしたら貴女の前で言うのは良くないかもしれませんが、貴女に信託を授けた方だと思いますし」
「...」
「それに、俺に怪我を負わせたオークはサティナさん曰く普通の個体とは違うっていましたし、もし派遣する人数が多くて撤退せずに戦っていれば怪我人や死人が出たかもしれないって言ってましたし、だから気にしないでください」
「...わかりました。」
どうにか納得してくれたらしい。一日で連続して美女と美少女から謝罪を受けるとは思わなかった。
「もう気づいておられるとは思いますが...改めまして、ユナン聖王国第一王女マリア・ユナーナと申します。歳は18歳です。また、当代の聖女として活動しています。以後お見知りおきをお願いします」
俺も自己紹介を済ませ、ようやく彼女に傷を診て貰った。顔をぶつけたときの怪我と脇腹は既にポーション(緑色の液体のこと、ジャックさんに名前を教えて貰った)で治っていたらしい。経口摂取した場合、ポーションは基本的に体の内部を優先的に作用すると教えてくれた。
彼女が治療するのは俺の左腕だけだった。彼女が左腕に手を翳し、しばらくした後みるみる痛みが消えていった。治療しながら彼女は治癒魔術やポーションは対象者の自然治癒力を活性化させることで治癒を促すものだと教えてくれた。あとポーションは一定以上摂取すると体に悪影響を及ぼすらしい。
「これで大丈夫です。痛みはありませんか?」
「はい、大丈夫そうです。ありがとうございました」
左腕を回しながら俺は礼を言った。
「そうですか。では、国王陛下の元へ行きましょう」
「マリア様もですか?」
「はい、当事者の一人ですから。それと、敬称はいりませんし、今更ですが話しやすい口調で大丈夫ですよ」
「王女様にそれは...」
「......」
「わかったよ、マリア」
事情を知らない人に見られたらどうしたらいいんだろうか...。因みに俺も敬称はいらないし、マリアの話しやすい口調で良いと言ったら、敬称は努力するが、口調は誰に対してもこうだから変えるつもりは無いらしい。
部屋を後にし、ジャックさん(呼び捨てで構わないと言われたが、流石に三倍以上年上の人を呼び捨てにすることは気が引けたので丁重にお断りした)の案内で国王陛下の元へ向かう。
道中、隣のマリアに何故部屋に入った瞬間に謝ったのかを訊けば、俺が怪我をしていたら自分の部屋に連れて来るようにジャックさんに伝えていたらしい。入る時にジャックさんがお連れしましたと言っていたのはそういうことか。
「此方です」
『――――――!!―――――――!―――――――!』
『――――――。―――――――――――――――。』
「言い争ってる声が聞こえますけど、大丈夫なんですか?」
「この国では良くあることですな」
「へえ、ジャックさん詳しいですね。やっぱりジャックさんって王城で働いてるんですか?」
「いえ、今はマリア様の執事をさせて頂いています」
「今は?前此処で働いていたんですか?」
「ジャックは私が聖女に選ばれるまで此処で働いていたんですよ」
「聖女?」
「はい、ジャックは代々の聖女に仕える特殊な執事なんです。私が聖女に選ばれる前、先代の聖女が王妃様だったので此処で働いていたんです」
「てことは、マリアの執事っていうよりは、聖女専属の執事って感じか」
「そうなりますな。ところで、相変わらず中での話し合いは直ぐに終わらないようですし、とっとと入ってしまいましょう」
「え?ちょっ!?」
俺が驚いている間も無くジャックさんがノックもせずにドアを開けた。
「だから!彼は家で預かります!」
「そうは言ってもなあ、あんな所よっぽどのアレじゃなきゃあ、いるだけでも気疲れするぞ?」
「ですが!知らない人ばかりの此処よりは落ち着ける筈です!」
「ええー?そうかあ?しかしなあ...おっ?」
茶髪で碧眼のガタイの良いおっさんとサティナさんが言い争いをしていた。どうやら話の内容からして俺をどこで預かるかで揉めているらしい。
「お前さんが異界から来た小僧か!傷はもう大丈夫か!」
ガタイの良いおっさんがのっしのっしと近づいてきた。




