良い匂い
突然のファンタジーゲームで出てきそうなフレーズと、氷の槍がブタ野郎を襲うという現実の光景に俺はフリーズした。
氷の槍による急激な温度変化と衝撃により、俺の目の前は落ち葉と白いモヤで前が見えない。
モヤが晴れ、落ち葉が舞い落ちるの中見えたのは悠然と佇むブタ野郎だった。完全に不意をつく一撃だったように思う。それでも奴は傷一つなく立っている。
「防がれた!?」
声の方へと目を向けば、さっき会った女性たちが俺の方へと向かって来ていた。声の主は驚いた顔をしていた他の人よりも身なりの良い金髪の女性だろうか。
「対象の保護を最優先!」
亜麻色の髪の女性が言った。対象の保護。俺のことだろうか。
わざわざ彼女達は危険な場所へと踏み入れたのか。
なぜ逃げていないのか。
「ウォーターウォール」
一人の女性の声と共に、豚頭共を囲うように水の壁が出来た。
壁越しに豚頭達が壁を突破しようとする影が見えたが、どうやらそう簡単には突破出来ないらしい。
「大丈夫ですか?」
身なりの良い金髪の女性が近くに来て俺に声を掛けた。今度は驚いた顔ではなく心配そうな顔だった。
「なんで...」
俺の口から出たのは感謝の言葉ではなく、疑問の言葉だった。
どうして助けに来たのかと。
彼女は少し驚いた後、微笑みながら言った。
「本当のことを言えば、事情があって貴方を助けに来ました。ですが、あなたを助けに来た一番の理由はその事情ではありません。見知らぬ私達の安全のために、自らの危険を顧みず行動する方だからこそ助けたい、そう思って来ました」
申し訳なさそうに彼女は「事情があって助けに来たことに変わりませんが」と付け足して言った。
事情があったことも気になるが、助けたいと思ったからと言ってくれたことが嬉しかった。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
そう言った彼女は、とても綺麗だった。
「これを」
そう手渡されたのは緑色の液体が入った瓶だった。
「完治とはいきませんが、ある程度は動けるようになれるはずです」
見たこともないもので、少しだけ躊躇した後、俺は一気にそれを飲み干した。
サラッとした液体が喉を通り胃へといく。まさか異世界に来て初めて口にするのが緑色の液体だとは思わなかった。
全身の痛みが徐々に消えていく。
「あまり保ちません、直ぐにここを離れましょう」
彼女の手を借りて立ち上がる。
「オーク達を倒すつもりでいましたが、私の攻撃を防ぐ個体に、さらには」
豚頭の名前はオークで良かったのかと思いながら、そう言った
彼女の視線を追う。見れば、森の奥から何十体ものオークが向かって来ていた。
確かにここに居るのは不味そうだ。
彼女と、水の壁を見張っていた女性達と共に走る。
目指すのは馬がいる場所。
足元に気をつけながら進んでいく。
「破られました!」
女性の1人が言った。
後ろを見ればオークを囲っていた水の壁が消えている。だが距離があるため諦めたのか、オーク達が追ってくる様子は無い。
しかしただ1体だけ、手に持った棍棒を高く振り上げている個体がいた。ブタ野郎だ。やけになって地面にでも八つ当たりかと思ったが、よく見れば奴は笑っている。
その笑みを見た瞬間、全身に怖気が立つ。何故かはわからない。ただひたすら嫌な予感がする。
「左右に散開!」
俺と同じように後ろを見ていた亜麻色の髪の女性が言った。
近くにいた金髪の女性が俺を抱き込みながら横に飛んだ。
凄まじい轟音が起きた。衝撃で俺と彼女の体が転がった。
辺りは土埃と落ち葉が舞い、はらはらとまだ枝先についていた葉が落ちる。
土埃が収まり、さっきまでいた場所を見れば大きく地面が割れていた。
ブタ野郎を見れば肩で大きく息をしているのが見えたが、追ってくる様子はなかった。
「今のうちに行きましょう」
そう声を掛けられ、俺達は馬がいる場所へと向かった。
馬のいる場所には2人の女性がいた。1人は尖った耳を持つ金髪の女性で、もう1人は頭に獣の耳を持つ女性だった。
亜麻色の髪の女性の後ろに乗せてもらい、どうにかあの場所を後にすることが出来た。
道中、前の女性の髪が顔に当たるのが凄く気になった。
横を見れば、俺の様子を見ていた尖った耳を持つ女性がくすくすと笑っていた。
なんだか恥ずかしかったし、良い匂いがした。




