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離してください!

「ミオンさん、誰が来るんですか?」


 レックスさんとの顔を合わせを終え、退出する彼を見送った後に出た言葉だった。


「明日のお楽しみです」


 ミオンさんはカップを片付けながら、ちらりと見て笑った。

 俺はこれ以上聞いても無駄だと肩を竦めると、短剣を手渡された時と一緒にジャックさんから受け取った旅行鞄の元へ向かった。

 なんの革か分からないが綺麗になめされたことで光沢を放ち、角に金属が使われて頑丈そうに見える鞄。そして、既に明日以降の服などが詰め込まれている。俺が準備した訳ではなく、ジャックさんが用意してくれていたのだ。

 そもそもフリーシアがスタンピードや襲撃を受けた時に旅なんてして良いのだろうかと今更な疑問が浮かんだが、偉い人に招待を受けたから仕方のないことなのだと自分を納得させる。


「明日のためにすることが何も無いんだよなあ」

「体調を万全にして頂くことくらいしかありませんね」

「そうですね。そういえば、リーヴァスへは馬車で行くと思うんですけど、どれくらい時間が掛かるんですか?」


 元の世界の旅行とは違い、かなりの日数が掛かると踏んでいるがどうなのだろうか。


「昨日、ジャックさんから聞いていませんでしたか?天使の力を借りてリーヴァスに向かうと」


 ミオンさんは目をぱちくりすると、首を傾げた。


「天使?」


 予想を超えた答えについ聞き返してしまう。


「はい、天使です。背中に翼を生やし、変化することで鳳の姿となる種族です」

「鳳ってことは、飛ぶんですか?」

「はい。やはり馬車での長時間の移動は大変だろうとルーヴァンス公が手を回したと聞いていましたけど……」

「何も聞いてませんけど」


 そんな話は全く聞いていない。


「もしかして、ルーヴァンス公の屋敷で当面の間お世話になるということも?」

「初耳ですね」

「それは……楽しみが増えましたね!」


 良いフォローの仕方が思いつかなかったのか、彼女は満面の笑みで誤魔化した。


「……とにかく、俺に対して情報の共有が殆ど行われていないことがわかりました」

「すみません」


 ミオンさんは獣耳をしょんぼりと垂れ下げた。







 情報共有不足という事態が発覚した日の翌日、朝食をとった後に俺は旅行鞄を持ってミオンさんと共に演習場へと向かった。

 演習場にはレックスさん達リーヴァスの皆さんが既に居た。


「おはようございます、レックスさん」

「おはようございます、ユウジ殿。今日の移動、護衛としてしっかり務めは果たします」

「よろしくお願いします」


 レックスさんと簡単な挨拶を済ませ、俺は彼から他の護衛の皆さんを紹介して貰い、挨拶をしていった。

 一通りの挨拶をし終わった頃、演習場の入り口から予想していた三人の女性が姿を現した。


「皆さん、おはようございます。お待たせしてしまってすみません」


 真ん中に立つサティナが軽く頭を下げ、ユリナさんとラナも続いた。


「俺だってついさっき来たばかりだから大丈夫だ、サティナ」

「ありがとうございます、ユウジさん。レックスさん、お久しぶりですね」

「お久しぶりです、サティナ様」


 サティナにレックスさん達を紹介しようかと思っていたが、どうやら既知の間柄だったらしい。


「フォルナは元気ですか?」

「はい。滞在中にお時間があれば、是非会って頂きたい。喜ぶでしょう」

「ふふふ、元々そのつもりです。リーヴァスに着いたらフォルナに空いている日を聞いて頂けますか?」

「勿論ですとも」


 そんな会話をする二人を横目にふと空を見上げると、背中から翼を生やした一人の女性と五体の鳳が降下してきているのが見えた。


「あれが天使と、変化した時の姿か」


 一人と五体は音もなく降り立つと、女性が一歩出て近づいて来た。

 

「皆さんお揃いのようですね」


 肩口に切り揃えた金の髪に触れながら、目線の高さが俺と殆ど変わらない女性は口を開いた。


「貴方がユウジさんですね。私はジェリカと申します。以後お見知りおきを」


 切れ長の金の瞳と柔和な笑みでジェリカさんは手を差し出してきた。


「よろしくお願いします。ジェリカさん」


 彼女の女性らしく華奢な手を握ると、彼女は空いていた手も重ねてニギニギと俺の手を触りだした。


「あの、何を?」

「嗚呼、このなんとも言えない指の細さと肌が堪らない……まさしく長年探し求めていたものだ。この指で一度も触れられたことのない我が身を触れられたならば、一体どのような感覚がこの身にもたらされるのだろうかっ!」


 俺の問いに彼女は自らの独白で答えた。どうやらこの人は変態らしい。


「離してください!」


 どうにか振り払おうと俺は手を引くが、彼女はその力を利用して俺に近づき脚を絡めてきた。


「嗚呼……だめだ。そんなこと許さない、今すぐにでも一日……いや、一週間は部屋に籠もってカラダを触れ合おうじゃないか!」


 眼前で整った彼女の顔が語る。そして密着したことで感じる彼女の肢体の柔らかさ、彼女から漂う匂いが俺を襲う。


「ジェリカさん!ユウジさんから離れてください!ユウジさんもぼーっとしてないでしっかり振り払ってください!」


 サティナが凄い剣幕で俺とジェリカさんを引き離さそうと間に割り込んでくる。

 

「すみません」


 ジェリカさんからは身の危険は感じても、死の危険は感じなかったために強く振り払えなかったのだが、言えばサティナから身の危険を感じることになりそうだったために俺は素直に謝罪した。

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