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このように

 翌日、俺の部屋でルーヴァンス公の命によってフリーシアに来ていた男性と顔を合わせていた。


「お初にお目にかかります。リーヴァスに向かうまで護衛を担うレックスと申します」

「アマノユウジです。よろしくお願いします」


 頭を下げた男性に対して俺も頭を下げ、自己紹介をする。

 レックスさんは短い金髪と同色の顎ひげを生やした四十代くらいの人物で、服を内側から押し上げる胸筋や腕は太く、護衛という立場を担うのも納得がいく鍛えられた体だと見て取れた。

 しかし、最初は人魚の男性が来ると聞いていたために尾びれ等が付いているのかと思ったが、パッと見ではそんな様子は見られない。精々挙げるとするならば、エルフに比べると短いものの耳が尖っているということくらいだろうか。しかし混血が進んでいるという話を聞いていた関係もあり、あまり物珍しいものではない。


「ユウジ殿、と呼ばさせて頂いても構いませんか?」

「はい。えっと、大丈夫です。あの、歳はこちらが下ですから口調は丁寧で無くても……」


 周りの目の無い空間で、ガタイの良い壮年の男性から丁寧に接せられることに対して出た言葉だが、


「護衛対象として、ましてやルーヴァンス公の客人に対してそのようなことは出来ません」


 ピシャリとある程度予想出来た返答がきた。


「わかりました……」


 下手にごねても無駄だろうと思い引き下がる。


「ユウジ殿は私のような人魚を見るのは初めてでしょうか?」


 明日からの旅路のことを話すのではなく、レックスさんはコミュニケーションの一貫からかそんなことを話した。


「はい、初めてです」

「そうですか。では、少しばかり説明させていただきます。まず、我々は人魚と呼ばれていることからわかるように魚のような特徴を持ちます。水中での呼吸や水中での高速移動、この二つが特徴として挙げられます。地上では人族と見た目は殆ど同じですが、水中ではこのように―」

「おおー」


 思わず感嘆の声が出てしまった。

 なぜならレックスさんの脚が突如としてひれに変化し、さらに脚の変化に合わせズボンも形状を変え、腰巻きのようになったからだ。

 髪と同色の金色の鱗が覆い、ひれは魚のように上下に付いているのではなく、イルカのように左右に一対のひれが付いていた。金鱗は外の光を反射して輝いている。


「我々人魚は水中でこのように脚を変化させ、高速で移動することが可能となります。また、脚をただ単に強化させるために変化させることもあります」


 金鱗のひれが消え、腰巻きがズボンへと姿を戻ると二本の脚が現れた。


「このように」


 レックスさんはズボンの裾を上げた。そこにはレックスさんの脚を金鱗が覆うようにしているのが見えた。

 半魚人がいたらこんな脚なんだろうかという考えが過ぎったが、レックスさん達人魚に失礼な考えのような気がしたため直ぐに振り払う。


「自在なんですね」

「残念ながら、獣人の獣化のように全身を鱗で覆うことで身体能力の強化を図るという方法が我々人魚には出来ません。しかし、脚部の強化に関しては獣人よりも優れていると言われています」

「なるほど」

「しかし、襲撃の際にはその力を活かすことが出来ずに終わったことが残念でなりません」


 自嘲気味にレックスさんは笑い、襲撃の際に眠っていた俺はどう声を掛けて良いかわからない。


「んん、明日のことを話しましょうか。短剣はユウジ殿が持っていると伺っています。見せて頂いても?」


 年の功か、切り替えるようにレックスさんは俺に尋ねた。


「はい」


 俺は頷くと、絹の布で包んでベッドサイドテーブルに置いていた短剣を取るために席を立った。

 因みに、昨晩ジャックさんから受け取った時に短剣だと教えられた。陛下がナイフだと言っていたためにそうだと思っていたが、どうやら短剣として作られた一品だったらしい。用途としては不慮の事態に自害するためとその時に聞かされた。


「しっかし、ナイフと短剣の違いがいまいちわからないんだよな……」


 そんなことを呟きながら包みごと短剣を手に取り、席へと戻る。


「こちらです」


 レックスさんとの間にある足の短いテーブルに短剣を置き、包みを剥がす。

 現れたのは鞘と柄の部分に蝶の意匠が施された一本の短剣。漆だろうか、光沢のある黒い染料によって塗られ、蝶の意匠は金で施されているように見えた。


「これが……聞いていた特徴通り。確認致しました。ユウジ殿、ありがとうございます」

「はい。そういえば、この短剣が重要な物だということはわかりますけど、これは一体どういった点が重要なんですか?」

「これはルーヴァンス公がユーフォレナに嫁ぐご息女に贈った短剣だそうです。なんでも、来たるべき時に必要になると伝え、贈ったそうです。命を受けた際には、来たるべき時が直ぐ傍まで来たと仰っていました」

「ユーフォレナに嫁ぐ、ということは滅びる前に贈ったということですか?」


 滅ぶ前だとしても、ルーヴァンス公は三百歳以上ということになる。フィクションで長寿だと言われているエルフならイメージは湧くが、人魚だと聞いているルーヴァンス公はそれほど永く生きているというのか。


「いえ、ユーフォレナの建国時の話です」

「え?」

「ルーヴァンス公の年齢は聞いていなかったようですね」


 レックスさんは「通りで不思議に思う筈だ」と笑った。

 高齢だとは聞いていたが、まさか百歳を軽く超えていると思っていなかった俺は固まってしまう。


「邪神が倒された後、当時いた異世界人によって建国されたのがユーフォレナで、そこに大恋愛の末に妃となったのが長女のリヴィア様になります。そしてルーヴァンス公の年齢ですが、千年程になりますね」

「鶴じゃねえか……」


 驚きの余りこっちでは伝わるかわからないことを口走ってしまう。


「つる?」

「すみません、こっちの話です」


 それから暫くの間、明日のことについて色々と話を聞いた。

 その際にフリーシアから数人程が旅路を共にするらしいと聞き、俺はなんとなく誰が一緒に来るのか分かったため近くで控えていたミオンさんを思わず見た。

 すると彼女は静かに人差し指を唇に当てて口の端を上げた。

 それを見て俺は確信した。

 絶対に女性陣が来る、と。

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