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ブタ野郎

 声の主を見れば、亜麻色の髪の綺麗な女性だった。

その女性を先頭に、馬に乗った女性達が俺の方に向かってくる。

 人と遭遇するなど考えもせず、只々逃げて豚頭を撒くことばかり考えていた俺は一瞬思考が止まってしまったが、俺は直ぐに行動を起こした。


「あんた達は逃げろ!」


 そう叫んで俺はさっきまで逃げていた林に急いで戻った。

 俺を追いかけていた豚頭共の方へ自分から向かうことになるが、そんなことは関係なかった。只々俺のせいで彼女達が巻き込まれないようにすることだけしか頭になかった。


「こいつらを引きつけねえと!」


 突如自分達の方へと俺が方向転換したからか、豚頭は驚いた様子を見せたものの、直ぐに口を三日月形に変えた。

 5体の豚頭達は直ぐに俺を迎え撃つ為に俺の進路上に集まり、横一列に並んだ。

 俺は一か八か、豚頭の横をすり抜けることにした。とにかく奴らを煽り、引きつけられるような方法で。

 走る速度をさらに上げ、豚頭達から2メートルくらいの位置で急に速度を落とし、奴らのタイミングをずらす。

 無事に奴らの虚を付き、その隙を逃さず一気に奴らの横をすり抜けた。


「ははっ!うまくいった!」


 思いつきでやったが、予想以上にうまくいったと俺は笑う。

 後ろを振り返れば奴らは怒りの形相で俺を追いかけて来ていた。下に見ていた獲物にいいようにあしらわれたからだろう。

 豚頭を出し抜けたことで気の緩んだ俺はその時気づいていなかった。

 横から俺めがけ突っ込んでくる個体に。


「は?」


 友人達と遊びでしていた体のぶつけ合いなんて比じゃない衝撃が俺を横合いから襲った。

 吹き飛ばされ、突然の事で受け身を取ることもできず無様に地面を転がる。倒木に顔面からぶつかったことで転がるのは止まった。


「痛っつ」


 倒木にぶつけた顔も痛かったが、ぶつけられた体の左側が特に痛かった。左腕と脇腹に激痛が走り、心臓の音が大きく聞こえる。さらには息が深く吸えず、浅い呼吸しかできない。車に撥ねられた俺が思うのもなんだが、良く意識があると思った。

 俺はどうにか態勢を変え、ふっ飛ばした奴を見た。かなり離れていたが、さっきまで追いかけていた奴らよりも一回り大きい個体が見えた。

 そいつはゆっくりと、動けない俺を見て笑いながら近づいて来る。

 喰うために殺すのか、はたまた嗜虐心を満たすために殺すのかはわからない。

 今になって挨拶なんてふざけたことをせずに逃げれば良かったと後悔したが、現状のようになるのは時間の問題だっただろうと思った。なぜなら、奴らは走る速度はそれほど速くはないものの、全く速度が落ちることなく俺を追い、さらには吹き飛ばされる前に後ろを振り向いた時には1体も息が上がっている様子がなかったからだ。逃げ切る前に俺の体力が尽きるか、逃げ切ったとしても久しぶりの全力の運動で動けないところを見つけられていただろう。

 今更だが、右も左もわからないこの地で少しでも早く動いていれば少しはマシな未来があったかもしれない。


 奴との距離が近づく。


 呼吸は少しマシになったものの、運動不足が祟ったのか脚に力が入らない。どうにか無事な右腕を使って体を起こし、奴を見た。

 馬に乗っていた女性達は奴らに気づかれずに逃げれたのだろう。一回り大きい個体を含めた6体が俺に向かって来ている。

 豚頭共の強さが一体どれくらいかわからず。また、元の世界の女性に比べれば戦う力を持っているだろうが、彼女達の実力がわからなかったために助けを求めずに逃げることを選んだが、これで良かったと思った。

 元の世界で最低限のことはしていたものの、只々毎日を自堕落に暮らしていた人間にしてはマシな最期ではないだろうか。小さい子を助けた後に異世界へ来て、自分で蒔いた種ではあるものの、女性達に危険が及ばないように立ち回る。かっこ悪いところばかりだが、なんかヒーローみたいだなと思った。それに、やたら頭が回るな、とも。


 奴らとの距離はもう、3メートルほど。


 覚悟を決める。


「とっとと来いよ。ブタ野郎」


 一回り大きい個体、もといブタ野郎は俺が挑発したことを感じ取ったのか、俺に向かいながら大きく手に持った棍棒を振り上げた。


 そして、


「アイスジャベリン!」


 数秒後、ブタ野郎を氷の槍が襲った。

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