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ふぃおんふぁん

 実際はどうかは確かめていないが、体感的に随分と長い間俺は眠っていたような気がする。

 なぜなら意識はあるにも関わらず、瞼を開けるのがかなり重いからだ。ただ俺の体が二度寝を望んでいるだけの可能性も否めないが……。


「あぁ、ケホッゲホッ……!」


 声を出せば喉が乾燥していて咳き込んだ。水を飲む為にも目を開けた方がいいかもしれない。

 俺がなんとか目を開けると、見知った天井があった。王城用意された俺の部屋の天井だ。

 俺が体を起こそうと力をいれようとすると、ニュッと視界に獣耳の女性が現れた。


「うおっ!っ!ゲホッゲホッ!」


 予想だにしていなかった突然の事態に、俺は驚いて思わず声を出してしまい、咳き込んでしまう。

 なんとか顔を背け、咳が掛からないようにしたが突然出てくるのはやめて欲しい。

 彼女は柔らかい手で優しく俺の背中をさすってくれた。彼女の髪から漂う石鹸の匂いが俺の鼻腔をくすぐり、直ぐ傍に美人が居ることをより一層実感してしまう。

 甲斐甲斐しく世話されることに照れ、彼女にさすって貰っている間は彼女の顔が見れず下を向いていた俺はようやく顔を上げると、想像よりも近くにあった彼女の顔に内心驚きつつ、もう大丈夫だと頷いた。

 彼女はわかったという風に笑みを浮かべると、ベッドから降り、ベッドサイドテーブルに置かれていた水差しからコップに水を注ぎ始めた。

 薄っすらと未だに漂う彼女の匂いと、わざわざ背中をさする為に彼女がベッドに乗っていたということを頭から振り払っていると、彼女が水を満たしたコップを差し出してきた。

 お礼を口に出すとまた咳き込みそうだったため、ありがとうと口パクで伝えた。


「ゆっくり飲んでください」


 優しげな顔をした彼女の言葉に頷くと、俺はゆっくりとコップの水を減らしていった。

 

「もうあと数回は飲んだ方が良いと思います」

 

 彼女の指示に頷くと、俺はさらに水を二回程飲んだ。


「ふう」


 一息つき、俺は改めてここに居る女性に目をやった。

 黒髪に金の瞳、そして頭の上に獣耳を生やした女性、ミオンさんへと。


「どうかしましたか?」


 彼女が小首を傾げると、それを追うようにハラリと肩口に切られた髪が揺れた。


「どうしてここに居るのか、と思ったんです」

 

 王城で務める侍女やラナならばなんとなく居ても驚かなかっただろうが、サティナの侍女であり余り接点のなかった彼女が居るのが不思議だったのだ。

 彼女は得心がいったように「ああ」と笑みを浮かべ、「失礼します」と言ってベッドサイドに腰掛けた。


「ラナが居ないのは、彼女が襲撃の際に勝手に、しかも単身で王城に行ったせいですね。反省させるためとサティナ様が私も行きたかったという嫉みのようなものとで、侯爵家で今は書類仕事をさせられています。そして王城の他の侍女ではなく、私がここに居るのはユウジさんの知己だからという点で陛下から命を受けたからです。恐らく、色々と酷い状態だったユウジさんや皆さんを見つけたのが私であることが大きいと思いますけどね」


 話の内容の中でラナが書類仕事をさせられている理由の一つが少し変だった気がするが、ミオンさんがここに居るのは色々と理由があったかららしい。


「ありがとうございます」

「いえ、仕事ですから。それに、ユウジさんが目を覚まさなかったこの一週間はユウジさんが起きるのを待つだけで、殆ど何もしていなかったので」

「はい?」


 さらっと一週間も眠っていたという事実に驚き、つい声が出てしまった。

 彼女はクスクスと笑い、靴を脱ぎベッドに乗り上がって俺に近づいてきた。


「どうかしました?」

 

 彼女の行動に戸惑い、俺は固まってしまう。

 彼女は俺の様子を見ると、一瞬だけ肉食獣が獲物を見つけた時に浮かべそうな笑みをした。


「じいっ……じっとしてくださいね?」


 少し言葉を詰まらせながら、彼女は俺の元へ来るとそっと俺の首に触れた。

 温かく柔らかい彼女の手の感触が不思議とどこか落ち着いた。


「頭と胴を切り離されていたんです」


 なぞるように首に触れ、彼女は教えてくれた。

 

「そうだったんですね」


 頭と胴が離れていた事実よりも、彼女に触れられることが安心し、懐かしいという感覚を俺にもたらすことの方が気になった。


「死なないとはわかっていましたけど、見た時は驚きました。血溜まりの上に横たわる体と、頭……しかもそれが自分の見知った人物だったんですから」

「ミオンさん?」


 俺の呼びかけなど聞こえていないの、彼女は俺の首から頬に手を当てた。

 整った彼女の顔が目の前を塞ぎ、彼女は俺の存在を確かめるように両手で俺の頬を包んだ。


「ミオンさん?」

「もう少しだけこうさせてください」

「ふぁふぁりふぁした……ふぃおんふぁん?」


 返事をしようとすれば、彼女は俺の頬を引っ張ってきた。

 何をするのかと目で訴えかけると、彼女はいたずらが成功したと満面の笑みを浮かべた。


「一週間も眠り、みなさんに心配を掛けた罰です」


 彼女は楽しそうに笑い、俺の頬から手を離してベッドから降りた。


「食事を取ってきます。それと、起きたばかりのユウジさんに負担を掛けないような人にだけ伝えてきます。あと、気持ちは元気だからといって、無理に歩いたりせずに大人しくしていてくださいね?」


 最後の方は子どもに言い聞かせるように彼女は言うと、部屋を出て顔だけ出して「約束ですよ?」と言い残すと去っていった。


「この世界の女の人はからかうのが好きなのか?」


 疑問を口に出しながら、俺はベッドの上で無理のない範囲の中で体を伸ばしたり曲げたりして彼女が戻ってくるの待った。

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