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解放する為だけに

 フリーシア王国が王都リーファ上空で二人の男が王都での成り行きを見ていた。


「本当の敵というからまた変な輩が現れたのかと思ったが、奴のことじゃないか」


 頭から枝分かれした角を生やし、長い長髪をなびかせ着物を身に纏い、竜人の姿となった黒竜が王都での騒動が一段落したのを見ると口を開いた。

 傍らで浮かぶ燕尾服の男から聞いていた本当の敵という人物が、黒竜自身も良く知る人物だった為に出た言葉だった。


「ええ、奴ですよ。それにしても、一時的にでも記憶を取り戻させた人物が気になりますね」


 燕尾服の男は何食わぬ顔で肯定し、話を変えた。


「話を逸らすな。本当の敵などと言うからには、ちゃんと理由があるのだろう?それを話せ」


 王都から目線を離さず、竜人は呆れながら続きを話すよう促した。


「……後にするか、せめて場所を変えませんか?」


 内容がかなり衝撃的であるため燕尾服はそう言ってみたものの、竜人は今すぐに話せと王都から目線を離して訴えてきた。

 燕尾服の男は心の中でため息をつくと、自らと竜人を包むように結界を張った。


「どうした?」

「理由を話せば、色々漏れそうな気がしたから張りました。貴方が本気になったら保たないので、抑えて下さいね?」

「あ、ああ」


 燕尾服の男の言葉に疑問を覚えながらも、竜人は頷いた。

 竜人の様子に心配を覚えた燕尾服の男は更に結界を追加し、目を閉じた。


「結果がどうなるかはこれからの我々次第でしょうが、今まで我々に起こったことの殆ど全て、奴の筋書き通りです」

「なに?」

「ユウジがあの魔法を手にしたのも、そして結果的にあの力を手に入れたのも、そして……ララの死も含め、殆ど全てが奴の仕業です」


 燕尾服の男は伝えると目を開いた。傍らで浮かぶ竜人は暫く聞いた内容について戸惑っていたが、目を瞑って深く息を吸い込んだ。

 やがて落ち着いたのか竜人は目を開けると、


「おい」


 怒気を孕んだ声音で竜人は燕尾服の男を呼びかけた。


「なんです?」

「奴はなぜ敵に力を与えるようなこと……いや、そんなことをした理由はなんだ?」


 竜人の純粋な疑問から出た言葉だった。

 訊いてくると予想していた質問に、燕尾服の男は用意していた言葉を答える。


「普通に世界を滅ぼすのではつまらない、ならば自分の敵を作ってから滅ぼそう。そんな理由ですよ」


 竜人の瞳孔が縦長に変わり、魔力が漏れ出し始めた。


「負けた場合はどうする気だ?」

「その為のユウジの力ですよ」


 竜人の質問に答えながら、燕尾服の男は指を振るい結界を追加した。


「どういうことだ?」

「ユウジのあの力は元々からあった世界を滅ぼす為の力。一定の知性を持った生物が試練を越えられなければ、世界が滅ぶという機能です」

「そんなものだったのか……」


 聞かされる事実に怒りよりも戸惑いが大きくなったのか、竜人の魔力が少し弱まった。


「越えるっていうのは?」

「世界によって天災や未知の生物による危機など、様々なようです」


 淡々と燕尾服の男は述べた。


「本来であればもっと先に起きたかもしれない危機が、あの時に奴によって早められた。それに気づいたユウジは自らに取り込み、今に至るまで先送りにしたんですよ。全部奴の筋書き通りでしたけどね……」


 先程とは違い、少し熱の籠った燕尾服の男の言葉を聞いて竜人は血が滴る程に強く拳を握った。


「救えるのか?」


 誰をとは言わずとも、竜人が尋ねた人物のことは燕尾服の男は理解出来た。しかし、伝えようとしても言葉が出なかった。


「そうか……」


 言葉の出ない燕尾服の男の様子で竜人には伝わったらしい。


「奴だけに留まらず、ユウジを殺さなければならないのか……」


 燕尾服の男は首肯した。


「本人は知っているのか?」

「ええ」

「今、殺しても無駄なんだろうな……」

「覚醒してから、正しい方法でないと永遠に続きます」


 最悪、ユウジを先延ばしの為に殺し続ければ世界は保たれるのではないかと考えた竜人だったが、遠い未来で事情を知らない者達によって邪魔される未来が見えた為、考えるのを止めた。


「覚醒した後は、一定以上の知性を持つ種族全てと勇者が居て初めて殺す準備が整います」

「勇者?」


 聞き馴染みのない言葉に竜人は聞き返した。


「試練を乗り越える為に、知識や力といったものが与えられたり現れたりするんです。この世界の場合は勇者という人物な訳ですね」

「なるほど」


 天災などではなく、世界を滅ぼすという機能を持つ敵が存在したことで、ある種の力として勇者が現れたのだろうと竜人は判断した。


「ユウジが今居ることでわかると思いますが、貴方が永い眠りに入って幾分か経った頃に現れた勇者は、全ての種族で戦うことが出来ずに倒しきれませんでした」

「それはなぜだ?」

「当時の英傑達の大半が死に、十分な戦力となる人物が居ない種族が居たんです」


(ただ近くに居るだけでなく、共に立ち向かわなくてはならないということか……それに、大半の英傑が死んだということは、それだけ戦闘が激化したのか)

 竜人は自分が眠っていなければ少しはマシな状況になったのではと考えたが、直ぐに振り払った。もし眠る程の怪我を負って居なければ、少なくとも近くで語っている友を含め、多くの仲間達は確実に死んでいたからだ。


「勇者は今どこに?」


 自らの意識を切り替える為にも、竜人は疑問に感じたことについて尋ねた。


「欠片の一つと共に不明です。それに彼はただの人間です。余程のことがなければとっくに亡くなっていますよ」

「不明、か」

「本来であれば所在を追うつもりでしたが、人手不足で動ける者が殆ど居らず、私自身も色々とあって動けませんでした」

「仕方ない、過ぎたことだ」

「それと、奴はどうするのかは不明ですが、ユウジを殺すつもりのようです」

「聞けば聞くほど、奴の思考が益々わからんな」


 単独でもその気になれば世界を滅ぼせるであろう力を持つ人物が、回りくどい方法をとることが竜人には理解し難かった。


「ただの戦闘狂だとユウジは言っていましたよ」


 燕尾服の男は聞いた時のことを思い出したのか笑った。


「それにしたって、どうやって殺すつもりなんだ?」


 先程聞いたように、勇者が居なければ殺すことは出来ない筈なのだ。一体どのような手段を用いて殺すつもりなのか竜人には見当がつかなかった。


「もし勇者の力が奪えるものであるならば奴は、彼もしくはこれから現れる新たな勇者から奪うつもりなんでしょう」

「力を奪うなんて聞いたことがないな。あったとしても相応の危険か対価が必要な筈だ。となると、奴が弱くなる可能性も出て来るな……」

「弱くなったとて、強いことには変わらないと思いますけどね」


 燕尾服の男は呆れたように言った。


「まあな。はあ……ユウジを殺さなければならないのか……」

「何人かは勇者の力で救えると思っているみたいですけど、無駄ですね」

「本当のことは伝えないのか?」

「邪魔されるのは勘弁してほしいですから」


 何の邪魔をされるかは言わず、燕尾服の男は苦笑いした。


「あー」


 ある程度察しのいった竜人の頭に、邪魔立てしそうな人物として何人かの姿が浮かんだ。


「想像通りの人達ですよ」

「良く他の面子は大人しくしているな?」


 本来ならば他にも妨害などを行いそうな人物達も思いついた竜人だったが、燕尾服の男の態度を鑑みて除外したことから出た言葉だった。


「ユウジがこんなことを言っていましたから」


 燕尾服の男は懐かしむように目を閉じた。


「なんだ?」

「世界の為に為すべきことを為せ、だそうですよ」


 燕尾服の男の口から竜人に伝えられた言葉は捻りなどなく、そのままの意味だ。


「ガタガタ言わずに感情殺して、やることやれってか……?無茶言うぜ……」


 額に手を当て、竜人はぼやいた。


「あー……くそっ!」


 竜人は深くため息をつきながら、頭をガシガシと掻いた。


「自分の先のことなんて、これっぽっちも考えちゃいねえじゃねえか……」

「それが彼ですよ」


 言外にわかっていることだと伝えながら、燕尾服の男はもう大丈夫だろうと結界を解除した。


「やるしかねえか……俺がしなければならないことはなんだ?」


 頭を掻いたことで少し乱れた髪を風で靡かせながら竜人は問うた。


「普通に奴と戦っても、以前の二の舞いです。まずは残りの欠片を集めます。その為にもレフィト達と合流しましょう。貴方の故郷で待っている筈ですよ」

「ついでだ、色々と扱いてやるとするか」


 久しぶりに故郷に帰るという高揚感や、永い期間を留守にしていた申し訳なさを誤魔化すように竜人は軽口を叩いた。

 そんな友人の姿を横目に、燕尾服の男は転移魔術の準備をした。

 

「全ては滅びの未来から世界を解放する為だけに」

「ああ、そうだな」

 

 そう言葉を残すと、一瞬のうちに二人の姿は王都上空から消えた。

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