聞かせろ
「そうか……」
時折部屋を訪れた者達に指示を出したり、レビンを運ばさせたりしながら、二人だけになった部屋でグラディスの話を聞き終えたジョセフはそう言葉を漏らした。
「レビンが来てくれなけりゃ、危なかったな……」
自らが空けた部屋の穴をジョセフは見た。
王都の至るところで煤けた跡や倒壊しているのがジョセフには痛々しく見えた。
「何をしてるんだ俺は……」
早々にジョセフがダウンし、グレゴリオやアイザックが居たとはいえ、貴族や冒険者達は各自やるべき義務果たしてくれたらしい。ジョセフはそのことに喜びを感じながらも、自らの責務を果たせなかった自分が情けなかった。
「敵が甘いというか、手緩いお陰でどうにかなったもんだな……」
「陛下……」
「ここに来た目的も恐らくあったんだろうが……敵が王都を荒らしたのは遊び半分だろうな」
根拠はないが、ジョセフはそう考えた。自分を含め高い実力で知られる皇女のオリヴィアまで気絶させられるような実力を持つ者が現れたのだ。その気になれば王都など壊滅させることなど容易であった筈なのに、愉快犯にしても質の悪いことを王都にしておきながら敵はしなかった。遊ばれていたと考えても可笑しくはないだろう。
「はい、敵に舐められていたとしか思えませんでした……」
「ああ」
ジョセフは敵に対して怒りを覚えながらも、さらに怒りを覚えた者が居た。
それは、
「「そんな奴らに遅れをとった自分達が腹立たしい」」
示し合わせたように口を揃えた二人は口の端を上げた。
王族と侯爵家という立場でありながら殆ど何も出来なかった二人は意思を固めた。
必ず借りを返すという意思を。
「先ずは国庫を開け城下の復興、そして各国に今回のことを通達だ」
立ち上がり、ジョセフは言った。
「今回の敵のこともまた知って貰う必要がある。そう日が経たないうちにまた通達することが出て来たのは頭が痛いがな。それに……帰って来たみたいだな」
ドタドタと部屋の外から走る音が二人に耳に入ってきた。
「兄上!何があった!」
血相を変えたグラノフが部屋に入るなり尋ねてきた。
「襲撃だ。そっちは思ったより早かったな。丁度良い、そっちの話も聞かせろ」
「何があったんじゃ?」
オリヴィアの部屋のソファに座り、グレゴリオは対面に座るオリヴィアに尋ねた。
「不意をつかれ、気絶させられたことしか覚えていません」
オリヴィアは頭に触れながら答えた。
「ただ、私達に不意をついたとはいえ気絶させられるような人物で、今回のことをしそうなのは奴だけかと」
オリヴィアが傍らで控えて居るリアを見ると、頷きが返って来た。
「ふむ……して、今回のことは前々から分かっていたことなのか?」
「いいえ。これから先のことでわかるのは、欠片のことくらいです。あとは聖女の託宣くらいですね」
「聖女頼みか……予知がどうのと言っておったが、それはどうなったんじゃ?」
グレゴリオはリアへと目を向けた。
「彼女から連絡はありません」
「備えが出来ればいいんじゃが、無理そうじゃのう……そういえば詳しくは聞いておらんかったが、敵はどれほど強いんじゃ?」
好奇心から尋ねてきたグレゴリオの問いにオリヴィアとリアは考え始める。
「そうですね……」
「レビンよりは確実に強いわよね?」
「はい。うーん、どう説明すれば伝わるでしょうか……?」
「難しいわよね。そもそも奴と一対一でまともにやりあえたのって両手で数える程しか居ないし」
「それでも途中までで、基本的に素の体力と魔力差で最終的に倒せませんでしたからね……」
「二人は当時、まともに戦えたのか?」
気なったグレゴリオが尋ねると、オリヴィアとリアは顔を見合わせた。
「二人で協力して、死にものぐるいでようやく片腕を潰せたくらいかしら?」
「はい。といっても直ぐに腕は治っていましたけどね……」
「とにかく強いというのはわかった。しかし、良く退けられたのう」
感慨深げにグレゴリオは言った。
「運が良かっただけです。傍から見れば、倒すのを先送りにしたみたいなものです」
オリヴィアは膝に置いた両手を握りしめた。
「だが、そのおかげで今がある。これからどうなるかはわからんがな」
「そう言って貰えるだけでも嬉しいです」
「わしは城下に行って、色々と手伝ってくるとする。二人は今日ぐらいはゆっくりしておるんじゃな」
そう言うとグレゴリオは部屋を出て行った。
「お祖父様こそ、ゆっくりなさればいいのに……」
「そうね……オリヴィア、これからどうなると思う?」
「今回は躾が良かったのか、死者は少ないみたいですけど、次はそうとも限らないと思います。強敵をあぶり出す為に本気で国一つを潰しに掛かるくらいはやりそうですね」
オリヴィアはソファから窓辺へと移動し、城下を見つめた。
「あの戦闘狂ならそれくらいやるでしょうね」
オリヴィアの隣に立ったリアは窓を開け、部屋へと吹き込む風を浴びた。
「これは……」
「どうかしたの?」
「誰のかは忘れましたけど、僅かに懐かしい匂いがしたんです」
オリヴィアは誰の匂いかを記憶から探し始めた。
「カーミラの匂いじゃないの?」
「そうだったら流石に覚えています」
「じゃあ、紅茶でも飲みながら考えましょ?」
そう言ってリアは紅茶を淹れる為に窓辺を離れた。




