聞かせてくれ
レビンの放った魔法のあまりの眩しさと、獣人故になまじ目が良いせいで暫く視界が戻らなかったグレゴリオだったが、視界が戻った際に上空に人型が居ないことを確認すると安堵した。
「どうにかなったようじゃな」
「そのようです。突如動きを止めたことが気になりますが……」
顎に手をやるグラディスを横目に、グレゴリオは王城へと足を進めた。
「どちらへ?」
「ジョセフのところじゃ。考えごとの前に、レビンの部屋の用意も含め、色々せねばならんじゃろう」
ちらりと上空に居るレビンを見れば、空の一点をじっと見つめているのがグレゴリオの視界に写った。
(わしには何も感じぬが、何かそこにおるのか?)
疑問を抱いたグレゴリオだったが、レビンはふいと王都へ視線へ移しグレゴリオの元へと降りてきた。
「久しぶりじゃのう、レビン」
空を見ていたのは大したことではなかったのだろうと判断しながら、グレゴリオは金髪金眼の青年に声を掛けた。
「お久しぶりです。グレゴリオ様。この度は――」
方膝をつき挨拶を返したレビンはそこから到着に遅れたことを始め、数々の謝罪を言い始めた。
「よいよい、倒してくれたんじゃ。他は気にするな」
聞くのが面倒くさいグレゴリオは早々にレビンの謝罪を止めさせた。
「今から城へ向かうがどうする?お主の部屋くらい用意出来るが」
家主でもないグレゴリオは勝手知ったるようにそう告げた。
「部屋など畏れ多いです!私は馬小屋で眠らせ……貰えれば!」
瞼が一度閉じそうになりながらレビンはそう伝えた。
「流石にそれは無理じゃろ……もう限界そうじゃな」
「いえいえ…まだ、だいじょ、ぶ……」
最後まで言うことなく、レビンはへなへなと地面に横たわり眠り始めた。
「魔法を使う弊害とはいえ、もう少しどうにかならないのか……」
グラディスはレビンの様子に呆れつつ、レビン自らの背に乗せた。
「もう慣れたとはいえ、魔法は難儀じゃのう」
王城へと向かいながら、グレゴリオはグラディスの背に乗るレビンを見ていった。
「魔法は魔術よりも自由度が高い反面、使用者に何かしらの弊害をもたらしますからね」
「うむ」
そもそも魔術と魔法の違いだが、もちろん魔力を糧に発動するという点は同じであるものの、前者は魔術式を構築してその式通りに事象を起こし、後者は使用者の思い通りに事象を起こすという違いがある。
一見すると発動に必要なことが違うだけかと思うだろうが、戦いとなると魔法の方が大きく軍配が上がる。なぜなら、魔法の創造力通りに事象を起こすというのは、魔術式として存在しない事象を起こすことができ、さらには一度起こした事象を後から別の事象に変えることが出来るからだ。
例えば、魔術式として存在しない意思を持つ生命体を生み出したり、直線上に居た敵の為に引き起こした事象を途中から上空に現れた敵をも巻き込む事象に変えたりなど、自由度という面で大きな優位性を魔法は持つ。
しかし、魔法は強力故に周囲への影響や使用者に何かしらの影響を齎すという点がある。
レビンの例を挙げれば、彼は雷雲を作らなければ強力な攻撃を行えないため周囲に悪天候という悪影響を与え、彼自身もまた一定時間以上魔法を発動すると、使用後は最低一週間無防備な眠りについてしまうという悪影響がある。
そのため、下手に受け入れずに反発して使用者が存分に戦えなかったりすれば多くの命が奪われる世界であることや、使用者の命を守る為にも魔法はそういうものだと割り切った考えが深くこの世界の人々には根づいている。無論、使用者が善人であるという前提での考えではあるが。
「これは……」
王城に着いたグレゴリオとグラディスが慌ただしく人の行き交う城内を歩いていると、僅かに血痕が床や壁などに見られた。
「襲撃されたか?」
今までずっと半裸だったグレゴリオは通りがかった年配の侍女から羽織るものを受け取りながら尋ねた。
「はい、そのせいで何人かの騎士様がお亡くなりに……私達侍女は気絶させられた者もいましたが、殆どの者に被害はありませんでした」
「そうか……仕事の邪魔をしたの」
グレゴリオの言葉を受けると侍女は一礼し、仕事へと戻った。
「襲撃した割には理性的というかなんというか……一体なんの為に来たんじゃ?」
グレゴリオはジョセフが居るであろう場所へ向かいながら首を傾げた。
「ジョセフ、済まんがレビンの部屋を……なんじゃその有様は」
部屋に入るなりジョセフに声を掛けたグレゴリオだったが、その姿を見るなりそんな言葉が出た。
うっ血した肌にあらぬ方向に曲がった手足の手当てをマリアから受けながら、体を横にしたジョセフの姿があった。
「敵にやられました。しかも何を目的に来たのかもわからず仕舞い、情けない話です」
普段の様な覇気を見せずジョセフは語った。
「うむ……小僧はどうした?」
ジョセフに掛ける言葉が直ぐに思い浮かばなかったグレゴリオは話題を変えた。
「ユウジなら首を刎ねられた状態でこの部屋で発見された後、首をくっつけて部屋で眠ってる筈です」
「そうか……」
「因みにオリヴィア殿下とリアもここで気絶させられていました。二人も侍女達が部屋へ運んでいます」
「なんじゃと?」
(オリヴィアとリアが気絶させられていた?実力的にはわし以上のあの二人がか?)
オリヴィアとリアが過去にカグヤとサクヤという人物だったことを知るグレゴリオは内心驚いた。
「それほど強い賊と戦う為に王城に向かっていたんじゃな……」
誰に聞こえるでもなく、グレゴリオは呟いた。
「わしはオリヴィア達の所へ行くとするかの」
色々と聞きたいことが出来たグレゴリオはオリヴィア達の元へと向かうため部屋を出た。
グレゴリオが部屋を去るのを眺めていたジョセフはレビンを背に乗せているグラディスへと目を向けた。
「グラディス、良く帰って来てくれた。色々と聞きたいことがあるだろうが、この状態の間に起きたことを俺も含め城の者の大半が知らない。気絶させられるなり安全な場所に隔離されるなりしていたからな。済まんが、何が起きたか教えてくれ。レビンの部屋は用意させるからよ」
怪我を癒やしたジョセフはマリアに支えて貰いながら体を起こした。
「私の目線での話になりますが、構いませんか?」
「ああ、聞かせてくれ。情けない王が気を失っている間に起きた出来事をよ」
自嘲気味にジョセフは返答した。
「……はい。実は――」
情けない王ではないと否定しても、ジョセフは認めないだろうと判断したグラディスは王都に起こったことを話し始めた。




