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まさかなあ

「想いのなせる技です」


 ララは宿主であるラティナと同じ大きさの、持っていないものであるサクヤからすれば羨ましいと感じる胸を張った。


「重い……」


 皮肉と嫉妬を込めてサクヤが言うが、


「サクヤ、女性に重いなんて失礼ですよ?」

「……」


 違う、そういう意味で言ったのではないと声を荒げたい衝動に駆られたサクヤだったが、ぐっと飲み込んだ。例え目の前の人物に愛が重いと正直に言ったところで、当然だと言わんばかりに眠る青年を愛でるのが想像することが出来たからだ。


「ところで、どうして今の状況で出てきたんですか?」


 眠るユウジの頭を撫でられる機会を逃さず、ララの傍に寄ったカグヤがララへ尋ねた。


「早いうちにラティナも王城に来たんですが、まあ呆気なく気絶させられてしまったんです。敵によってはその身が危ないというのに……結構無茶する子みたいですね」

「そう、ですね」


(昔、囚われたユウジさんを助ける為に単騎で敵組織に向かった人物の言葉とは思えないですね……まあその時は敵が悲惨なことになってましたけど……)

 内心で呆れているのを悟られないよう、カグヤは苦笑いを浮かべた。


「そしてラティナが気絶したので、これ幸いにと会いに行ったわけです。そうしたら、倒れ伏すこの国の王に聖女、そして首を刎ねられたこの人が……」


 ぞわり、とララの殺気にカグヤとサクヤの身が震えた。

 

「まあこの体では無く、死ぬ前の体であっても勝てませんけどね。本当に今の彼がこういう体質で良かった……」


 ララは殺気を鎮めながらユウジの頭を撫で始めた。


「そうね。そうじゃないと気が気でないもの」

「今は戦えませんからね」


 今の殺気が外に漏れていないかなど気が気でないサクヤとカグヤだったが、そういった不安を顔に出すことなく相槌を打った。


「今は、戦えませんね。ところで二人共、今の身分の姿になった方が良いですよ」


 明るい口調でララは二人に目を向けた。


「それはどうしてですか?」

「存在がバレたら面倒だからですよ。早く早く!」


 そうララが促すことに二人は顔を見合わせ、何かあるんだろうと結論付けてそれぞれカグヤからオリヴィア、サクヤからリアへと姿を変えた。


「そっちでも十分かわいいですね」


 そう言ってララはまじまじと二人の姿を見つめだした。

 かなり真剣に見つめるララに対して若干照れた様子を見せた二人だったが、ララが二人を見つめながら口を動かしていることに気づいた。


「あの、ララ?なにをしているの?」

「何もしていませんよ?今は」


 美しい笑みをララは浮べた。

 すると、オリヴィアとリアに耐え難い睡魔が襲う。


「ララ……なに、を」


 寝不足から来るような睡魔などとは違い、本能が眠れと訴えかけているかのような強烈な睡魔にリアが呑まれ、眠りについてしまう。


「くっ!」


 即座に自らの腕を血が滴る程に噛み付いたオリヴィアだったが、虚しくも徐々に瞳が閉じられていった。

 外で起きている筈の戦闘音や、雨音や雷鳴は部屋では聞こえない。聞こえるのは部屋で眠っている者達の規則正しい寝息だけだった。


「さて、私と会話したことは忘れて貰わないと」


 ララは皇女と従者の立場へと姿を変えた二人の頭に手を当て忘却の魔術を発動させた。


「これで大丈夫ですね。それにしても、久しぶりに自分の思い通りに行動するのは楽しいですね」

 

 自らの魂が入ったことで精神面に影響を与え、日が浅いながらもユウジに対して意識を持つようになったラティナの行動によって思いがけないことが出来た。

 折角の機会を逃さないように普通ならば今後の為に色々と行動しなければならないだろうが、ララは既に死んでいる。一部を除き、本来ならば既に魂が輪廻に還っている筈の人物がこの世に影響を与えるのは最小限にしなければならない。そのため、二人を眠らせて記憶を消した。

 これから行う影響を与えそうな行為と帳尻を合わせる為に。


「決定打を与えられずに倒せない可能性がありますから、ほんの少し手伝ってあげてください」


 ララはことある事にユウジの頭を撫でることで、僅かな時間だけ記憶を取り戻せるように施していた術を発動させた。


「恐らく予定とは違うでしょうけど、どうかみんなを助けてあげてください」


 ちらりとララを一瞬見た後、目を覚ましたユウジはゆっくりとララの元を離れ、ジョセフが空けた穴の元へ向かった。


「倒すまではしなくても大丈夫だと思います。あの避け続ける素早さをどうにかしてあげて下さい」


 ユウジの後を追い、傍らに立ったララは言った。


「認識阻害は?」


 今の世でユウジと会話したことがある者であれば驚いてしまうような堅い口調で言った。


「勿論」

「そうか……まさか、こういう形で再開するとは思わなかった」


 殆ど感じられなかったユウジの魔力が爆発的に膨れ上がる。

 その懐かしい魔力を感じながら、ララはラティナの体でユウジの腕を抱えた。


「そうですね……」

「そう遠くないうちに、行くよ」

「……いつまでも待ってます。ふふふ、またこんな形で会うかもしれないですけどね」

「かもしれないな」

 

 空いた手を空に向け、ユウジは魔法を発動した。

 瞬間、異様な反応速度で数々の轟雷を避け続けていた人型の動きが静止した。


「さて、俺は寝るよ」


 外で起こることに興味を見せず、ユウジはその場に横たわり始めた。


「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 そうユウジが返事をすると、直ぐに新たな規則正しい寝息が聞こえ始めた。

 暫くその様子を見た後、ララはオリヴィア達の方へと向かった。


「あとのことは宜しくお願いしますね」


 ユウジが眠った直後、オリヴィア達の近くに現れた一人の獣人の女にララはそう声を掛けた。

 その女は仕方ないとばかりに溜息をつくと、早く座れとばかりに床を指差した。

 その様子にクスクス笑いながらララは指差された場所へと向かい「あの人をお願いしますね」と言い残し、ララも眠りについた。


「しゃーないとはいえ、まさかなあ。このまま上手いこと予定通りに行くんやろか?」


 部屋で唯一眠っていない黒髪に金眼の獣人は誰に問うわけでもなくそう言うと、手始めにジョセフの口にポーションを突っ込んだ。

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