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今ならいけるかしら

 一瞬のうちに黒い塊へと変貌し、あまつさえ何も行動することが出来ずに辺りの魔物を吸収され、王都上空へと取り逃がしてしまった主と従者は自分達の未熟さを恥じながら、巨大な黒い球体の真下へと向かった。

 彼女達が向かう理由は対象の破壊ではなく、王都への被害を抑える為だ。もう既に魔物や爆発を起点とした火事によって王都の被害は酷いものだが、二人が感じる危機感はこれから起きることはその比ではないと訴えかけていた。


「どうします?」


 球体の真下へと辿り着き、傍らの従者へと主は尋ねた。


「そうね……状況次第としか言えないけど、多分時間を掛けてられないわね」


 従者は険しい表情で球体を睨みつけながら言った。

 オリヴィアもまた球体の様子を見て歯噛みした。

(人型になってくれれば勝機はありますけど、そのまま攻撃を仕掛けられれば間違いなく終わりですね……)


「防御系魔術を王都全体に覆うなんてことは私達には出来ませんし、最悪は文字通り肉壁になって防ぐしかないかもしれませんね」

「そうね」


 そんな会話をしながら、二人はタイミングを合わせたわけでもないのに同時に魔力を全身に行き渡らせていく。

 どうやらお互いに考えることは同じらしいとそれぞれ思いながら二人は姿を変えた。


「元の姿でも厳しいかもしれないですね……」


 ファシュトリア帝国皇女オリヴィア・ライズ・ファシュトリアではなく、かつての名であるカグヤ・ライズ・ファシュトリアの姿に戻った女は呟いた。

 オリヴィアの時との違いは瞳の色だ。髪色はそのままに、海を思わせる碧から月を思わせる金へと瞳の色が変わった。


「奴が出て来たのがわかった辺りからこうなる気はしていたけど、まさかこんなに早くなるなんて……」


 獣耳が消えた代わりに額から角が現れ、蝙蝠を思わせる羽が服の背中部分に内側から突き破るようにして生え、姿だけでなく種族まで変わった皇女の従者リア改め、サクヤはみつ編みにしていた髪を解きながら呟いた。

 現在の主従関係ではなく、親友という関係に戻った二人は同時に地面にクレーターを作りながら球体の元へ飛び上がった。

 球体に近づきお互いに魔力を纏わせた拳をぶつけようとするも、形状を変えて躱されてしまう。

 ならばとカグヤは宙を蹴り、サクヤは宙を舞い更に攻撃を行った。

 攻撃を行うにつれ少しずつ速度が上がる二人だが、一向に球体に攻撃が当たる様子はない。

 全身に目が付いているのかと疑いたくなる程に球体は形状を変えながら攻撃を躱していく。

(私達の攻撃に危機感を抱いているのか、それとも……)

 サクヤは攻撃を仕掛けながら、球体を取り囲むようにして空中に魔術陣を仕込んでいき、それに気づいたカグヤもまた同様に魔術陣を仕込んでいった。

 球体を取り囲む魔術陣の数が百を超えた頃、サクヤとカグヤは地上に降り立ち魔術陣を起動させた。

 瞬間、球体を取り囲む魔術陣が一斉に輝きだし、火風水といった二人が使用可能な属性の魔術が放たれていった。

 様々な属性が放たれていくことで球体を中心にして一種の花火が王都上空に出来上がり、花火は二十秒程維持された。

 煙によって球体の全容が見えず、ようやく晴れた時には多少ひしゃげたように見える球体の姿があった。


「効いてる、今ならいけるかしら」


 球体の姿を捉えるやいなや、サクヤは球体の元へと肉迫して渾身の一撃を放った。


「よしっ!これ、で……」


 見事に球体に一撃を加えたことに口角を上げたサクヤだったが、球体を殴りつけてめり込んだ腕が引き抜けない事態に陥った。どうにか引き抜こうと藻掻くものの、一向に抜ける様子はなかった。

 深く腕が入り過ぎたというわけではない、サクヤが感じたのは捉えられたという感覚だった。

(まさか、受け止めた?)

 そんな疑問がサクヤの胸中に浮かぶ中、異変を感じたカグヤが傍らに現れ、球体からサクヤの腕を引き抜くのではなく球体を蹴りつけた。

 衝撃音が鳴り響くと思われたカグヤの一撃だったが、聞こえたのはパシッという乾いた音だった。

 目を向ければ球体から人の手が生え、カグヤの足首を掴んでいるのが確認出来た。

 その手は球体と同じ黒色で、ずるずると球体から肩口に当たるところまで出てき始め、手の形から左腕だと判断することが出来た。

(ということは、私の手を掴んでいるのは右手?)

 そんな考えを裏付けるようにめり込んでいた手から掴まれるような感覚が伝わり、ずるずると球体が動くと右腕が現れた。無論サクヤのめり込んだ右手を掴んだ状態で。

 このままだと危険だと感じた二人は掴まれた状態から逃げ出そうと足掻くが、二人の手と足首を絶妙な力加減で掴まれているため逃げ出せない。


「くっ!」


 魔術を放ち隙出来ないかと試す二人だったが、腕の生えた球体に先程のような効いた様子はなかった。

 球体は表面に波紋を作ると下部分に脚を生やすと徐々に縮小し始めた。


「なに?」


 球体の行動に疑問の言葉をサクヤが呟くと、突如近くに二人の男が現れた。

 一人はカグヤがオリヴィアとしての祖父、グレゴリオ。もう一人はフリーシア王国最強の男、グラディス。

 グレゴリオはカグヤを掴む左腕を蹴り、グラディスはサクヤを掴む右腕に剣を振った。

 片方は引きちぎり、もう片方は斬ったものの球体には痛覚が無いのかカグヤの足首とサクヤの手を掴んだままに瞬時に元に戻った。

 予想していなかった事態にグレゴリオとグラディスは驚いたが、直ぐに行動を起こそうとした。

 しかし、球体から新たに生えた二本の腕による一撃によって地面に叩きつけられてしまい、ついでとばかりにカグヤとサクヤの二人もかなりの速度で投げ捨てられてしまった。

 空中でどうにか体勢を整え地面に叩きつけれずに済んだサクヤが王都上空へと目を向けると、そこには体表が黒く四本の腕を生やした人型の姿があった。


「気色悪いわね……」


 人型から感じるプレッシャーよりも、その見た目に対しての評価の方が先に口に出てしまったサクヤだった。

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