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腹立たしい

 フリーシア王国王都リーファ、フォルティナ侯爵家の私室にいた長女サティナ・フォルティナは父ジラードから呼び出しを受けた。

 また縁談のことかと思い憂鬱になったサティナだったが、伝えに来た侍女に聞けば縁談ではないという。では何故呼び出しを受けたか問えば、縁談では無いが、話があるとしか聞いていないという。

 侍女を下がらせ、自室を後にしてジラードのいる執務室に向かいながら、サティナは傍にいる亜麻色の髪の女性騎士に問うた。


「なぜお父様は食事の時に伝えてくれなかったのでしょう?」

「恐らくですが、聞かれると拙いことがあるのではないでしょうか」


 返答したのはサティナの護衛のユリナ・カラーナだ。フォルティナ家と縁のあるカラーナ子爵家の三女で、王都士官学校を主席で卒業したほどの実力者だ。

 それほど優秀な彼女が卒業後騎士団に入隊しなかったのは、爵位のことで異性からやっかみを受けていたからだ。

 異性の中にも爵位を気にしない者もいたが、そういった者達は彼女の容姿に惹かれた者達ばかりで、禄に鍛えもせずにことあるごとに彼女をお茶に誘ってばかりだった。

 三女であったため特に両親からも結婚に対して自由にして構わないと言われ、さらには彼女自身昔から結婚願望の薄く。果ては誰かを護るために騎士を目指し研鑽積んでいた彼女にとって異性の誘いほど煩わしいものはなかった。

 このような状況で同性から嫌悪されることなく士官学校時代に過ごせたのは幸いだっただろう。

 以前からサティナの護衛を勤めていた女性が結婚してからも無理を言って護衛として働いて貰っていたジラードはユリナの状況を知って直ぐに彼女に卒業後サティナの護衛をしないかと声を掛けた。

 ジラードにとって、実力もあり家と縁もあるため身が知れ、昔からサティナと親交のあった彼女はサティナの護衛としてベストだった。また、騎士団に所属すれば士官学校時代よりも面倒なことになると考えていたユリナにとって、ジラードの依頼はとても有り難かった。そして卒業後、ユリナはサティナの護衛としての道を歩んだ。


「そうだとしても、ユリナも一緒にというのは不思議だと思いませんか?」

「確かにそうですね」


 ジラードのもとへ向かいながら、従者にも丁寧な主とその従者は呼び出された理由について考えてみたが、一向に思いつかなかった。


「サティナ様」

「なんですか?ユリナ。あら?」


 ユリナに声を掛けられ前を見たサティナの目に入ったのはジラードの部屋の前で立つフォルティナ家でも特にサティナと関わりがある4人の騎士と2人の侍女だった。


「もしかして、6人ともお父様に?」

「はい、サティナ様」


 代表して黒髪の侍女が答えた。訊けば全員ジラードに呼び出されたのだという。


「ますますお父様のお話の内容がわからなくなりました...」

「中に入って聞くしかないようですね」


 考えるのを諦め、サティナはドアをノックした。


「サティナです」


 中にいたジラードの執事がドアを開け、サティナ達は部屋に通された。


「急に呼び出して済まないね」


 金髪の男性はそう言いながら手を止めてサティナ達を見た。


「お父様、用は一体なんでしょうか?」

「ああ、急なことだが。みんなにはユーフォレナ森林に向かって貰いたい」

「ユーフォレナにですか?」


 ユーフォレナ森林はフリーシア王国の西側に存在する広大な森林地帯のことだ。かつての大国ユーフォレナの跡地に出来たためそう呼ばれている。


「ああ。先程伝書があってね」

「伝書、ですか?」


 ジラードは首肯すると、伝書の内容をサティナ達に伝えた。









 ジラードに伝書の内容を伝えられた後、サティナ達は直ぐに支度し、ジラードの執事の手配で用意されていた馬に乗り出発した。

 王都リーファはフリーシア王国の最西部に位置する。これはユーフォレナ王国滅亡時に溢れた魔物達が建国して間もなかったフリーシア王国を襲撃し、その際に王都リーファを防衛拠点としたことが理由だ。当時の王国は国を問わず様々な場所から防衛のための人員を集め、防衛に参加できない者達は少しでも戦場から遠ざけるため王都の東へと住まわせた。防衛は数年に及び、王都より西にあった街は襲撃によってとても住める状態ではなくなった。代わりに、防衛に参加できなかった者達の努力によって王都の東に町がいくつかでき、襲撃前は王国の中心を王都としていたフリーシア王国は襲撃後には中心が耕作地となった。数百年たった今ではさらに王国の領土は東へ広がり、中心はガレアという王国第2位の都市となっている。

出発したサティナ達は侯爵邸から貴族街を出て西大通りを駆け西門へと向かった。西門では既に話が通っていたため素通りすることが出来た。

 西門を出て舗装された道を外れ、かつてユーフォレナ王国の首都があった場所へと通じる道へと向かう。この道は定期的に行われる騎士団と有志の者たちによる遠征やモノ好きな者たちにしか使われず。舗装された石畳ではなく土が剥き出しになった道だ。

 周りを木々に囲まれた道を速度を落として移動しながら、サティナは黒髪の侍女に問うた。


「ミオン、何か聞こえますか?」


 そう問われたミオンは頭に生えた獣の耳を動かしながら首を横に振った。

 聴覚の優れた彼女の邪魔にならぬよう速度を落としているが、手応えは無いらしい。

 一体どこにいるのか、既にいなくなってしまったのかとサティナは焦燥感に駆られる。この道は他の道に比べて人が立ち入るには危険な場所でもあるからだ。

そして突如、


「サティナ様!人の声です!この先です!」

「速度を上げます!」


 ようやく手応えがあったらしい。ミオンを労おうとしたサティナだったが、ミオンの顔は優れない。


「オークの声も聞こえました。しかも雄叫びです」


 サティナ達に緊張感が漂う。オークの雄叫びは周辺の自身の群れのオークを呼び寄せる。オーク10体程度ならばここにいるメンバーで対処は可能だが、それ以上の数の群れを形成するオークが相手となると状況次第ではかなり不利になる。

 ここに来てサティナは自分達だけにこの事態を対処するようにさせた元凶に悪態をつきたくなった。その元凶であればこうなることを予期出来た人物の筈なのだ。

しかも思い返せばこのことを自分に伝えた父が特に焦った様子もなかったことが腹立たしかった。


「あと少しで声が聞こえた辺りです!」


 サティナは心の中で悪態をつくのをやめ、辺りに気を配る。


「あっ!」


 声を出したのはミオンだった。

 サティナが前を見れば道に人が倒れていた。


「大丈夫ですか!」


 ユリナの凛々しい声が聞こえた。

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