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ジロジロ見ないで

 オリヴィアとリアの二人は王城へと駆けた。

 王都がこんな事態でなければ長い間会えていなかった旧友との時間を取りたかった二人だったが、今はそんなことが出来るような状況ではない。


「もっと落ち着いた時に来て欲しかったですね」

「そうね」


 オリヴィアの言葉にそう相槌を打ちながら、リアはカーミラとの会話を思い出していた。

(私達が居なければ生まれてすらいなかった者達、か。今の人々は何が起きたか知らないものね……あの時の人々でさえ知っているのは極一部だったもの、仕方ないわ)


「リア?」

「ごめんなさい、オリヴィア。少し考えごとよ」


 現在はリアにとっての主という立場になった親友に呼び掛けられ、彼女は謝った。


「少しぼーっとしているようだったので声を掛けただけですよ」


 オリヴィアはくすくすと笑った。

 そんな親友の様子を見てリアもまた笑みを浮かべた。

 魔物が跋扈し火事が起きているにも関わらず逃げ惑うではなく笑い合う二人の美女。

 人の感性であればその容姿に目を奪われつつもその異常性に気づくだろう、しかし人を襲うことしか出来ないようにされた魔物達は本能が警鐘を鳴らしていようとも彼女達に吸い寄せられるように向かってしまう。

 人を襲えという命令に忠実に従うために。

 笑いながら王城へと向かう二人を一体のオーガが行く手を阻んだ。魔術陣から降りた際に見つけたのか、店か家の大黒柱らしき丸太を手にしてだ。

 オーガは周囲の建物を破壊しながら、破壊音と共に丸太を二人に向けて横薙に振るった。

 勢いが落ちることなく振るわれた丸太が二人に迫るが、二人に気にした様子はない。

 オーガはその様子に疑問を抱きながらも、丸太を振り終えた。

 しかし丸太越しに伝わる筈の背骨をへし折る感触はない。あるのは先程まで破壊した建物の壁や柱を壊した感触だけだった。

 あの状況から躱したのかと、そんな考えをしながらオーガは永遠の眠りについた。


「どこに振っているのかしら?」

「そこに私達が居ると思ったんじゃないですか?」


 そんな会話をしながら、リアが魔術によって次々と現れる魔物達に認識阻害を引き起こさせ、それによって混乱した魔物達をオリヴィアが息の根を止めていった。


「こんな風に倒すのは久しぶりね」


 目に見える範囲で魔物が一体だけになった時、リアが懐かし気に言った。


「安全ですけど、命のやり取りをしている感覚にはならないですね」


 そんな感想を零しながら、オリヴィアは残り一体となった魔物の脳を打撃による衝撃でぐちゃぐちゃにした。

 辺りに広がるのは、軽く見ただけでは寝ているだけではないかと錯覚してしまいそうな程に綺麗な状態の魔物達。


「リアのおかげで楽に倒せました」


 そんな状況を作り上げた皇女は従者に向けて言った。


「私が居なくても出来たでしょうに……早く行くわよ」

「リア、ちょっと待ってください」


 主に呆れながらも従者は先を急ごうとしたが、呼び止められてしまう。


「なに?」

「耳を忘れていますよ」


 そう伝えられ、リアが頭に手を当てるとそこには今は無くてはならない獣耳が無かった。


「すっかり忘れていたわ……」

「私もです。リアに耳があることにだんだん慣れている筈なんですけど……」

「こんなことなら本来の姿か、せめて人間として従者になれば良かったわ」


 愚痴を言いながら、リアは自らの頭に変化の魔術で獣耳を作った。

 余程鋭敏な感覚を持ち合わせていない限りは偽物であると見破ることが出来ない程に精巧な耳。聴覚は本物のようにはいかないが、本物のようにリア自身の感情によって自在に耳は動く代物だ。


「やっぱり、改めて見ると凄いですね」


 リアの獣耳を見ながらオリヴィアは関心した。


「あまりジロジロ見ないで。いい加減行くわよ」

「リア」


 呼び掛けられ、まだ何かあるのかとリアがオリヴィアを見れば、彼女は真剣な表情をしていた。


「どうしたの?」

「何か来ます」


 オリヴィアが見ている方へと目を向ければ、王城の方から何かが向かって来ているのがリアの目に映った。


「あまり良い感じはしないわね」

「絶対に禄なものじゃないですね」


 現れたのは一体の体表が黒く、剣を吊るした何か。


「魔道人形かしら?」

「たぶん、生物ですね。外見は魔道人形に見えなくもないですけど……」

「普通に倒して良いのかしら?」


 黒い生物が肉迫して振るってきた剣を躱しながら、リアはオリヴィアに尋ねた。

(危機感を募らせる程の剣速も無いし、重くもなさそうな剣撃ね)

 そんな感想を抱きながらも、長年の勘が危険を訴えかけるためにリアは下手に手を出すつもりはない。


「塵一つ残さず消し去るのが一番だと思いますけど、そんなこと私達には無理ですし……認識出来ないくらいの攻撃か、自分がされても対処可能な攻撃の方が良いと思います」

「じゃあこれで良いわね」


 オリヴィアの意見を聞くとリアは即座に行動を起こした。

 黒い生物の剣撃を余裕を持って躱して出来た隙を狙い、リアはがら空きになった首の部分を掴み、握り潰した。


「本当に生物なのかしら?」


 リアがそんな疑問を抱いたのは手に伝わった感触が生物から感じる温もりなどが無く、無機質なものだったからだ。


「これは初めて見ますね」


 近づいたオリヴィアは動かなくなった黒い生物を見た。

 材質不明の何かに全体を覆われ、驚異こそ薄いものの剣を振るうなど人型としての行動を起こす生物。しかし一番厄介なのはそれらよりも動きを止めたにも関わらず、未だにオリヴィアの本能が警鐘を鳴らしていることだろう。

(たぶんリアもこれが危険だって気づいている筈。理想は完全に消滅させることだけど、それが出来ない以上は警戒するしかない)


「リア、これの警戒をしましょう」

「わかったわ。それにしても、火事は心配なさそうね。雨が降りそうだわ」


 オリヴィアが見上げれば、少しずつ分厚い雲が集まって来ているのが見えた。

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