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これなんだけどさ

 白仮面の三人は陛下の問いに答えることなく、短剣・短槍・鎌を両手に携えて向かって来た。

 陛下が応戦しようと一歩踏み出すが、突如陛下の真上に現れた四人目の白仮面による大槌の振り下ろしを避けるために直ぐに下がった。それによって絨毯越しにミシミシと床が鳴る音が聞こえ、衝撃が足元から伝わる。

 大槌を振り下ろした白仮面の首を狙おうと陛下が一閃しようとするが、短剣を持った白仮面によって阻まれる。


「っ!」


 攻撃を阻まれたことによって動きを止めた陛下の一瞬を狙って白仮面の鎌が振るわれるが、陛下は紙一重で躱した。

 次々に振るわれる白仮面達による攻撃を陛下は剣で受け止め、時には躱していく。

 陛下と白仮面達による攻防は激しさを増していくが、数で有利な筈の白仮面達のうち誰一人として俺とマリアを狙う素振りを見せない。

 この状況で俺はどうすればいい。

 俺一人であれば陛下が空けた穴から飛び降りる選択肢が取れた。マリアを抱えながら十メートル以上の高さから降りるなど俺には出来ない。


「ちっ!」


 何をするか考えているうちに、陛下が短剣による傷を受けた。

 それを見てか、更に白仮面達の攻撃が苛烈になっていく。


「なっ!」


 突如、城下の至る所から爆音が断続的に聞こえ、振り返れば彼方此方に火の手が上がっているのが見えた。

 火がうねるようにして次々と隣家に燃え移っていき、時折水飛沫のようなものが上がるが、収まることなく火の海は広がっていく。


「よく燃えてるなあ」


 城下の様子を呆然と見ていると、真横から声が聞こえた。

 見れば白仮面達と同じような黒い服に身を包み、黒い髪に紫色の眼をした少年がすぐ隣に居た。

 俺は距離をとろうとするが、体が動かない。


「これからさ、どんなことが起きると思う?」


 体が動かないことに俺が困惑している中、少年は無邪気に問い掛けた。

 体だけに留まらず、眼以外全てが動かない俺はなにも答えられない。


「どけっ!」


 俺の状況を見てか陛下が声を荒げ、金属同士がぶつかり合う音が激しさを増していった。


「うるさいなあ」


 少年は不愉快そうに言うと一瞬のうちに消え、またすぐに現れた。陛下の襟首を掴んで。

 陛下は浅くではあるが体が動いているものの、ついさっきまでは無かった筈の殴打の跡や、腕や脚が折られているのが見えた。


「それはね、滅ぶんだ。文明、過去、歴史、種、未来。全部消えて無くなる。この世界に存在するありとあらゆるもの全てが滅びていくんだ。楽しそうでしょう?ボクはね、それをしたいんだ」


 少年は陛下を掴んでいた手を離すと、先程の問いの答えを語りだした。


「昔にもやろうとしたんだけど、その時は邪魔されちゃってね。けれど今回は上手くやるつもりなんだ。手勢を増やして、色々と頑張ってさ」


 直立不動の白仮面達を見て、少年は自分語りを始めた。


「そういえば、なんでここに来たのか言ってなかったね。探しものをしていたんだ。これなんだけどさ」


 そう言って少年が見せたのは、見覚えのある人の心臓のような形をした魔石だった。


「これはボクが創ったんだ。まあ、普通に王城に入って回収しても良かったんだけど、それじゃあつまんないからさ」


 少年は嗤う。


「ボクを知っている奴らに帰って来たって報せる為に、こんなことをしたんだ」


 止まることなく広がり続ける火の海を見て、笑みを深くした。


「色々と手を汚してまで対策を講じてきたみたいだけど、無駄だったね」


 少年はその笑みを嘲笑へと変え、


「君はそんな体になったっていうのにね」


 俺に向き直りそう言った。

 そんな体になったっていうのは、俺の治癒能力のことか?


「まあ、今の君はわからないだろうけど…あ、君達は帰ってていいよ」


 少年の指示を受けると白仮面達は消えた。

 それよりも、目の前に居る人物の発言が気になって仕方がない。


「そうそう。運悪く死んだ奴はいると思うけど、殆どは殺して無い筈だから安心してね。今日は本当に報せるためだけに来たようなものだからさ。まあでも、これだけだとつまらないから何体か置いていくかな…」


 少年がそう言うと、体表が黒く人の形をした生物が突如として三体現れた。

 それは体表が黒いこと以外は人と変わらない姿で、体表と同色の軽装を身に纏い、腰には剣が吊るされていた。


「こいつらは結構強いんだ。もしかしたら皆殺しになるかもだけど、許してね。そうだ!君にはどんなことが起きるのかわからないようにしてあげるよ!少し記憶も消してさ!ボクってやっさしい〜」


 少年は無邪気に笑うと、羽虫を払うように腕を横に振るった。

 鼻歌をしながら少年は満面の笑みで俺を見つめ、近づくと俺の顎をつついた。

 すると、俺の視界が横にずれたかと思えば、急に天地がひっくり返った。

 床に当たった衝撃と、ぶつかったことによる鈍い音が頭に伝わった。遅れて何か重たいものが倒れる音が聞こえ、赤いものが床を汚していくのが見えた所で俺の意識は消えた。












「ほんと、笑っちゃうくらい弱くなったなあ」


 ユウジの頭を素手で切り落とした黒髪の少年はそう呟いた。


「さて、君達。降りて面白そうな人達と戦ってきていいよ」


 少年が告げると、喚び出した魔道人形達はジョセフによって空けられた壁から飛び降り、未だ火の海となったままの城下へと向かった。


「城下に火が放たれることなんて、今まで無かったんだろうね」


 黒髪の少年は暫く王都リーファの様子を眺めると、その場から消えた。

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