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襲撃

 お尻が痛い思いをしながらもなんとか俺達は王城に着いた。

 マリアもなんとか持ちこたえ、色々語弊があると思うが俺は聖女のあられもない姿を見ることにはならずに済んだ。


「一体何が起きているんでしょうか?」


 陛下と共に王城内を歩きながら、マリアは数分前の危機的な状況など無かったかのように言った。なにやら聞こえない声でぶつぶつと言っていたことから魔術でも使ったのだろうか。


「さあな。とにかく二人共、俺の傍からは離れるなよ」


 出掛けている際のふざけているおっさんから真面目な陛下へと変わりながら、陛下は言った。


「はい」

「わかりました、叔父様」


 おれ達はそう返事をして、徐々に歩く速度が速くなっていく陛下の後を付いて行った。


「状況は!」


 スタンピードの時に使った一室の扉を開け放ちながら、陛下は中で情報共有を図っていた宰相を始めとした重役達に問うた。


「賊の正体は不明、通常とは異なる特徴を持った魔物を率い王城に向けて進行中でしたが、現在はグレゴリオ様が現場の指揮を執り進行を抑えています。死傷者は現在確認中。民の避難はフォルティナ侯爵家が主導となり貴族達が行っています」


 代表して宰相が現状を陛下に報告した。


「分かった。しかし仲間の有無と目的は不明か…王城を狙ったってことは、王族の首かマリアの首、もしくはユウジの首か?」


 宰相の報告を聞き、陛下は賊の目的を考えた。


「王妃様とアイザック殿下、サラ様の元にはグラディス殿が向かいました」

「帰って来ていたか…向こうはどうにかなるな。ただ問題は…」


 そう言うと、陛下は振り返り俺とマリアを見た。


「俺の場合はグラノフやアイザックが居るからこの際どうなっても構わんが、二人はそうもいかない。マリアは言わずもがなだが、加護持ちで治癒能力を持つユウジは治癒能力に関して未だ不明のことが多い、状況次第では死ぬ可能性がある」

「だからこそ敵の狙いが不明な以上、お二人は城から決して離れないようお願いします」


 宰相の指示に俺とマリアは頷いた。


「二人のこともグラディスに頼れば、あとは俺が前に出るんだがな…」


 陛下はそんなことを呟いた後、宰相や他の重役達と共に色々と話を詰め始めた。


「なあマリア、グラディスさんって人は一体誰なんだ?」


 俺は度々陛下と宰相の口から出てくるグラディスという人物についてマリアに尋ねた。


「サティナ姉さまの兄に当たる方です。フォルティナ家の次期当主で、各国を放浪していました」

「へえ」

「フリーシアでは最強と称される方なんですよ」

「それは凄いな。けれどなんで放浪なんかしていたんだ?」

「妻のニコル姉さまと共に武者修行です」

「武者修行?」


 なにやら次期当主となる人物として相応しくないような言葉が聞こえ、思わず訊き返してしまった。


「はい、武者修行です」


 俺の聞き間違いではないらしい。


「フォルティナ家の人って、結構変わってるのか?」

「はい。当主のジラード様含め、変わった方が多いです」

「てことは、サティナの異世界人が好きっていうのも血筋の影響…?」

「なくはないと思い――」

「陛下!外に魔術陣が!」


 マリアの言葉を遮るようにして、重役の一人が声を上げた。

 マリアと共に外を見れば、王都全体を覆う程の幾何学模様が空にあった。


「あれが魔術陣…」


 そう俺が呟くと、


「召喚魔術陣か…?各国に救援要請をしろ!手が空いている者は迎撃にあたれ!」


 陛下が重役達に指示を出した。

 慌ただしく部屋から出て行く足音が聞こえていった。


「なんだか…貧乏神みたいだな、俺」

「ユウジさんは悪くありません。こういったことを行う者達が悪いだけです」


 俺の呟きに、聖女と呼ばれている少女は俺より一回り小さい手で俺の手を握りながら言った。


「ありがとう、マリア」


 俺の感謝の言葉に、彼女は笑みを返してくれた。


「来たか」


 陛下の言葉で改めて外を見るとオークやオーガ等、体の大きい魔物達が次々と魔術陣から現れ、王都の彼方此方に家屋や店を押し潰しながら降りていった。

 城の彼方此方から壊れる音が聞こえて来た。魔術陣の範囲であれば至る所に魔物は降りて来るのだろう。

 魔物達はかなりの高所から降りていったにも関わらず、平気な顔をして辺りの建物を壊しながら城に向かって来ていた。

 そんな城下の様子が王都でも一段高い場所にある王城からは良く見えてしまう。

 突如、次々に魔物を吐き出していく魔術陣に向けて城下から何かが解き放たれ、魔術陣に当たった。それを皮切りに次々と城下から放たれていき、少し、また少しと魔術陣を砕いていった。

 しかし魔術陣は砕かれていきながらも、魔術陣全体に及ぶ程の黒く巨大な何かを出現させようとしていた。


「なんだあのでかいのは…」

「あれは…」


 そう言いながら、マリアが未だに繫いでいた手を強く握りしめてくる。

 王城は王都内の中央ではなく東寄りに位置している為、王都中央辺りから巨大な何かの頭のようなものが魔術陣から出て来ているのが見えた。


「あのでかさは不味い!」


 陛下が焦りながら、城の壁をぶち抜こうとした。

 なんとか咄嗟に瓦礫等が当たらないようにマリアを守る。

 壁がぶち抜かれる音と共に瓦礫が俺の背中に当たり、土煙が視界を奪う。

 徐々に視界が晴れ、マリアに怪我が無いことを確認した後に陛下の方を見れば、髪や服がはためいていた。


「我が庇護する者を害する存在を滅する為に!《失滅》!」


 オークと戦った時にも聞いた言葉と共に、陛下から力の奔流とも言うべき光が吹き出ていき、巨大な何かにぶつかった。

 見れば城下からも恐らくアイザックによるものでだろう同様の光が出て巨大な何かに当たっていくが、二つの光が効いた様子は殆ど無い。


「魔術陣を破壊しても結局は落ちてくる筈。先になんとかしないと」


 うわ言のように呟きながらマリアが陛下の隣に移動し、体の前で祈りを捧げるように両手を組んだ。

 瞬間、俺の全身が粟立ち体がこの場から離れろと訴えかけて来るような感覚が起きる。

 

「邪なるものから人々を護り、邪なるものをうち祓え《聖滅》」


 マリアから極大の白光が射出され、当たった所から黒いものが徐々に消え失せていく。

 見ているだけで理由の分からない忌避感が俺を強く襲い、今にもこの場から離れたくなる。しかし俺は脂汗をかきながらもなんとか耐え、黒いものが完全に消え失せるのを見届けた。

 黒いものが消え失せた後、陛下とアイザックによる光によって魔術陣が完全に砕かれた。


「なんとか対処は出来た…けれどあとは…」


 そうマリアは呟くと、突然倒れそうになった。


「危なっ――」

「――っと危ねえ」


 マリアを支えようと動くが、俺よりも近い場所に居た陛下がマリアを受け止めた。


「功労者として褒めたいところだが…気を失ってるな。しかし、マリアが使ったのはなんだ…?」


 マリアを抱えながら、陛下は首を傾げながら言った。


「陛下も知らないものだったんですか?」

「ああ、初めてだ。あんなものがあるとは元聖女の妻からも聞いた覚えが無い。まあ今はなんとかなったから良しと――っ!」


 陛下は何かに気づいた素振りを見せるとマリアを俺に投げ、突如剣を喚び出し数度振るった。

 甲高い金属音が部屋に響いた後、何かが床に落ちる音がした。


「なにもんだ?」


 受け止めたマリアを上手く抱え直しながら、陛下が声を掛けた先を見れば目の部分だけ細長く空いた白い仮面を付け、全身を黒い服に身を包んだ三人が居た。

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