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噛んだ

 昼食を終えて、俺達が腹を満たした代わりに陛下の財布は空きっ腹となった。もし陛下の財布に意思があるならば早く金で腹を満たせろと文句を言っているだろう。


「まあ、財布は物言わないけどな」

「財布がお話するのは面白そうですね」

「聞いてたのか…」


 俺の独り言に返事をしたのはオリヴィアさんだ。

 彼女は昼食の時に女性陣と共に高級スイーツを見ているだけで胸やけがするほど食べ、陛下の財布をえげつないペースで空きっ腹にしていった。

 積み上げられていく皿が増える度に少しずつ陛下の顔が青褪めていく様子を見た時は可哀そうに思い、女性陣に加減するよう伝えようかと考えたが、美味しそうにスイーツを食べる女性陣の邪魔をしてはいけないと思い俺は言わなかった。決して陛下の青褪める様が面白かったとかそういうわけではない。


「陛下の顔は面白かったですね?」


 俺の心の内を読んだのか、それとも顔に出ていたのか彼女はそう尋ねた。

 大食いタレントかと思うほど食べ、一瞬だけ見た限りだとお腹が膨らんだ様子も無い彼女の体に人体の神秘を感じるが、解き明かすと厄介なことになりそうなため心の底から湧き上がる探究心を俺は抑え、「そうだな」と答えた。

 そんな俺の様子を見て、彼女は笑った。


「なんで笑うんだよ」

「結構わかりやすいのに、そうやって取り繕うからですよ」

「そうなのか…初めて知った」


 これでも何考えているか解らないと家族以外には言われていたというのに。


「安心して下さい、大抵の人はわからないと思いますから。けれど、一度わかると大体わかりますね」


 俺の様子を見て、彼女はそんなフォローを入れた。


「会ったばかりなのに良く分かったな」


 そう言って彼女を褒めると、彼女は一瞬だけ淋しそうな顔とケモノ耳を少しだけ倒した後、


「ええ、私は凄いですから」


 と自慢げに言った。


「ところで、何にするかは決めましたか?」

「ん、いやまだだ」


 なぜ淋しそうな顔をしたのかが気になったが、彼女が話題を反らしたため触れないことにした。


「贈り物なんですから、しっかり選ばないと」


 そう言って彼女は商品棚に目を移し、商品を手に取りながら吟味し始めた。


「そうは言ってもなあ」


 彼女にそう返事をしながら、俺は人払いがされて俺達と店の人しか居ない店内を見渡した。

 昼食を終えた俺達は、ラナ達に何か贈りたいという俺の言葉によって雑貨屋のような店に来ていた。この店で置かれている商品は様々で、カップや皿を始めとした日用品から女性物のアクセサリーに至るまで、果ては服や化粧品など様々だった。

 この店を教えてくれたサティナによれば、店主が各地を放浪した先で気に入った物を売っているらしい。そのため遠い国の商品が置いてあったり、僻地の村のみに伝わる工芸品や特産品が置かれてあったりと物珍しさで人気のある店らしい。

 今は贈り物にどんな物が良いのか分からない俺のために、個別に分かれて見繕って貰っているところだ。

 勿論、俺自身もどんな物が良いかは考えているが品数が余りにも多く、絞り込むことすら出来ていない。


「男性陣には酒とかで良いだろうけど、女性陣がなあ」

「どうやらお祖父様達にはその方が良さそうですよ」


 彼女は店の奥で店内に置かれている肴になりそうな商品を試食しているジジイと陛下を見ながら言った。


「酒が欲しくなるなあ…」

「そうじゃのう…」


 そんな感想を漏らしながら、試食している肴が気に入ったのか俺をちらちらと見てくるジジイとおっさん。


「はあ、なんか良さそうな酒と肴を贈るか。世話になってるし」


 溜息混じりに俺が言うと、「よーし、どれにしようかなー」「ワシは既に決めておるぞ」と口々に言って自分達が欲しい物をジジイとおっさんは選び始めた。


「贈り物になってねえじゃねーか…」

「楽しそうなので無視しておきましょうか」


 身内の様子が恥ずかしかったのか、皇女様は二人が見えない場所へとそそくさと移動した。


「あのままの勢いだと、アイザック達の分とか言って選びそうだな」


 あれもこれも良いと評価を下しているおっさん達を見て、俺もその場を移動した。ある程度おっさん達が選んだ中からそれぞれに贈る物を決めれば良いだろう。


「あとは女性陣ヘの贈り物だな、ラナとミオンさん。あとは女性騎士の皆さんかな、一回しか関わりがないし名前知らないけど」

 

 そんなことを言いながら、俺は棚に置かれる品々を見ていく。皿、皿、スプーンと食器類が置かれてばかりの棚で、贈り物としては向かない為に別の棚へと移動する。

 次の棚は小物が置かれていた。色とりどりの鳥をモチーフにした置物や、イヤリングなどが置かれていた。

 もっと良く見ようと思っていると、突如遠くの方から何かが壊れる音が聞こえた。


「何だ?」

「まさかとは思うが…」


 そんな言葉を零しながら、陛下が外へ向かい。追うようにジジイも外へ向かった。

 俺も外へ出てみると、王都を囲む城壁の北側から煙が上がっているのが見えた。


「緊急事態だ!サティナとユリナは家に戻ってジラードに指示を仰げ!」


 状況を鑑みた陛下が声を上げ、馬車を引いていた六頭の馬のうち二頭をサティナとユリナさんに渡した。

 彼女達は馬具も無く馬に乗り、颯爽と駆けていった。


「ジョセフ!ワシは北ヘ向かう!」


 そう言い残し、ジジイは事態を引き起こした何者かと戦いに行くのか、屋根伝いに北ヘ向かって行った。


「オリヴィア様、如何しますか?」


 リアさんが主に問うた。

 すると、北の城壁の方から鐘の音が五回鳴った。恐らく危険を報せる鐘だろう。


「状況を一度見てから、王城に向かいます」

「かしこまりました」

「陛下、失礼します」


 主と従者もまた北ヘ向かって行った。


「俺達は城に戻るぞ、馬車に乗ってくれ」

「「はい」」


 陛下に言われ、そそくさと俺とマリアは馬車に乗り込んだ。


「荒れるから気をつけろよ!」


 乗り込んだ後、そんな声が聞こえたかと思えば馬車は進みだし、徐々に速度を上げていった。

 今まで馬車に乗っていた時は速度が遅かった為にそこまで揺れなかったが、速度が出ているせいで馬車の中はとんでも無く揺れ、幾らクッションが敷かれているといっても跳ねる度にお尻が痛い。

 俺の横に座った体重が軽いマリアも跳ねる度に「あっ」「うっ」と痛そうな声を漏らした。


「おなかっ、いっぱいっ、でっ、ちょっ、とっ、きもちっ、わるっ、いっ」

 

 そろそろ王城に着くかという頃、マリアがそう言った。聖女様は色々とピンチらしい。


「たぶんっ、もうちょっ…がんはへ…頑張れ」


 マリアに声を掛けようとしたら舌を噛んだ。

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