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面白いから

 声が聞こえた方へゆっくりと振り返る。そこには腕を組み、仁王立ちする侯爵令嬢の姿があった。


「サティナ、陛下も来たことに驚いて気絶した彼女を、介抱をしようとしていただけなんだ」


 サティナに説明しながら、店から飛び出て来たオーナーらしき女性に店員さんを預ける。


「そうでしたら、倒れた際に店に居る私達や他の店員に直ぐに声を掛ければ良かったのでは?」

「確かに...」


 確かに直ぐにでも誰かを呼べば良かったに違いない、店内にはマリアも居たのだ。直ぐ近くに医者が居るというのに呼ばないというのは変だろう。


「まあユウジさんのことですから、突然のことでそんな考えが出なかっただけでしょうけど」


 サティナは呆れて言うと、俺達を中に入るように促した。

 店の中に入ると、元の世界のように服がハンガーで吊るされていたり畳まれて置かれたりしているものや、呉服店で見られるような生地の状態で並べられているものがあった。


「陛下とグレゴリオ様。さっきは聞きそびれましたけど、どうして此処へ?」


 俺が店内を眺めていると、サティナが陛下とジジイに尋ねた。


「俺はストレス解消も兼ねて、城下を見たかったからな。言っとくが公務をサボったわけじゃないからな?」


 今朝方にあった神託の件は公務にならないのだろうかと思ったが、ここに居るということは大丈夫なのだろう。最悪、宰相が色々やっているだろう。

 それとさっきは普通に対応したが、この世界にもストレスという言葉があることに驚いた。


「小僧の鍛錬は当分やらぬからのう、暇だったから来た」


 食う・寝る・戦う・散歩の四つくらいしかしていないジジイは戦いが出来ない為に散歩を取ったようだ。


「小僧、何か変なことを考えとらんか?」

「気のせいですよ。あっそういえば、お二人共二日酔いはもう大丈夫なんですか?」


 俺は誤魔化すように気になっていた二人の二日酔いに関して尋ねると、「朝飯食って水を飲めば治る」と返された。二人の体は便利に出来ているらしい。


「サティナ、他の娘達の元に行ってきな」

「分かりました、陛下」


 陛下に促され、サティナが他の女性陣の元に向かった。


「昼頃まではここに居ることになりそうじゃし、あそこに座らせて貰うかの」


 ジジイの提案に乗り、俺達男三人は店内の入り口側に設けられた椅子に腰掛けた。どうやら二人も女性陣の買い物が終わるまでここに居るつもりのようだ。


「グレゴリオ殿、これからどうなるとお考えですか?」


 どうやら陛下はこの機会にジジイとこれから世界について話し合うつもりらしい。


「恐らく...小僧が彼女らの服選びでてんやわんやするじゃろうな」

「やはり同じ考えでしたか」


 ジジイの返答に陛下は自分の考えは正しかったと自信ありげに大きく頷いた。

 どうやらこれからのこととは世界のことではなく、俺のことだったようだ。

 サティナにストレス解消や暇だと言っていたが、結局は女性陣にいいようにされる俺の様子が面白そうだからという理由でこの二人は来たのだろう。


「俺がどうなるかを見るために来たんですか?」


 確認の為に二人に尋ねた。


「「勿論」」

「それはまたどうしてですか?」

「「面白いから」」

「...」


 二人の返答に俺は上を見上げ、店の天井を見た。この世界のトップになる人物はこういう人達ばかりなのだろうかという疑問が湧いてくる。

 出来る事ならこれから先、偉い人にはもう会いたくないと思った。


「天井を見始めたのう」

「これからの未来に思いを馳せているのでしょうな。ところでグレゴリオ殿、この男はどんな最期を遂げると思われますか?」

「ほう...しかしこやつは死なんぞ?お主はどうなると思っておるんじゃ?」

「私はこの男が死なないことを活かしてこれから先にも女を増やし、メッタ刺しにされながらも凝りもせずに女をそこかしこに作ると思ってますな」


 これから先も女が増えるってどういうことだよと言いたいところだが、面倒になりそうなためにぐっと我慢する。


「なるほどなるほど...それならワシは、どうにか小僧を殺す術を見つけた者が小僧を殺して共に死ぬ、かのう」

「この男にとって唯一の存在になるわけですな」

「そうじゃ。小僧が自分から死にたいと願うような絶望を与え、殺すことで救いを与えて唯一になる」

「素晴らしい」


 俺がどう死ぬかで盛り上がるおっさんとジジイ。それだけ俺の話題は面白いのだろう。


「絶望か...」


 未だに天井を見たまま、ポツリと呟く。

 自分が絶望するとすればなんだろうか。知り合い全てがこの世から消えること、知り合いから忘れさられることなどが思い浮かぶが、何か違う気がする。


「まあ、考えても仕方ないか...」

「ユウジさん」

「うおっ」


 突然ユリナさんの顔が現れ、俺の反応に彼女はくすくすと笑った。


「驚かせてすみません。良ければ、絞り込んだ服の中から選んで貰えませんか?男性の意見を聞いてみたくて」


 無意識なのか自らの髪を触りながら、気恥ずかしそうにユリナさんは言った。


「良いですよ」

「ありがとうございます、こっちです」

「ちょっと行ってきます」

「おう」


 ユリナさんに絞り込んだ服を置いてあるという場所に案内された。


「この服の中からどのデザインにして仕立てて貰うか迷っていて...」


 そこには二つのワンピースドレスがあった。一つは袖を生地で覆い、品よくデコルテの部分が見えるロングワンピースドレス。もう一つは先に挙げた物と違って袖の部分とデコルテ部分にレースを使い、丈は膝下までというデザインで視界に入る肌の色が多くなるデザインだった。


「小さい頃はこういった服を着ていたのですが、ある程度の年齢になってからはひらひらとしたものは着なくなってしまって...久しぶりに着てみようかと思うのですが、どうでしょうか?」

「そうですね」


 俺は目をつぶり、ユリナさんがそれぞれのワンピースドレスを着た姿を思い浮かべた。片方はシンプルなワンピースドレス、背の高いユリナさんは俺の頭の中ではよく似合っている。そしてもう一つの方は、パンツスタイルで素足を見せないユリナさんの足を見ることが出来、レースによって隠された二の腕とデコルテを見ることが出来るワンピースドレス。

 あまり肌を見せて欲しくないという彼氏ヅラ然とした思いで前者を選びたいという思いと、彼女が肌を露出した姿を見たいという好奇心により後者を選びたいという思いが俺の中でせめぎ合った。


「悩む...どっちも似合うのは間違いないんだけどな...」

「どっちも、似合いますか?」

「はい、間違いなく」

「...決めました。ユウジさん、ありがとうございます」


 ユリナさんは少し考えた後、俺に礼を言って近くで俺達のやり取りを見ていた店員さんに声を掛けた。


「気にはなるでしょうが、聞かないのが良いかと思いますよ」


 そう言って声を掛けてきたのは突然現れることなく俺に近づいたリアさんだ。


「なんとなくそれは分かりますよ。ところで、何かようですか?」

「皆様も選んで欲しいらしく呼んでおられます。ユリナには私から言っておきますから、向かって下さい」


 彼女の伝言に了承し、俺は呼んでいるという女性達の元へ向かった。

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