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尻尾

 アイザックの朝食と后のサラさんへ贈る花に付いての話し合いが終わり、各々出掛ける準備をする為に各自の部屋ヘ戻ることになった。

 しかし俺は既にそのままでも出掛けることが出来る格好だった為に、食堂でみんなを待っていた。


「ユウジ殿」


 振り返れば白髪の老紳士、ジャックさんの姿があった。


「もう用意は済んだんですか?」

「用意はしていません。マリア様を送っただけですからな。ところで、先程呟いておられたカプチーノとは?」

「あー。詳しい作り方は俺も分からないんですけど、コーヒーと牛乳を使って作る飲み物です」

「カフェオレとはまた違うのですかな?」

「そうですね。コップの縁部分に牛乳の泡があって、カフェオレよりもコーヒーの味がするって感じです」

「カフェオレよりもコーヒーの味がし、牛乳の泡...」


 顎に手をやりながら、ジャックさんが考え始めた。


「お待たせしました!」


 暫くの間ジャックさんと問答をしていると、聖女らしく清楚な雰囲気がする白のワンピースドレスを着たマリアが現れた。女性の服に関してはよく分からないが、腰部分のレースの刺繍が品の良さを出している気がした。


「ここまでありがとうございます」


 彼女は服を着替える際や化粧を手伝って貰っているという王城の侍女に礼を言うと、


「ユウジさん、似合いますか?」


 くるりと回ってスカートを揺らしながら彼女は尋ねた。


「良く似合ってるよ」

「ありがとうございます」

「お待たせしました」


 彼女とそんなやり取りをしていると、オリヴィアさんも食堂に戻ってきた。

 彼女の方を見れば、白いノースリーブのふわっとした服に黒いパンツスタイルのオリヴィアさんの姿があった。昨日は見せていた尻尾の姿がないことが気になるが、触れていい話題なのだろうか。


「オリヴィアお姉さま、素敵です」


 オリヴィアさんに近寄りながら、マリアが感想を述べた。


「ありがとう、マリア。どうですか?アマノ様」

「似合ってるよ」

「それだけですか?どこか気になるところがあるのではないですか?」


 彼女は「こっち側とかですかね?」といたずらっぽく笑みを浮かべながら続けて言って、背中を見せてきた。


「言わないといけない感じか?」

「はい」

「尻尾がどこにいったのかなあと」


 俺が疑問に思っていたことを言うと、彼女はわざとらしく「おっほん」と口で言った。


「幾ら気になるとはいえ、女性のそういった部分を見るのはあまり関心しませんね」


 彼女はこれまたわざとらしく嗜めるように言いながら、やれやれと首を横に振った。


「言わせたようなものじゃないか...」

「ふふふ、すみません。獣人はですね、尻尾を収納出来るんです」

「収納?」

「はい。獣人だけが使える獣化という変化の術を使って、尻尾を出したり引っ込めたりと出来るわけです」


 そう言って彼女が胸を張ったことで、なるべく目線がいかないように気を付けていた彼女の豊かな胸に目が行ってしまう。


「へえ。尻尾以外にも獣化って何か変化があったりするのか?」


 俺は胸に目が行ったことを誤魔化すように彼女に質問を投げかけた。

 マリアの方から視線を感じたのは気のせいだと思いたい。


「ふふふ、そうですね。頭の耳のような毛が全身を覆うことで身体能力が飛躍的に上がります。ただ、尻尾を引っ込めたりは大抵の獣人は出来ますが、身体能力を上昇させる程の獣化はなかなか出来る人はいません」

「なるほどな」


 彼女が笑ったということは、俺の視線に気づいていたのだろう。それでも俺はなにごとも無かったように自然な態度を取った。


「お話も宜しいですが、サティナ様がそろそろお見えになるかと」

「じゃあ行かないとだな」


 俺にとっては助け船のような形でリアさんが進言してくれたことに、心の中で俺は彼女に感謝した。


「ユウジ殿」


 馬車の場所へと向かおうと食堂を出ようとすると、ジャックさんに呼び止められた。


「どうしたんですか?」


 女性陣を先に向かわせて、ジャックさんの元へ行く。


「カプチーノですが、戻り次第ぜひ味見役をお願いしたく」

「作り方を思いついたんですか?」

「ええ。ただ、それが本当にユウジ殿の記憶にあるカプチーノかどうか確かめていただきたい」

「もちろん良いですよ。こちらこそお願いします」

「では、戻ってからの楽しみということで」

「はい、楽しみにしてます」


 そう言ってお互いに右手を出し、固い握手を交わす。


「ところでユウジ殿。私は端から見れば面白いことになることに違いないユウジ殿の今日の外出、一体何が起こるか傍で見ることが出来ないことが残念で仕方ない」


 俺の肩に手を置いてジャックさんが語った。さっき固い握手を交わした人物はどこに行ったのか。


「突然何を言うんですか...」

「男一人の周りに高貴な身分の女性達がいるという状況、面白くならないわけがないですな」

「そりゃあ、外から見ていれば楽しいでしょうね。渦中にいたら堪ったものじゃないですけど」

「私が戻った時に面白い噂が城下に広がっていることを楽しみにしています。期待していますぞ」


 そう言い残してジャックさんはどこかへ行ってしまった。


「言うだけ言ってどこか行ったなあの人...」


 俺はジャックさんの期待を裏切るような行動が取れるよう、頭の中で色々と考えながらみんなの元へと向かった。

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