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 花畑を傍らの女性と共に整理された道を歩く。

 観光名所として知られるこの花畑は、周囲を柵に囲まれた多くの花々が咲き乱れていた。


「あっ」


 繋いでいた手を離し、金髪を揺らしながら彼女は少し離れた場所に咲いていた一つの花の前で屈んだ。

 彼女の隣に俺もしゃがみ込み、彼女が見ている花を見た。青いヒヤシンスだ。


「覚えていますか?初めて会った時にこの花を見たのを」

「よく覚えてるよ」

「あの時の色と同じ、青いヒヤシンス。綺麗ですね」


 彼女は嬉しそうに言った。


「来て良かっただろ?」

「はい。みんなと居るのも好きですけど、貴方と二人きりというのが特に嬉しい」


 金髪のエルフは俺の肩に頭を置いた。


「今日はずっと一緒に居れるぞ?」

「ふふふ、はい」


 彼女が立ち上がり、その場でゆっくりと体を回した。


「他の花も見て回りましょう」

「ああ」


 その後は巷で話題になっているお菓子や料理店の話など、他愛もない話をしながら花畑で咲き乱れる花々を見て回った。


「素敵なところに来れて良かったです」


 少し前を歩いていた彼女が振り返り、

「喜んで貰えてなによりだ」

「私の体調が良くないのことが原因ですけど、それでも貴方は他の娘ばかりと居て、寂しかったんですよ?」


 彼女が俺の手を握る。温かく、柔らかな手だ。

 エルフ故に元々肌の色が薄かった彼女だが、病のせいで外にあまり出られなくなったことで更に薄くなっていた。


「悪かった」

「私の為に色々と手を尽くしてくれるのは嬉しいです。けれど、私は貴方やみんなと残された時間を過ごしたいんです」

「そんなこと言わないでくれ」


 自然と彼女の手をを握る力が強くなる。


「貴方も分かってる筈です」

「っ!俺は、そんな話が聞きたくてここに連れてきたんじゃない...」


 もっと楽しく、明るい未来を語る為に俺は彼女をここに連れてきたのだ。


「それでも、聞いてください。これから先、私は傍に居られないんです」

「...」

「これから先、貴方と未来を生きられないんです」







「夢か...」


 女性と何処かに行くという夢だったのは覚えているが、会話の内容が思い出せない。良くある印象的な夢を見た筈なのに、直ぐに忘れてしまう状態だろう。

 夢のことは忘れ、俺は昨日のことを思い出した。5人の男が酒を楽しむにはワイン1本では足らず、一度席を外した国王が台車に数々の酒とツマミを俺の部屋に運び込み、宴会を開いたのだ。

 俺とアイザック、グラノフ殿下は完全に酔いが回る前に酒を飲むのを止めたが、国王と元皇帝は俺達の静止も聞かずにかなりの量を呑んだ。数十本近くあった酒の数々はあれよあれよという間に台車から消え、俺の部屋のテーブルに空き瓶として置かれていった。

 

「あー...そういや片付けてなかったんだ」


 ベッドから降りてみればテーブル周りは昨日のままだった。そこには勲章のように置かれる数々の空き瓶達が鎮座し、片付けられるのを待っていた。

 息子に肩を借りながら部屋を出ていったおっさんと、王弟に肩を借りて部屋を出たジジイの姿を思い出す。飲むだけ飲み、結果酒に呑まれた二人。


「アレ過ぎて怒る気力も沸かないな」


 片付けのことは後で考え、俺はクローゼットから服を取り出して着替えた。綿で出来たシャツにスラックスというラフな格好だ。

 昨日までは荒事向けの服を着ていたが、今日は違う。昨日、ジジイが当分は鍛錬をやらないと言ったからだ。


「流石に反省したんだろうなあ」


 そんなことを呟きながら、テーブルの上の惨状を視界に入れないようにして部屋を出て食堂へと向かう。

 廊下ですれ違う人達に挨拶をしながら、今日は何をするかを考える。外に出られない以上、することは限られる。

 自主的に鍛錬をしてもいいが、ただ殴られるだけの鍛錬をしてきた為に何をしたらいいか分からない。


「どうしたもんか...」

「なにがどうしたんですか?」


 振り返れば、想像していたよりも近くにオリヴィアさんの姿があった。碧い瞳でじっと俺を見つめながら、ぴこぴことケモノ耳を動かしている。


「近いな...」

「嫌でしたか?」

「嫌ではないけどな」

「ならいいじゃないですか。それで、何に悩んでいたんですか?」


 そう尋ねながら、彼女は廊下を進み始めた。


「今日は何をしようかなってな」


 俺は彼女の隣に並んで歩きながら、質問に答えた。

 それに対して彼女は「あー、なるほど」と言いながら、考え始めた。


「俺は外に出られないからな?」

「分かっています。まあでも、朝食を食べてからでも良いんじゃないですか?」

「ん、まあそうだけどな」

「私の勘ですが、今日は朝食の時に何かがある気がするんです」

「えらく限定して言うなあ」


 何かがあると言っても、恐らく彼女の好きなものが出るとかだろう。


「信じてないですね?」

「ああ。リアさん、いつもオリヴィアさんってこんな感じなんですか?」


 俺は後ろで付いてきていたオリヴィアさんの侍女に尋ねた。「ちょっと待ってください」とかなんとかが聞こえてくるが、無視を決め込む。


「...浮かれているだけですね。主の話の殆どは聞き流しても良いと思います」

「なるほど、分かりました」

「リア!何を言うんですか!」


 不服そうにオリヴィアさんが咎めた。


「オリヴィア様、淑女たるもの静かにしませんと」


 しかしリアさんはそんな主の様子にどこ吹く風といった態度だった。

 食堂に着くまでの間、俺は女性二人の会話をBGMにして向かった。

 食堂に付けば、アイザックとグラノフ殿下の姿があった。

 俺は二人に挨拶をしながら、最近定位置となっているアイザックの隣に腰掛けた。


「ユウジ、今日はフォレストボアを使ったハムが出てくるらしいぞ」

「へー、それは楽しみだ」


 朝からイケメンが眩しい王子と会話をしながら、料理が来るのを待った。


「そういえば、マリアはまだ来てないんだな」

「珍しくまだ来ていないな」


 因みにフリーシアで一番偉いおっさんとファシュトリアで一番偉かったジジイは酷い二日酔いの為に部屋で食事をとるらしい。


「おはようございます!」


 噂をすればなんとやら、少し慌てた様子で銀髪の聖女が現れた。


「叔父様はいらっしゃいませんか!」

「二日酔いらしい。何かあったのか?」

「神託を受けました」


 俺は思わずオリヴィアさんの方を見た。彼女は特に驚いた様子もなく、マリアの方をただジッと見ていた。


「ユウジさんを狙った者達についてです。彼らは本拠地を竜によって跡形もなく滅ぼされたと。そして、彼らが集めた邪神の欠片を回収するようにという神託を受けました」


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