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マトモ

「これを使え!」


 グラノフ殿下の声の後、俺の横に剣が突き刺さった。俺は剣を手にブタ野郎の元へと駆けた。

 援護する様に魔術が奴へと放たれた。流石に全身が傷だらけだと効き目があるのか奴は苦痛の声を漏らし、その隙をユリナさんとミオンさんが狙う。殆ど効いていなかった二人の攻撃がようやく通じ、大きな傷を作った。


「BUMOOO...」


 かなり効いたようで、奴は両腕を無茶苦茶に振り回し近づけさせない様にした。しかし、それでも間隙を縫いユリナさんとミオンさんの攻撃や、サティナ達による魔術が撃ち込まれ奴の傷が増し、次第に奴の動きは緩慢になっていった。

 俺は目の前に出来た氷の足場を使い、奴の頭目掛け両手で持った剣を逆手にして奴の頭蓋を貫いた。

 今まで全く効く様子の無かった俺の攻撃が奴に届いたことを手に伝わる感触で実感した後、俺はすぐさま剣から手を離しその場を離れた。

 退避した後、サティナ達の魔術やユリナさん達の剣撃によって奴は追い打ちをかけられ、痛みに藻掻きながらのたうち回り徐々に動きを鈍くし、最期には俺を見て笑みを浮かべながら、動かなくなった。


「終わった...」


 結局、俺を執拗に狙って来たことはわからず仕舞いだった。


「終わったな」


 ボロボロながらも変わらずにイケメンな王子が腰を下ろしながら声を掛けてきた。


「なんで俺を狙ってたんだろうな」


 イケメンがボロボロの姿に惹かれてしまう女性陣もいるかも知れないなあと下らないことを考えながら呟く。

 アイザックは「そうだな」と真剣に悩みながら、考えを巡らせていた。それを横目に俺もその場に腰を下ろし、死んだブタ野郎をぼーっと見つめた。


「自らの手で殺したかったのか、私達には分からないものを感じ取って狙ったのだろう」


 後ろから俺の話を聞いていたのか、近づいて来ていたグラノフ殿下が答えた。


「感じた、ですか...」

「ああ」


 そう言ってブタ野郎の元へと向かい、殿下は奴の頭に刺さった剣を抜き取った。


「すみません!そのままにして!それに剣も壊されてしまって...」


 慌てて立ち上がり謝罪をすると、殿下は気にするなと頭を振った。


「そんなことよりも、私は謝らなくてはならない。君を危険な目に合わせてしまって本当に申し訳なかった」


 俺の前に来て殿下は頭を下げた。

 ズタボロになったり殺されたりと確かに危険なことはあったが、不思議と何も感じない。思うことがあるとすれば、自分の体のことや黒髪赤眼の男に狙われたことに対する疑問ばかりだった。


「気にしてないですから...唯一あるとすれば、俺の体のこととかですね」

「...わかった」


 俺が本当に気にしていないと諦めてくれたようだ。


「ところで。君の体のことだが、考えられる可能性として加護が挙げられる」

「加護、ですか?」

「ああ、人以外の生物から授けられるものだ。効果としては色々あるが、その中に治癒力が高くなるものがある。効果としては異常な程だが、考えられることとして挙げられるのはそれくらいだ」


 話をしながら殿下も腰を据えた。それに合わせて俺も改めて座りなおす。

 殿下からは他に加護を授けた存在が精霊であることや、かつて授けられた存在達がこの世界に大きな影響を与えた者達だと教えられた。


「そして君が攫われたことだが...あくまで私見になるがゴルトラが言っていたレフィトという男が加護を持っていたからという理由で君を連れ去ったとは思えない。狙われるだけの価値が他に君にはあったが、加護が授けられていた為に不要だと判断して君を殺したんだろう」

「狙う価値...邪神関係ですかね?」

「おそらくな」


 邪神関係で俺は元々狙われていた。はっきりとした理由は不明だが邪神の欠片を集めるような敵だ、禄な理由ではないだろう。ましてや俺は殺されながらも悠々と生きている。確実に何かを仕掛けて来るだろう。


「私は他のオークが消えたことや突然攻撃が通るようになったことが気になりますね」


 優雅に俺の近くに腰を下ろしながら、サティナが会話に加わった。


「他のオークが消えたのは、あのオークが吸収し自らの強化を図ったのだろう。過去にもそういう例はあったと聞くからな。しかし総じて体が耐えきれずに自壊していく、そして...」


 殿下が立ち上がりブタ野郎の元へと歩を進め、奴の胸の辺りを剣で抉り取り一つの石を取り出した。


「通常の魔石とは違うものが得られる。しかしこれは過去の物ともかなり違うようだ」


 普通の魔石は凹凸のある丸い石だ。しかし見せられたのは黒く、何処か人の心臓のような形をした石だった。普通なら忌避感がするような形だが、不思議と惹かれるものが俺にはあった。


「通常の魔石と同じく魔力を帯び、大きいという点は同じだがこの形は初めてだろう。それにあまり良いものだとは思えない...どうやら馬達が来たようだ」


 殿下の視線を追えば、アレク達がこちらに向かっていた。

 俺の元へと来たアレクを撫でてやると嬉しそうに鳴いてくれた。


「加勢に向かいたいところだが、我々は魔力が枯渇し疲労もある。下手に行けば気を使わせるだろう。それに幾ら怪我をしないとはいえ、君のことを連れて行く訳にも行かないからな。帰還する」


 こうして、ユーフォレナでの俺達の戦いは終わった。

 帰路の途中にトラブルも無く無事に俺達は王城に着いた。

 陛下から戦いの様子を聞けば、各地からの援軍によって日没までには全てが終わるだろうという話だった。

 そして攫われたことや体のことから、俺を護るためにも当分の間は城から出ることを禁じられた。迷惑になりそうだからここを出たほうが良いのではないかと言ったが、迎え撃つ為にいて欲しいと言われた。戦力的に大丈夫かと思ったが、心配はないらしい。大船に乗った気持ちでいろと言われた。

 日没には戦いは終わり、戦士達が帰還した。中には亡くなった人や重症を負った者もいたが、かなり最小限に抑えられたらしい。







「大変だったんじゃないか?」

「ユウジさん程では無いですよ?」

「うーん...まあ、そうか?」


 王城の一室で俺とマリアは紅茶をお供に話をしていた。この部屋にいるのは俺達二人以外にはジャックさんだけで、ラナは報告も兼ねて侯爵家へと戻っていてここにはいない。


「何でも大怪我どころか、一度ならず何度も倒れられたとか」

「はい。服が血塗れになりましたよ」


 そう答えると老紳士は「洗濯が大変ですな」と笑った。


「ジャック、笑うことじゃありませんよ」

「此れは失礼致しました」

「まあ洗うどころかボロボロ過ぎて捨てなきゃならないと思うけどな...」

「確かにそうですな」


 男二人で笑っているとマリアに咎められた。


「コホン。それにしても不思議ですね、ユウジさんの体は」

「死んでも生き返るからな。けど...」

「けど?」

「何処までの怪我までなら大丈夫なのかなってさ」


 そう言うと目の前の少女は「確かに」と顎に手をやりながら考え始めた。


「首が切り落とされた場合や、四肢の欠損。溺死なんかの場合がどうなるかなんだよな」

「実際に試すには躊躇しますな」

「そうなんですよ」


 少女に目を向ければ、さっきまで起きていたのにこっくりこっくりと頭が動いていた。


「寝てますね」

「気を張っておりましたからな。ユウジ殿はお戻りを、流石に寝ていた姿を見られるのは恥ずかしいでしょうから」

「そうですね。おやすみなさい」


 部屋を後にし、自分の部屋へと向かう。

 廊下を歩きながら、今日の事を思い出していく。元の世界であればトラウマになりそうな事が多くあったのに、感じない。最初の方であれば感じていた筈なのにだ。死んだことで鈍くなったのか、それとも恐怖を薄くさせる力もあるのか。

 精霊の加護だという治癒の力。俺のようなこれといった特色の無い人間に与えるものなのか?もっと他に相応しい人物がいるだろう。

 そもそも本当に精霊の加護なのか?もっと別の加護じゃないだろうか、それこそ加護では無く―――。


「ユウジくん」


 エルフの女性が部屋の前に立っていた。いつの間にか部屋の前まで来ていたようだ。


「侯爵家で話は済んだ?」

「はい」


 部屋へ入り、椅子に腰を下ろす。ラナは座らないようだ。


「謝罪とかならいらないぞ」

「...」

「いらないからな?」

「...わかりました。ただ、今日あったことで違和感とかはなかったですか?」


 彼女の目は真剣だった。体に関することで違和感は無い、至って健康だ。


「無いな」

「...そうですか」


 そう言って、疲れているだろうからとラナは自分の部屋へと消えていった。

 窓辺に寄り、外を見る。

 俺はこの世界特有の魔力や戦闘経験も無く、文明に改革を起こせるような知識も無いが精霊の加護を授けられているとされている。


「普通なら喜ぶようなことかもしれないが」


 俺はこの加護の力がマトモなものだとは思えない。

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