表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/63

血の臭い

前話の最後、少し書き足しています。

 グラノフは階段を駆け上がりながら、自責の念に駆られていた。ユーフォレナに近づくにつれ、罠であることは感じ取っていたにも関わらず、邪神の欠片を奪われ、挙げ句にはユウジまで攫われる結果となった。自らの認識の甘さによって引き起こされたことだ。

 グラノフは邪神の欠片を欲する者達が存在することを知らなかった。しかし、それを言い訳にする事など出来る筈が無かった。易易と黒髪赤眼の男に転移魔術を用いて簡単に背後を取られ、振り返った時には男だけで無くユウジの姿まで無いという事態を引き起こしてしまった。

 グラノフにはあの男の目的はわからないが、ユウジを気絶させようとしたことからユウジの身柄の確保が目的の一つだったと考えられる。そして邪神の欠片を奪ったことからそれに付随される目的について、グラノフは思考の波に囚われそうになるがどうにか抜け出す、先ずやらなくてはならないのは男の目的を考えることではなく、ユウジを救出する為に必要なことを考えることなのだから。

 幸いにもユウジに渡した武器を介して位置は把握出来ている。ユーフォレナの首都からはそれほど離れていない場所だ。

 直ぐに救出に向かえる距離ではあるが、男の言ったことが本当であれば直ぐに向かうことは不可能だろう。なにせ男の仲間達は外にいる元七つ星冒険者を含めた実力者を全て足止めさせる程の実力者だからだ。そんな人物達がいるのであればグラノフが加わっても死闘は避けられない。最悪は全員ユウジを救うことなく死ぬことになる可能性もある。

 外の光が見えた。男と邂逅してからそれほど時間は経っていない。グラノフは未だ男の仲間達が存在し、死闘となることを覚悟して外に出た。外には6人の仲間達と、彼らと相対する黒いフード付きのローブを着た剃髪の男だった。

 現れたグラノフを見て、剃髪の男は軽く笑みを浮かべ、消え去った。

 役目を果たした、そんな笑みだろう。剃髪の男に対する怒りが沸くが、今はユウジを救出するという優先すべきことがある。どうにか怒りを押し殺し、グラノフはユウジが攫われたことを仲間達に伝え、救出に向かった。

 幸いにも脚となる馬は無事だった為、馬に乗って魔道具の反応を頼りにユウジの元へと急いだ。ユウジの元へ向かいながらグラノフは、部屋で自らの怠慢によって敵に転移魔術を使用された挙げ句、邪神の欠片とユウジの両方を奪われたことを仲間達に話した。

 首都を駆け抜ける。少しずつ反応のある場所へと近づき、あと少しで首都を抜ける所で突如、目の前に首都に来るまでは一切現れることが無かったオークやオーガ等の魔物達がグラノフ達の進行方向を塞ぐように現れた。

 見れば、魔物達には群生相の紋章がない。魔道具を破壊したことで紋章がなくなったのだろう。恐らく今頃王都では出し惜しみすることなく、全戦力でスタンピードの対処をしている筈だ。しかし紋章が消えているにも関わらず、魔物達は他の種を襲う様子は無い。原理は不明だが、魔物を操る術をあの男達は有しているのだろう。そして、ユウジが遭遇した時に紋章が無かったオークについて、単に魔道具の範囲外にいたという仮説をしていたグラノフだったが、魔物を操れる者達なのだ紋章等を消すことが出来ても不思議ではない。

 グラノフが考えている間にも魔物の数は増加している。普通なら人数差等を加味して逃げるという選択肢を取るべき場面だが、そんなことはしない。逃げれば、この先にいる青年を救えないのだから。


「私が隙をつくる。お前達は準備しろ」


 グラノフは腰に吊るす剣を抜いた。次いで、体内の魔力を解放して言葉を紡ぐ。


「我は戦う者。我は護る者。故に我は紡ぐ。庇護する者の過去を救い、未来を拓く為に」


 グラノフは魔力が集約されていく剣を頭上に掲げる。

魔物達はグラノフから発せられる魔力に今更危機を感じたのか、操られていることにより逃げずに一斉に向かって来た。

だがもう既に遅い。


「我が庇護する者を害する存在を滅する為に。《失滅》」


 掲げた剣を振り下ろし、魔術が発動した。膨大な魔力の奔流がうねりとなり、前方の魔物達を塵一つ残すことなく滅していった。収まったあとには何も残らず、出来たのは左右に広がっていた魔物達を分断した穴だ。その穴に向かって馬で駆けていく。発動された魔術に恐怖を抱いて動けない魔物が多い、しかし中には襲ってくる魔物もいたが仲間達の魔術によって撃退された。

 グラノフは剣が移動していることに気づいた。グラノフは剣がある方向で何が起こっているのかを知る為にミオンに問うた。


「残念ながら、魔物の声しか聞こえません。ですが僅かに魔物の臭いに混じって人の血の臭いがします」


 剣の方向からする人の血の臭い。それを聞いた瞬間、甥のアイザックとラティナが血相を変えて馬の速度を上げた。グラノフは最悪の事態を想像しながら、自分の馬の速度を上げた。






















 時は遡る。

 ユウジを魔術によって眠らせた男、レフィトはユウジを眠らせた後僅かに眉を上げていた。

 暫しレフィトがそうしていると、近くに黒いフード付きのローブを身に纏った剃髪の男、キュラスが現れた。


「成功致しましたな、レフィト様」


 ゴルトラ等を足止めしていたキュラスに名を呼ばれたレフィトは、手に持っていた邪神の欠片を渡した。

受け取ったキュラスは暫く欠片を見つめ、言った。


「いつ見ても素晴らしいですな。早く我等が主に会いたいものです」

「あア」


 キュラスの言葉に頷いた後、レフィトは眠らせたユウジを見た。


「しかシ...」

「どうかなさいましたか?」


 声を掛けてきたキュラスをちらと見た後、レフィトはユウジに視線を戻して質問に答えた。


「眠らせた時にレジストされたのサ」

「レジスト、ですか?」


 レジストとは自らの魔力を放出することで魔術的な干渉を阻む方法のことで、実際に行うには干渉を阻むだけの魔力と技術が必要となるものだ。


「この者からレジスト出来る程の魔力は感じませんが...」


 ユウジにはレジストを行える技術も無ければ、魔力も殆ど無い。普通であればレジストなど行える筈が無いのだ。それにも関わらず、キュラスはユウジにレジストされたと言ったレフィトの言葉に首を傾げる。しかし、レジストには魔力の放出以外にもあることに思い当たり、キュラスは答えた。


「まさかこの者が加護を持っていると?」

「そういうことダ」


 レフィトはユウジに加護を授けた正体について考えを巡らせた。

 加護とは基本、竜種や神獣等から認められることによって授けられるもので、恩恵として魔術的干渉からのレジストや怪我の軽減や治りを早くする等の効果を発揮する。

 しかし現在、竜種はここ数百年間ずっと秘境に籠もりきり、神獣達はレフィト達の管理下に置かれた個体以外は全て死んでいる。その為、ユウジに加護を授けられる存在は限られる。その一つとして女神アルティナが候補として挙がるものの、彼女が加護を授けられるのは代々の聖女とレフィト達にとっては憎い存在である勇者一人だけ、他が選ばれる等あり得ない。そして、それ等の存在以外にこの世界に来てごく僅かな時間しか過ごしていないユウジに加護を授けることが出来る存在は、人間以外の人種の始祖と大きく関係し、この世界の創生にも大きく関わるとされる精霊しか考えられない。

 ユウジが精霊から加護を授けられたという考えに至り、レフィトは眉をひそめた。隣にいるキュラスも同じ考えに至ったのだろう、苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 レフィトは仲間の予知によって邪神の欠片の回収と、その回収に必要なユーフォレナの建国王と同じ言葉を持つユウジを邪神の器とすることを目的とし、ユーフォレナ滅亡から今現在起こっているスタンピードを含めた計画を立てたのだが、ユウジに精霊の加護が授けられていることは誤算だった。

 邪神復活の為に利用するユウジがそのような人物であることはあまりにもレフィト達にとって不都合だ。なぜなら精霊からの加護は授けられた人数こそ少ないものの、かつて授けられた者達は皆、この世界に絶大な影響を与えた人物達ばかりなのだ。ユウジも例に漏れずそういった存在になる可能性がある。

 また、精霊が加護を授ける目的が世界の救済にあることから、邪神復活を掲げるレフィト達にとっては邪魔な存在でしかない。

 幾ら予知に不確定なことがあることが多いとはいえ、ユウジと欠片を確保する為に300年以上かけて計画したレフィトにとっては不愉快なことだ。

 邪神が元々異世界の人間だからこそ、同じ異世界から来たユウジを器にすることで親和性を上げ、全12個の邪神の欠片を用いて邪神を復活させるつもりだった。しかしユウジが加護を持つ以上、ようやく手に入った器になり得る存在を失うことになるが、邪神復活を阻まれることを天秤にかければ、処分した方が良いだろう。

 それに、器のことなど長命なレフィトにとってみれば、待っていれば手に入る存在でもあり、現在行っている実験が成功すれば器のことなど問題になどならない。ましてやまだ欠片は全て集まりきっていないのだ。焦る必要はない。

邪神の欠片が手に入れる。その目的が達成出来たのだから問題ない。そうレフィトは結論づけた。


「欠片の為に利用したケド、まさかそれ以外はボク達にとって不快な存在でしかないとは思わなかったネ」


 今やらねばならないのは此れから目的を阻む存在であるユウジを殺すことだ。

 レフィトは手に短剣を喚びよせた。装飾等が一切排除された、只々斬る機能だけを目的として造られた短剣だ。

レフィトはユウジに跨り、空いた手で地面に横たわったユウジの顔を軽く抑え、ユウジの首を短剣で一息に引き裂いた。

 ユウジの首から上がる血飛沫がレフィトに付着するが、本人に動じた様子はない。更にレフィトは短剣でユウジの頭と胸を貫き、確実に息の根を止める。頭蓋と肋骨が砕ける固い感触の後、柔らかい物を裂く感触がレフィトの手に伝わった。

 レフィトの行動にキュラスに動じた様子はない。レフィトがやらないのであれば代わりに自分がやっていたことだからだ。

 短剣を自分の空間に戻し、レフィトは立ち上がりながら魔術によって自らに振りかかった返り血を消した。


「完全に息の根は止めタ。殺すことになったのは仕方無イ」

「そうですな。魔物はどう致しますか?」

「当初の予定通りで構わなイ」


 そう言ってレフィトは転移魔術で姿を消した。

 キュラスは懐に入れていた魔物を操る為の魔道具の起動を解除し、自らも転移魔術で姿を消した。

 残ったのは無残な姿となった血だらけの青年だけだ。

 森には血の臭いが拡がり、魔道具によって動きを支配されていた魔物達が解き放たれ、血の臭いを頼りに魔物達が臭いの元へと向かっていく。

 血の臭いから傷ついた人間の物だと理解した魔物達はどのように喰らうかを考える。ある魔物は丸飲みして喰らうことを頭に浮かべ、またある魔物は好物である頭に齧りつくことを頭に浮かべていた。

 そしてある一体のレパルドが臭いの元の近くへと辿り着いた。レパルドの鼻に伝わる血の臭いが濃くなった。見た限りもう既に死んだ人間だろう、そう考えながらレパルドは他の魔物に奪われる前に喰らおうと近づいていく。


「ああ」


 声が聞こえた。他の魔物によるものでは無い。声が聞こえたのは人間の方からだ。まだ生きていたのかと驚いたレパルドだったが、人間はまだ地面に横たわったままだ。生きていたのなら仕留めれば良い、そう判断して一気に近づいてその首に喰らいついた。


「ぐっ、なんっだよ!」


 噛みついた瞬間、人間は暴れ出すがレパルドは全く首から離すつもりは無かった。腰に付けられた剣を人間が使ってくれば面倒だったが、事態を把握出来ていない人間は暴れるだけで剣にまで頭が回らないらしい。

 やがて人間の声がくぐもった声になり、声が小さくなっていった後、人間は動かなくなった。

 やっと食べることが出来る。そう思っていたレパルドだったが、周りに数体のゴブリンがいることに気がついた。

 ゴブリンはレパルドが仕留めた人間を狙っているのか徐々に近づいて来ている。

 レパルドは威嚇して追い払おうとするが、人為的に引き起こされたスタンピードのせいで現在ユーフォレナ森林は食料不足の為、ゴブリン達に退く様子はない。

 レパルドとゴブリン達が膠着している間に、その場所では人間の血の臭いにつられ他の種類の魔物達が集まってきた。互いに様子を伺うようにしていることで、集まる魔物が増えながらも何も起こらない。そして、ある魔物は気づいた。人間を狙わずとも、目の前に捕食対象がいるではないかと。

 最初は一体のオークが近くにいたゴブリンを襲ったことだった。そしてそれを切っ掛けに、その場にいた魔物達は他の種類の魔物を喰らい始め、力でねじ伏せて他の魔物を喰らうもの、足りない力を補う為に数の力で他の魔物を喰らうもの、巨体を活かして他の魔物を喰らうものと様々な力や特徴を使って魔物達が喰らいあう空間へと変貌した。最初に人間を見つけたレパルドもまた、空間に呑まれ人間を無視して他の魔物を襲った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ