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貰うヨ

 アイザックと話しているうちに、ユーフォレナと山岳地帯の間を通る。

 ユーフォレナの方は以前行った時のように様々な樹種があった。時折、蝶に似た虫が山岳地帯の方へと飛んでいくのが見えた。しかし、スタンピードが起きる程魔物が居るにも関わらず、魔物と遭遇することはなかった。

 対して山岳地帯だが、俺のいる街道からはそびえる山々の全容を見ることは出来なかった。時折不自然に街道近くで草や木が倒されている場所があったのが気になり、アイザックに訊いてみれば山岳地帯の魔物がユーフォレナへ移動した跡だと教えてくれた。ただ、やたらその数が多いことから山岳地帯からユーフォレナへ魔物が逃げた可能性が考えられるらしい。

 多くの魔物が山岳地帯を追われる原因としては、強力な魔物が山岳地帯を棲家としたことが特に考えられるようだが、ここ最近はそういった魔物が現れたという話は聞いていない為、あまり考えたくはないが人の手によって引き起こされた可能性があるという。


「異常だ。いくらスタンピードで王都に多くの魔物が向かっているとしても、雌や幼体の食糧を探す為や見回りの為に一定数は彷徨う魔物がいる筈、何故一度も魔物と遭遇しない?」

「おかしいわね...餌は死んだ魔物を食べれば良いでしょうけど、見回りをする魔物がいないなんて...使える魔物は全て雌や幼体を守る為に近くに待機させているのかしら?」

「それなら昨日の調査でわかっていた筈だ...罠か?」

「かもしれないわね...みんな、気を引き締めなさい」


 ピンキーちゃんの呼びかけに俺達は返事をした。

しかし罠か...俺達をあっさりと通らせてどうするつもりなのか。俺達の中には王族や貴族がいるからそれが理由か?それだと魔物だけでそういった考えに至るとは考えられない。十中八九罠に嵌めようとしているのは人だということになり、その人物は俺達を嵌める為に魔物に指示を出せる様な輩であることがわかる。

 だが、罠だとわかっても、俺達は引く訳にはいかない。事態の解決が早まればそれだけ人々を救えるのだから。

 馬で駆けながら、俺達はかつての首都に辿り着いた。

 道中で魔物に遭遇することはなかった。虫一匹でさえも。

 度々騎士団の遠征等で基地となるらしく、瓦礫などが取り除かれていた為、馬で王城があった場所へと向かうことが出来た。

 かつて大国があった場所を移動しながら、周りを見る。人が通れるよう、瓦礫が取り除かれ道になっている箇所もあるが、殆どが瓦礫の山だった。この状況にさせたのは地震や竜巻といった天災では無く、スタンピードというこの世界特有の災害だ。一国を滅ぼす程の驚異が、なんの前触れもなくこの国を襲った。かつての人々も対策はしていただろう。それでも、滅んでしまった。あまりに強大なスタンピードによって。


「なあアイザック。王国を再興しようとは、当時の人達は思わなかったのか?」

「勿論思った人もいたさ。だがな、あまりにも犠牲者が多過ぎた...当時の王国の人口の10分の1以下しか生き残ることが出来なかったんだ」

「そんなに、亡くなったのか...」


 人口の10分の1が亡くなってしまう程の災害。それが今起こっている。自然に起きたことではなく、何かが要因となってだ。


「アイザック。絶対に止めよう」

「...ああ」


 しばらく馬に乗った後、俺達はかつての王城に辿り着いた。

 かつては荘厳な城であったのだろうが、今は見る影も無い。かつての街と同じくただ瓦礫が転がっているだけだ。敢えて違いを上げるとすれば、瓦礫の中に風化してわかりにくいものの彫刻が彫られた跡や装飾の跡があることだろう。


「グラノフ。どの辺りか検討はつく?」

「ああ。恐らく代々の王族の執務室があった場所にある筈だ。ゴル―――。ピンキー、ここの瓦礫を頼む」

「はあい。わかったわ」

「叔父上、どうして此処だと考えたのですか?」

「大抵、王の執務室は2階以上に作ることが多いんだが、ユーフォレナの執務室は1階にあった。恐らく建国王は地下に部屋を造り、その後普段から自分が出入りしても違和感の無いよう執務室にしたのでないかと考えた」

「なるほど。ところで、どうして建国王は部屋に出入り出来るようにしたのでしょう?」

「恐らくだが、当時ユーフォレナは出来たばかりで、いくら邪神を討伐した後とはいえ、危険なことは多かった筈だ。その為に自分の国に何かあった際、他国に託せるよう出入り出来るようしたのだろう」

「グラノフ、あったわ!」


 そう言ったピンキーちゃんへ行くと、彼女の足元に地下へと続く階段があるのが見て取れた。見たところ、中は薄暗いが何百年も使われていないにも関わらず不思議と埃っぽさは感じられない。部屋へと向かうのは俺とグラノフ殿下だけで、他の皆は見張りをすることになった。

 階段を降りながら、俺は腰に吊るされた剣と短剣に意識を向けた。部屋へ向かう前、グラノフ殿下から護身用として渡されたものだ。魔物相手に逃げただけで戦ったこともなく、剣など降ったこともない俺にとっては与えられても困るが、丸腰でいられるよりは良いと言われれば持つしかないだろう。


「見えたぞ」


 グラノフ殿下の声で視線を前に向けた。そこにはドアプレートが取り付けられた簡素なドアがあった。見た目は唯のドアだが、一つだけ普通のドアと違う点があった。取っ手や窪みなど、ドアを開けたり引いたりする為のものが無いのだ。


「これが、部屋の入口。そして、これが文字か」


 ドアプレートには日本語で『扉を開ける時に有名な合言葉は?』と書かれていた。恐らくアラビアンナイトに出てくる呪文のことだろう。言葉を認識して開くようにするのはAIアシスタントに似ているような気がする。建国王は俺とかなり近い時代から来たのかもしれない。

 そんなことを考えながら、ドアに触れて言った。


「開け、ゴマ」


 瞬間、俺は触れていただけにも関わらずドアがスッと音も立てず開いていった。内心驚いていていたが、殿下に声を掛けられ意識を戻す。

 グラノフ殿下と中へと入る。部屋の壁や天井は様々な記号や言葉が刻まれた石で囲われていた。恐らくこの石一つ一つがこの空間を守る為に用意されたんだろう。

部屋の奥には、木で出来た棚があった。釘等で組み立てた物ではなく、木材と木材で噛み合わせたことで作られた棚だ。長期間棚としての役目を果たせる為に腐食を抑えられるこの棚にしたのだろう。

 棚には三つの物が置かれていた。一つはランタンような形をした物で、灯りに当たる部分に人の拳くらいの石が嵌められていた。そして残りの二つのうち、片方が鞘に納められた1本のナイフで、鞘と柄の部分に蝶の意匠が施されていた。もう片方は黒く、少し透けて見える破片だった。この破片が邪神の欠片と呼ばれるものだろう。


「グラノフ殿下、どうしますか?」

「この道具からは魔力が漏れ出ている。恐らくこれが原因となった魔道具だろう」


 殿下はランタン型の魔道具を放り投げた瞬間、魔道具が破壊された。あまりに一瞬の出来事でわからなかったが、投げた瞬間に殿下は剣を喚び、魔道具を斬ったのだろう。右手に剣が握られていることで把握することが出来た。


「まあ、さっきの魔道具が本当にスタンピードを起こす要因となったかは確認せねばわからないがな」

「そう祈るしかないですね」

「そうだな。残りの二つだが、このまま置いておくことにしてもいいかもしれない。此処はかなり強力な結界が張られているからな」

「結界が張られているなら、何故魔道具の影響が出たのでしょうか?」

「さっきの魔道具がスタンピードを起こした要因と仮定するならば、この結界は外からの影響は受けないようにするが、内側から外に関しては想定していなかったのだろう」

「お話のところ、少し良いカナ?」

「「っ!」」


 この場で聞こえる筈がない、俺と殿下以外の声が聞こえた。

 振り向いた先にいたのはサラサラとした黒い髪を持ち、赤い眼をした年齢不詳の男だった。男は口元に笑みを浮かべ、俺達の様子を見ている。


「貴様、何者だ?此処に来るまでに人がいただろう?」

「ボクの仲間が足止めしてくれているヨ、グラノフ殿下」


 男は笑みを深くして殿下を見た。眼は何処か今の状況を楽しむかのように笑っている。


「足止め?ゴルトラ含め、並大抵の者では止めることは不可能だと思うが?」

「世の中は広いってことダヨ。ボクはね、欠片に用があって来たんダ。渡して貰えるカナ?」

「何に使うつもりか知らんが、断る。得体の知らぬ者には特にな」


 毅然として殿下が言い放つと、男は更に笑みを深くして、殿下では無く俺を見た。瞬間、凄まじい怖気が俺を襲った。オークに会った時と比べ物にならない程の恐怖を感じる。背中に冷たい汗が伝い、呼吸が浅くなる。徐々に意識が朦朧とし始めた。


「へえ、面白いネ。普通なら気絶してもおかしくないノニ」

「おい!しっかりしろ!」


 殿下に俺の肩を揺さぶられたことで意識が戻っていく。


「大丈夫か?」

「...はい」

「ふうむ、確かに面白い人間と会えたナ。予知のとおりダヨ」

「予知?なんの事だ?」

「此処に欠片があって、手に入れるにはそこの人間が必要で、その人間が面白いという予知ダヨ」


 予知によってこの場所と欠片を手に入れるのに俺が必要だということを知ったらしい。欠片を手に入れることを目的にしているのならば途轍もなく自分達にとって理想的な予知だろう。そして男が言った俺が面白いというのはどういうことなのか。


「此方からすればとんでもない予知だな」

「かもしれないネ。ところでサ。話すのに飽きたから、貰っていくヨ」


 そう言って男は一本のナイフを投げた。ナイフは俺の後ろにある棚に突き刺さり、俺に刺さることはなかった。俺が無事なことを確認した殿下は一瞬で男へと近づき、剣を一閃した。

 男が腹から切り裂かれる姿を幻視した俺だが、実際はそうならなかった。男がいた場所にはナイフが地面に落ち、俺の後ろに人の気配がした。さながら、ナイフと男の位置が入れ替わったかのような現象だ。


「殿下、貰っていくヨ。欠片とこの男ヲ」


 そう後ろから声が聞こえた瞬間、俺のいた場所は石に囲まれた部屋から木々に囲まれた場所へと一変した。


「ここは...」

「教える義理はボクにはないネ」


 そう聞こえた瞬間、俺は口と手足を鉄の輪で拘束された。冷たい感触が手を伝い、口には鉄の味がした。


「下手に反抗すれば、絞まるヨ」


 男はそう言って、邪神の欠片を手で転がしながら俺を見つめ、徐々に近づき始める。

 どうにか身を捩り逃げようとしたが、男が言ったように輪が絞まり始める。


「んんっ!」

「はあ、動かなければ緩めてあげるヨ」


 痛みに耐え、じっとしていれば輪が緩んだ。それでもかなり強力に絞まった為、輪が緩んでも鈍い痛みが残った。


「別にとって食おうって訳じゃ無いヨ。君に価値があるのか知りたいんだヨ。まあ他にも理由はあるけどネ」


 笑みを浮かべながら、男は俺を見た。その目は、玩具を前にした子供のようだったが、俺はその目を見て震えが止まらなかった。

 欠片や予知など、男が部屋にいた時に話していたことから邪神の欠片が目的だったことはなんとなくわかるが、価値や他の理由といった曖昧な情報だけしか与えられていない為、俺を何の目的で連れて来たのかがわからない。


「怯えなくても良いヨ」


 男は邪神の欠片を転がす反対の手を俺の頭の上に置いた。只々恐怖だけが俺の体を駆け巡る。


「動かれると面倒だから拘束しただけデ、君は眠るカラ」


 男の言葉の後、俺の意識は遠くなった。

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