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第8話 孤独な少女の叫び

黒い下着を見上げる数分前。

俺たちは静かに教室を出て、トボトボと廊下を進む吉永さんを追いかけていた。


「あと10分も経てば始業のチャイムが鳴る。それまでに彼女と話をしておきたい」

「ならトイレに行かないことを願うばかりだね。しかし……どこへ行くつもりなのかな?」


首を傾げたベルと共に校舎の外へと歩いていく姿を見つめる。

まさか帰るつもりじゃないよなとも思うが、鞄は教室に置いているようだし見当違いだろう。


「ふむ、どうやら体育館の方に向かっているみたいだよ。朝の部活動も終わっている頃合いだし、一人になれる場所ならいくらでもあるはずだ」

「あんなことがあったんだ、誰もいない所の方が落ち着くんだろう」


人気のない体育館の傍なら、俺たちが会っていたことがいじめグループに伝わることはないだろう。

だからこの流れはこちらとしても好都合だ、そう思いながら少し歩幅を広げて。


「よし、話しかけるぞ」


ちょうど吉永さんが立ち止まった所に俺は近付いた、その瞬間。


「ちょっといいか、よしな——」

「——!?」


そうして俺の身体は宙へと転がり、彼女の下着を見て閉まって。


「……だ、大丈夫ですか?」


あわあわと目を回しながら、膝を折って俺の様子を覗き込む吉永さん。

そんなことをするからまたスカートの中がこちらへと向けられて、更に至近距離で秘境があらわになる。

……一瞬見てしまったが、何とか彼女の顔へと視線を反らした。


「大丈夫に、見えるか?」

「あ、いえ、その……ごめんなさい。咄嗟に投げて、しまって……」


とても心配そうに透き通るような声音で謝ってくる。

ついベルと対話するときのように話してしまったせいで、やや萎縮させてしまったらしい。

ちらちらと見える誘惑をさておいて、俺も慌てて頭を下げた。


「いや、急に驚かせてしまって悪い。ちょっと吉永さんに聞きたいことがあってさ」

「き、聞きたいこと……ですか?」


こちらが目的を告げると、何を言われるのかと警戒した眼差しに変化する。

だが問題ない、こういう時の為に彼女と来たからな。


「ベル。同性の方が話しやすいだろうし、軽く説明してやってくれないか?」

「……ああ、勿論だとも。だがしかし先にハッキリしておくべきことがある」


何故か足音を強く響かせて近寄るベル。

そしてそのまま彼女もしゃがんで、ニヤリと笑った。


「ほうら、私の方が刺激的だろう? いくら目に入ったからと言って、他の女子のパンツを凝視するのはいけないな」

「えっ……ひやぁ!?」


真っ白な布地を見せつけながら告げたベルの言葉で、吉永さんは自分の下着も見られていたことに気が付いた。

ぼふんと音が鳴るかのように顔を真っ赤に染めた彼女は、慌てて両手でスカートを押さえて立ち上がる。


「ば、馬鹿! 凝視なんてしてねえよ」

「ほーう? だが見たのだろう?」


なんで急に機嫌が……そりゃそうか、自分の好きな人が他の女子のパンツを覗き見ているなんて嫌に思われて当然だろう。

でもこれは不可抗力だろ、俺から指摘するのもアレだし。


「み、見た……んです、か?」


とても恥ずかしそうに後ずさる彼女に、俺は身体を起こしてから深く頭を下げた。


「悪かった。だが本当に見るつもりはなかったんだ、許してくれ」

「犯罪者はいつもそう言うんだ」

「ベルはどっちの味方なんだ……?」


まだ不機嫌なようでそっぽを向く幼馴染。

曖昧な関係とはいえ恋人である彼女にも謝らなければならないけど、悪いがここは吉永さんを優先させてもらおう。

ベルには帰った後にでも沢山時間を作らなければ。


「あ、あの……!」


何と酌量してもらおうかと考えていた所に、彼女まだ頬を火照らせたまま声を掛けてきた。


「その、わたしも……投げちゃって、ごめんなさい。だから、おあいこで……どうですか?」


かなり失礼なことはしてしまったが、どうやら許してくれるらしい。

今から彼女に聞くのは、警戒されていては不可能なことだったからな。


「吉永さんがそれでいいなら、ありがとう」


随分と勢いよく投げられたが、彼女がギリギリで力を抜いてくれたのか痛みはほとんどない。

本当に投げる気がなかったのかは分からないけれど、少なくとも傷付けるつもりはなかったのだと思う。


「私のパンツは見ないのか?」

「どうしてそこまで固執してるんだお前は……」


寿命が1年になったせいで、幼馴染の頭が変になってしまった。

ほれほれとわざとスカートを持ち上げて見せてくる彼女の頭にチョップを入れていると、警戒していた吉永さんが少しずつ近付いてくる。


「さ、笹原くんと、白山さんは……や、やっぱり付き合ってるん……ですか?」

「ふふっ、ご明察だ。吉永……いや、(こころ)ちゃんと呼ばせていただいてもいいかな?」

「え、あ……う、嬉しいです」


恋人であることを認められて嬉しいのか、グイグイと距離を縮めていくベル。

お前に頼ったのは同性特有の親しみだったから狙い通りだが……調子に乗られるとそれはそれで面倒そうだな。

今回は不機嫌さを消し飛ばしてくれたから、吉永さん様様だ。


「さて、改めて。吉永さんに聞きたいことがあってベルと一緒に君を追って来たんだ」

「き、聞きたいこと……ですか? その、わたしに、答えられる……かな」


答えられるかは彼女の想い次第。

一度ベルと目を合わせ、こくりと頷いたのを見てから、大きく息を吸って。


「俺はずっと吉永さんがいじめられているのを見てた。なのに止めもせず、自分には関係ないと見ない振りをしてきた」


前髪の奥から薄っすらと見える、丸く大きな瞳が不安そうに揺れる。

その髪の隙間から見える双眸(そうぼう)にしっかりと視線を合わせて。


「でも最近ちょっと変わる機会があったんだ。そういう自分をやめて、なりたかった姿になりたいと決意できるようなことがさ。だから俺は、知らない振りをしてきたものに終止符を打ちたいと思っている」


そんな手のひら返しを、どうしようもない偽善を許してくれるのであれば。

俺にこの手を伸ばさせてくれないかと告げて。


「だから聞かせてくれ。吉永さんは——今のままで満足か?」


そんな酷く自分勝手な問いに、彼女はゆっくりと涙を零して。


「勝手なこと、言わないで……くださいっ!」


心温まる綺麗な声が悲痛な叫びへと変わり、俺の心に突き刺さるように響き渡った。

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