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第3話 幼馴染と生存競争

「全く、いきなり荷物を投げてくるのは駄目だろう。私が一体何をしたって言うんだ」


学校への道すがら、隣を歩く幼馴染から恨めしそうな声が聞こえてくる。

確かに突然投げたことは悪かったが、それ以上に彼女の行いには文句を言いたかった。


「お前が母さんに俺のことを話したのが悪い」

「仕方ないだろう。真菜さんに教えてほしいってお願いされたんだ、お世話になっている私が黙っている訳にはいかないじゃないか」


ベルだから黙っておいてくれていると思っていたが、親元を離れているこいつも保護者代わりとして面倒を見ている母さんには頭が上がらないのだろう。

その結果、何故か真菜()さんに敗北感を覚えてしまったが。

まあへそを曲げるのはこれくらいにして、素直に頭を下げておこう。


「悪かった。お前に当たるのはお門違いだったな」

「ふふっ、埋め合わせは期待しておくよ?」


ベルは身体を前に倒して、こちらの顔を下から覗き込んでくる。

朝日を反射する銀糸と柔らかな制服の膨らみを重力に任せて揺らしながら、得意げな表情で見つめられた俺は何となく恥ずかしくて視線を反らした。


「……なら、今日は晩ご飯食べていけよ。母さんも会いたいって言ってたからな」

「素直じゃないなあ。私と一緒に食べたいんだって言えばいいのに」


言ってやるものか。

例えそれが本心だったとしても、そんな恥ずかしいことは口に出来ない。

伝えたら調子に乗ることくらい優に予想できるしな。


「とにかく用意はしておくからな。夕方にはこっちの家に来ておいてくれよ」


そっぽを向いたまま言うと、彼女は心底嬉しそうに頷いた。


それから他愛のない話をしつつ数分歩けば、俺たちが通っている高校へと辿り着く。

校門へと生徒が吸い込まれていくのを見守る教師に小さく会釈をして、手慣れた動きで靴を履き替えた後は、階段を上って2年生の教室が立ち並ぶ廊下へとやってきた。

そして長い時間を過ごす部屋へと入ろうとした時、その扉を塞ぐように数人の男子グループが談笑に励んでいる姿が見えた。


「……またあいつら、あんな所を溜まり場にしてるのか」

「周りが見えなくなる程に集中するのは良いことだと思うけど。それで他のクラスメイトに迷惑を掛けるというのは、あまり褒められたことじゃないね」


ベルと顔を見合わせると、彼女も俺と似たようなうんざりとした顔をしている。

こういう時に邪魔だから退()いてほしいと言えればいいのだけれど。


「でも、話しかけるのはなあ……」


俺とベルは同じクラスだからお互いに話す機会は沢山ある。

だが他の生徒とはほとんど会話を交わすことがない。


「ベルが冷たい視線でも向けて文句を言えば撃退できんじゃないか?」

「おいおい、それじゃあ私が悪者になってしまうじゃないか。いじめられでもしたら泣くぞ?」


そりゃそうだ、俺だってお前がいじめられるなんて絶対に嫌だ。

今でも教室には小さないじめというものは存在する。

ニュースでは度々問題視されているが、人の集まりである以上表面化していない物は意外にあるものだ。


「標的にされたくない、あまり人に関わりたくもない。そんな自分を再確認すると吐き気がするな」

「仕方ないさ。誰だって自分が可愛いと考えるものだからね。それは彼らだって同じで、今は自分たちの楽しさを優先しているからこそ扉の前に蔓延(はびこ)っているんだろう」


廊下の窓側へと身を寄せて分析をしていると、彼らの中で一人だけ視線が合った。


「おや、また睨まれてるみたいだね恭也」

「他人事みたいに言ってるけど、あいつに関しては割とお前も関係してるからな」


金髪へと染められた髪に、眼力だけでそこらの不良が吹き飛んでいきそうな厳つい顔。

遠くから見てもあいつ不良なんだろうな、と分かるような林という生徒は怖い見た目をしていた。

むしろ世間の悪いイメージに合わせていってるかのような姿だ。


そんな彼は俺を視界に入れる度に舌打ちをしたりギラギラした目で睨んでくる。

正直怖いし心臓に悪いのでやめてほしいが、こちらを射殺さんとする理由は既に分かりきっていて。


「相変わらずベルに惚れてるみたいだな」

「ふっ、私の美貌が罪なのさ」

「また鞄投げつけてやろうか」


その現場を見られたら大義名分を得たと言わんばかりにあいつが掴みかかってくるだろうから、やらないけど。

いや、決して怖いからじゃない。ただ面倒だからだ。

夜の街で喧嘩してるらしいとかいう噂を耳にしたからじゃない、と脳内で誰かに言い訳をする。


「少なくともあんなチンピラは私の好みじゃないけどね」


げぇと吐き気を表すように舌を伸ばしてから、彼女はそう呟いた。

まあ見た目だけなら群を抜いてるし、ベルの隣に不良くんは似合わないだろう。

そんな想像をするだけで俺だってイライラする。


「それでどうする? 彼らをぶん投げて教室に入るかい?」

「インドア系二人でどうやって投げるつもりだよ、それにいじめられるような事はしないんじゃなかったか?」

「圧倒的な力があればいじめられないだろう?」

「じゃあ神様にでも祈ってみるか、あいつらを千切っては投げられるような力をくださいって」


まあ、そんなことしなくても逆側の扉から入ればいいだけだが。

歩く距離が少し増えるくらいなら許容範囲だし。


本当はビシッと叱って彼らを退けたいとも思うが、そんな勇気も立場も俺にはなかった。

それに話しかけてしまえば、これまでの苦労が泡になってしまうし。

そう思って足を踏み出そうとした瞬間。


「もー! そんなに集まってたら邪魔でしょっ、他の人のことも考えなさーい!」


鋭い指摘だがその声に冷たさはなく、むしろ明るさと元気に満ちていて。

そんな鶴の一声みたいに場の雰囲気を変えてしまう存在は、俺が知る限りでは一人しかおらず。


友梨(ゆうり)の前で、迷惑な行動は許しませんっ!」


頬を膨らませながら指先を彼らへと向けながら、腰に手を当てて焦げ茶色のカントリースタイルと呼ばれるツインテールを揺らめかせる少女。

クラスで一番のムードメーカーが、そこに仁王立ちしていた。

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