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平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています  作者: 空月
本編2

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21話



 それから数日。ルカはなにくれとなくフィオラの世話を焼いた。


 食事を持ってきては魔法使いの宿舎の決まりを念のためにと教えてくれたり、甘味を持ってきてはどれが好きかこれが好きかと訊いたり、服を持ってきてはこれは好みか動きやすいかと訊いたり。ちょっと引くくらいだった。

 服に関しては元々持っていた服を変化させたらしい服が何着か荷に入っていたのでそれでいいと言ったのだが、「せっかくだから」と押し切られた。何がせっかくなのかわからなかったが、笑顔に負けた。フィオラの今の人生経験で、顔のいい押しの強い相手の躱し方は残念ながら会得していなかった。


 ルカは何人かの魔法使いにも会わせてくれた。「フィーが仲良かった……と思う人だけど、古くからの知り合いはいないみたいだ。ごめん」と謝られたが、そこは自分の知り合いの少なさにフィオラが申し訳なくなるところだと思った。


 『呪われた』ことはあまり広めない方がいいとローシェ魔法士長に言われていたので事情は説明できなかったが、彼らは幼くなったフィオラにも驚きはしなかった。「最初に小さくなった時の方が驚いた」と一様に言われたのでルカに詳しいところを聞いてみると、数か月前にフィオラの魔法の『代償』――『魔法を使うと確率で暴発するが、自分にのみ影響する』によって、フィオラは突然幼い姿になったらしい。そこから『子どもの姿になる魔法』を編み出したのだそうだ。確かに事情を知らなければ二度目の事象、『記憶がない』というのもそれに伴う副作用とでも思われるだろう。


 そうして今日は、買い出しに行こうと言われてルカと外出し――何故か腕に抱えられているところだった。



「……はぐれたら危ないからと言っていたが、それなら手をつなぐのでもよかったんじゃないか?」



 言いくるめられ抱えられてしまった後で言うのもなんだが、外に出るとこの年頃で大人に抱えられている子どもというのは少ない。奇異の目で見られるのではないかと思っての問いだったが、「でもこの方が効率がいいから」と言われてしまうと返す言葉がない。何せ成人男性と幼い子どもだ。歩幅からして違う。



「ふふ、前の時を思い出すな」


「前?」


「フィーが最初に小さくなった時も、こうやって外出したから」


「……」


「あの時は、フィーはもう少し幼い姿だったけど」



 今はフィオラの中身も外見相応だが、その時は中身は成人していたのでは、という疑問は口に出せなかった。恐らく同じように押し切られたのだろうことがありありとわかってしまったので。


 「最近評判の軽食屋ができたんだよ」と言ってまず連れてこられたのはいかにも真新しく、話題にされているとわかる賑わいの店だった。

 てっきりそこで食べるのかと思ったが、「こういうところで食べるのは落ち着かないだろう?」と持ち帰り用のものを買いながら言われた。店自体は調理場しかなく、店先に椅子と机が置いてある形式のものだったので、確かにそうなのだが――どこまで好みを把握されているのだろう。


 それからいくつか店を回って、保存食なども買い込む。「フィーはこれとかよく買ってたよ」と横から助言をくれるのはいいのだが、だからどこまで把握しているのだろうかルカは。


 その間も、荷物が増えても、ずっと抱えられていた。せめてもと思って荷をひとつ引き受けたが、「フィーは変わらないなぁ」と微笑ましげな視線を向けられたのが解せない。



「――噂には聞いてたが、この国は『魔法使い』が普通に暮らしてるのかい?」



 その最中、そんな声が聞こえた。

 どうも、新しくシュターメイア王国に来たばかりの人物が、周りに話を聞いているらしい。



「そうだよ。この国は魔法士長様が『悪い魔法使い』の根絶を掲げているからねぇ、他よりは『魔法使い』が生きやすいってんで、自然と集まるようになったんだよ」


「でも、そこらに行きかう人が『魔法使い』かもしれないってことだろう? 恐ろしくは思わないのかい? ……『悪い魔法使い』も『善い魔法使い』も、見た目じゃわからないだろう?」


「そんなこと『善い魔法使い』さんたちに聞かれたら気を悪くするよ。普通に接すれば普通の人たちなんだからねぇ」


「そうは言ってもよぉ……」



 ルカの歩みに合わせて遠くなり、それ以上は聞けなかったが、十数年経っても『魔法使い』への見方は変わらないらしいと察せられた。

 ルカの耳にも届いたのだろう。気遣うような目で見つめられるのに、軽く首を振って応えた。こんなことくらいで傷ついたりするようでは、『魔法使い』はやってられない。――まあ、こういうのを煩わしく思ってシュターメイア王国に逃げ込み保護を求める『魔法使い』も一定数いるわけだが。

 フィオラはただの『魔法使い』として国にいるのではなく、『魔法士』として働くことを決めた身だ。『魔法使い』ということを前面に外向きの仕事をすることだってあるのだから、気にしてはいられない。



 ルカもそれ以上何かを言うこともなく、その後は何事もなく魔法使いの宿舎に帰った。

 宿舎の中でまでも抱えられるのはさすがにどうかと思ったのでダメもとで下ろしてもらえないかと言ったものの、「少しの距離だから」とまたも押し切られた。さすがに暴れて下ろさせるわけにもいかず(というかそんなことをしたら傍から見たら駄々をこねて下ろしてもらう子どもそのものだ)、結局部屋までその状態だったのだった。




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