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平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています  作者: 空月
本編2

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1話



「あの魔法がまだ開発中なのは知ってます! でもどうしても使ってほしいんです! お願いします!!」



 『悪い魔法使いの根絶』を掲げるシュターメイア王国の中心にある、魔法使いの宿舎。

 そう言って床に額をこすりつける人物を前に、フィオラ・クローチェはほとほと困っていた。



「……とりあえず顔をあげてくれないか、ガレッディ副団長」



 そう、フィオラの眼前で土下座しているのは、フィオラの親友・ルカ=セト騎士団長の直属の部下――ジード・ガレッディ副団長だった。


 顔を上げた彼は真剣な面持ちだ。仕事の話をしに来たのだから当然とも言えるが。

 常は軽いノリの口調もきちんとしたものに変わっている。あまりそういった面に触れていなかったフィオラは違和感を覚えながら、言葉を続けた。



「そう頭を下げてもらわなくても、要請があれば協力する。仕事ならなおのこと」


「クローチェさんがそう言ってくれるとわかってるからこそ、筋を通したいんです」


「その心意気は有り難いが……。しかし、未完成の魔法だぞ」


「承知の上です!」



 フィオラは黙考した。

 ガレッディ副団長がフィオラに要請してきた内容はというと、開発中の魔法――先日、ひょんなところから着想を得た、子どもの姿になる魔法を使ってほしいというものだ。開発中とはいえ、ある程度の確立はしている。というか自分では実験済みである。魔法使いではない人間にはまだ実地で試していないが、理論上は可能である。

 本人も承知の上のことであるし、はいわかりましたと頷いても誰も責めないところだが、そもそもガレッディ副団長がその魔法を使ってほしいと言い出した理由を察しているゆえに、迷うところがあるのだった。



「話を整理しよう。とりあえず座ってくれ」



 入室伺い、許可、入室即土下座だったため、ガレッディ副団長は床に直接座っている。とりあえず椅子を勧め、彼が着席するのを見届けて、フィオラは口を開いた。



「ガレッディ副団長。あの魔法を使ってほしいというのは、ラゼリ連合王国で起こっている事件の関係でだな?」


「そうっす。団長が隣国の祝典に行ってるんで、その件はオレがあたってるんですけど、手詰まりで。情報もろくに集められないし、こうなったら子どもの姿で潜入するしかないかと」


「あの事件については、私も漏れ聞いているが……確か、魔法使いの子どもが行方不明になっては、『悪い魔法使い』として現れるんだろう? 魔法使いが潜入した方がまだいいんじゃないか?」


「でもラゼリ連合王国のあの辺りは魔法使いの扱いが悪いっすから……だからあんな事件が起きてるっぽいですし。あんまり『善い魔法使い』の皆さんを関わらせたくないんすよね」



 そこまで聞いて、フィオラは得心がいった。どう考えても魔法使いそのものと協力して事に当たった方がよさそうな案件なのにそうされていなかった理由は、この副団長の人の好さゆえだったらしい。まあ、人の好さだけでなく、多少の危惧があってのことだろうが。



「確かに、魔法使いの扱いが悪い地域らしいな。事件の概要を聞くだけでも嫌な思い出を想起する魔法使いは多そうだ。だから魔法士長も全体にその話をするのは避けたようだったし」



 この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。

 その二つの違いは魔法を使用する際の代償が自己で完結するか、しないかで決まるが、『善い魔法使い』が『悪い魔法使い』になることもある。その条件は詳しくはわかっていない――ということになっている。

 なので、とりあえずは『善い魔法使い』には無理強いなどして嫌なことをさせないようにしよう、というのが全体的な風潮になっている。人に絶望したり害意を抱いた者が『悪い魔法使い』として現れる例が多いためだ。


 しかし、シュターメイア国の管理下にいる魔法使いで、積極的に働いている魔法使いは『悪い魔法使い』の根絶に意欲を燃やしているものがほとんどなので、嫌な思い出はむしろやる気に繋がるだろう。となると問題は、国の管理下にはあるが、とにかくもう嫌な思いはしたくないと引きこもっている魔法使いだが、こちらにはそもそも無理やり話をしない限りは噂すら流れていかないのでそう心配しなくても大丈夫なはずだ。

 全体として積極的に働きに出ている魔法使いというのは少ないので、すぐに動ける人員もいなかったというのも協力要請がなされなかった理由にあるのだろう。フィオラも別件が終わった報告でディーダ・ローシェ魔法士長――国の管理下にある『善い魔法使い』の統括者である――に会ったときに事件のことを聞いたばかりだった。「手が空いたならちょっと探ってみてよ」という言葉と共に。

 これは巡り合わせだな、とフィオラは思った。



「理論上は可能だが、他者にあの魔法を使用するのはまだ不安が残る。……私が子どもの姿になって協力する、というのでよければ、魔法を使おう」



 申し出れば、ガレッディ副団長は最初こそ「えっそんな、クローチェさんの手を煩わせるのは!」とか「危険な目に遭うかもしれないのにダメっす!」などと固辞したが最終的には折れた。よっぽど手詰まりらしい。


 「ローシェ魔法士長に正式に協力要請出してきます」とガレッディ副団長が退室しようとしたので、フィオラもそれについていくと告げる。



「協力要請だけなら俺だけでも問題ないっすよ?」


「ローシェ魔法士長に提案したいことがある。ただ、これは私の都合だから、私の口から伝えた方がいいだろう。それだけのことだ」


「クローチェさんがそう言うなら……」



 と、結局二人で連れ立ってローシェ魔法士長の元へ向かう。

 ガレッディ副団長と肩を並べて歩いていることになんとはなしに違和感を覚えて、『フィーのに関することは俺の管轄になってるんだ』とか言っていた親友の存在が頭を掠めたが、フィオラは意図的に思考を止めた。本人が国外に行っている以上、考えても仕方ないので。



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