プロローグ
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「フィーの傍にずっといられなかったのは悲しいけど、また子ども姿のフィーが見られたなら遅れてきた甲斐があったな」
フィー……フィオラを抱き上げてにこにことそんなことを言うのは、フィオラの属する国一番の騎士と名高いルカ=セト騎士団長様である。この辺りでは珍しい、月の光のような銀の髪、薄い氷を彷彿とさせる瞳の色と、怜悧で整った美貌から『氷の美貌の騎士様』だなんて恥ずかしい通り名まで持っている。今のデレデレした様子からはまったく連想できないが。
「またおまえはそういうことを……というかだきあげるな。子どもあつかいするな」
「そう言われても、フィーの可愛らしさを前に抱き上げないなんて無理だよ」
「まっすぐな目で言うせりふか?」
下ろす気はないらしく、腕に腰かけさせられる。安定感がばっちりなのがなんだか癪だ。
「というか前も言ったが、このすがたの私をかわいいとか言う思考がわからない。じぶんで言うのもなんだが、とんでもなくかわいげがないと思うぞ、私は」
かろうじて声に抑揚がなくもないだけ、というレベルの不愛想さだという自覚があるので、ルカの言動がとても解せない。以前には上司に「子どもの可愛さをすべてかなぐり捨てたみたいな不愛想だ」とのお言葉を頂いたくらいだ。客観的に見てもかわいげがないはずだ。ついでにとある事情で体のあちこちに傷痕もある。哀れそうな子どもだという感想を抱くならまだわかるが。
「フィーはフィーであるというだけでかわいいよ」
「……そのせりふは、私が本来はおまえとどうねんだいでとしそうおうのすがたを持っていることを思い出してから口にするかかんがえてもらいたいものだな」
「元の姿のフィーも、種類は違うけれどかわいいと思っているよ。だから今のフィーはなおさらかわいい」
「おまえのしんびがんのしんぱいをするのが先だったか……」
溜息をついて、フィオラは事の起こりを思い返した。




