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10話



 置いても問題なさそうな場所に荷物を下ろして、話を切り出す。



「私のケガのはなしだが」



 途端、ルカは居住まいを正した。



(そんなに改まられるような深い内容はないんだが……)



 とはいえ、客観的に見て軽い話でもない自覚はある。それを察しているから、ルカもこのような態度をとるのだろう。



「さっしているだろうが、あれはじんいてきにつけられた傷だ。ただころんだとか、うっかりはもので切ったとかいう傷じゃない」



 ……それであれだけ傷だらけになるような人間はいないだろうが。もしいたらうっかりで子どものうちに死んでそうだ。



「あのすがたのころの少し前か。私は『悪い魔法使い』にさらわれた。よくあるはなしだ。『代償』をたにんに課す『悪い魔法使い』はよくひとさらいをするからな。それで、私をさらった『悪い魔法使い』の代償は、『たにんのくつう』だったんだ。それで、あんな姿だったというだけだ」


「代償が『他人の苦痛』……だから痛みを与えるために傷つけられていたと?」


「そういうことだ。じまんじゃないが、私はごうもんにつよいと思うぞ」


「本当に自慢じゃないな……」



 真面目に返されて、場を和ませようと冗談を交えてみたのに全然和まなかったことにちょっとばかり悲しい気持ちになるフィオラ。



「だが、そうたたずに助かったから、私はこうしてここにいる。そうしんこくになることじゃない」


「深刻になるなというのは無理だが……長く囚われていたのではなかったのなら、まだよかった」


「そのときに『魔法使い』になったんだ、私は。あいてより私のほうがつよいじしょうを起こせたからたおせた。それでにげて、ほごされた」


「そうだったのか……」



 『魔法使い』になるきっかけは人それぞれだ。命の危機に際して『魔法使い』になる者もいれば、なんてことのない日常の中で、ふと『魔法使い』になってしまう者もいる。

 フィオラはそれが、極限状態の中だったというだけだ。



「フィーが『悪い魔法使い』を……憎むのは、それが理由?」


「そうだ」



 言わなかったことがあるだけで、その時の経験が『悪い魔法使い』を憎む動機なのは間違いない。



「おまえだって、『悪い魔法使い』をにくんでいるだろう。なにせしょたいめんで、『魔法使いのほどこしなど受けない』なんて言うくらいだ。魔法使い丸ごとけんおするようなことがあったんだろう?」



 一応友人だ。気になってはいた。ただ、訊く機会がなかっただけで。



「その時のことはお願いだから忘れてくれ……。俺もよくある話だ。故郷の国が滅ぼされた」


「…………よく、はないと思うぞ」


「そうかな? 規模の大小はあるにしても、故郷を『悪い魔法使い』に滅ぼされた人間は結構いると思うけど」


「そういういみなら、たしかにいるだろうが……」



 国単位では珍しい。少なくともこの近隣ではないだろう。『悪い魔法使い』の根絶を掲げるこの国――シュターメイア王国に近ければ近いほど、『悪い魔法使い』の被害は抑えられる。



(このあたりの出身の名前の響きではないし、表記も違うとは思っていたが――やはりか)



 ルカが騎士団に所属する時も、『元々どこかに所属していたようだ』と噂されていた。おそらく、騎士団の上位陣はある程度の事情を知っているのだろう。


 初めて会った時のルカを思い出す。道に迷って、騎士団区域ではなく魔法使いの宿舎の方面に来ていたのだ。それを指摘したときに妙な顔をしたと思ったけれど気にせず案内して――別れ際に、腕に少しケガをしているのに気づいた。

 騎士団の入団試験を受けに行くと言っていたから、ケガがあるよりはない方がいいだろうと思って魔法で治そうかと申し出たら、「君、『魔法使い』か……?」と突然態度が変わった。

 別人になったかと思うような不機嫌な様相に戸惑っていたら、「魔法使いの施しなど受けない」と言い切って去って行ってしまったのだ。


 それなのに、何がどうして『一番の友人』だのと自称するようになったのか、フィオラにもよくわからない。

 二度目に会った時も特に変わったことを言った覚えはないのだが、そこから急速に態度が軟化した気はする。



「あの頃は『魔法使い』は全部同じだと思っていたんだ。俺の国を滅ぼしたのは、元々は『善い魔法使い』だった魔法使いだから」


「そう、だったのか」



(時々見せる『善い魔法使い』への猜疑心のようなものはそこから来ていたのか)



 確かに、最初から『悪い魔法使い』となる者もいれば、『善い魔法使い』から『悪い魔法使い』になる人間もいる。昨日のベリト・サヴィーノ魔法士もそのようなことを言っていた。彼は踏みとどまったようだが。


 『善い魔法使い』が『悪い魔法使い』になる条件は、詳しくはわかっていない。というより、そんなものは元々ない・・・・のだとフィオラは考えている。

 『代償』を他人に転嫁しようと思えば誰だって、『悪い魔法使い』になれる――そういう感覚があるからだ。そしてこれはたぶん、魔法使いなら誰でもわかるものだ。


 けれど、そんなことを広めたら、『善い魔法使い』は迫害一直線だろう。今でさえ、『魔法使い』というだけで向けられる偏見がないとは言えない。だから秘されているのだと推測している。



(それを知ったら、ルカも、『魔法使い』相手に友人だなんて言わなくなるだろうか)



 そう、ふと思った。『善い魔法使い』が「誰が『悪い魔法使い』になるかわからない」存在であると思われている現在で隔意があるならば、「誰でも『悪い魔法使い』になるかもしれない」存在だとわかれば、親しくするなんて考えられなくなるかもしれない。



(……それは少し、寂しいな)



「フィー?」


「何でもない」



 胸の奥が少し痛んだが、フィオラはそれを無かったことにした。



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