プロローグ
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「ほら、フィー。あーん」
蕩けるような笑みとともに、ケーキの欠片の乗ったスプーンが差し出される。
もう尽きるほど吐いた溜息が、また口から漏れ出た。
「……ルカ。なんども、なんどもなんども言っているが、しょくじくらい一人でできる」
「でも、ここには子ども用の食器はないから、食べにくいだろう?」
「そんなことはどうにでもなる。少なくともヒナにエサをやるようなまねをするひつようはない。……そのにやけきった顔をどうにかしろ。『氷のびぼうのきしさま』の通り名が泣くぞ」
そう、フィー……フィオラの目の前ででれでれと整った顔を台無しにして給餌なんかしているのは、この国一番の騎士と名高いルカ=セト騎士団長様である。
この辺りでは珍しい、月の光のような銀の髪、薄い氷を彷彿とさせる瞳の色と、怜悧で整った美貌から『氷の美貌の騎士様』だなんて恥ずかしい通り名まで持っている人間が、こうまで笑み崩れていると、もはや別人なんじゃないかと思う。
「子どもの君のかわいさの前に、平静なんて保てないんだ。仕方ない」
「しかたなくない。というかこんな傷だらけでぶあいそうな子どもをかわいいとか言うおまえの感性がわからない」
「不愛想なのはそれはそれでかわいい。傷については胸が張り裂けそうだ……」
「情感がゆたかすぎないか? おまえそんなせいかくだったか?」
「それもこれも君が子どもの姿になったのが悪いよ」
「さも私のせいだという顔をされるのはとてもげせない。……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
「…………」
どう考えても誤解しか生まない返答に頭が痛くなりながら、根負けしたフィオラはヤケになってケーキに嚙り付き、事の起こりを思い返した。