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果樹園と遠くの山並み 2

 「あ〜ね〜。」

 「どうしたの?」


 スマートフォンを握りしめた翡翠は下唇を噛み締めた。


 「姉が勝手にこの前お話しした友人とのドライブを決めたと連絡が来ました。」

 「ん?お姉ちゃんが来るの?」

 「いえいえ。来週の日曜日に友人の方が購入した自動車の試運転ドライブに一緒に行けって。」 

 「実質、デート?」

 「相手は女の方です!」

 「百合っていいよね。」

 「ちがいますぅ!!」


 息を切らせてツッコミを入れた翡翠にケラケラと笑う二人を睨みつけた。


 「で、どうすんの?」

 「行かないわけにもいかないですよ。もう相手から了解したってメールが来てるんですもん。」

 「それって、お姉さんの方から頼んだってことでいいのかな?」

 「ええ、そうなんです。迷惑になってないか心配ですよ。まったくもう。」


 憤っている翡翠の背を撫でて慰めたまよりはふと思いついたように声をかけた。

 

 「それってわたし達も一緒に行ったらダメかしら?」

 「あ〜それ、いいかもしれないねー。」

 「えっ!?いやいやいやいやいやいやっ!!なんで!?」

 「楽しそーじゃん。まだみんなで出かけたことがないしぃ。ここは行っちゃおーよー。」

 「ええ、わたしも翡翠さんとも一緒に出かけてみたかったんですよ。」

 「ここはまよりさんが止める役割でしょ!?ってそういえば、あなたが言い出したんでしたっけー!!」

 「ところで、その方はどんな感じの人柄なの?そりゃご迷惑なら、もちろん遠慮します。」

 「あぁ、はい。……そうですね、多少変わっていらっしゃるような感じですね。見た目は清楚なんですけど、骨っぽいというか、なんというか。」

 「メンズ?」

 「あら、それだったら、確かにおじゃまね。」

 「いえ、違いますから。女性ですよ。さっきも話しましたでしょう。聞いていました?そもそも男性でしたら清楚って言葉は使わないと思いますよ。」

 「そーなの?で変わっているって?」

 「ええっと、なんというか、孤高気質と言いますか、群れたがらない方なんですよね。決して付き合いが悪いわけじゃないんですよ。」

 「ではやっぱり避けたほうがよい?」

 「いえ、急に連れてゆくとどうかと思いますが、いちおうお伺いをたててみますね。」

 「よろ。」


 肩をすくめてスマートフォンを取り出した翡翠はポチポチと文字を打ち始めた。


 「お仕事をされているので、すぐに返事が来るとはおもわっ……きた!?……うわぁ……仕事しているんでしょうか?それはともかく、ええっと、あーう〜ん……」


 翡翠はじっとしろの顔を見つめて唸り声をあげた。


 「えっ?なに、なんなん?なんかついてるの?」

 「いいけど、パリピーの人は除外して欲しいと言われました。にぎやかな人は苦手だそうです。」 

 「えっ!?ウチは違うよね。ねぇ〜!!」

 

 あ〜という表情でしろを見つめるまよりは真面目な表情に戻して、しろの肩に手を乗せた。


 「翡翠さん、しろは……あなたも知っての通り、いい子ですから大丈夫です。」

 「……まあ、そうですね。わかりました。そう返事をしておきます。」

 「ねぇねぇ、もしかして、ウチって、そんな感じすんの?」

 「ええ、どちらかというとギャルっぽい感じですよね。」

 「マッ!?うっそーん!!」


 大仰に驚いた表情で反応するしろは目鼻立ちがくっきりとした美少女が表情豊かに見せる反応が陽気な今時の女子高生らしく、十代のみずみずしい伸びやかな肢体をみせつけるようにスカートを短くしているしろは同世代の翡翠に取ってもまぶしく見えた。

 じっと見つめているとしろがかすかに頬を赤らめて、上目遣いに尋ねてきた。


 「……イヤだった?」

 「プッ……そんなわけないじゃないですか。安心してください。」

 「なんで笑うのさー。」

 「なんでもないですよ。それよりも授業がはじまりますよ。席に戻ってください。」

 「ぶー。」


 微笑みながらまよりはふくれたしろを連れて翡翠の席から離れた。

 翡翠も微笑みを浮かべながら、次の授業の準備をはじめた。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 「まじか……」


 職場の仕事の合間でのぞいたスマートフォンのメッセージアプリで返信した愛里寿は頭を抱えそうになるところを必死で抑えた。


 『友達の二人も一緒に来たいと言ってきましたが、いかがですか?」


 『パリピは無理。違うならいいよ。』


 後半の文章を打ち込むのにしばらくかかったが、一応の大人の寛容さを見せなければと愛里寿は妥協した。


 すぐに久しぶりの翡翠の姿とともに写る二人の女子高生の画像が送られてきた。


 「一人はギャルじゃねぇか。」


 愛里寿と兎月がからかっても、中学生時代から頑固に続けてきた翡翠のアイデンティティの一つである姫カットに包まれた少しだけ成長した翡翠は相変わらず、一見お嬢さん風なスタイルを続けていた。

 右のショートボブは知的な表情でちょっと取り澄ました表情をした美少女だった。

 しかし問題は翡翠の左にいる明るい髪色のストレートパーマにした長髪に前髪をポンパドールにしている少女だった。

 確かに彼女も卵形の顔にくっきりとした目鼻立ちをした存在感の際立つ美少女だが、どうにも今時の陽キャとかパリピーと呼ばれそうな、愛里寿が苦手にするタイプの少女に見えた。

 翡翠からは見た目は派手だけど、明るい普通の子だと紹介があった。


 「まあ、あの翡翠と友達になれるようなギャルはいないよなぁ。まっ、いいや。じゃあ、OKと。」


 「仕事中にメールはやめたほうがいいわよ。」

 

 後ろから声をかけられて驚いて振り向くと先輩社員の美玲だった。


 「あっ、すみませんでした。」

 「いいのよ。目立たないようにね。で、彼氏?」

 「いないのは知っているじゃないですか。」

 「まあまあ、……かわいい女の子たちね。」

 「友人の妹とその友達だそうです。」

 「ふぅん。でかわいい女の子を見てニヤニヤしていたの?」

 「そんな趣味もありません。友人から引っ越したばかりの妹を案内して欲しいと言われたんですが、この友人たちも一緒にゆきたいと言われましたので、了解のメールを送ったところだったんです。」

 「そっかー。いいわね。ハーレムだね。」

 「なんなんですか、それ?」

 「まあまあ、それよりどこにゆくつもりなの?」

 「まだ決めていません。これからです。」

 「余市でウィスキーチョコレートが売ってたなぁ。」

 「お土産の要求ですか?」

 「んなことないよ。さて、仕事の続きをしましょ。」

 「はい、すみません。」


 にこやかに書類を両手で運んでゆく美玲の後ろ姿を見送った愛里寿はため息をついた。


 「チッ、余市に決定か。」


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