4枚目
自殺転生
どこぞの宗教では自殺は罪だ。なんて解釈もあるらしいが、だとすればこれは罰なのだろう
私は首を吊って自殺した、理由は人間に絶望したからだ、なんて在り来たりな理由だ
そう、自殺した。首に食い込む縄の締め付けも、息が出来ない苦しみも、消える意識も覚えている
だと言うのに自己が消滅したと思いきや、気がつけば孤児院の前に捨てられていた。状況を正しく把握したのは間を置いてからになるが
この世を嫌いそれを捨てようとしたのに、気がついてみればまた次の生に囚われるなど、成る程これが無間地獄か、などと下らない事を考える。意味が違う
さて、二度目の生を得てしまったが夢も希望もない私に生きる気力などない。ならば死ねば良いと思うし私もそう考えるのだが、自殺はとても苦しい。比較的楽だと言われる首吊りでさえ命が消えるまで体を痛め付ける感覚は二度と味わいたくないものだ
加えて言えば死んだ所で自己が消失しない可能性も浮上して来てしまった。無論次の生も前世の意識を保つ可能性の方が低いと思うが。前世でも今世でも現実で「俺転生者なんだぜ!」と言う者が居ないのが証拠だ。当事者である私が聞いても戯れ言を言う子供か狂人扱いするだろう
なればこそ前向きに生きてみるのも一興ではないか
前世からやれと言われそうだが環境が違うし、また肉体も違うのだ。精神と肉体は密接に繋がっており、精神病は脳の病気みたいなものだ
孤児と言う環境は前世より劣悪な環境であるはずだが、心はどうしてか気が楽だ。楽観的な感情さえ浮かんでくる始末
まるで子供の頃の様な。そう、私だって産まれて直ぐに死にたいと思い詰めていた訳ではないのだ
きっと前世でも己の肉体と精神にきちんと向き合えば、もしかしたら違う結末を迎えて居たのかも知れないが
まあいい、もはやどうしようもない事だ。それより今世の事を考えよう
差し当たってはハイハイの練習だ。この身は立つ事はおろか移動する事すらままならないらしい
当たり前に出来ていた事が出来ない煩わしさに、私は口元を歪めるのであった
◇
アイツの印象は、そう、深窓の令嬢とでも評すのがぴったりだ。男なのに
まあ印象だけの話であって、面倒見が良く家庭的であったり、意外と喧嘩っ早かったり、人目がないところではだらしなかったりーーその癖他人と一枚も二枚も壁を作って接したり、私は一人で生きて来ました。なんて生意気な面をしたりもするのだが
中背中肉、短過ぎず長過ぎない黒髪、黒縁眼鏡、特徴を挙げ連ねるだけだとモブっぽく感じるが、その印象の薄さ、もとい神秘的な感じは主人公っぽくも感じる
アイツが誰とも交流を取らず、教室や図書室の隅っこで本を読むような性格もその要因だろう
そんなアイツだが、コミュニケーションを煩わしいと思っている節はあるものの、話しかけてくる人間に対応する程度の甲斐性はある
いや、割と面倒臭がって切り上げたり、私に対して露骨に嫌そうな顔をしたりもするが
あれ、アイツがボッチなのってもしかして嫌われてるからじゃない?
なんて事を考えながら、今日もアイツのコミュ障改善の為に話しかける私であった
……血が繋がってないと言えど、私はアイツのお姉ちゃんだからな
◇
今世を謳歌していて気付いた事がある
恐らくではあるがこの世界は前世とは全く違うものだ、という事だ。ハイハイに勤しんでいた私だが、そう間を置かずに里親?引き取り手が決まったのだ。思えば我が同胞……孤児達も、結構な勢いで減っていった気もする
ファンタジーな人体実験を思い浮かべて冷や汗をかいたが、ハイハイする程度の能力しかない私に何が出来るはずもなく為すがままにされていた私であったが、気がついてみればそこそこ裕福な家に引き取られて愛情を注がれながらすくすくと育っていった
いや、可笑しくない? そんな簡単に孤児が救われるならこの世はもう少し明るくなってる筈だ。自分が超高校級の幸運を持ってる可能性も考えて色々調べてみたが、あの孤児院を出た子供達はかねがね幸福に暮らしているらしい
他にもニュースで放送される内容が明るい話題が殆どだったり、学校で虐めがなかったり、思えば孤児院の人も優しい人しか居なかったとか、創作物も愛と勇気に塗れたハートフルファンタジーが大半であったりだとか
兎も角そう言った事を総評してこの世界は「全年齢向けあったかふわふわ日常系創作物」の世界だと断定した。心ぴょんぴょんするようなアレ
ともすれば昏く邪な感情は私しか持って居ないのでは、と感じる程である
そんな不純物を取り除かれたぬるま湯の様な世界ですくすくすくすくと育てられた私は心身共にふにゃふにゃになってしまった。前世で自殺した私を理解出来なくなる程度にはふやけている。無論それを幸福として受け入れる事が出来るのは、とても幸せな事だと思っている
もしかしたら神様なんて居るのかも……なんて取り留めのないことを考えながらふにゃふにと生きている私だが、それでも精神にこびりついた恐怖は消えないのだろう
姉の存在だ
前世の姉は暴君であった。横暴と言う意味でもあるが、彼女にとっての正しい事を押し付けて来る人だった。無論俺の意思など無視して。俺が潰れた時も責め立てるように押し付けて来た。きっと彼女からすれば善意であったのだろうが
今世の姉も「姉である」だけならそこまで忌避感を覚えなかったであろうが、何というか性格が、雰囲気が、言動が似てるのだ。ビビるなって言う方が無理なのである
そんなこんなでこの心ぴょんぴょんする世界で唯一と言っても良い俺の精神的支柱ならぬし精神破壊神が姉なのであった
◇
「付き合って下さい!」
自分で言うのも何ですが、私はモテる方みたいです。とは言ってもそれは私の人柄を見てではなく、大きく育った胸が原因なのでしょうが
無論身だしなみは女の子として気を使って居ますが、同級生の男の子と話す時は皆胸を見て話します
私の胸ではありますが、私は胸ではありません。幾度となくそう言った視線に晒されて来て私は苛立って居たのでしょう。いつもより強い口調でお断りの返事をしてしまいました
それが良くなかったのでしょう
逆上した名前も知らない彼は大きな声を上げながら私に詰め寄って来ました。恐怖で頭が真っ白になりました。謝罪も、助けを呼ぶ事も、何も出来ずに後ずさります
そんな私に更に詰め寄ろうとする彼でしたが
「あ」
間の抜けた声が響きました
「あ〜」
私も彼も突然の事に固まってしまいます。校舎の裏と言うか隅と言うか、告白なんて人目のつく所でする者ではなく、当然誰も居ないと思っていたのですが
「チョコ食べる?」
学校に飲食物を持ち込む不良少年が、お徳用! と書かれた袋をこちらに差し出しながら言いました
無論そんな些細なことで恋に落ちる訳でもないのですが、それでもこの特別な出会いを経て、特別な存在になる彼と出会うのでした
◇
今日も今日とてコミュ障のアイツを探してる私である。探すと言っても出現ポイントは決まっているので学校中を走り回る必要はない。しかし放課後の図書室で発見したは良いものの話しかけるには躊躇ってしまった
何故ならいつもは隅っこで、若しくは人と距離を空けて読書しているアイツの隣に女の子が座っているのだ
アイツの隣に! 女の子が! 座っているのだ!
いつもの様に手を挙げながら話しかけようとした私はそれに気づいて逆再生でもしたかの様に図書室から撤退した。素晴らしく音の無い撤退、アイツなら見逃しちゃうね
嫌だってアイツが人との距離を詰めるなんて想像できないから多分あの女の子から近づいたんだろうし、逆にアイツから近づいたんだとしても想像できない。偶然という可能性も残っているがこの学校に居る本の虫なんてアイツ位だ、偶に図書室を利用する人は居てもガラガラの空席、アイツの隣に陣取る理由なんてない。あるとすればアイツ自身に用がある場合だ
面白い事になって来たと野次馬根性丸出しで盗み聞きを始めるのであった
とは言ってもアイツらは本を読んでいた。という事は何かしらの会話が終わってお互い読書に勤しんで居るのだろう。と私は退屈を持て余しながら考えていた
そもそも隣と言っても図書室の椅子同士が駅の座席やカップルシートばりに密接している訳ではない。むしろ教室の隣の席の存在の方が近いまである
飽き始めていた私はスマホゲームに興じていた。もちろんアイツには注意を払っている。こんな所で座り込んでいるのを見られる訳にはいかないのだ
因みにスマホを持ち込むのは校則的に当然アウトである。バレなきゃ犯罪じゃないんですよ、なんてアイツも良く言ってるが私も同意見だ。アイツはお菓子まで持ち込んでるし
なんて事を考えながら時間を潰し始めるのであった
◇
私は気配を察するのが得意だ。部屋でゴロゴロしている時に、音がしたわけでもないのにふと気になった方向を見てみると、まあ、察してくれ。兎も角前世ではそんな能力を持っていた
なんと今世ではそれが強化されている可能性がある。あのやたらと構ってくる姉だが、何となく目を向けるとそこから現れたりするのだ。因みに姉の事は嫌いではないので勘違いしないでくれ、苦手なだけだ。……誰に言い訳をしているんだか
まるで映像を逆再生するかの様に消えていった姉を見ながらそんな事を考えていた。下手な気を回しているのだろうが、別に彼女とはそういう関係ではない。揉め事を餌付けで解決したら律儀にお返しをしたいと言い寄って来ただけだ。因みに男の方はチョコ食って早々に帰って以来音沙汰ない。まあいいのだが
因みに彼女と相対する時に非常に困る事がある。それは非常に凶悪な胸部装甲を所有している事だ。流石に人の胸を見ながら会話をする程礼を失してはいないので鋼の意思を持って彼女の目と目の間を見続けている
前世と比べて非常に愉快な思考を抱いている事に思わず口元を歪めてしまう
そんな自嘲的な事を考えながらも世間話を続ける。女の子ってお喋り好きだよね。俺がコミュ障であっても相槌打って返事をするだけで会話が成立するとか凄い。多分彼女は壁とでも会話が通用するレベルのコミュ力を持っているのだろう
話の流れで本をお勧めする事になり、彼女は本を読み始め……え、隣で読むの? まあいいけど
学生なんてまだまだ子供だ。大学生でも、ましてや20歳になってお酒を飲める程度では子供と大差ない
そんな彼らと馴れ合うつもりも無く、だからこそなるべく関わらない様にしていた。彼らには彼らの居場所があって、それは私が土足で踏み荒らして良い場所ではない。例え正しさとか、善とか美とか免罪符があったとしてもだ
だが、まあ、何というか。隣に彼女が、恐らく外には姉がいるこの空間を、心地良いと感じてしまった
帰り際に楽しそうに感想を述べてくれる彼女を見て思わず笑みを浮かべてしまうのであった
◇
何故だろう。アイツが楽しそうにしているのは良い事の筈なのに、何故その笑顔を私には見せてくれないのなんてーー
◇
私も昔は本の虫でした。何時からでしょう、本を読まなくなったのは。勉強をしなければ大人に怒られます。不細工だと虐められます。だから私は勉強をして、お洒落をしました。自分の身を守るために。友達もそこそこ出来ました。勉強もそこそこ出来るようになりました。けれどきっと疲れていたのでしょう
だから久し振りに本を読んで楽しかっただけです
私の顔を真っ直ぐに見つめてくれるその瞳なんて関係ありません
落ち着いた物腰も優しい口調も柔らかな態度も関係ありません
好きな物を語っている笑顔も、好きな物を褒められた笑顔も関係ありません
貴方もどうせ、私が努力を辞めたら見捨てるんでしょう?
だから、この胸の高鳴りも、自然に上がる口元も、全部気の所為なんです
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ここまで書いて思ったんだけど、これ主人公が自殺をする必要性がないんだよね。一応鬱屈した考えが落ち着いた雰囲気とか、儚げな印象とかに繋がってってイメージではあるんだけど
中途半端に重い設定を貼り付けるなら最初から無い方が良いし、主人公が「最初からそういう性格だった」で済む話
そう、人の性が入り乱れる様な昼ドラを何年分も凝縮したかのようなドロドロ鬱屈した人の心を抉り込むような物語がありだけど、そうでないなら半端に不快にさせるだけ
俺の頭がぱっぱらぱーだから、半端にこういう要素を取り入れようとするのが最高にアホ
物語なんてのはなあ!王道が一番良いんだよ!
「信じてたって笑うようなハッピーエンドなんて」何が悪い!消し去る理由なんて何処にもない!
登場人物が虐げられたり、裏切られたりするような物語なんて見たくないよね
用務員さんとか滅茶苦茶面白いんだけど話が重すぎて読んでて辛くなる。安易に強姦とかしない癖にあの攻撃力よ。量産型強姦NTR作者に見習ってほしい
あれくらいの重みのある話が書けるなら鬱設定も採用する価値があるが、技量0%の俺には無理だ