二話
鬱蒼と茂る森の中。
1人の男が丸腰で歩いていた。
「いやー大量だったわ」
彼は森の開けたところにある家に帰る。
時刻は昼前、丁度お昼時に彼の鼻腔をくすぐる匂いがする。
「お?今日の昼飯は何かな?」
木造の一軒家に住んでいる彼には同居人がいた。
「おかえりなのじゃイル、お昼は出来ているぞ」
「ありがとう、お前の飯は美味いからな、期待してるよ」
「う、うむ、期待しておれ」
偉琉とアルテミスだ。(ここからは偉琉をイルと述べる)
この世界に来てから一ヶ月。
2人はこの世界に来てから、2人で此処で共同生活をしている。
イルがスキルで森の獣を取り、アルテミスが調理をする。
アルテミスは女子スキルが高く、料理も美味いし家事だってお手の物だ。
正直、嫁にしたいくらいだな。
いや、この生活って実際田舎の夫婦見たいじゃないか?
そんな下らないことを考えているとアルテミスが話しかけてきた。
「イルよお主は冒険とかしたく無いのかのぅ?」
「うん?俺は危険なことはしたくないぞ。俺は平和に暮らせたらそれでいいんだからな。俺にはお前と2人で暮らすのが合ってる」
「うむ、そうか、ならいい。別に魔人を倒す義務なんて無いのだからな」
「魔人かぁ、この生活を脅かす奴なら戦うけどね」
魔人はどの種族にも属さない、イレギュラーな存在だ。
総じて強く、一般人なら即死だろう。
魔人は度々四種族の都市に現れ、略奪を図っている。
その為、四種族からは敵と見なされ、冒険者ギルドからは最重要案件とされている。(とアルテミスから前に聞いた)
「うん、美味い。お前はいい嫁になるな」
「!?···うむ、ありがとうなのじゃ」
「俺が死ぬまで飯を作ってくれてもいいぞ?」
「なんかプロポーズみたいに聞こえるんじゃが」
「うん?そうかもな、少なくともお前は俺が死ぬまで一緒にいるんだろ?」
「まぁ創造神様の命じゃからの···」
身体をモジモジさせながらそうつぶやくアルテミス。
「そうか、ならこれからも一緒にいてくれ」
「うむ」
·········
······
···
「よーし、今日は風呂を作るぞ」
普段は身体を拭くだけで済ませていたが。
アルテミスは言うことはないが、少しは不満を感じている様だ。
此処での生活を快適にするためにも作らなければいけない。
「よし《制作》」
この世界に来てから覚えたスキルを使う。
家を作ろうとしていた時にいきなり覚えたのだ。
アルテミスに聞くと『元々素養があったんじゃろう、そんなに簡単にスキルを覚えるなんて聞いたことが無いのう』と言われた。
正直当たりだと思う。
此処での生活にうってつけである。
スキルの効果としては素材を消費してイメージした物、たてもの等を制作するというものだ。
もし失敗しても《分解》を使えば素材に戻せる。
有能だった。
「まず小屋かな」
俺は異空庫に入っている木を素材にし、小屋を作った。
「よし、後は中でドアをつけて、風呂本体を作って···」
3時間ほど作業して風呂小屋は完成した。
後は温泉を引くだけだ。
都合よく近くに温泉が湧いている池のようなものがあった。
普段は熱すぎるため、入ることは出来ない。
この温泉を風呂に貯めて、入れる温度まで水を入れるか待てば入ることは出来るだろう。
風呂小屋と温泉はさほど離れておらず温泉を運ぶのにも苦労しない。
早速今日の夜から入ろうか。
·········
······
···
時刻は夜、夜行性のモンスターが活動を開始する時間だ。
ここはアルテミスの結界をはってあるため、夜はモンスターはよってこないのである。
アルテミスマジ有能。
「アルテミス、お風呂作ったから先入っていいよ、そろそろちゃんと体洗いたかったでしょ」
「お風呂!?ありがとうなのじゃ!」
「石鹸はないけどないよりはましかな、魔法とかあれば良かったんだけど···」
「魔法···?······あっ!《生活魔法》があるのをすっかり忘れていたのじゃ!」
「アルテミスさん?」
「あっ···えっと···なんでもするから許してほしいのじゃぁぁぁぁ~」
「ん?今なんでもするって言ったよね?それじゃあ添い寝してもらおうか!」
「添い寝じゃと!?······まぁそれぐらいじゃったら···」
いいのか!?結構ふざけて言ったつもりなんだけどな。
それなら役得だな、アルテミスは可愛いしね。
「そうか···まぁいいその生活魔法ってのを教えてくれ」
「うむ、そうか」
《生活魔法》はこの世界にいる者なら誰でも使える魔法で、ステータスには表示されないらしい。
今回使う魔法は『洗浄』と唱えることで身体の汚れを落とすものだ。
「はぁ~分かった、分かったから入ってこい。風呂はお前のために作ったようなものなんだからな、女性だし、疲れだって取れるだろ」
「···ありがとうなのじゃ」
·········
······
···
アルテミスをお風呂から待っている俺。
何かシャワーから出てくる恋人を待ってるみたいだな。
そう思うと何か緊張してきた。
考えているうちに小屋の引き戸が開けられた。
「さっぱりしたのじゃ」
そこには濡れ美人がいた。
首にはタオルを巻いており、顔に浮き出る汗が色っぽさを出していた。
「···」
「うん?どうしたのじゃ?」
前からずっと可愛いと思っていたけど改めてみるとホントに可愛い。
美少女だ。
「おーい?大丈夫かの?」
そういえば俺、この美少女と同棲してるんだよな。
今まで意識してなかったけど、これって夫婦みたいじゃん!
「おーいおーい、帰ってくるのじゃぁ」
「…ハッ!?」
気が付いたら目の前にアルテミスがいた、それも目と鼻の先で。
「ファッ!?」
「おお戻ってきたようじゃの」
「アルテミスさん近い近い」
「…!いや!これは!」
「あぁ俺がぼーっとしてたのが悪かったな、俺も風呂に行ってくる」
「う、うむ食事は任せておけ」
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sideアルテミス
────最近イルのことを見ていると胸が張り裂けそうになる。
こんなのは初めてだ。
天界にいた頃にはこんな気持ちは一度もなかった。
────妾にはこの気持ちの正体がわからぬ。
少なくとも悪いものではないとわかる。
────誰かに聞いてみるしかないのう。
今度『創造神様が視察にくる』からの、聞いてみるかのう。
彼女は恋をしたことがなかった。
異性と長い間一緒にいたことがなかった。
イルとの生活が新鮮で楽しく、そして得がたいものだった。
そんな生活を提供してくれるイルに劣情を抱いているのに気づくのはまた後のことになる。
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sideイル
全然疲れが取れなかった。
アルテミスとこれから添い寝するんだと思うと意識して緊張しっぱなしだった。
それにお風呂から出たアルテミスの姿、あれを毎日見ることになるなんて俺の理性が持つかどうか不安だ。
今回の添い寝だってそうだ、理性を総動員しなければならない。
「しっかりするのじゃぁ、顔があかいぞ?」
おっとアルテミスとの食事の最中だった、いかんいかんうまい飯を残すなんてありえない。
美少女の手作りだったら尚更だ。
「ああ、大丈夫だ…この飯もうまいな、ありがとうなアルテミス」
「そういってくれるのならうれしいのじゃ」
アルテミスは頬を染めながらモジモジしている。
そんな彼女とこれから添い寝をするのだろうと思うとドキドキする。
────やはり俺はこの一ヶ月の間にアルテミスを好きになってしまったのだろうな
·········
······
···
(やばいって添い寝ってやばいって)
(ドキドキするのじゃぁ~)
時刻は夜、2人は絶賛添い寝中である。
互いに恥ずかしく、背を向けあっているが、互いのことが気になっているようだ。
「「なあ(のう)」」
「「!!」」
「そ、そっちからどうぞ」
「う、うむ」
「妾は今のこの生活が気に入っておるのじゃ、天界にいた頃は退屈で退屈で仕方が無かった。」
「おう」
「だから、その、これからもよろしく頼むぞ」
「おう、任しとけ」
2人は向き合い、至近距離で笑い合った。
もう結婚しろよ(・ω・)