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ファンタジー寄せ集め

ヒールな聖女

作者: アロエ




○月×日。


異世界より聖女様をお呼びした。魔王の復活とそれに伴い活発化してきた魔物の討伐、そしてこの国を狙う周辺諸国への牽制も含めての何とも自分勝手な理由の召喚であったため、私を含め何人もの人間が異議を申し立ててきたが、第二王子以下私腹を肥やしたい貴族たちによってついに強引に決行されてしまったのだ。



……第二王子、ゲスベリアはおとぎ話や伝承にあるように聖女様が可憐な美少女であると信じて止まない夢見がちな男だから、きっと召喚された聖女様を手籠めにと虎視眈眈考えていただろう。



だがそんな思惑など吹き飛んだ。いや、本当に吹き飛んだのはゲスベリアだったけれど。



召喚された聖女様は…………何と記せばいいか、とても、とてもユニークな方だった。先ずお化粧。これは異世界の文化もあるでしょうし、こちらと違って当たり前なのでしょうが、アイメイクに凄く力を入れていて、口紅も真っ黒でした。服装もとても女性が着るようなものではなく、鍛錬場の騎士をこっそり覗きに行った時のような格好でした。右手には木でできた剣を携えていて……。



こんな化け物が聖女であるはずがない!と怒って聖女様に向かって行ったゲスベリアをその剣で叩きのめし、その後物凄い早業で吹っ飛ばしてしまいました。ゲスベリアを。



慌てた騎士と神官に目を丸くしつつも、警戒を解こうとしない聖女様に事の次第を説明しに行った騎士団長様ですら聖女様の気迫と目力に足が震えていたとか。



まぁ、何はともあれ、聖女様は異世界に来たという事に納得され、ゲスベリアを吹っ飛ばした事も謝罪なさってくださいました。いきなり見知らぬ場所へ拉致をされ襲いかかってきたのが金髪碧眼の外人だったから敵だと思ってしまったのだと。こちらにしてもいきなり女性である聖女様に挨拶もなしに近づいたという弁解できない非礼がありますので、お互い様ですということで収めました。王妃様がそのようにしたようです。



尚、ゲスベリアは聖女様が手加減なさっていたおかげか脳震盪で三日寝込む程度で済みました。もっと寝込んでいてくれても良かったものをと一瞬考えてしまった私は悪くはありません。





○月××日


今日は聖女様と共に鍛錬場に行きました。体がそこまで丈夫でもない私は不潔だからと鍛錬場にはなかなか近付けませんが聖女様にお心を許してもらえそうな子どもは私くらいだとかで。というよりも皆、聖女様に恐れをなして案内やら何やらの責から逃れようとしたまでですきっと。話してみると聖女様はとても優しいお方で……。



何と三人の御子の母君だそうです。異世界の方は不思議です。化粧の件は置いて置き、お肌や髪の艶から二十代くらいにしか見えない聖女様が、三十後半に差し掛かるなんて。貴族のご婦人方が羨ましがりますね。



鍛錬場に着いた聖女様は汗臭い騎士たちにも平気そうな顔で、それどころかそんな鍛え方よりこうした方が良いのではとずいずいと中へ中へと入って直ぐに騎士たちと打ち解けていました。貴族出身者のものにはあまり良いようには見られなかったようで絡まれかけましたが、聖女様は強いの一言です。



根性を叩きのめし、身体を叩きのめしている中、ハッとしたお顔でとある騎士に目を止めた聖女様はその騎士を呼び寄せました。何でも彼方の世界の旦那様の若かりし頃に似ているとか。戸惑う顔が厳つく、体格も熊のような騎士に聖女様は楽しげに話を聞いたり和気藹々と過ごされていました。



その際、一瞬垣間見えた顔は恋する乙女のものと違いませんでした。……早く彼方の世界へと帰還できるよう、私も精進せねばと強く思いました。




○月△日



魔王討伐隊が組まれ、今日、とうとう聖女様が城から発ちました。聖女様が異世界よりお持ちしていたボクトーなる木の剣は何と神剣というものに当たるそうで、勇者の剣や聖女の鏡より遥かに強い武器となるという事で聖女様はそれを携えて、後は使い慣れていないからと武器は持たずに行きました。


こちらの勝手で呼び寄せておいて言うのもおかしいですが、どうかご無事で。




△月○○日



聖女様が帰還しました。魔王討伐へ発ってから一週間と五日です。早すぎます。



共としてついて行った魔術師によると聖女様の一方的な攻撃に魔王は手も足も出ないまま散々にやられ、降伏なされたそうです。流石、聖女様、お強い。




△月○×日



聖女様の帰還のための陣が魔王筆頭に早々に用意されました。辺境の地から出てこなかった魔王も話してみれば随分と気弱な男で、魔力が強い他はからっきしダメで、ただただ周りの意見に流されるだけだったと。本当は人間界などに侵略など荒事を立てたくはなかったのだと平謝りしていたのが印象的でした。



聖女様は愛刀を携えて、今度どこぞの人間を召喚する時はきちんと説明なりなんなりしてから近寄るようにと冗談交じりに仰って笑顔で手を振り帰っていきました。ゲスベリアはいませんでした。奴は女は怖いと目覚めた日から自室に引きこもってしまったので。ですが下手に奴の魔の手にかかる侍女も貴族の子女もいなくなったので、聖女様にはとても感謝しきれません。



今度は私が聖女様の世界にいって、女子プロレスというものを見て、聖女様の旦那様であらせられる方の柔らかい笑みやオシドリ夫婦ぶりを見てみたいなぁと思います。







第三王子 アリスの日記より


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