3 秘密特訓
そうして芝生に座りこけている今に至る。
星が綺麗だ。ただ単純にそう思いたかった。
あれから何度か自分で演技をしてみた。けれど、ゲネプロの時より変わった気配がないし、どこを変えたらいいのかわからない。もちろん、役者は自分が一番だと思っている演技をするわけだから、人から言われない限りは自分自身で一番を見つけていかなければいけないのだ。
「どうしようか」
時間がない。いっそのこと錫村が言った通り明日は今日と同じようにしてやり過ごすしかないのか。
楓太は首を横に振る。海に負けないように。演技のうまさじゃなく、自分がどこまで演劇に向き合えるのか、それを負けたくはない。
「あ、いたいた」
楓太は不意に背後から声がしたので慌てて振り向く。その声の主は聞いただけで楓太にはわかる。
「海さん」
「悩んでるの?」
彼女はためらわず楓太の横に座る。
「つきあってあげよっか」
「え?」
楓太は突然の言葉に上手く反応することができなかった。心臓が一気に鼓動を速めた。でも楓太には残念ながら練習につきあってくれるという意味だとすぐに理解できた。
「君の秘密特訓。君が本番で稽古通りの演技をしないと私が困るから」
あれ?どこかで聞いたようなセリフ。
「聞いていたの?さっきの話」
「うん、ごめんね。実はここで芝居の練習をしているのもずっと見てた。実は私も気になっていたんだ」
「ゲネプロの事?」
「うん、ほら役者って自分がどう見えているかあんまりわからないからさ」
彼女が起ちあがり、楓太に手を伸ばす。
「ほら、時間がないから」
「うん」
楓太は手を引く。寒いのに、彼女の手は温かかった。
30分が経った。辺りは夜の学校なのでとても静かである。
「やれることはやったけどどうかな」
海はやや疲れた顔でそう言う。もうこれが限界だろう。
「うん。ありがとう。明日何とか頑張ってみるよ」
楓太もへとへとだ。
「もう寝ないとね」
「そうだね。明日楽しみだなぁ―」
そう言う海の目は夜なのにとても輝いていた。夜空の星を眼に映しているようだった。
「明日は今の感じでお願いね。急に変えられても困るから」
「うん」
楓太はうなずく。できた、できなかったよりも彼女に練習につきあってもらったことが楓太は嬉しかった。明日は今日より良くできるといいな。
あれ?
楓太は先程の海の言葉にふと疑問に感じた。
何かが足りないと錫村は言った。
しかし自分はそもそもそれを聞いて自分は何かを足そうとしたのか?楓太は自問自答する。
変えられると困ると今、海は言った。元々自分は何かを変えようとしたのだろうか。
鳥島は彼自身の演技でその穴を埋めたという。
なら自分はなにができるのだろう。
「あのさ海さん」
「なに?」
「俺の最後の所だけれどさ、少し変えてもいいかな」
楓太はそう言った。驚いていたが、何も考えなしに言ったわけじゃないと海もすぐに察したようだ。
「大幅には困るけれど、少しなら何とか。今できるんだったらやってほしいけど」
楓太は首を横に振る。
「ごめん。今はできない」
「それじゃあ本番でってことかな」
楓太はゆっくりと頷く。
彼女は少し心配そうな顔をしていたけれど、楽しそうな表情を見せ始めた。
「なんだかこんなどきどきするの久しぶりだな」
「え?」
楓太は申し訳ないと思っていたが、海の返した言葉は予想もしていないものだった。
「君は私にないものを持っている。もちろん先輩たちにもないもの。買いかぶりじゃないよ。本当にそうだと思ってる。だからこの間、君を信じることができた」
この間というのは、あの公園でのことだろう。
「いいよ。明日楽しみにしてる、君の演技」
彼女はそう言うと、宿泊棟の方へ歩いていく。楓太も彼女についていった。
勝負は明日。
楓太の初舞台がもう目の前である




