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徒然なるままに  作者: 水無月旬
第四幕
16/21

2 夜空

 どうしようか。時間がない。

 楓太は芝生に座りこけて夜空を見上げる。


 楓太はかつてないほどに困っていた。あの日とんでもない告白をしてしまったことなど、ちっぽけな事に思える位だ。


 今は夜の10時半くらいである。今日の稽古の詰めが終わり、舞台を作り終わり、通し稽古ゲネプロも終わった。決して悪いできではなかった。楓太も緊張していた割にはセリフを忘れることなく、未だぎこちなくはあるが細かな動きもしっかり作り上げていくことができた。

と思っていた。


ゲネプロが終わった後の先輩方の反応があまりよくなかった。

『うん、おつかれさま。楓太君も初めてなのにしっかりできていたと思うよ』


 木部がそんなことを言った。楓太はどうもおかしいと思った。あの何事もはっきりという木部が『思うよ』なんて曖昧な事は言わない。というより言葉の表現なんてもはや大した差ではない。彼女の表情が納得いっている表情とはかけ離れていた。


 きっと楓太以外の部員が原因だったら、何かしらの助言を言っていたはずなのだ。きっと楓太が初めてだから、一年生だから、本番前だから、彼女は何も言わないだろう。きっとこの間の海のように自分に迷ってしまうのではないかと、そう思案していてのあの表情なのだ。


 楓太はそれが気になって仕方がない。自分の何がまずかったのか。どこを直せばよいのか。自分の実力と努力の足りなさを憎んだ。


 楓太は錫村にそれを問うてみた。錫村は脚本潤色、助演出をやっている。普段は木部にほとんど任せているため、あまり劇の事に口出しはしないが、きっと木部よりもはっきりと言ってくれるはずだ。


 楓太は学校の宿泊棟の談話室で錫村を見つけた時、今だと、聞いた。

「ああ、さっきのね。木部なー、あの反応はまずいよ。だめだと思ったならだめって言えばいいのに」

「やっぱ、ダメなところがあったんですね」

「うーん、確かに木部が言いたくないのもわかるんだよ。でも君が気づいてしまったのならもうどうしようもないね」

 錫村は平然と言う。やはり楓太は彼に聞いて正解だったと確信した。何を言われようと受け止めなければならない。


「木部と同じことを思ったかはわからないんだけどね、君の登場するシーン、何かが足りないんだよ」

「何か?」

 何かとは何だ?ずいぶん曖昧な答えに楓太は反応に困る。


「うん、何か。言葉にするのが難しい。だから木部も俺も言おうとしなかった。その物足りなさが君の演技によるものなのか、海の演技によるものなのか、音響か、照明か、演出か、はたまた台本なのか」

 錫村は難しそうな顔をする。


「基本本番ではキャストは稽古通りの演技をする。君が本番で稽古通りの演技をしないと海が困るだろ」


 確かにそうだ。それが逆の立場だったら楓太はきっと対応することができないだろう。

「だからさっき木部はそれを言わなかった。何かが足りない。けれどそれを埋めたらきっととてもいいものになる。きっと大会の時よりも」


「あの時よりも…」

 楓太は大会の楓太の演じている場面を思いだす。あの時は今思いだすと確かに鳥島がキャストをしていた。その時、楓太は違和感なんてものは感じなかったと思いだす。それは楓太が素人だからって言うのもあるかもしれない。けれど、


「先輩ってすごかったんですね」

 楓太はそう口からこぼす。

「確かに大会前の稽古からこの違和感はあった。けれどあいつは自分の演技でそれをカバーしていた」

 楓太は急に気分が重くなった。


「あ、あの。大会の時の映像ってみせてもら…」

「それはだめ」

 錫村はきっぱり言う。


「え」

「君が鳥島の演技に気を取られて自分の演技ができなくなる。それが一番まずい」

 確かに楓太は今、自分は鳥島の演技のマネをする気まんまんのような事を言った。確かに楓太は鳥島の演技を見たからと言ってマネができる訳ではないし、できてもそれは楓太が演技しても意味ないことだ。今から鳥島にキャストを変わってもらった方が良い。


「まあ、こんなことを言って何だけどあんまり気にしなくていい。もともと良い劇に仕上がっているんだ。今からどうこうしてもしょうがない」

「で、でも」

 楓太は納得いかなかった。だってできることがあるならやった方が良い。そうに決まっている。


「まあ、君がどうしてもって言うんなら、この宿泊棟の校舎よりの方に外灯があって、練習にはちょうど良い所がある。演技の最終確認でもするといいよ。まあこんな時間だからあまり五月蠅くないように、体冷やして風邪を引かないように、演技を変えすぎて皆を困らせないように。海だけじゃなくて一応照明も音響も困ることがあるから」

 錫村は立ち上がって、寝室の方へ戻ろうとする。


「はい!」

楓太は言われた通り外灯があるところまで歩いてきた。一面に芝生が広がっていて、見晴らしもいい。見上げると夜空の星がとても綺麗に見える。


「よし、やるぞ!」

 楓太は自分の頬を両手でたたいた。


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