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海洋環境研究所調査部 奪還  作者: 島崎順一
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奪還

原発沖合いに深く沈み沈黙を保っている黒い金属の塊は、緊迫した状況であった、

ミン上佐は部下に燃料の残量計算を指示していた。あと3日かぁ、それまでに完成させて帰還しなければと考えていた。原発の作業場の監視をしている5名を除いて、上陸していた乗組員は全員帰艦している。ミン上佐は、敦子を監禁している部屋に向かった。部屋に入ると敦子は黙って座っていた。

「いいか、明日の夜には完成させろ、出なければ全員を射殺する」と強い口調で言った。

敦子は怯えながらも、父の所へ行かせてと懇願した。父の側で完成を促すと言い、その方が完成も早くなると、何度も要求した。

ミン上佐は、「自信はあるのか?」と低い声で敦子に言った。必ず完成させるからと、直ぐに父親の所へ連れて行って欲しいと再度頼んだ。どちらにしても昼間は動けない、今夜まで待てと言ってミン上佐は部屋を出て司令室に入った。「あと3日だ、全員緊張を緩めるな」激を飛ばし緊張感を高めた。ミン上佐は部下のパク少尉に、今夜人質を原発に連れて行き、監視隊に引き渡して来いと命令した。ミン上佐は、ソナー部員に、異常はないかと尋ねた。「はい、異常ありません」「時折小型船舶が往来しますが、問題はありません」と報告した。ミン上佐は、これからは異常が少しでも感じられたら自己判断せずに報告する様に言って司令室を出た。上陸部隊が帰艦して乗組員が増えたので、空気が淀んでいた。シュノーケル使用可能な水深まで浮上する必要があるが、夜まで待つ事にした。


深夜携帯が鳴った。高木である、どうしたと聞くと慌てた口調で「現れました」と周囲を気にしながら話しているのがわかった。

高木の電話の内容は、ホテルから原発に戻って深夜0時過ぎに、監視カメラの画像を見ていたら、3人の姿が映っていたらしい。二人は大柄で直ぐに男とわかったらしいが、もう一人は小柄で女の様であると言った。「敦子さんでしょうか?」と高木は敦子の顔を知らないので確認して欲しいと言った。私は直ぐ高木に「画像をデータにして、私の携帯に転送して欲しいと伝え、アドレスは変えてないから言って電話を切った。横で寝ていた麻由子は、「敦子なの?」と言って起きた。

「判らないけど、画像が送られて来るから確認して」私はそう言うと、ベットから出て窓側の椅子に座って着信を待った。

15分程してメールの着信が鳴った。直ぐにメールを開き、画像を再生して見た。倍率を少し上げて麻由子に見せた。「あっ、敦子だ」「間違いないか?」「間違わないよ、敦子だって」確信して麻由子は言った。

「判った、ジョージの部屋に行ってくる」そう言って携帯を握り締めて部屋を出た。

ジョージの部屋のノックを吉田がした。亀本には長距離の疲れもあるし休んでもらった。

ビルがドアを開けて入れてくれた。二人ともまだ起きていた様である。久しぶりの再会がこの事件である。話す事は少なくはない。

早速携帯を出して、画像を再生した。画像には3人が入り、4人が出てきて、二人が施設の外に歩いていく姿が映っている。ジョージは、二人が敦子を連れて来て、作業室に連れて入り、中に居た二人が見送りに一緒に出て来て、最初に来た二人かどうかはわからないけど、二人艦に戻ったと言う事だな。と言う事は、作業室の中に居るのは、4人から5人だな。ジョージはそう判断して、私の意見を求めた。私もそう思います。確信して言うとビルが、当面は5名を相手にすると言うことだよね。ビルはジョージに「勝算はあるの?」と聞いた。ジョージは、少し考えて、人質の位置関係によると答え、戦闘は全く問題ない、我々は無傷で掌握可能だと力強く答えた。明日の事もあるので、私は画像をビルの携帯に送信しておくと言って部屋に戻った。

部屋に戻ると麻由子は起きて待っていた。

打ち合わせの内容を話すと、明日の夜に変化があるんやね、と言って不安な顔をしていた。私は服を着替えて、備え付けの浴衣に着替え様とすると、麻由子が蟻地獄に変身された。下着を剥ぎ取りピッタリとくっ付いて「寝よ」と言って目を瞑った。ふ~っ、亦かと思ったが、諦めて今夜も静かに寝る事にした。

蟻地獄の生殺しやぁ・・爆睡。


潜水艦の中では、浮上する準備が始まっていた。ミン上佐は、パク少尉に部下を1名連れて敦子を連行する準備を至急する様に命令した。ハッチに続く梯子の下で、「準備完了」と声が聞こえた。ミン上佐は、「ビンガー打てぇ」「異常なし」「PD。メインベント弁開、フラッドバルブ開、トリム注意、航海士、水深読め」と命令を出すと、潜水艦は少しずつ浮上して行った。

「航海士が、船長、PD、トリム固定」と報告した。ミン上佐は潜望鏡を上げて、周囲の海上を確認している。「良し、このまま浮上」と命令して潜望鏡を下ろし、司令塔に上って行った。ハッチを開けると、ハッチ周辺に残っていた海水と一緒に新鮮な空気が一気に艦内に流れ込んだ。ミン上佐は、双眼鏡で周囲を再度確認した。連絡管で、パク少尉に上がって来る様に命令し、数人の乗組員も甲板に出て、ゴムボートの準備を急いで完了した。ボートを海面に下ろし、パク少尉と部下が乗り移り、敦子を受け入れた。同時に船外機のエンジンの音が小さく響き潜水艦から離れて行った。それを見送るとハッチを閉めて下に下りた。航海士にPDまで潜航、トリム固定で待機と命令をした。1時間程で敦子を引き渡して戻って来るはずである。パク少尉が帰艦するまで待機と全員に命令した。

パク少尉は、部下に原発正面の突堤西側を指示し、突堤から西へ少しずれて岩場にボートを接岸した。宮崎鼻の付け根辺りである。そこには原発の境界線がありフェンスがある。

ボートを固定し、敦子を上陸させた。3人は潜入した時に細工をしておいたフェンスを広げ中に入った。勿論センサーは位置をずらしている。目の前に3号炉が見える。3人は手前の建屋に接近し、周囲を確認して無線のスイッチを入れた。咽喉マイクのスイッチを押さえながら、中の同士に到着を伝えた。

直ぐにドアが開き、3人は中へと入って行った。階段を下りて、作業室のドアを開け、中扉を開けると、二人の教授は作業に追われていた。敦子は父親を見つけると父親の元へ行こうとしたが、パク少尉が敦子の髪の毛を掴んで静止させた。その騒ぎに教授たちは気が付き作業の手を止めると、キム少尉が教授たちの背中を警棒で叩いた。「作業の手をとめるな」キム少尉は怒鳴り、「早く完成させないと娘の命はないぞ」と続けた。キム少尉はパク少尉と抱き合い、お互いの決意を確認し合った。敦子を倉庫の中に監禁して「確かに引き渡した」とパク少尉は言って部下に「帰艦するぞ」と作業室を出て行った。後にキム少尉の部下が二名続き送りに行った。

装置は明日の夜に完成するらしい。そうすれば本国に帰れると、あと少しの時間だと自分に言い聞かせ、隠していたボートに乗って、原発の明かりが届く海域を避けながら本船に戻って行った。


翌朝いつもの様に早く目覚めてしまった。

今朝は、麻由子から少し離れていて気分良く目覚めた。この事件以来、私と麻由子は殆ど裸族であった。ドアの下から差し込まれている新聞を取り、窓側の椅子に座った。新聞を広げ、相変わらずの無能な政府の記事が一面を飾っていた。当然だかこの事件は知られてない。ほんとに平和ボケした国である。社会面に芸能人の離婚記事が掲載されている。他に載せる記事は無かったのか、信じられない、こんな状態で今の政府に、この事件の対策を任せるなんて絶対出来ないと思った。ベッドの麻由子を眺めていると少しは気持ちが治まった様な気になる。時計を見た、7時である。私は高木にメールを送信した。内容は、今夜でケリが着くと短文で送信した。直ぐに「了解」と返信が来て「手伝う事があれば連絡してください」と追記があった。ほんとに助かる、良い友を持ったと、自分自身を褒めてやった。

麻由子が目を覚ました。此方を向いて、意味のありそうな不適な笑みを作っている。私は目を逸らし新聞に目を移した。顔の側面に視線を感じる。私は耐えられなくなって、麻由子の方をゆっくりと首だけ動かして見た。麻由子は右手で私の寝ていたベッドの位置をパンパンと軽く叩き、「来い」と合図を送っている。私は麻由子の奴隷である。麻由子の手招きに従うしかなかった。

ベッドに入ると抱きついて来た。また私の胸の辺りを形の良い張りのある麻由子の乳房が暴れている。こんな状態でも最後まで行かないのは、きっと麻由子にとって、この関係が心地いいのであろう。それで良いと私も思っている。

生きてる抱き枕に飽きた麻由子は、「お腹空いた」と言ってベッドから降りて、シャワーをして来ると浴室に行った。8時前であった、私は吉田に9時にレストランで朝食をしようと連絡し、みんなに伝える様にお願いした。暫くすると麻由子がシャワーを終えて部屋に入ってきた。バスタオルで髪を拭きながらいつもの裸族である。私もシャワーをしに浴室へ、歯磨粉を歯ブラシにつけて、シャワーを頭から浴びながら歯を磨いた。そして、これから起きる事は、全ての日本国民は知らずに幕が引かれるのか、と思うと何か切なくなってきた。何とかこの事実を公にしたいと考えていたが、「そんな事が、私に出来るのか」独り言を呟き、歯ブラシを棚に置いて、一気に勢い良く頭を洗った。着替えて1階のレストランで朝食を取った。村井も林田も同席している。私はビルに「ジョージは?」と尋ねた。ビルは食べるのを止めて「早朝に、連絡が付いたから出発すると言って、荷物を担いで出かけましたよ。たぶん、戻らないと思うよ」そう言ってまた食べ始めた。そうか、出かけたのか、私は頭の中に広がった白く広がる霧の中にジョージが歩いているのを想像していた。

「何処に行くって?」吉田はビルに聞いた。

ビルは相変わらず表情を変えずに朝食を楽しんでいる。横に座っている麻由子と、まるで競争をしてる様である。ビルは、横の麻由子に「終わったぁ」と言って、左腕をL字型に曲げて、右手でその真ん中を叩き、どうだぁ、と言う顔を麻由子にした。あはっ、競争してたんやぁ。私は頭を何度も振って、現実に戻り、再度、ビルに「何処に行ったの?」と同じ質問をした。ビルの横で麻由子が、「くそ~」と女性の言葉とは思えない言葉を吐き、相当悔しがっていた。全員そんな麻由子を無視して、ビルの言葉を待った。「第7警戒隊」松江市の美保関にあるらしいと付け加えた。そこに、Sが到着したらしい。「S」とは陸上自衛隊第1空挺団所属の特殊部隊で「特殊作戦群SFGp通称Sと呼ばれる」隊員数300人で、編成以来、人前には現れた事がないベールに包まれた部隊である。その中の精鋭達が到着したらしい。村井と林田は顔を見合わせ、これはもう、警察の出る幕ではないと悟った。

村井は私に「これから、我々はどうすればいいんやぁ」と難しい立場の苛立ちを隠さず、自分達も何か手伝いたいと申し出た。

「村井さん、私達も、気持ちは同じなんですよ」と同じ気持ちである事を村井や林田の顔を見ながら言った。私達は救出作戦には直接参加は出来ないけど、何か出来ると思うと、みんなに向かって話した。私は事実は事実として認めなければならない。しかし、現実には、米軍の部隊も、自衛隊の部隊も絶対に表には出る事はないと思う。そこで警察の介入を画策しなければならないと思った。表上、事件の解決は警察が実行したと・・。ビルが「たぶん、ジョージもそう考えて、早めに自衛隊と接触し、意見交換をしているのだと思うよ」と昨晩のジョージとの雑談の一部を話した。

村井は、どう関わるんやぁ、とビルに聞いたが両手を広げ、「わからない」と言った。

ビルの携帯が鳴り、電話に出た。ジョージである。ビルは了解して、電話を私に手渡した。私は無言で、ジョージの話を聞いていた。話し終わると「判った、これから行く」と言って電話を切った。私はみんなを見回し、「ジョージから、私と村井さんに基地に来て欲しいと言ってる」と村井の顔を見た。

村井は直ぐに「判った」と立ち上がり、林田に「ここに残って連絡係をしてくれ」と言って、準備してくると部屋に急いで戻った。

私は救出作戦の計画に事情を把握している人物を要求しているらしいと言って、吉田に、研ちゃんに連絡して、世界中の大手メディアに潜入出来るか確認して欲しいと言った。

「みんな留守を頼む」と言って、急いで戻って来た村井とロビーを抜けて玄関に出た。送ってくれると言う、トミーとビルが車を玄関の前に移動して停めて待っていた。「美保関の自衛隊基地まで40分ぐらいかな」トミーがナビを見ながら独り言を言った、後部座席に乗っている私と村井は、到着まで無言であった。

宍道湖の沿岸を走り境港に入る、海峡を渡っている橋を渡って左折すると基地に着いた。

車を正面のゲートに停めて、ビルとトミーは振り返り「気をつけて」と手を差し出し握手をした。「連絡する、待機していてくれ」と言って我々は車を降りた。

基地の正門に、通常の自衛官の制服ではない、迷彩服にバラクラバを折り畳んで頭に被りサングラスをした隊員が2名待っていた。氏名の確認をすると言って名前を聞かれた。村井は警察バッジを提示した。

二人に案内されて左にある大きな建物の横を抜けて裏にある小さな建屋に入った。そこには、迷彩服に同じくバラクラバで顔を隠した隊員が8名、それと通常の制服の隊員が1名、ビルと打ち合わせをしていた。ビルもバラクラバを折り畳んで頭に被り、迷彩色の制服を着て、腰には拳銃を携帯している。我々を案内してくれた隊員と合わせるとSは10名であった。ジョージは手を挙げて、私の元に近づいて来て、私と村井に握手をした。

ジョージは、民間人の私達には、氏名と階級は伏せておくと言って自衛隊員の紹介は無かった。私はSの隊長と思われる人物に、最初から詳しい経緯を話した。彼らは潜水艦の録画画像も原発の監視カメラの画像も既に確認済みであった。村井も補足説明をして、何故警察が介入しているのかを説明した。隊員たちもそれぞれ内容を完全に把握した様に頷いていた。私は、少し落ち着き、周囲に居る隊員たちを見回した。入って来る時は気が付かなかったが、完全装備であった。全員が肩から89式自動小銃を提げて、中にはM134ミニガンを持っているものや、大型の対物狙撃銃M107も所持していた。おまけに全ての銃にサイレンサーが装着されている。村井も目を丸くして、現実に目にする事はないと思っていたものが、目の前にある事に、気持ちの立ち直りを弄っていた。ジョージは、事態が収拾したら、警察で処理した事にして欲しいと言った。

確かに実戦が、国内の原発内で発生したとは発表は出来ない。しかし、シナリオはどうなるのであろうか?

ジョージが、計画を話し始めた。私と村井は、質問もせず黙って聞いていた。長めの説明が終わり、ジョージが理解してくれたか?と我々に尋ねた。隊員達は、武器の点検・手入れに集中していた。私は村井の顔を見て、「どう思う?」と尋ねた。村井は、考えていた。現実にその計画が可能であるとして、失敗すれば、我々も含め犠牲者がでる。

いくら警察でも、そこまでの覚悟は、日頃には無いであろう。村井は、意を決し「やりましょう」とジョージに言った。彼は振り向き、この施設の責任者と思われる人物に頷き、Sの隊長に「出発準備」と言った。窓から横のグランドに、大きなバンが2台近づいて来るのが見えた。建屋の前に近づきバックで停止した。後部の観音扉が開けられ、隊員たちが、それぞれ乗り込んだ。私と村井は、ジョージの誘導で一緒のバンに乗った。バンには、運転席と助手席に一名づつ乗っていて、すると、もう一台も同じなら隊員は14名と言う事になる。しかし、そんな人数で大丈夫なのか?私はこの時まだ、自衛隊のSの実力を知らないでいた。バンはゆっくりと法定速度で走行している。目だたない様に、前後の一般車両に紛れて走行しているのだが、時間はもうあまりない。ジョージは、目を瞑っている。同乗しているS達もバラクラバから唯一覗いている目を瞑っている。得体の知れない相手に命のやり取りを、これからすると言うのに、不思議な光景であった。バンには椅子は無く、向かい合わせに座る形で、向かいにSが4人、私の右隣にSの隊長、ジョージ、それに私と村井が座っている。バンには窓がないので、どの道を走っているのか、サッパリわからない。隣にいるジョージに無理やり聞いた。「わからない」と目を瞑ったまま答えた。すると、Sの隊長が、原発に向かってると答えた。それは判ってるんだ、どんなルートを通っているのかを知りたいんだよ。

と聞きたかったが、止めた。山ばかりを通っている感じはする。後でもう一度尋ねたら、R431から県21またR264に入りR175へ、それから、県37に入ったのだそうだ。原発に東から向かっているのだった。

もうじき到着すると言われて、緊張をし始めていたら携帯のバイブが作動した。断りを入れて電話に出た。吉田である、研ちゃん宛てに頼んだ内容の返事であった。内容は「可能だ」と言う事だった。私は吉田に一社決めて実行して欲しいと言って、詳しい事は後で話すと言って電話を切った。ジョージが、内容を聞いたが、適当に返事をしておいた。

バンは、原発の上にある林にバックで入って行って、縦列で停止した。下に3号炉が見える。隊員はバンを降りると、速やかにバンのカムフラージュをして武器の最終チェックをしていた。さて、いよいよ本番である。太ももと膝が緊張して硬くなっている。

ジョージが側に来て、あと一時間で暗くなると言って、SEALsも向こうの林で待機していると言って宮崎鼻の方を指差して言った。私は予定通り村井と二人で、工事用の道を降りて行き、途中で高木に連絡した。10分程で高木から連絡があり、フェンスの側まで行くと高木が荷物を持って待っていた。

工事用のフェンスの扉を開けて施設の中に入り、防犯カメラの死角に行き、高木がよういしてくれた。原発職員の作業服を紙袋から出して我々に渡してくれた。「先生、ほんとにやるんですか?」と高木は聞いたが、「あぁ」と言うのがいっぱいであった。作業着に着替えると、高木は名札を渡してくれた。

名札には、事前に送信していた私と村井の顔写真が印刷された技術職員と明記されていた。私は財布と名刺入れを高木に渡し、村井は同じく警察バッチも預けた。私は高木に礼を言って、これから数時間は、作業建屋には、誰も近づけない様に手配して欲しいと言ってマスターキーを預かった。それと監視カメラの録画も続けて欲しいと頼んだ。そして、何があっても、私から連絡があるまでは、近づかないで欲しいと言って別れた。陽が落ちて来て周辺は少し暗くなり始めて来ている。

私はジョージ達がいる丘の方を見て、「開始」と手を大きく振り、村井と二人で作業建屋に向かってゆっくり歩いて行った。

ジョージは、丘の上から双眼鏡で我々を見ていた。私の合図を確認すると、無線で「開始」と連絡して、Sの隊長に右手の人指指で「GO」の合図をした。Sの隊長は部下に目で「行け」と無言で命令し、それぞれのポジションに散って行った。行動開始は、20時丁度である。後1時間半だ。

草むらに潜んでいたSEALsは8名、隠して於いたゴムボートに乗り、ゆっくりと沖合いに漕いで行った。簡易呼吸装置をセットし

準備は整っている。

私と村井は、ドアの前まで来た。「村井さん、止めるなら今ですよ」と少し笑いながら言うと「あほなぁ」と村井も笑っていた。

ドアを開け、下に下りて行く。ドアの右横の花壇に予備の鍵を隠しておいた。下のドアの前まで来た。ドアの鍵を開けて、村井に、目で合図をして、大きな声で世間話をしながら中のドアの前まで来て、少し時間をかけて会話を続けた。

作業の監視をしていた北朝鮮の兵隊は、我々の声に気が付き、厳戒態勢を取った。パク少尉は部下に入り口を見張る様に命令し、教授達を敦子を監禁している部屋に押し込めた。

全員物陰に隠れ、電気を消して潜んだ。

私は頭の中で想像し、相手の準備が出来たと判断して、村井に「行くぞ」と目で合図をして、一段と大きな声で世間話をしながらドアを開けて中に入った。そして入り口の電気を点けて、目の前に作業中の装置が見え、「あれは何の装置やぁ」「さぁ、聞いてないなぁ」と惚けた会話をしながら中へと入って行った。装置の前まで来て、眺めていると、周囲の物陰から、彼らは銃を構えて出てきた。

「うわぁ~」とわざと驚いて見せて床に座り込んで両手を高く上げて、偶然職員が来た様に演技をした。銃をつきつけられて部屋の隅に追いやられた。壁に背中をつけて「助けてくれ~」と叫び、顔の前で手を合わせて、相手の顔を見ない様にした。パク少尉は私に近づき拳銃を頭に当てて名札を見た。「技術職員か」と名札を引き千切り、床に叩きつけ、村井の名札も同様にした。パク少尉は部下に徹底的に身体検査をさせ「何をしに来た」と聞いた。私は「この部屋にしかない、工具を取りに来た」と答えた。事前に高木から聞いていた工具の名前を言った。若い兵士は今にも撃とうと構えている。パク少尉は、「技術職員なら、金属の加工は可能か」と尋問した。「専門だ」と答えると、パク少尉は、部下に教授を連れて来る様にと言って、私たちを床に座らせた。若い兵士は、銃を私たちの胸に押し付けている。教授が連れて来られ、後どれ位で完成するか聞いていた。松本教授は私たちを見て驚き、「危害を加えたら作業はしない」と大きな声で言った。パク少尉は平手で松本教授を殴り「お前は死にたいのか」と怒鳴った。教授は、今は人手は欲しいと、口が切れて血が滲んだ唇を手で拭い答えた。

「あと一時間で完成させろ、でなければ全員射殺する」と言って、私たちにこの作業室に来ている事を知っている者はいるのか、と確認した。「残業している事は誰も知らない」と答えると作業に手を貸す様に指示した。

私は部屋を見回し、敦子は倉庫の中だと確信した。松本教授は、私の側に来て、「この部品を作れるか?」と尋ねた。私は図面を見ながら「出来ます」と答え、直ぐに村井に「村井さんは、この部品をオイルで洗ってください」と図面を指さして目で合図をした。

松本教授は、少し不思議な顔をしたが、私の顔を見て「おねがいします」と言って、自分の作業に戻った。私はノギスで寸法を測り、作業を開始した。村井は私が渡した部品をオイルで洗浄する作業を始めた。パク少尉は、時計を見ながら、部下に作業が修了次第二人を射殺する様に命じた。私は旋盤を稼動させ、適当に研磨をしながら、時折松本教授に図面の確認をしに松本教授の横まで移動し、小さな声で、「救出に来ました、時間を稼いでください」と言って、また作業に戻った。松本教授は少し驚いていたが、意味がわかった様で、図面を見ながら、宮川教授と打ち合わせをする振りをしながら、私の事を話した。村井は必死で訳のわからない部品を、とにかく洗浄する事に徹していた。時計を確認すると19時半であった。

ジョージは、施設のフェンスをくぐり施設に侵入していた。事前に高木に指示して、周辺のアラームは切っている。常夜灯も1本だけ残し全て消灯させていた。闇に紛れて8名のSが散開しながら建屋に接近している。

丘の上の見晴らしの良い位置に狙撃手が陣取り入り口にスコープを合わせている。中腹の建屋の側面には重機関銃を構えたSがいる。

残った4人は、施設の出入りに使っているフェンスの近くに待機し、銃を構えている。

沖合いでゴムボートで待機していた部隊は、潜水装置をつけて海中に消えた。水深30メートルの位置に、潜水艦はいた。6名の兵士は、海底で2名づつ左右に分かれてバルーンを船体の側面に前後バランスを考えて取り付け始めた。残りの2名は、スクリューに、特殊な部品を取り付け、可動しない様にしている。取り付けたバルーンに空気を送り込み浮上可能浮力手前で待機した。時計を確認し、20時になった瞬間、空気を最大になるよう送り込んだ。潜水艦はゆっくりと浮上を始めた。

ミン上佐は、時計を見ながら、もうじき完成して装置が運び込まれるなと考えていた。

ソナー係が「上佐、船体の近くで、金属音がします」と報告した。「何の音だ、確認しろ」「わかりません、しかし、数回しただけで今は何も音はしません」「波で石でも当たったのかもしれん、良く注意しておけ」そう命令して、ミン上佐がタバコに火を点けたとたんに、船体が揺れて浮上を始めた。「どうした、何が起こったんだ」怒鳴るが、誰も答えを見つけられなかった。ゆっくりと浮上している。「エンジン始動」「スクリューが回りません」「エンジンがヒートしてます」「舵もききません」ゆっくりと浮上している。

SEALsの隊員は、潜水艦の横にいて一緒に浮上している。ハッチも固定している。

10分後、潜水艦の司令塔が海面に出た。左右の4個のバルーンも海面に姿を現した。

その時、宮崎鼻の影から大型の外洋タグボートがやって来た。サーチライトに潜水艦の司令塔とバルーンが浮き上がる。タグボートは、潜水艦の横に付けて、ワイヤーを海中にいる兵士に投げて渡し、兵士は潜水艦の司令塔に巻きつけ固定し合図をすると、タグボートは、その強力な馬力で潜水艦をゆっくり曳航して行った。SEALs達は、タグボートに乗り移り潜水艦を監視しながら曳航されて行く古びた小型潜水艦を見つめていた。

ミン上佐は、この潜水艦が拿捕された事実を確信した。原発の中にいる仲間も拘束されたであろうと想像できた。ミン上佐は、日本の自衛隊に、こんな作戦を可能にする部隊があるのかと、今回の作戦の失敗を信じられない様子であった。潜水艦の航海士は「上佐、本艦は真っ直ぐ北に向かってます」と報告すると、やつらは我々をどうするつもりだと、不安そうな部下の顔を見ながら自爆の用意をしろと命じた。

私は時計を見て、20時、1分前になるのを確認して、兵士たちと対面する様に、作業代の反対側に移動し、図面を確認する振りをしながら「これで完成ですね」と少し大きな声で話し、我々が最後の工程に入っていると思わせた。私は黙々とオイルで部品を洗浄している村井に「村井さん、こっちに来て確認してください」と村井を呼んだ。そして、20時丁度、我々は作業台の下に一斉に隠れた。顔を服で覆い床に伏せた。同時にドアが開けられ、催涙弾が何発も投げ込まれ、音を殺した銃声と大きな音の銃声が交錯し、呻き声が聞こえ、朝鮮語の怒鳴る声がしたが、わずか数秒で銃声は消え、室内を歩き回る足音が聞こえていた。気が付くとジョージがマスクを渡してくれていた。咳き込みながら急いで装着しジョージに誘導されて外に出た。外には敦子や二人の教授が既に無事保護されていた。私は道路に座り込んで動けなかった。横に村井が座っていたが、無言であった。ジョージは村井に無言で北朝鮮兵の拳銃を手渡した。「これで処理を頼む」そう言って、私の手を取り引き起こして「ボス、さぁ帰りましょう」と言った。モニターを見ていた高木が走って来た。「先生、無事ですか」私は手を挙げて無事だと告げた。「村井さん、後は高木さんと打ち合わせをして、処理してくださいね」と言って、高木から携帯電話を受け取ると吉田に連絡した。ジョージと帰りのバンの中で、3名射殺したが、残りは重症だが拘束して米軍に引き渡したと、それと潜水艦は日本海で先程自爆した事を報告してくれた。

京都に戻って、翌日、臨時ニュースとしてCNNが、今回の事件を特報として報道していた。内容は「日本の物理学者が、3名の北朝鮮工作員に誘拐され、ウラン濃縮装置の製作を原発内で作業させていた事実と、その教授を捜索しに来ていた日本の警察官2名が勇敢にも奪還したと伝え、3名の工作員は警察官が銃撃戦で射殺した」と言うニュースであった。

事件から一ヵ月後、私は宮古島の研究所の喫煙所でのんびりとタバコを吸っていた。空が青く澄んで、コバルトブルーの海と境がわからなくなるぐらい、久しぶりの快晴であった。横には麻由子が休養のために遊びに来ていて、ベンチに寝転んで読書をしていた。喫煙所のドアが開き吉田が入って来た。「所長、お客さん」そう言って、後からついて来た人物を、喫煙所に招き入れた。

村井である。「やぁ」「どうも」落ち着いた何も考えてない意味のない会話であるが、気持ちはしっかりと伝わっていた。

「村井さん、警視正になったんだって」と尋ねると「島崎さんのお陰ですよ」とニッコリと笑った。麻由子が本を胸の上に置いて「おめでとう」と言った。村井は「貴女の彼氏はとんでもない人だね」と笑って言うと「私の方が強いのよ」と笑って、また本を読み始めた。吉田も村井も声を出して笑っている。

私は日本が平和なのは、とても良い事だと思う。しかし、また同じ事件が起きないとも限らない。そんな時、今の政府はどう対応するのだろうか、と少し心配であった。今回の事件が、日本のマスコミからではなく、外国からの発信で世界に報道された事で、日本の政府や政治家は大恥をかき、嘗てない批判を国民から受け、各国の政府から猛省を促された事実は歴史に大きく刻まれた。

これを教訓として、日本の国民、日本の政治家の危機意識が大幅に変わる事を信じたい。

吉田は、「村井さんの歓迎会で今夜はお通りですね」と言って笑った。

今夜は美味しい酒が呑めそうである。

                完  


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