テントの中@くまくるの
「ねえ、テントこれでいいの?」
私は傍らにいた友達に問いかけた。
「ああ、いいんじゃない?」
「でも、何か傾いてない?」
「そんな事ないだろ~? 平気平気」
「……そうなのかなぁ」
今日は数人の友達とキャンプにやって来た。
綺麗な川で泳ぎ、バーベキューをして、夜には花火。そうして蛍観賞と計画だけは盛り沢山だ。
男三人、女三人。絵に描いたような「正しい夏のすごし方」
女達は口を揃えて「旅行がいい」と言ったけど男達の「夏はキャンプ!」に押し切られてしまった。
本当に、こんなにも地面に石がゴロゴロしている所で眠れるのかなぁ。
と若干不安に思わないでも無かったけど、折角の楽しい計画を邪魔したくはなくて黙っていた。
そうして案の定、テントは傾いている。
「右が男用で、左が女用ね」と真っ直ぐに立ててくれた方を女専用にしてくれた事が唯一の救いといえば救いか?
女達は狭苦しいテントに「どこに一泊する気なんですか!!」と言わんばかりの大きなボストンバッグをそれぞれ詰め込んだ。それだけでもう、狭くて寝るスペースがない。
そんなテントの中で私達はぶつかり合いながら水着に着替えた。
川は冷たくて気持ちよくて、最初はずっと泳いでいたいって思ったけど、だんだんと冷えて寒くなってしまった。このままだったら、冷やしてあるすいかと同じ温度になってしまいそうだ。
そう思って一人「先に上がるね」とテントを目指した。他の五人は、まだワイワイと泳いでる。
「う~寒い寒い」と言いながらバスタオルを体に巻いてテントを目指すと、女子用テントがゆらゆらと動いている様に見えた。
「……傾いてる?」
泳ぎに行く前よりも、なんだかテントの上部が斜めになってる気がする。
倒壊しそうなのかも知れないけど、寒くて青くなっていた私は再び川まで男性陣を呼びに行くのが面倒で、気づかないフリをしてテントの扉を開けた。
「きゃああああああ!」
私の叫び声を聞きつけた友達が走って戻って来てくれた。
どうした? どうした? とテントの中を覗きこむと、そこには狸が寝ていた。
まるで「は? ここ私の家ですけど?」ばかりの態度だ。
狸って夜行性なんじゃなかったっけ?
なんか小さくない?
可愛い!
大声で話しているにも関わらず、狸はグーグーと寝ている……様に見えた。
私達が狸から目を離した一瞬に、狸はムクリと起き上がり、猛スピードで裏の山手へ去って行った。
残されたのは、おやつに買って来たお菓子の残骸と無残に引き裂かれた衣服、そうして傾いたテントだけ。
「あの! 狸!」
「その服高かったのに~!」
「お菓子なくなっちゃったよ~!」
口々に被害を確認する女達の背後から男共の笑い声。
「狸って本当に狸寝入りするんだな~」
「そうそう、一泊なのに荷物が多すぎるから減らすの手伝ってくれたんだよ」
「女子用に侵入するなんて、あいつ絶対にオスだな」
と言いたい放題いって爆笑する。
散々バカにした男達と文句を言う女達だったが、その隣のテント内で、今まさに同じ光景が繰り広げられているのには誰も気づかなかった。
キーワードは「テント」です。