休み時間の怪奇現象!?@くまくるの
暑さを感じて、私は読んでいた本から顔を上げた。
休み時間の教室内部は喧騒と熱気、五月蠅い蝉の声が篭っていて、余計に暑苦しくなる。
窓の外に顔を向けると、夏の空には綿菓子みたいな入道雲が広がっていて、雨の降る気配はない。
「雨でも降らないかなぁ」
暑くて暑くて窓を開けているけど、風はそよとも吹かず、唯、熱が窓から入ってくるのみ。こんなに暑い席なら窓際なんかじゃなくて廊下側の席がよかったな。
「何読んでるの?」
読みかけの本に目を落とそうとしたら隣席のエビちゃんが話しかけてきた。
「夏の怖い話100話」
「うわぁ」
「100物語風に100話読んでるの。噂じゃね、この本を全部読むと、その日の晩に怪奇現象が……」
「うわぁ、うわぁ!」
エビちゃんこと海老原は、怖い話が苦手だ。
それを知ってて実際に読んでいる本とは全然関係ない話をでっちあげる私も私だけど。
「この23話目なんか、最高に怖いよ。あるカップルが深夜にドライブしていたらね……」
「うわぁ! もう止めて!」
「普通の一本道に何故か不気味なトンネルが……」
「うわああああ!」
叫んで耳を押さえて必死に聞こえないフリをしているエビちゃんに、さらに話を続ける。
「さっきまで星が瞬いていたそらから急に雨がポツリポツリと降り出して……」
「うわあ! うわあ!」
「雷が急にピカッと!」
「うわああああ!」
叫びながら逃げようとしたエビちゃんが固まる。
どうしたの? と聞く前にピカッと電光が瞬いて数秒遅れてドォォォンと雷が落ちる音が響いた。
「うわあ! 怪奇現象! 怪奇現象だ! あんたがヘンな本を読んだから!」
窓の外を眺めても、ただ入道雲が広がるばかり。それでもさっきよりは雲が大きくなってる気がする。 多分あの入道雲の下では天気が急変して大雨になっているんだろう。
雷が光ってから、落ちる音が聞こえるまでに時間も大分あったし、ここまであの雲は流れてくるのかなぁと思っていると、ポツリと手に水が落ちてきた。
ポツリポツリと晴天の空から一つ二つと雨粒が落ちる。
「狐の嫁入りかぁ」
晴天の空なのに降って来る雨をそう呼ぶはずだ。
本当に狐にばかされているみたいな現象。
「狐の嫁入り?」
不思議そうに聞くエビちゃんに「狐の嫁入りっていう怪奇現象があってね……」
と私はわざと低い声で話し始めた。
「キャアアア! 言わないで!」
雷よりも五月蠅いエビちゃんの叫びに、数人の生徒が振り向くけど、また何事もなかった様に自分達の話へ戻る。
ポツリポツリと降る雨は、少し涼しい微風を伴って、私の髪を揺らした。
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