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第4話 略奪されたヒカリ Bパート

アイキャッチ。

「神鋼魔像、ブレバティ!」

「兄は鬼子です! もちろん、ルードヴィッヒも!!」


「…うん、出てくるよね、その言葉」


 前世ロボットアニメの有名セリフとかぶっているが、元ネタを知っているとも思えないから偶然だろう。「鬼子」か…僕自身が、この両親から生まれたのでなければ、同じように呼ばれていただろう。そもそも父さん自身が「鬼子」と呼ばれる存在だったはずだ。世界に変革をもたらす天才的な子供たち。種を明かせば何のことはない、前世の記憶と高度文明の知識を持っている転生者だということだ。薄々予想してはいたが、リーベの話で確信ができた。ルードヴィッヒも間違いなく転生者だ。


 思わずつぶやいた僕をリーベが見つめる。一瞬ためらってから、みんなではなく、僕に話しかけてきた。


「ノゾミ、あなたもそうではないの? 兄様やルーほどじゃない。言動だけなら普通の子供っぽく見える。だけど、本質が違う。私たちとは、どこかが違う。さっき、兄様が言っていた『秘密』と関係があるのではないの?」


 僕はすぐに言葉を返せず、父さんの方を振り向いた。渋い顔をしている父さんが、ちょっと考えてから、うなずいて言った。


「こうなっては隠しておくことも無理だろう。俺のことも含めて、言っておこうか」


 そして、この場にいるみんなを見回して続ける。


「俺とノゾミ、それにリヒトとルードヴィッヒには、ある共通点がある。それは、生まれたときから前世の記憶を持っている、ということだ。さっきリーベが言った『子供の皮をかぶった大人』という例えは、ある意味本質を突いている」


 母さんとリーベを除いて、全員が驚愕の表情を浮かべる。予想していたリーベはともかく、母さんも動揺していないということは…


「知ってたの?」


「お父さまに聞いていましたの、結婚する時にね。あなたのことは、赤ちゃんの時の様子から、そう推測していたのよ。お父さまが確信したのは、『Dr.(ドクター)ヘルム』の話を聞いた時みたいだけど」


「そんな前から!?」


「だって、あなたは赤ちゃんの時から、まったく泣かなかったし、聞き分けが良かったし、横にいるヒカリちゃんと比べたら、全然様子が違うのだもの」


 …あっちゃあ~、前世で姉が里帰り出産した時に、赤ん坊の夜泣きだの我が儘だのに振り回されて苦労してたのを見てたんで大人しくしてたんだが、それが原因でバレバレだったとは。


「だから、あなたが普通の子よりも相当早くに魔法に興味を持って練習を始めたことも不思議には思わなかったし、練習につきあってあげたのよ。ヒカリちゃんやクーちゃんたちまで一緒につきあいだしたのは、ちょっと予想外だったけど。おかげで、みんな同世代の子と比べたら相当に魔法の実力はあると思うわ」


 母さんの愛情がありがたい。だけど、一つ聞きたいことがある。


「変だとは、思わなかったの?」


「だって、お父さまがいるもの。前世の記憶がある人を愛してしまったのよ。同じような子供が生まれたからといって、愛せないわけがないじゃない」


 とびっきりの笑顔で答えてくれた。ああ、僕はこの世界で両親に恵まれたんだな。そう確信できるのは、母さんの顔を穴があくように見据えてるリーベの「信じられない」というような表情を見たからだ。


「ん~、言われてみると何か納得だな」


「だよね~。昔っから、ノゾミってば変に大人っぽいところあったモンね~。その割に変に子供っぽいところも多いけど」


「…悪かったな」


 それから、再起動した幼なじみ組だが、こいつらのリアクションも大概だった。もっと驚けとは言わないけどさ…


 とか思ってたら、それに猛烈に抗議をする人が一人。


「どうして、それで済ませられるの!?」


「? 逆に聞くけど、リーベは何でそんなに怖がってるの?」


「何でって…おかしいじゃないの!」


「おかしいなら、そもそもボクら全員そうなんじゃない? ボクたち、危険な子供たち(テリブルチルドレン)ってのはさ」


「そうだな、オレらは最初からおかしいのが当然なんだ。そこに、さらにおかしいのが追加されてたって、ちょっと不思議に思うだけだ」


 クーの切り返しとカイの同意に絶句するリーベ。なるほど、僕たち以降の世代の子供たちは、全員がそれまでの大人に比べると隔絶した魔力を生まれながらに持っている「異常者」ばかりだ。だが、だからって「ちょっと不思議」で済ませるお前は男前だよ、カイ。


「僕はお前達が幼なじみで本当によかったと思う」


 ちょっと気恥ずかしいけど、真っ正面から言う。血がつながっている母さんとは違うのに、同じように思ってくれた、大切な()()たちに。「()()」だからね! ここんトコ、とても重要だからね!!


 ちょっと面はゆそうな顔になった二人に対して、僕も気恥ずかしいので弟たちに話を振る。


「ツバサとツバメはどう思った?」


「よく分かんないけど、とーちゃんとにーちゃんは生まれつき頭がいいの? 何かずるい気がする」


「ん~、でも、おにーちゃん、すごく魔法の練習とかしてるよ。いろいろ勉強もしてるし」


 ツバサにはずるいと言われた。それは確かにそうだ。この世界、導入(インストール)の魔法があると言ったって、まず最初の読み書きは覚える必要があるし、計算だの頭を使うことはきちんと訓練する必要があるんだ。そこをすっ飛ばせるのは、ずると言われてもしょうがない。ただ、それを聞いたツバメは、僕も努力をしているとフォローしてくれた。ありがたい妹だ。


「そうだ、なんで魔法の練習をする必要があるんだ? いや、訓練で魔力が上がるから訓練するのは当然だが、お前、基礎訓練から操作系の練習をやたらとしてたろ? 前世の記憶があるんなら、魔法操作のやり方ぐらい最初から分かってるんじゃないか?」


「答えは簡単。僕や父さんの前世の世界には、魔法が無かったからさ」


「「「「「ええっ!?」」」」」


 カイの疑問に答えたら、今度は両親以外の全員が驚いた。


「俺も、ノゾミも、リヒトも、ルードヴィッヒも、みんなこことは違う世界から転生してきたんだ。その世界は魔法が無い。だから、前世の世界には無かった魔法に興味を持って、小さい頃から練習を始めたんだ」


「でも、確か言葉は同じだったんでしょう?」


「そう。こっちで言う標準語。あちらの世界では日本語って言ってた。だから、言語面では相当アドバンテージがあるんで、ずると言われてもしかたないかな」


 僕の説明を父さんと母さんがフォローしてくれた。が、問題はそこじゃなかったらしい。


「いや、魔法が無いって、それでどうやって生活できんだよ!?」


「そうよ、火はどうするの!? 水は!? 病気や怪我の治療は!?」


 …ああ、そうだ、この世界は生活の隅々まで魔法が必要なんだ。父さんと二人して、何とか前世が科学世界であることを説明する。実は、こっちの世界も科学の進歩自体は前世と比べて遜色はない。ただ、魔法の方が便利すぎるので、科学技術は使われないのだ。


「内燃機関? あんな扱いにくくて、効率悪くて、空気を汚すような代物を使ってるのか」


「実体弾なんて、大嵐防壁(テンペスト・シールド)張れば全部逸れちゃうじゃない。…あっ、そもそも防御魔法も無いんだ」


 こんな反応になっちゃうワケだよ。


 それまでのシリアスさがどこへやら、グダグダで収拾がつかなくなりそうだったところへ、艦内通信機(インターコム)が鳴ってマーサさんの緊張した声が聞こえてきた。


「艦長、『紅の男爵』から通信です!」


「分かった、すぐ艦橋(ブリッジ)へ行く…いや待て、ここならサブCICの方が近い。そっちで受けるから通信を回せ」


 一瞬で緊張する室内を見回して、父さんが命令する。


「カイとクーは格納庫で第二種戦闘配置。リーベは、ここでツバサとツバメを見ててくれ。クリス、ノゾミ、サブCICに行くぞ」


「「「「「「「了解」」」」」」」


 全員の声と敬礼が重なる。…チビ二人だけ「ラジャー」だけどね。カイとクーが先頭で部屋を飛び出し、それに続いて父さんと母さんもサブCICに向かう。それに続こうとした僕に、リーベが声をかける。


「ノゾミ! さっきは、ごめんなさい」


「いいさ、リーベの反応の方が普通だ。ウチの家族やカイたちの方が変なんだろう。僕は恵まれてる。だから気にするなよ。ツバサたちを頼む」


 リーベの謝罪に、笑顔で答えを返す。この答えは、心の底からそう思っていることだ。リーベと弟たちに手を振ると、父さんたちの後を追ってサブCICに向かう。


 オグナのサブCICは中央艦体の一番中心部、魔道エンジンのすぐ横で、艦体で一番守りの堅い位置になる。通常は副長~母さん~がここに居て、ダメージコントロール~艦の被害状況の把握と、その対応や修復の指示を出すこと~を行っているらしい。また、比較的目立つ位置にある艦橋(ブリッジ)が破壊されて戦闘指揮ができなくなった時に、代わって指揮を取る役目もある。


 サブCICに入ると、もう水晶スクリーンにはリヒトの顔が写っていた。遠像(テレヴィジョン)の魔法だな。この魔法を応用した魔法具がこの世界の「テレビ」だ。既に父さんとリヒトが話し合っている。


「…ですから、ヒカリ君にはご不自由はさせておりませんので、ご安心を」


「ま、そっちは心配してねえよ。あんまり長話するのも何だから、さっさと条件を言えや」


「いいでしょう。ヒカリ君と、リーベおよびガーランド少尉、それに彼女の一眼巨兵(サイクロプス)の残骸との交換ではいかがですか」


「欲張りすぎだろう、そいつは。ヒカリとガーランド少尉の交換でどうだ。第一、リーベはそっちに行きたがってないんだ。捕虜じゃないんだぞ、強制もできん」


「ふむ、まあ私も説得に失敗したのですし、リーベは諦めましょう。ガーランド少尉に一眼巨兵(サイクロプス)の残骸ではいかがです? 正直に言えば、個人的感情で起こした作戦で、一眼巨兵(サイクロプス)7機大破、1機撃墜では収支が悪すぎましてね。おまけに(ふね)も主砲が全滅で中破判定だ。この上一眼巨兵(サイクロプス)まで取られたとあっては外聞が悪すぎる」


 僕の戦果は一眼巨兵(サイクロプス)4機大破、1機撃墜だから、残り3機はカイとクーでやったんだろうな。


「残念だが、貴重なサンプルを返すわけにはいかんよ。政治的にも、こいつは我が国初の得点なんでな」


「サンプルとしての意味なんて無いでしょう。ちょっと見てみれば、あなたにとって目新しい魔法技術など何も使っていないことが分かるはずだ。意味があるとすれば政治的なものだけですが、ヒカリ君にはそれだけの価値は無いと?」


「…お前さんの、すぐ隣にヒカリがいるんだろうな? そう言うってことは」


「正解です。あなたの返答しだいでは、お嬢さんは非常に傷つくと思いますよ」


「それで傷つくほどヤワに育てた覚えはねえよ。だが、価値が無いなんてことは口が裂けても言えんな。いいだろう、一眼巨兵(サイクロプス)の残骸も返す」


「ついでに、私の仮面も返してもらえませんかね。予備はありますが、あれが一番気に入っているのでね」


「意外にセコいな、『紅の男爵』」


「首を取られたとまでは行きませんが、結構な宣伝材料にはされてしまうでしょうからね」


「その程度は覚悟してもらおうか。こっちにも『英雄(ヒーロー)』が必要なんだ」


「分かりました。ノゾミ君には不本意でしょうがね」


 …なんで、この流れで僕のことが出てくるんだよ? 父さんとリヒトの交渉で、ヒカリと捕虜のパイロット~ガーランド少尉という名前らしい~に一眼巨兵(サイクロプス)の残骸もつけて交換することが決まったらしいが。


「それも高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュだろう。お前さんと同じで、な」


「フフ、お仲間が増えるのは嬉しいことですよ。それでは、時間と場所は、明日1200(ひとふたまるまる)時、『爆心地(グラウンドゼロ)』でいかがですか?」


「『爆心地(グラウンドゼロ)』ね。場所に異存は無いが、時間は1400(ひとよんまるまる)時にしてくれ。オグナの修理が追っつかん」


「いいでしょう。それでは明日1400時にお会いできることを楽しみにしていますよ。ノゾミ君にもよろしく。通信終了(オーバー)


「それ以上ヒカリを怒らせるなよ。通信終了(オーバー)


 通信が終わった。明日の14時に「爆心地(グラウンドゼロ)」で捕虜交換になるらしい。爆心地(グラウンドゼロ)というのは、文字通り15年前の大爆発ビッグエクスプロージョンの中心地だった所だ。かつての、いや今でも帝国と連邦の国境にあたる、デューラシア大陸の東西をつなぐ地峡部分にあたるのだが、大爆発ビッグエクスプロージョンのせいで国境としての意味が無くなってしまった。


 デューラシア大陸は、簡単に言うと眼鏡の形をしている。西と東に大きな逆三角形(北を上にした場合)の大陸があり、東側の全域を支配するのがアーストリア帝国で、西側が十カ国連邦になる。それが細い~と言っても南北80キロはある~地峡でつながっているのだ。かつては、そこに長大な国境城壁が存在し、検問となる国境の町があった。だが、今は直径50キロの巨大なクレーターがあるばかり。


 今から15年前、国境の町を中心に起きた巨大な爆発が「大爆発ビッグエクスプロージョン」だ。当初は連邦も帝国も、互いの攻撃かと疑心暗鬼になったようだが、そもそも()()はそんな巨大な爆発を起こせるほど強力な魔法は存在していなかった。両国が独自に調査を始め、最終的には協力して調査した結果「宇宙から落ちてきた巨大な隕石が原因」という報告を両国が同時に発表して、大規模な自然災害だったという結論になった。


 ところが、この大爆発ビッグエクスプロージョン以降、世界中の魔素(マナ)の量が急増したのである。これは、隕石に魔素(マナ)が大量に含まれていたためではないか、と推測されている。この魔素(マナ)の急増が原因なのか、それ以降に生まれた子供には異常に双子が増え、しかも魔力量がそれまでより遙かに増えている。それが危険な子供たち(テリブルチルドレン)というわけだ。


 そして、謎めいているのは、自然災害と言っているにもかかわらず、両国が国境の町を再建しなかったことである。互いに国境線を25キロずつ引き下げて国境城壁を再建し、大爆発ビッグエクスプロージョンのクレーター部分を互いに不可侵の緩衝地帯にしてしまったのである。さらに、互いの国をつなぐ陸路は再建されなかった。両国の近隣の港をつなぐ航路はもともとあったが、そこに両国国営で最新鋭の魔道船による海路輸送が開始され、従来の陸路に代わるものとされてしまったのである。


 両国とも「再建には多額の費用が必要となる」「縁起が悪い」「鎮魂のために、そのまま残すべきだ」などの意見があったため、とされているが、いずれも説得力に欠ける。このため、大爆発ビッグエクスプロージョンには、公式発表とは違う「真実」が隠されているのではないかという説は、両国どころか世界中で山ほど唱えられている。にも関わらず、連邦も帝国も「隕石が原因」という公式発表以外は何も言わずに、ただ爆心地(グラウンドゼロ)を封鎖し続けているのである。


 今回の戦争においても、実は国境における戦闘は一度も起きていない。互いに国境城壁に戦力を集めてはいるが、実際にはリヒトのような帝国の皇太子親衛艦隊の独立機動部隊が国境を越えて各地の貴族領を急襲しては、その地の貴族を捕虜にして帰っているという戦闘が続いているのである。


 これに対して、連邦でも同様の戦法をとるべきではないかという意見はあるのだが、まず何より、連邦は飛行戦艦もAGも、まだ実戦投入できる状態ではないのである。


 何しろ初の飛行戦艦がスフィンクス級なのだ。7番艦のオグナが艤装未了で実戦参加しているくらいだ。1番艦のスフィンクスは、この前公試運転が終わって実戦部隊に配備されたというのが、華々しく発表されたばかりである。まだ慣熟訓練の最中であろう。


 そして、AGに至っては、僕のブレバティ・ドラゴンが栄えある初の実戦参加機である。父さんは「量産の暁には…」とか前世ネタのセリフをほざいてたが、実際に使ってみた感想を言えば、今のままでは量産は無理だ。操縦に必要な魔力が大きすぎる。危険な子供たち(テリブルチルドレン)の中でも更に反則(チート)級である僕の魔力のほとんどを要求するようでは、量産したところで使える人間が限られすぎる。まあ、あの時は結構魔力消費をした後だったけど、それでも残りの魔力量だけで並の危険な子供たち(テリブルチルドレン)は上回っていたんだから。実用量産機を作るなら、かなりのデチューンが必要だろう。


 つまり、連邦には有効な反撃手段がない。国境城壁の戦力は、従来の騎士と魔術師中心の歩兵師団だし、魔力重砲や魔力障壁のような大型兵器や戦車~前世のタンクのような物ではなく魔道具装備のチャリオットだが~や在来型魔像(ゴーレム)~身長5メートルほどで単純な命令しか聞かない自律型~はあるが、これでAGや飛行戦艦を相手にして攻撃するのは無謀だろう。城壁に守られながらなら、何とか対抗できるという程度だ。


 そう、これまで連邦は一方的に叩かれているだけだったのだ。それが、今回初めて帝国の奇襲作戦に対して反撃をして、AG1機撃墜、7機撃破、戦艦1隻中破、捕虜1名の損害を与えたのである。被害はAG1機小破、戦艦1隻中破、捕虜1名。互いの戦力で言えば、相手側が戦艦1隻AG9機に対して、こちらは戦艦1隻AG4機と、機体性能を考えなければ劣勢である。しかも、相手の指揮官は名だたる英雄「リヒト・ホーフェン」だったのだ。


 …そう考えると、さっきの父さんとリヒトの会話の意味も分かる。なるほど、政治的には使わざるを得ないカードだ。本来は捕虜も、敵機の残骸も政治カードとして有効利用すべきなのである。こちらは既に高級貴族の捕虜は山ほど取られてしまっている。今更ヒカリ一人を取り戻すのに捕虜や残骸を渡すようなことは、本来は認められないだろう。


 だが、そこはそれ、ここは前線である。前線指揮官の裁量というヤツが認められているのだ。特にウチは私領軍なので、その指揮官である父の意向が最優先される。娘一人を取り戻す捕虜交換をやってしまうような公私混同も許される。それが貴族であり、私領軍だからだ。このあたりは、連邦もヤマト皇国も、まだ旧態然とした貴族連合国家的な要素が強い。これに対して帝国は既に強力な中央集権国家になっていて、軍隊の指揮権も命令系統もはっきりしている…唯一の例外である「皇太子の私設軍隊」=親衛隊(SS)を除いて。


 そして、この場合、公私混同をやったからといって、一部に非難はされるだろうが、処罰の対象にはならないだろう。他ならぬ「僕」の功績が大きいからだ。その代わり、「僕」は政治宣伝の道具にならざるをえない。


英雄(ヒーロー)やるのも高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュだって?」


「すまん」


 僕の皮肉に、素直に謝る父さん。そう出られると、僕としてもそれ以上のことは言えない。


「いいさ、それこそ『逃げちゃダメだ』の精神で頑張るしかないだろ。かわいい妹のためだ」


「かわいい妹、ね」


 僕の言葉に、母さんが意味深に口を挟んできた。


「ノゾミちゃん、何があっても、ヒカリちゃんはあなたの妹よ。『かわいい妹』と思うなら、何があってもヒカリちゃんを信じてあげてね」


「どういう意味?」


 ワケがわからず問い返すと、母さんは直接は関係のなさそうなことを言い出した。


「わたくしは、ヒカリちゃんのことはそんなに心配していないのよ。いきなり殺されるというならともかく、そうでないなら、気にいらなければ戦艦だろうが要塞だろうが叩き壊して帰ってくるはずよ。わたくしの自慢の娘ですもの」


 …穏やかな顔して、おっそろしい事を言う人だ。きっと、自分も()()()()人だったんだろうな。でも、これで母さんがそんなに怒っていない理由は分かった。だが、それとさっきの言葉と、どうつながるんだ?


「ただねえ、ヒカリちゃんって、芝居っ気の強い子なのよね~」


 うん、それは小さい頃からよく知ってる。


「リヒト君も芝居っ気の強い子よね~」


 !!


「意外に、気が合うんじゃないかしら~」


「だ、だが、さっきリヒトはひっぱたかれたような事を言ってたが?」


 父さんが反論した。僕がサブCICに入る前のリヒトとの会話の中でそういう話があったのだろう。だが、それを聞いてむしろ僕の心配は深まる。


「ひっぱたいた…リヒトを」


「あら、さすがにノゾミちゃんの方がヒカリちゃんのことをよく分かってるわね」


「どういう事だ、ノゾミ!?」


「ヒカリが本当に怒ってるなら、ひっぱたく()()じゃ済ませないってことさ。ひっぱたいたって事は、リヒトに強引に連れていかれたことは、それで許したってことだよ」


 父さんに解説する。


「だけど、それだけでヒカリが僕たちを裏切ることはあり得ない」


 そう続けながら、父さんと母さんを見やる。


「にも関わらず、母さんはヒカリがリヒトにつくことがあり得ると思っている。なぜ?」


「そうね…『シナリオ』を修正すべきじゃないかしら?」


 母さんが父さんに言う。ま~た、意味深な言葉が出てきたよ。顔をしかめて少し考えていた父さんが、ようやく口を開く。


「…そうだな、ノゾミには教えてもいいかもしれん、が…」


「『今はまだ語るべき時ではない』かい?」


 僕が父さんのセリフを先取りすると、父さんは思い切り渋い顔になり、母さんは苦笑する。


「いいさ、何が奥に隠れているのは分からないけど、予想はついてきた。父さんは、僕に()()()()をさせたいんだろう? なら、何も聞かないで英雄(ヒーロー)を演じてやるよ」


「…フン、俺はいい息子を持ったよ」


 どうやら、正解だったようだ。この()()には()がある。何かとてつもない()が。だけど、僕はそれを知らないふりをして「正義の英雄(ヒーロー)」を()らないといけないワケだ。


「その代わり、戦争が終わったら自由な時間をもらうよ。5年とは言わない、1年でいい」


 このくらいの条件闘争はしてもいいだろ。


「…その程度も保証してやることができん自分が不甲斐ないな。やれるなら、その程度の自由は与えてやりたい。だが『この戦争』自体が前哨戦にすぎんのだ。『まやかし戦争(フォニーウォー)』の後には本当の『世界大戦』が控えている」


「なに!?」


 おいおい、ちょっと予想と話が変わってきたぞ。


「今はまだ、この程度しか言えんのだ。だが、覚悟は決めておいて欲しい。たぶん『この戦争』は悲惨なことにはならない。事故は起こるから悲劇を完全に防ぐことはできないだろうが、互いに恨みは残したくない、そういう戦争だ」


 やはりな、出来レースとは言わないが、裏でつながってる可能性は大だ。そして、英雄(ヒーロー)たるべき僕は、それを知ってはならない、ということだ。


「『殺さずの英雄』をやれ、と?」


「きれいな手でいて欲しい。『この戦争』では」


 なかなか無茶を言うね。だが、無理ではないのだろう。そのくらいの「仕込み」はしてあるはずだ。だが…


「『次』は?」


「そんな余裕は無い。お前も、ヒカリやカイたちも手を汚すことになるだろう。…()()()()()()()()


「『人類救済計画』…か」


 父さんの言葉に、リヒトが言っていた怪しげなキーワードを漏らしてみると、案の定、憮然とした顔になった。


「リヒトか? 余計な事を言う」


「だから、芝居っ気が多いんだって。父さんと同じで、リーベに『本当の事』を言えない分、思わせぶりな事を言いたかったんだろうよ」


「まあいい。お前には苦労をかけることになるが、頼んだぞ。ああ、身の回りのものを整理して(ふね)に持ち込んでおけ。当面、イモータル市に移る事になる。カイとクーにも言っておけ。母さんも、ツバサやツバメの分も含めて引っ越し準備を頼むぞ」


「「了解」」


 話は終わったようだ。言われた通りに私物を整理するためカイとクーに声をかけてから屋敷に戻るとしよう。母さんと連れだってサブCICを出ようとすると、父さんが艦内通信機(インターコム)で第二種戦闘配置を解除するよう命令をしていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 爆心地(グラウンドゼロ)は本当にあたり一面、何もない荒野だった。既に爆発から15年もたっているのに、草ひとつ生えていないとはどういう事だ? 探査(サーチ)の魔法をかけてみても、別に放射性物質だの、その他の生物に有害な物質が存在しているわけではないようなのに、生き物を拒む()()がある。だからこそ、両国もここを再建しなかったのだろう。


 「隕石」というのが嘘なことも確実だ。これだけのクレーターになる隕石が落ちたら塵などが舞い上がって「核の冬」みたいになるはずだ。だが15年前は火山の噴火ほどの気象異常すら起きなかった。だが、それなら、これだけの爆発を起こし、世界中の魔素(マナ)を急増させるような「自然現象」とは一体何なのか?


 爆心地(グラウンドゼロ)の中心地で、リヒトたちが来るのを待ちながら、僕は考えにふけっていた。


 僕はオグナの飛行甲板上で、ブレバティ・ドラゴンのコクピットにいる。オグナもドラゴンも修理は終わって機能も完全に修復している。ドラゴンの魔力量もフルに回復しているが、長距離転移したばかりのオグナの魔力残量は半分くらいに減っているはずだ。僕の後ろにはロプロスとポセイドンが立ち、足下には父さんと捕虜の女性パイロットが並んで立っている。父さんが雑談をしようと話しかけているのが聞こえるが、彼女は相手にしていないようだ。


「なあ、フィーア・ガーランド少尉、お前さん、ゲオルグの娘なんだろ?」


「自分は認識番号SSF001286、フィーア・ガーランド少尉であります」


「本当に、それしか言わないのな。筋金入りだね」


「お褒めにあずかり恐縮であります」


「お前さんの親父とは、知らない仲じゃないんだがね」


「自分は一介の軍人であります。貴族のことは感知しておりません」


「貴族って認めたな。やっぱりガーランド伯爵家の娘なんだろう?」


「自分は認識番号SSF001286、フィーア・ガーランド少尉であります。それ以上でもそれ以下でもありません」


 こんな調子で、何を聞いても軍人口調で認識番号と名前と階級しか言わない。緑髪なのはエルフ族の血を引いているからだろうか。僕のもう一人の幼なじみにハーフエルフがいるが、彼女の耳が少し尖っているのに対して、この少尉の耳は普通の人間と同じだから、クォーターかそれよりも薄い混血なのだろう。改めて見直してみても、目つきが少しきついものの、なかなかの美少女だ。…とはいえ、捕虜にした時のあのボロボロの様子を見てしまっているので、いい女とは思えないんだよな。まあ、そうしてしまったのは僕のせいなんだが。


 あと、どうやら彼女は父さんの知り合いの娘らしい。ゲオルグ・ガーランド伯爵については、前に聞いたことがある。父さんの冒険者時代のライバルで、やはりS級冒険者だったそうだ。魔道具狂いの研究家でもあり、目くそ鼻くそレベルでお互いにライバル意識を燃やしていたらしい。冷や飯食いの三男だったんで気楽な冒険者生活をしていたはずが、兄が二人とも早くに亡くなってしまい、家を継ぐことになったんだそうな。現在は、親衛艦隊の提督をしているという話だったので、結構偉い人の娘になるのか。


 …そういえば、一つだけ彼女に聞きたいことがあったな。既に拡声(スピーカー)ほかの基本魔法はかけてあるので、ちょっと聞いてみる。


「ひとつ聞きたいことがある。あの戦闘のとき『連邦のAGは化け物か』とか言っていたが、あれはリヒトの指示か?」


「なぜそ…っく! 答える義務は無い!!」


 驚くフィーア少尉。途中で気づいたようだが、驚いたこと自体が答えになってるよ。


「やはりね。ピンチになったら、このフレーズを使えば相手の動揺を誘えるとでも言われていたのかな?」


「答える義務はない!!!」


「あとは、そうだな『当たらなければどうということはない』『さすが一眼巨兵(サイクロプス)だ、何ともないぜ』『素人め、間合いが遠いわ』あたりかな?」


「…何の意味があるのだ、その言葉には? っ、符丁か!?」


 どうやら、当たっていたらしい。虚勢を張るのも忘れて、思わず問い返してきてから、何らかの合い言葉である可能性に気づいたようだ。


「残念、符丁じゃないんだな。僕とリヒトの間にある共通の秘密ではあるけどね。帰ったら聞いてみるといい。もっとも『皇族の間の秘密』とか言ってごまかされる可能性の方が高いかもしれないけどね」


「…」


 黙り込んでしまったフィーア少尉を置いておいて、僕は自分の考えに戻る。どうやらリヒトは僕が転生者だと予想していたらしい。そうでなければ、こんな指示は出さないだろう。問題は、なぜリヒトが知っていたか、だ。リーベからというルートの可能性も否定はできないが、昨日の様子だとリーベがリヒトと連絡を取っていたとは思えない。なら、ルートは一つしかないじゃないか、狸親父め。


 と、そのとき大規模な転移魔法の魔力を感じる。そして、ヒカリの魔力も。どうやら、あちらさんもお出ましのようだ。


「敵艦の転移を確認。艦型照合。ブリュンヒルト級ではありません。サイズはパンター級と同等で、艦型も類似していますが、既存の照合表に合致しません。大改装されたという情報があったパンター級4番艦『レオパルド』と推定します」


 マーサさんの声が魔道通信機から聞こえてくる。オグナと味方機の間で相互通話できる状態を維持しているのだ。どうやら、バルバロッサは修理が間に合わずに代わりの艦で来たらしい。パンター級というのはバルバロッサより一つ前のタイプの戦艦で帝国初の、と言うよりはこの世界初の飛行戦艦だ。確か全部で4隻あり「パンター」「ティーガー」「レーヴェ」「レオパルド」と猫科猛獣の名前がつけられているんだが、前世の記憶を持つ僕としては「レーヴェ」以外は戦車っぽいネーミングに思えてしまう。


 見てみると、バルバロッサに比べると角張ってごつい感じの戦艦である。艦の全体が真っ黒に塗られているのは、夜戦迷彩なんだろうか? 昼間はかえって目立つと思うのだが。


「レオパルドだと? 演習中の事故で初代のティーガーと激突して大破したという話だったな。ティーガーの方は廃艦にして、ニコイチでレオパルドの方を修理して、ついでに大改装していたらしいが、これが初お目見えか…ふむ、真っ黒だな」


 父さんが何やらブツブツつぶやいているのが聞こえていたが、何かを思いついて、フィーア少尉に向かって質問した。


「少尉、あれは君のお父上の旗艦じゃないかね? 最新鋭の『ティーガー(ツヴァイ)』が配備予定という傍聴情報はあるが、まだ慣熟訓練中だろう」


「答える義務はない」


「あの趣味の悪い黒塗りはゲオルグっぽいんだがな」


「趣味が悪いことは認める」


「…初めてゲオルグに同情した」


 父親の趣味が悪いと煽って情報を得ようとした父さんだったが、あっさり認められてしまい、かえって相手に同情したようだ。父親として、娘に邪険にされることに、身につまされる思いがあるんだろう。何しろ、これからヒカリに同じような目に合わされることは、ほぼ確定なんだから。


 ちょっと考え込んでいた父さんだったが、急に母さんを呼び出した。


「クリス、ちょっと事情が変わった。俺はオグナにいる方がいいようだ。捕虜交換はお前が担当してくれないか?」


「あらあら、どうしましたの?」


「ゲオルグが来てる。オモチャを持ってきてるみたいなんで、俺が相手をしなきゃならんかもしれん」


「あらあら、シュバルツも変わりませんわね。よろしいでしょう、すぐ参りますわ」


 あきれたように言う母さん。シュバルツってのは、ガーランド伯爵のあだ名か何かだろうか? それにオモチャってのは何だ? 父さんは何を警戒している?


 すぐに母さんが艦から出てきて、父さんと交代する。ちなみに今日は捕虜交換という一種の外交の場であるので、二人ともキリッとした十カ国連邦の騎士正装姿だ。僕たちパイロット組は普段通りの軽装鎧だけどね。


「フィーアちゃん、良かったわね。お父さまがお迎えに来てくれましたよ」


「…自分はもう騎士叙勲を受けております。幼児ではありません」


 まるで迷子のお迎えでも来たかのように言う母さんに、憮然とした表情で答えるフィーア少尉。母さんの天然っぷりは今に始まったことじゃないんだが、ちょっと同情する。


 レオパルドが近づいてきて、オグナに並んで停止する。その飛行甲板上には、リヒトの赤いAGと、3機の黒いAGが並んでいた。外見は一眼巨兵(サイクロプス)なのだが、肩が赤い以外は全身黒塗りで、しかも頭には角がついている。問題は、その角の位置が、真ん中、右、左と3機でずれていることだ。何だろう、非常に嫌な予感がする。いや、黒ずくめの3機組ってだけで縦一列に並んで突っ込んでくるのは目に見えてるんだけどね。


「兄上…」


 フィーア少尉がぽつりと漏らす。とすると、あの黒いAGのどれかにガーランド伯爵の息子が乗っているのだろうか。


 さてと、お仕事をするか。アドリブを期待されているなら、それなりの演技(パフォーマンス)を見せないとね。


「ドラゴン・ブレード」


「「え?」」


 僕が剣を抜いたのを見て、カイとクーが驚きの声をあげる。


「ヒカリを返せええええっっ!!!」


「ノゾミっ!?」


 僕が絶叫しながらジャンプし、レオパルド艦上の赤いAGに斬りかかるのを見てクーが悲鳴を上げる。斬撃を槍斧(ハルバード)で受けるリヒト。前に一眼巨兵(サイクロプス)と戦ったときは、一撃で槍斧(ハルバード)自体を叩き切ることができたが、今回は受け止められる。あらかじめ魔力付与(エンチャント)の魔法で強化していたのだろう。


「落ち着きたまえ、君の妹は私の機体に乗っているのだよ」


「クソッ!」


 悔しげに叫ぶ僕。


「今回は捕虜交換に来たのだ。無意味に戦う積もりは無い。大人しくしていてもらおうか」


「ノゾミ、落ち着け」


 あしらわれた形になったところで、カイも僕を止めにかかる。


「分かった」


 不承不承(ふしょうぶしょう)、といった雰囲気を出しながら、剣を胸に納める。


「ごめんなさいね~、ノゾミちゃんもヒカリちゃんが心配でしょうがないのよ~」


 母さんが、場違いにのほほんとした声で詫びながら言い訳をする。


「気持ちは分かりますよ。私とて妹を取り返したいことに変わりはない」


「お前の妹は、自分の意志でこっち側にいるんだ! 誘拐したお前と一緒にするな!!」


「その通りだな。()()()()()()、ね」


 ツッコむ僕に対して苦笑するように答えるリヒト。伏線を張ってきやがったな。この言葉が出てくるってことは、()()()()ヒカリのヤツ…


「それが分かってるなら、さっさとヒカリを返せ! ガーランド少尉と残骸はここだ」


「いいだろう。双方とも、同時に相手の甲板上に交換対象を置く。それでどうだ」


「それで結構ですわ~」


 僕とリヒトがオグナの艦上に移動し、ロプロスがガーランド少尉を、ポセイドンが残骸を持ってレオパルド艦上に移動する。


 赤いAGの腹のハッチが開き、ヒカリが姿を見せる。分かれた時と変わらない姿だ。赤いAGの掌に乗ると、僕の方を見て口を開く。


「お兄ちゃん、ごめんなさい」


「ヒカリ、無事か!?」


 まあ、無事でないワケがないのだが、確認するのは当然だろう。


「あたしは大丈夫。ごめん、こんな事になって…」


「お前が悪いワケじゃないさ。さあ、早く帰ろう」


 兄妹らしい会話。だが、分かる。ヒカリめ、腹に一物かかえてやがる。本当に芝居っ気の強いヤツだよ。


「3、2、1で同時に置く。よろしいかな?」


「よろしいでしょう。それでは…」


「「3、2、1」」


 リヒトと母さんが同時にカウントし、互いの捕虜が相手の艦上に置かれる。


 ロプロスとポセイドンが飛び戻ってくる。だが、赤いAGは立ち上がっただけでオグナの艦上を動こうとしない。僕に向けて、まるで何かが乗っているかのように左の掌を上に向けて差し出す。


「ヒカリ君、『今がその時だ』」


 リヒトが怪しげな言葉をかける。と、ヒカリの様子が変わる。カクン、と機械的な…という言葉はこの世界では合わないな。まるで在来の自律型魔像(ゴーレム)のような直線的な動きでうなずく。


「はい、リヒト様」


 棒読みに近い無感情な言葉。おいおい、そういう()()かよ。「洗脳設定(ギミック)」ってヤツだな。


 あらかじめ飛翔(フライト)の魔法をかけていたのか、ヒカリが飛び上がって赤いAGの掌の上に乗る。


「ヒカリ!?」

「何やってるの?」

「どうしたんだ?」

「あらあらあら」


 僕、クー、カイ、母さんの口から同時に疑問の言葉が出る。…母さんだけ、ちょっとリアクションが違う気がするが、そういう人だからしょうがない。


「おにいさま…」


 無表情で、しかも半眼になったヒカリが僕に向かって話しかける。今まで、変な事をしてはジト目で見られたことは何度もあったが、こんな目は初めてだ。何も見ていないように見えるガラス玉みたいな目。一瞬、本当に洗脳されているんじゃないかと思うくらいだ。我が妹ながら、本当に演技達者だよ。おまけに今まで一度も聞いたこともない「おにいさま」呼ばわり。何というか、もう既にいろいろな意味で、いっぱいいっぱいなんですケド…


 だが、こんなのは前菜にすぎなかったことを、次の瞬間に僕は思い知ることになった。


 直線的な動きで右手を前に出し、向かい合う僕~ブレバティ・ドラゴン~に向けて人差し指をビシッと突きつけたヒカリは、無感情な声でおもむろに言い放ったのだ。


「おにいさま、あなたは堕落しました」


 ここでまさかの究極超人(アール・デコ)! あまりにも、あんまりなセリフに、思わず演技も何もかも忘れて僕は絶叫してしまった。


「リヒトぉぉぉぉっ! テメエ人の妹に何しやがったぁぁぁぁぁぁっ!! これは、これは絶対に何か違うだろぉぉぉぉぉっ!!!」

次回予告


()()され敵に回ったヒカリ。その身柄を奪い返そうと攻撃するノゾミたちだが、リヒトと黒い3機のAGは巧みな連携で隙を見せない。そして、姿を現すガーランド伯爵の秘密兵器。


「チェンジ、レオパルド!!」


「『ン』が抜けてませんか!? 『ン』が!」


それに対抗して立ち上がる巨人(ジャイアント)


「ま゛っ!!」


「やっぱりか! やっぱりこうなるのか!!」


次回、神鋼魔像ブレバティ第5話「オグナ大地に立つ!!」


「これって何か違うんじゃね!?」


エンディングテーマソング「転生者たち」


この番組はご覧のスポンサーの…


来週も、また見てくださいね!

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