第3話 再会、兄よ… Aパート
アバンタイトル
ナレーション「父親が艦長を務める魔道戦艦『オグナ』に襲いかかる帝国のエース『紅の男爵』ことリヒト・ホーフェン大佐の赤いAG。迎撃に出たノゾミだったが、戦闘経験の差を突かれて、逆にオグナを損傷させてしまう。激高してリヒトを追うノゾミだったが、それは罠だった。不利な状況に追い込まれたノゾミを救ったのは、妹たちが操る3機のブレバティ・シリーズであった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
この番組は、ご覧のスポンサーの…
僕とカイは駐機場に停めたブレバティから降りて、格納庫で待っていたヒカリとクーと一緒にオグナの艦橋へ向かった。と言っても、場所が分からないので整備員の1人に先導してもらっているけど。
そうそう、ブレバティは充魔モードにしてある。このモードでは、起動状態で魔道エンジンは動いていて周囲の魔素を魔力に変換して体内に蓄積を続けているのだが、パイロットとのリンクは切ってあり、動かすことはできない。魔法の充填が終わったら、自動的に待機状態になる。
「何か、えらくプリプリしてないか?」
「ちょっと父さんに問い詰めたいことがいくつかあってね」
「何をだよ?」
「ブレバティの愛称のことと、僕ら兄妹の名前のこと!」
「…何か変なことでもあるのか?」
「あるんだよ、ちょっとね」
カイが聞いてきたので微妙に濁しながら答える。カイは僕と同じ14歳だが、身長は既に180センチを超え、ウチの父さんよりも背は高いが、横はまだ父さんよりも細いので、ひょろっと高い印象がある。しかし、その筋肉は引き締まっていて、俊敏性もパワーも僕よりは上だ。魔法を使わない生身の格闘戦や剣術では、正直言って5戦しても僕は1本取れるかどうかというくらい実力差がある。兜の下の顔はワイルド系のハンサムだが、その目つきが鋭いを通り越して悪いに近いのが唯一の難点だ。青髪青目とファンタジー世界ならではの髪色をしており、結構長髪なのは、お洒落でやっているのではなく、単に切るのが面倒だからだ。そして、その兜の上には、普通の兜にはない三角の突起が2つある。これは耳入れ。そう、こいつは狼族の獣人なのだ。一見すると、直球勝負の熱血漢に見えるのだが、実は意外に冷静な所もある。…ずっと冷静タイプだとばっかり思ってた僕自身が今回は熱血暴走しちゃったんだから、実は親友同士で見た目とは逆のタイプなのかもしれない。
「なになに、ボクにも教えてよ?」
「悪いけど、僕と父さんにしか理解できないと思う」
「あ、そういえばサッパリ理解できない話してたよね~。ブレバティ初号機の色や名前の由来を話してたみたいなんだけど、『ろぼっとあにめ』って何?」
「…あとで父さんに聞いてくれ」
クーも首を突っ込んでくるけど、言っても分からないだろう。そのことはヒカリも実感しているらしいが、説明できるわけもないので父さんに丸投げする。そのクーはカイの双子の姉で、当然ながら狼族の獣人。双子なのに赤髪赤目とカイとは正反対のカラーリングなのは、二卵性で青系の父親と赤系の母親それぞれに似たらしい。身長は僕と同じくらいと女子にしては長身だが、そもそも獣人は身長が高い人が多いので、獣人としては普通なのかな。胸も大きくスタイル抜群のワイルド系の美少女である。ヒカリの親友で性格は…明朗快活、としておこう。猪突猛進という言葉は女の子の形容に使うべきではない。聞いての通りボクッ子だったりするのだが、これには理由がある。僕が小さい頃から一人称を「僕」以外に変えようとすると、なぜか父さんが必ず「僕」に矯正するのだ。格闘訓練で叩かれるのはともかく、それ以外のしつけでは体罰なんぞ使わないのに、なぜかこれについてだけは手を上げてでも強固に矯正されてきたのである。それを見ていたクーが面白がって自分も「ボク」と言い出すようになってしまい、そのまま定着してしまったのだ。…父さんが転生者でしかもヲタクと知った今、ようやくその理由が推測できたのだが、これも問い詰めないと気が済まない!
この2人の両親は父さんの冒険者仲間だったようで、父さんがピュアウォーター村を領地にした15年前から一緒にこの村に住んでいる。両親も純血の狼族獣人であり、出身地の獣人国家「アニマーレ王国」~十カ国連邦の構成国の一つ~では、ただの平民ではなく「爵位はないが一応貴族みたいなもの」らしい。兄妹の僕らとは逆で姉弟だが、やはり双子だからどちらが上というような関係ではない。生まれてからずっと僕らとも兄弟のごとく一緒に過ごしてきたので、魔法の訓練にせよ格闘術や剣術にせよ、魔物の倒し方やダンジョンの罠の外し方とかカギの外し方とか、そういった冒険者の訓練にせよ、全部ウチの両親や祖父母、彼らの両親に一緒に学んできた。というわけで、魔力量はこいつらも反則級であり、戦闘能力は非常に高い。
話しているうちにエレベーター(当然魔道具だ)が艦橋に着く。
「父さん、話したいことが…!」
エレベーターを飛び出す早々に父さんに食ってかかろうとしたのだが…
パンっ!
頬が痛い。驚きのあまり目を見開いて絶句していると、クーが叫んだ。
「ちょっと、あんたノゾミに何してんのよ!」
「冷静になって頂きたいと思いました。ノゾミ君、何か言い忘れていることはありませんか?」
マーサさんが僕を見ている…いや、にらんでいる。僕の頬を打った手は、そのまま胸の前にある。僕の頬は赤くなった。平手打ちのためではなく、羞恥によって。
「落ち着け、クー。悪いのは僕だ」
そうクーをなだめてから、頭を下げる。
「すみませんでした、マーサさん。敵の策にはまって艦を壊してしまいました。冷静さを失って命令を無視し、無用の戦闘を行いました。そのため、本来は不要な機体の出撃が必要になり、魔力を浪費し、艦の修理も遅くなりました」
顔を上げると、マーサさんが少し意外そうな顔をして答える。
「それが分かっているなら結構です。艦を壊されたのは、相手が『紅の男爵』であることを考えれば、不可抗力でしょう。ですが、それ以降のことは騎士ならばやってはいけないことです。ノゾミ君は、まだ騎士叙勲されていませんが、艦長の判断で既に戦力と見なされています。ただの子供と同じように行動することは許されません。今後はこのようなことが無いようにしてください」
一度、言葉を切ると、今度は笑顔になって続ける。
「あなたが思っていたよりもしっかりした子で良かったわ。さっきの言動から、とんでもない我が儘ドラ坊ちゃんかと思ったんだけど、頭に血が上ってただけみたいね。あなたは、ヘルム男爵の跡取りとして、騎士叙勲されれば本艦のナンバー3、私の上官になるのだから、常に冷静さを忘れないでね」
「へ!?」
言われたことが一瞬理解できずに、間抜けな答えをしてしまったら、父さんが横から説明してくれた。
「この艦はヘルム男爵家の私領部隊扱いになっている。だから俺が艦長なんだ。で、副長はウチの領地のナンバー2である母さんになる。今のところ指揮系統のナンバー3は正式に騎士叙勲されているマーサだが、お前が騎士叙勲されれば、お前の方が地位は上になる」
なるほど。ウチの家の私設軍隊扱いということなら、僕が偉くなるのも分かる。
ここで我が国の軍隊の制度について説明しておくと、我が十カ国連邦は、その名の通り十ある国家の連合体で、一応「連邦軍」という統一的な軍隊が存在する。しかし、その実態は各国軍の寄せ集めにすぎず、一応連邦の最高指導議決機関「十人委員会」~各国の元首が構成メンバーになる~の下に「統合参謀本部」が存在して戦争指導は行っているが、戦力自体は各国が供出している部隊の寄せ集めなのだ。
各国軍にしても、編成はそれぞれの国で異なっており、ヤマト皇国は「近衛軍」と「領主軍」に分かれる。近代的な中央集権の軍隊である「近衛軍」のほかに、各地の領主が自前の戦力である私領軍を持っており、それを総称して「領主軍」と呼んでいるのだ。私領軍ならば、当主の跡取り息子は当然指揮権が上位に来る。今はまだ未成年だが、来年15歳になれば成年扱いになるので、騎士叙勲されてもおかしくないし、戦時なら未成年での騎士叙勲の前例もざらにある。マーサさんは、どこかの貴族・領主の娘なのか、既に騎士叙勲されているらしい。
そして、戦争に際しては領主ごとに決められた量の戦力を供出しないといけない。ウチの場合、そこそこの規模の村ひとつの領主だから騎士2名(当主含む)、従騎士10名、歩兵100名が供出義務のはずだ。我が国では歩兵10人と指揮官で小隊、10個小隊で中隊になるので、中隊長格ってことだ。10個中隊で大隊になり、千人規模になる。前世日本の戦国~江戸時代初期で千人動員できるのは4~5万石の大名クラス。そう考えると、ウチは5千石の旗本といったところだろうか。
…って、この魔道戦艦、どう考えても1個中隊クラスの戦力じゃないんですけど!? 普通は、海軍の戦艦1隻が陸軍だったら連隊(3個大隊)規模の扱いになるはずなんだが。
「ちょっと待って、どう考えてもウチの領地の収入じゃ、こんな艦買うどころか維持もできないだろ?」
「『領地からの収入』だけなら、な。だが、俺には魔像関係の特許収入やイモータル市の近郊の神金鉱山の権利もある。そもそも、俺が爵位や領地もらえたのだって、あの鉱山発見の報酬って面が大きいからな」
ニヤニヤと笑いながら父さんが答える。
「爵位こそ男爵だが、ウチには本来、連隊規模の動員義務があるんだ」
「聞いてないよ! 将来のための勉強とか言われて領地関係の事務させられてた割に、そんな収入や義務があったなんて話は初耳なんだけど?」
あんた、連隊規模って3000人以上だから、さっきの例だと12万石級の大名だぞ!
「鉱山収入と魔像がらみの特許収入については権利関係が複雑なんで母さんに任せて、比較的簡単な領地経営はお前にやらせてたんだ。んで、義務の方だが、領地自体は狭いんで人数は出せないから、代わりに魔道軍艦とAGで勘弁してもらっている。お前が成人したら教えるつもりだったんだ」
「…まさか、イモータルの魔像研究所も?」
「ああ、あっちは国のヒモ付きだ。ウチからの供出は領地や鉱山の収入じゃなくて、俺の冒険者時代のプライベート財産が元で、定期収入は俺個人のとは別の研究所としての特許と国からの補助金だな」
「本当に悪の博士だったのか…」
思わずつぶやいてしまった。私財投じて国からも金出させてロボット研究とか、どこの悪のロボット博士だよ? …と思ったら強烈に反論された。
「何を言うか! 俺は正義の博士だ!! きちんと公明正大に稼いだ金使って、お国の公認も得て研究してるんだ!!!」
そこで一度言葉を切ってから、非常に恨みがましそうな目をして僕をにらんだ。いや、サングラスかけてるけど、その奥から感じる視線だけで感情が分かるくらいの怨念がこもっているんだって!
「分かるか、ウチの家名だって、その積もりでつけたんだ。それなのにお前ときたら悪の博士扱いしやがって…」
「家名って『ヘルム』のこと?」
「そうだ、母さんが帝国出身だから、帝国風に洒落てみたんだが、直訳してみろ」
帝国風ってことは、この場合アーストリア帝国風ということになる。ちなみに十カ国連邦の構成国にも「神聖ドラガオン帝国」って国があるんだが、だいぶ格落ちするんで普通は「帝国」といったらアーストリア帝国のことだ。この世界、基本言語は日本語なのだが、名前などは前世の外国風のネーミングが多く、アーストリア帝国はドイツ語系の言葉が多い。その割に適当な部分も多いんで、つまりエセドイツ語風ってことだ。
あと父さんが言ってたように、ウチの母さん、実は現在の敵国出身なんだよね。僕にもヒカリにも敵国の血が流れてるってワケだ。
で、ドイツ語でヘルムといったら兜…
「あんた最低だよ、父さん!!」
思わず絶叫していた。
「なんで喧嘩してるのかサッパリ分からないけど、領主と嫡男が見苦しいトコ見せないでよね!」
…そして、2人ともヒカリの鉄拳制裁を食らった。こんな家族だから「ぶたれたことなかったのに」とか絶対に言えないんだよね。マーサさんの平手打ちなんて、優しいほうだよ、ウン。
「みんな、変なところを見せてすまなかったね。父さんとは積もる話があるんで、ちょっと席を外すよ。さ、どっか落ちついて話せる所に案内してもらおうか」
「うむ、俺からも話すべきことは色々とある。艦長室へ行くか。お前らは疲れたろうから食堂で飯でも食ってろ。誰か案内してやってくれ」
とりあえず、人に聞かれたら色々とヤバい話になりそうなんで、2人して艦長室に向かうことにした。…ああ、マーサさんはじめ、カイやクーも唖然とした顔してるよ。視線が痛い。
「艦長、艦橋を退出!」
規定があるのだろう、笛の音と警備兵のかけ声と共に父さんと一緒にエレベーターに乗り込み、艦橋直上の艦長室に向かう。
「艦の最高責任者の私室が攻撃を受けやすい位置にあるのは問題じゃないかい?」
「艦の一番上の場所がそのまま地位を表すというわけだ。不合理だが、軍隊だの権威だのってモンには、そういう不合理は付き物だからな」
軽口を叩きながら艦長室に入る。机の上にごちゃごちゃと乱雑に書類が置きっぱなしになっているのが父さんらしい。その机の片隅に、僕たち家族の集合写真(この世界には光系魔法の応用で写真が存在する)がちょこんと置いてあった。
「ま、ベッドにでも座れや」
と言われたので遠慮なくベッドに座ってから言う。
「いくつか聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「答えられることなら答えてやろう」
「ブレバティシリーズは何機あるんだい?」
「今のところ5機だ」
よし、今までに分かった弐号機、参号機、四号機の名前から推測できたことをぶつけてやろう。
「用途と愛称を当ててやろうか? 僕の初号機が近接格闘戦用の『ドラゴン』、ヒカリの弐号機が遠距離砲撃支援用の『ライガー』、カイの参号機が水陸両用の『ポセイドン』、クーの四号機が航空高機動型の『ロプロス』、誰が乗るのか知らないが五号機がステルス機能付きで偵察用もしくはゲリラ戦用、あるいは豹型に変形する地上戦高機動型の『ロデム』。違うかい?」
「いくつか違うが、ほぼ正解だ。訂正すると、まずお前のドラゴンは格闘戦用ではなく汎用型だ。すべてのプロトタイプだな。ポセイドンは単なる水陸両用ではなくて近接格闘型も兼ねている。ロデムは偵察ゲリラ戦用のステルスタイプの方で正解だが、豹型に変形じゃなくて、さまざまな物に擬態する機能をつけてある」
推測通りかよ、オイ! 初号機から参号機までは、元祖合体ロボ強化型の愛称そのまんまじゃないか。それにしても四号機と五号機の愛称はあんまりなんで、さらにツッコむ。
「初号機から参号機までのネーミングについても思うところは色々あるが、四号機と五号機はひどすぎるだろう! ウチの村にもイモータル市にも砂の嵐に隠された塔とか無いぞ。それともサイコキネシスやテレパシーが使えるとでも言うのかよ!?」
「? 使えるだろ、お前も。ついでに『読心』も『衝撃波』も使えるじゃないか」
「あ…」
そ、そうだったーっ! 「念動」も「念話」もその名前で、まんま効果も同じ魔法があるんだった。で、僕自身も全部使えたりする。ってか、滅多に使わない魔法だからコロッと忘れてたよ。何しろ、念動はそこそこ便利だけど魔力をバカ食いするし、念話は近くの相手と言葉を出さないで意思疎通することしかできない。遠くにいる相手と話すなら声が出ても遠話の方が便利なのだ。会議中や密談中に、人に知られず話をしたいときぐらいしか役に立たないんだよね。読心は、心を読めるとか一見凄そうに思えるが、実は相手が許可した内容しか読めないので、犯罪捜査で無実の証明をするときに読んでもらうぐらいしか使い道がない。これらに比べると衝撃波は比較的使う方で、相手を殺さないように打撃を与えるのにはちょうどいい無属性攻撃魔法だったりする。
うう、あまりにも某二代目超能力少年なネーミングだったんでツッコんだが、墓穴を掘ってしまった。
「いいじゃないか、ポセイドンときたらロプロス、ロデムと続けたくなるのが人情ってモンだ」
「嫌な人情だな。…その人情を理解できてしまう自分が、もっと嫌だけど」
「フン、例の『Dr.ヘルム』ネタでからかわれた時に、お前が転生者で、しかもヲタクだったってことは推測できていたんだが、予想以上にお仲間だったらしいな」
「お仲間ついでに教えてくれよ。どうして『上級魔像』なんだ? 機動魔像でも装甲魔像でも戦闘魔像でもなくて」
「ん、簡単だ。機動魔像だと略称MGでプラモみたいだろう。同じく戦闘魔像だとCGでコンピュータ・グラフィックスだ。略称的には同じになるから別に装甲魔像でも良かったんだが…今年は何年だ?」
「? 連邦暦96年だろう。それともヤマト暦314年の方か? どっちにしろ、それがどうかしたのか?」
この世界は神様の説明にもあったようにグレゴリウス暦を使っているが、前世の西暦のような統一暦はなく、国ごとに建国からの年数で数えている。ヤマト皇国は初代皇王の即位を元年として、現在ヤマト暦314年だったりする。十カ国連邦は、そもそも最初にヤマト皇国とキングランド王国、アニマーレ王国、エルフィー王国、ドワーフィン王国、コンメルシオ共和国の6カ国による対アーストリア帝国同盟「西デューラシア条約機構」が成立したのを起源として、今年で96年になる。その後、央華民主主義人民共和国、神聖ドラガオン帝国、プランタン共和国、アリアンサ連合王国が加盟して十カ国連盟に改変され、やがて経済的統一も含む十カ国共同体に進化し、実際に十カ国連邦という形になったのは、ほんの20年前のことだ。…いろいろツッコみたくなる国名があるのはご愛敬ということで。
「当初の予想では完全実用化はあと2年後くらいだったんでな。正式名称は『98式アドバンスド・ゴーレム』とかいいかな、と思ってしまい、つい…」
「元ネタは『機動警察』かよっ!?」
「アレの実写版を見られなかったのは、前世の数少ない心残りの一つだ。あとは、梅の精の演劇の少女漫画と海賊王の漫画の結末が読めなかったことだな」
え、何か、もの凄く問いただしたい答えが返ってきたんだが!?
「あの国民的超大作少女漫画の結末が心残りってところには激しく同感するが、何で僕より21年も前に転生してる父さんが『海賊王』だの『機動警察』の実写版を知ってるんだよ!? あ、いや、そもそも『初号機』だの『汎用人型決戦ナントカ』なんてネタもまだ20年はたってないっけ!?」
迂闊っ! 14年前に転生した僕でも、前世で死ぬ前に「機動警察」の実写版は完成していなかった。そもそも、その21年前に転生してる父さんは「新世紀」すら見ることはできなかったはずなのに、なんで知ってるんだ?
「なぬ、お前、何年に死んだんだ、俺は…」
何と、父さんが前世で死んだのは、僕と同年同月で1日早いだけだった。そのことを言うと父さんも非常に驚いていた。
「前の世界で死んだ時期と、こちらに転生する時期は関係ないのかな?」
「あるいは、あちらの世界の時間の進み方と、こちらの世界の時間の進み方が大きく違うか、だな」
どっちにしろ、前世ではほぼ同じ時代を生きていたわけだ。そう思うと更に親近感がわくが、それとは別に問い詰めなければならないことがある!
「ところで、もう一つ、こちらは非常に個人的なことで聞きたいことがある。僕一人だけじゃない、かわいい弟や妹たちのことも含めてだ」
「な、何かな?」
僕が言いたいことは分かってるようだ。僕にはヒカリのほかに、今年7歳になる弟と妹がいる。こいつらも二卵性の双子で、合計4人の兄弟姉妹なのだ。弟の名前はツバサ、妹の名前はツバメ。いずれも、日本語を基本言語とするこの世界ではきちんと意味のある名前だ。そして、ヤマト皇国では、その日本語系の名詞をカタカナ表記にする名前が一般的である。だから、僕たちの名前は、この世界においては非常に普通の名前であり、おかしいところは何もない。…この世界では、な!
「新幹線だな! やっぱり新幹線なんだな!? 自分の子供に何てキラキラネームつけやがる!!」
「お、落ち着け、こっちの世界では別にキラキラネームじゃないだろ!?」
「前世の記憶がある僕にとっちゃあキラキラネーム以外の何物でもないだろ!!」
「前世だって、漢字表記すりゃあキラキラネームにならんだろ! ってか、普通の名前として有りだろ!! 日本全国の望さん、光さん、翼さん、燕さんに謝れ!」
「それが4兄弟だったら前世だってキラキラネーム扱いか鉄ちゃん認定だよ!」
「鉄ちゃん認定は甘んじて受けよう。むしろ誇りだ」
それを聞いて一気に力が抜けた。この父さんには勝てる気がしない。が、まだ一点文句を言いたいことがある。
「バカ負けしたよ。それはもういいや。だが、あと一つ聞きたいことがある。僕の一人称を『僕』に固定しようとした理由を教えてもらおうか」
「う、それは…」
また父さんの顔が引きつる。それをジロリとにらんで、僕が自分で答えを言う。
「『機動戦士』と『新世紀』の主人公と同じにしようとしやがったな!」
「うむ、そうだ。お前が隠れ熱血系だと知っていたら、そこまでこだわらなくても良かったんだがな」
胸を張って堂々と答えやがった。開き直ったな、こいつ。しかし、隠れ熱血系という所をツッコまれると、こっちとしてもこれ以上の追求はしにくい。と、父さんが真面目な顔になって言ってきた。
「お前も、今回のことで気づいたんじゃないか。俺たちは『前世記憶保持特典』でこの世界に転生したが、これは『前世人格保持特典』じゃないってことを」
「…じゃあ、父さんも?」
「全然違うさ。俺は、前世じゃ何一つ積極的にやろうとはしない性格だった。最初から何もかも諦めて腐れヲタクのニートをやってた。最後に人救ったのだって、本当は自殺の代わりみたいなモンだった」
父さんも、人救って優遇転生したクチか。
「消極的、ってトコは同じかな。親に怒られるのが嫌だから、ニートする根性なんて無かったけどね。言われたとおりに、言われたことをやって、学校行って、就職して。自分でやりたい事は何もない、積極的にやる事もない、楽しみはヲタク趣味だけ。そういう人生だった」
「それが、今のお前はどうだ? 冒険者をやりたいとか言って、小さい頃から努力を惜しまず、親の言うことだって半分は聞きやしないで、さんざっぱら文句たれる」
「そういう父さんはどうなんだよ? それこそ冒険者なんて危ない仕事やって大成功してるのに、そこで見つけた古代文明の魔像に取り憑かれて、せっかく築いた財産も地位も気にせずに研究バカやってて…やりたい放題じゃないか」
「だから、だ。確かに人格の形成に経験という奴は大きな影響を与える。だから、今の俺たちの人格に前世の記憶が大きく影響してるのは当然だ。だが、俺たちは、前世に、あの平成日本に生きてた時とは、まったく違う人格を持った、別の人間なんだ。この世界、連邦暦90年代の十カ国連邦ヤマト皇国に生きる、シュン・ヘルムであり、ノゾミ・ヘルムなんだ」
そう、そうなんだ。僕たちは、今、この時を、この世界で生きている。前世の記憶は、幼少時の自己確立においてアドバンテージがあったことは確かだ。普通なら生活と遊びの中で徐々に身につけていく自我を最初から持ち、それゆえに幼い頃から自律した行動が取れた。でも、それ以降の行動と経験によって、形作られた人格は、前世とはまったく違った性格になっている。その根底にあの、平和で豊かな平成日本で、しかしその平和と豊かさ故に、逆に心が満たされなかった人生を送った平凡以下の男の記憶があるとしても。
「そこで、お前には謝らなければならないことがある」
「何だよ、改まって?」
「お前に約束していた5年間の自由、冒険者生活は諦めてもらわないといけなくなった」
そもそも、前世記憶だけでなく、父さんや母さんや、その仲間たち(みんなウチの村の住民だ)の冒険の話を聞いて育った僕やヒカリ、カイ、クーは、大きくなったら冒険者になりたいという夢を持っていた。父さんたちもそれを認めて、僕たちを訓練してくれていた。ただし、貴族家の嫡男である僕に許されたのは15歳で成人してからの5年間。父さん自身が15歳から20歳の5年間の冒険で、今の財産や地位を築き、母さんと知り合って結婚したから、それと同じ間の自由は許す。それが終わったら、おとなしく貴族の跡取り息子として騎士叙勲して国に仕えるようにという話になっていた。
「…戦争になった時点で覚悟はしてたさ。一応、貴族の嫡男として高貴なる者の義務は果たさないといけないだろう。税収で食ってる身なんだし」
そう、帝国との戦争が始まってしまった以上、貴族には戦争に参加する義務がある。まだ未成年とはいえ、危険な子供たちであり、戦闘訓練も受けている僕は十分な戦力になる。
「捨てたって、いいんだぞ? こんな家くらい」
「ここまで育ててもらったのに、そんな恩知らずなことはできないよ。第一、望んでここに転生してきたんだ。自分の運命からは逃げない!」
正直に言うと、魔物と戦う冒険者と違って、人と戦って殺さなきゃいけない戦争なんて御免被りたい。でも、僕には力があって、それを振るうことを期待されているし、その義務もある。その事実からは、それこそ「逃げちゃダメだ」! …って、何でここで「新世紀」な主人公のセリフにつながるんだよ、僕!! 例え人格は変わろうとも、ヲタクの魂ってヤツは転生しても変わないらしいな…
「お前、今、心の中で『逃げちゃダメだ!』って叫んだろ?」
「分かってるなら言うなよ…」
案の定、父さんにツッコまれた。
と、そのとき艦内通信機が鳴ってマーサさんの切迫した声が聞こえてきた。
「艦長、大至急艦橋においでください。敵艦が接近中です」
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」