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第26話 偽りの戦争 Bパート

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「神鋼魔像、ブレバティ!」

「一瞬、遅かったよ」


 仮面親父の…いや、既に仮面を外した父さんの言葉を聞いて、胸の奥が重くなる。


「準備はしていたので、おかしいと思った瞬間に転移魔法陣を起動はしたんだがな。既に後ろから…見ない方がいいぞ、酷い有様だから」


 シーサーペント号の艦内、特殊作業室に設置された転移魔法陣の上は、血まみれになってはいるが既に遺体は無い。医療室にでも移したのだろう。


「こんな事になるんじゃったら、ホムラ様にもシナリオの内容を伝えておくべきじゃったな」


 ガーランド博士(おっさん)も鎮痛な表情でつぶやく。


「俺だって、シルバーフェニックスの修理があんなに早く終わると分かっていたら伝えていたさ。だが、あの姫様に『出来レース』なんて事を教えたら、何をしてでもルードヴィッヒに会いに行くぐらいの暴走をしそうだったからこそ、すべてが終わってからルードヴィッヒ本人に伝えて貰おうと思っていたんだが…」


 血まみれの魔法陣を見やりながら沈痛な表情で答える父さん。


「姫様には、この事は…」


「言えんよ。言えるものか!」


「そうだろうな。それこそ姫様が自殺しかねない」


 同意した僕にうなずくと、父さんは改めて口を開く。


「残念な事ではあったが、表向きのシナリオは微修正で済む…今後の戦力としてルードヴィッヒほどの男がいないのは厳しいんだがな」


「それでいいのかよ!?」


 ただ、戦力としてしかルードヴィッヒの事を考えていないような父さんの言葉に、思わず声を荒げてしまったのだが…


「そうするしかないんだ! ルードヴィッヒがそう望んでいた事ぐらい分かるだろう!? あいつは自分が死んだとて、ほかの者がそれを悼んで立ち止まる事よりも、地球防衛のために前に進む事を求める男だ!! 違うか!?」


 珍しく声を荒げる父さんの剣幕に言葉を失う。確かに、ルードヴィッヒなら、そう望むだろう。


「そうじゃよ。ルードヴィッヒなら、誰を失おうと前に進むことを望んだじゃろうよ」


「そう、ですね。僕たちは、彼の分まで、前に進まないといけないんだ」


「そうだ。それが、地球防衛を託された俺たちの使命なんだ」


 こうして、偽りの戦争は終わりを告げた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 あらかじめルードヴィッヒがシナリオに沿って手配していたのだろう。地球帝国の降伏と地球帝国軍の解体、アーストリア帝国、北コロンナ合州国、南コロンナ連合の復興はスムーズに進んだ。


 それも、単に戦前の状態に復帰したわけではない。ルードヴィッヒが行った「改革」は、そのまま継承される事になった。戦前にあった因習や既得権益は破壊され、元に戻ることはなかったのだ。もともと各国首脳がやりたくても抵抗勢力のせいで行えなかった改革だったのだから、ルードヴィッヒにすべての責任を押しつけつつ、政策としては継続することにしたのだろう。各国とも、国力全体を考えれば戦前よりも強化されたのだ。これもルードヴィッヒの置き土産と言えるだろう。


 餓狼戦隊も解散し、ジャヴァリー殿下やリーフさんたちも母国に帰った。タケル殿下は皇太子としての政務に復帰し、姫様も勝手に出撃した命令違反についての譴責処分を受けたあとは、皇女としての政務を粛々と果たしているという。


 姫様も、気持ちの整理は、きっとまだついていないだろうけど、それを仕事で紛らわしているのかもしれない。そういえば、ヒカリとリヒトが一度面会に行ったと言ってたが、ルードヴィッヒの間近に居た者として、彼の信念や想いを伝えにいったのかな。


 そして、リーベは…


「長い間、お世話になりました」


 帝国の女帝として忙しい日々を送りながらも、私物を引き取りがてら律儀に別れの挨拶にピュアウォーターの家まで来てくれたのだ。私物ぐらいこちらから送ってもよかったんだけど、やっぱり直接別れの挨拶をしたかったんだろうな。


 これからは簡単には会えなくなるということで、身近な人間は全員集まっているのだ。ウチの家族や使用人たちはもちろん、カイの一家もブルさんやカテリーナさんまで一緒に来ているし、リンも両親と一緒に来ている。


 ちなみに、リーベの護衛というか、随員としてフィーアとリヒトがついてきているが、これは僕とヒカリへの配慮だろう。あの戦いのあと、ヒカリは家に戻ってきたし、ガーランド一家はアーストリアへ帰って、しばらく会っていなかったからね。まあ、毎日のように遠話(テレフォーン)とかで連絡は取り合ってるんだけど。


「リーベねーちゃ~ん、本当に行っちゃうの? もう会えないの?」


「リーベおねーちゃん…」


 悲しげなツバサとツバメを見て、リーベは思う所があったのか、しゃがんで目線を合わせて言い聞かせる。


「大丈夫よ。わたしはアーストリアに行くけど、会いに来てくれたらいつでも会えるわ。あなたたちだって、わたしの従兄弟で、アーストリアの皇族なんだから」


「うん!」


「絶対会いに行くから!!」


「俺たちは立場上、リーベに会いに行くことも多いだろう。お前らも連れて行ってやるから心配するな」


「「はーい!」」


 父さんも言い聞かせたので、ようやく納得したようだ。


 家族との別れが終わったところで、もう一人、進み出てきた男がいる。


「リーベ…」


「カイ? …そういえば、話があると言っていましたね。ルードヴィッヒがあんな事になってしまって、今まで聞く機会がありませんでしたが」


「ああ。本当は2人きりで話したいんだけど、そんな時間も無いだろうから、ここで言わせてもらうぜ」


「オイ、ちょっと待て! こんな人前で…」

 

 思わず声をかけてしまった。お前、こんな大勢の前で告白する気か!? お前の気持ちをよく分かってる僕らはともかく、フィーアやリヒトはおろか、お前の両親まで来てるんだぞ!


「構うもんかよ! この機会を逃したら、いつチャンスがあるか分からねェんだ!!」


「いや、だけどブルさんたちもいるのに…」


「いいさ。オヤジとオフクロにも、オレが本気だってことを分かって貰うにはちょうどいいぜ!」


「カイ…お前、本当に男前だな」


 僕なら絶対に親の前で告白なんてしたくないのに…って、結局は見られてたけどね! まあ、そこまで覚悟を決めてるなら止められないな。あとで骨は拾ってやる(グチにはつきあう)から玉砕してこい!


「何の話なんです?」


「リーベ、オレはお前が好きだ! 友人としてじゃなくて、女性として愛してる!!」


 この期に及んでも怪訝そうなリーベに、真っ正面から向き合うと、カイはストレートに告白した。…本当にド直球勝負だけど、このくらいはっきり言わないとリーベには分かんないだろうしね。


「…は? え!? ええ! ええええええええええっ!!」


 一瞬、何を言われたのか理解できなかったようにポカンとした顔になったリーベ。次の瞬間、その内容を理解して混乱し、さらに言われた意味を考えて混乱が増したようだ。


「ちょっと待って、それじゃあ、あの、ああ、そう言われると、えっ、あの時の言葉って、いや、あれも、あの時も…ええ!? そういう意味だったの!?」


 どうやら「好き」と言われて、今までカイが遠回し…じゃなくて、かなり露骨に示していた好意に今更気付いたようだ。ここまで混乱したリーベを見るのは初めてだ。顔も真っ赤になってる。珍しい。


「ああ、そうだよ。ようやく分かってくれたみたいだな」


「ご、ごめんなさい。そういう意味だったなんて、全然気付かなかったの。わたしは、自分がアーストリア皇女として政略結婚する未来しか想像できなかったから、誰かを好きになるとか、誰かに好きだと思われるなんてことは考えてもみなかった…いえ、考えようとしなかったから」


 ああ、それであんな風にリアル鈍感系ヒロインしてたワケだ。カイも納得したようにうなずくと、更に自分の気持ちを伝える。


「それは分かってるさ。リーベが自分の気持ちとは関係なく、結婚相手を選ばなきゃいけないって事ぐらいは。でもな、もう地球連邦が成立して、世界は統一されたんだ。皇帝や国王が政略で結婚する必要は薄くなるはずだ。アーストリアだって立憲君主制に移行する予定なんだろ?」


「ええ、まず貴族院を設置して憲法制定の準備を進めながら、なるべく早めに平民参加の衆議院選挙も実施したいと考えています。下準備はルードヴィッヒが進めておいてくれましたし。でも…」


 そこで口ごもるリーベに変わって、カイの父親であるブルさんが口を開いた。


「お前の気持ちはよく分かったが、現状ではまだアーストリア皇帝であるリーベ様の配偶者は政略的に選ぶ必要がある。発足したばかりで政治体制として安定していない地球連邦の結束を強固にするためにな。特にアーストリアは、看板としては地球帝国を名乗っていたが、事実上世界を相手に戦争していたんだから、平和の到来を示すためにも、女帝が他国の王族か皇族を(めと)る必要がある」


「そんな事は分かってるんだよ、オヤジ! でもなあ、オレは諦めないぞ!! 一厘でも可能性があるなら、オレはそれに賭けたいんだ! だから、オヤジには悪いが、オレは祖国(アニマーレ)を捨てるぞ!」


「なに、どういう意味だ!?」


 カイの爆弾発言には僕も驚いたが、一番驚いたのは父親であるブルさんだろう。


「アーストリアに移民する。少しでもリーベの近くに居たいんだ。オレは、自分で言うのも何だが、それなりに強い騎士で、特にAGパイロットとしては世界でも指折りのはず。これから異世界の侵略者と戦うには絶対に必要とされる戦力だ。地球防衛軍をやめるわけじゃないんだから、そのくらいの無理は通るだろ」


 …そこまで考えていたのか。凄えよカイ。


「カイ…ありがとう。だけど、わたしはあなたの想いに応えることができないの。だから、祖国を捨てるなんて言わないで。わたしの結婚相手は、十カ国連邦構成国の王族か皇族で、継承権の低い人である必要があるのだから」


 北コロンナ合州国は民主制だし、南コロンナ連合の構成国も基本的には全部民主制だ。必然的に、リーベの政略結婚の相手は、十カ国連邦構成国のうちで王政か帝政の国の王族、皇族になる。


「だけど、リーベの気持ちはどうなんだよ! お前、それでいいのかよ!?」


 吠えるカイに、困り気味ながらも軽く笑みを浮かべて答えるリーベ。


「わたしだって、知りもしない相手と政略結婚するくらいなら、カイと結婚したいわ。あなたの真っ直ぐな性格も、強さも、男らしさも知っているもの。だけど…」


 どうしようもない、と続くであろうリーベの言葉を遮ったのは、ブルさんだった。


「なら、問題は無いな」


「「「「「「は?」」」」」」


 カイとリーベはもちろん、僕やヒカリやクーやリンまで一緒になってハモってしまった。何を言ってるんだ、ブルさんは?


「うむ、十カ国連邦構成国の王族で、王位継承権が低い男子。なおかつ、お互いに好意を持っている。反対の理由は無いな」


 父さんまで、意味不明な事を言い出す。


「どういう意味だよ!?」


 叫んだカイに向かって、ブルさんがニヤニヤ笑って特大の爆弾を落とした。


「喜べ。お前がリーベ様の結婚相手にふさわしいって事だ」


「「「「「「はぁ?」」」」」」


 また僕たち全員でハモる。


「それじゃあ、まるでカイが王族みたいなんだけど?」


 みんなを代表して僕が聞いてみたのだが、父さんはとんでもない答えを返してきた。


「そうだよ。アニマーレ王の実弟であるブルータス大公の嫡男にして王位継承権第5位にあたるカイヴァーン・アニマーレ殿下。アニマーレ王国の立派な王族だ」


「「ちょっと待てぃ!!」」


 思わずカイとハモってしまった。


「オヤジぃ、あんた、大公とかどういう事だよ。そもそも『カイヴァーン』って何だ!? オレ、そんな名前知らないぞ!!」


「言ってなかったからな。お前の本名はカイヴァーン。カイは通称だ。ちなみに、クーの本名はクーデルカだからな」


 叫ぶカイに対してニヤニヤ笑いながら答えるブルさん…いや、さっきの父さんの言葉からすると、アニマーレ王国のブルータス大公殿下。


「ええええええっ!?」


 突然自分にも話題を振られて驚愕するクー。そりゃそうだ、ずーっとクーが本名だと思ってたのに、突然それが愛称だったとか知らされたら驚くわな。いや、実は自分が王族だったというのも衝撃だろう。僕だって同じことの経験者なんだから、よく分かる。


「それを本人に言ってないってヒドすぎない?」


 つい、いつもの口調でブルさんに尋ねてしまったんだけど、よく考えたら大公殿下相手だと失礼なのかな。でも、子供の頃からの知り合いに突然王族でしたとか言われてもねえ。


「それを言ってたら、この村で平凡に暮らすなんて事はできなかったからな。オレもカテリーナも冒険者暮らしの方が性に合ってたから、国に戻って王侯でございなんて生活したくなかったし」


「わたしも生まれ育ちは公爵家だったけど、堅苦しいのは嫌いだったからねぇ」


 そう言うブルさんに、カテリーナさんも同意する。何でウチの周囲にはこういう変な王族だの皇族だのが山盛りでいるんだよ!?


「ヒデぇ、ヒドすぎる…」


 それを聞いて頭を抱えるカイ。分かる、その気持ち、よく分かるぞ!


 と、そこにスッと近づいたリーベが、口を開いた。


「そういうことなら、わたしにも異存はありません。カイ、一緒に来てくれますね」


「え、あ、お…おう! もちろんだ!!」


 一瞬、混乱したような顔をしたものの、すぐにリーベの言う意味を理解して、力強く答えるカイ。


「良かったな!」


「「「やったね!!」」」


 そう言いながら僕はカイの肩をどついた。ヒカリたちも口を揃えて祝福する。


「先走るな。まだ色々と根回しだの手続きだのが必要なんだからな」


 そう言いながらも、ブルさんも嬉しそうだ。


 何はともあれ、親友の思いが報われて僕も嬉しい。つい笑顔になって2人を見守っていると、後ろから近づいてくる気配がある。この魔力、間違えるはずもない。


「ねえ、私もあなたの側にいたいんだけど。まだ婚約中でも、この家に引っ越してきちゃダメかな?」


「いいんじゃないか。父さんたちに手続き頼まないとな」


 耳元でささやかれた「女の子モード」状態の我が婚約者殿の言葉に答えながら、そうしたらヒカリもホーフェン家(あっち)に行きそうだな、などと考える僕なのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 年末までには、世界各国での連邦加盟条約の批准も終わった。


 そして、新年、十カ国連邦暦で97年、アーストリア暦では331年、合州国暦だと133年、連合暦なら72年にあたる年が「地球暦元年」とされ、その1月1日をもって「地球連邦」は正式に発足した。地球の全人類を統括する汎人類世界政府の成立である。


 政府の中心は、仮に十カ国連邦首都リントーに置かれたが、これは数年かけて新たな首都を建設するまでの暫定措置である。軍の中枢である統合参謀本部も十カ国連邦のヘキサゴンが流用されたが、こちらも新首都に新しい本部が建設されるはずだ。各国軍の「地球防衛軍」としての再編成も進んでおり、僕たちもその仕事にかり出されている。


 あの、長いようで短かった偽りの戦争、公式呼称「世界大戦(ザ・ワールドウォー)」~これが唯一の世界大戦になって欲しいという願いを込めての定冠詞付きだ~についての総括も進んでいる。物的被害はかなりあったが、人的な被害としては、負傷者数こそ多いものの、後遺症が残るような戦傷を受けた人間はいない。


 そして、戦死者は1名。あれだけの大戦争で、たったの1名。ルードヴィッヒの想いは守られたのだ…彼自身という例外を除いて。


 それは、僕たち以外の人間も分かっていたらしい。キングランド王国の伝統ある新聞「リントータイムス」の社説では、戦争終了後に次のように論じていた。


『かつて、1人の少年が夢を見た。世界をひとつにするという夢を。少年は長じてもその夢を追い続け、世界の敵として死んだ。だが、少年の夢は、彼自身の命と引き替えに現実のものとなった。たった1人の夢から始まった理想は、たった1人の犠牲で実現した。この戦争は、畢竟(ひっきょう)、たった1人の戦争だったのかもしれない』


 この最後の「たった1人の戦争」というフレーズは人口に膾炙(かいしゃ)し、多くの人が口の端に上らせた。


 と、ここまではまだいい。ところが、某国の首都の名前を冠したスポーツ新聞が、これを勝手に短縮してしまったのである。これがまた、語呂が良かったからか、元フレーズ以上に流行してしまい、あの世界大戦の事実上の通称として定着してしまったのだ。どう短縮したのかというと…


 「(いち) (にん) (せん) (そう)」!


 これって何かちがうんじゃね!?


次回予告


 ついに異世界からの侵攻が始まった。


「あれこそ正に魔界のケダモノ、魔界獣!」


 通常よりも遙かに巨大な怪物の出現に、人々は恐怖する。

 そして、姿を現す侵略軍の支配者「魔界四天王」。新たな戦いの幕は切って落とされた。


次回、神鋼魔像ブレバティ第27話「激突! 魔界四天王」


「これって何か違うんじゃね!?」


エンディングテーマソング「転生者たち」


この番組はご覧のスポンサーの…


来週も、また見てくださいね!


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― 新着の感想 ―
[良い点] これで第一部完ですか。 最後の展開でちょっとうるっと行きかけたのは自分が歳をとったからか。 本当に最後の最後はこの作品らしくて良かったですが。
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